高齢者就業の現状と課題

統括研究員 藤井 宏一

本格的な人口減少社会を迎える中で、我が国経済社会の活力を維持し持続的な発展を可能とするためには、働く意欲と能力のあるすべての人々が、その能力を発揮し、安心して働き、安定した生活ができる社会、いわば、「全員参加型社会」を実現することが重要である。特に、高い就業意欲をもつ高齢者の能力を活かし、職業生涯の長期化に対応した労働環境の整備を図ることで、高齢者の就業率を高めることは、喫緊の政策課題である。このため、当機構でも、高齢者の雇用実態や就業意識に関する調査の実施や、「高齢者の就労促進に関する研究」を立ち上げ、高齢者がその意欲と能力を発揮でき、年齢にかかわりなく働くことが出来るような環境整備の在り方について研究を行っている。

高齢者の就業率は、長期的には低下がみられていたが、近年60歳代前半を中心に高まっている。これは、長期の景気拡大下での雇用情勢の改善という状況の中で、改正高年齢者雇用安定法の影響(2006年4月施行)で企業の対応が進んできたこと等の表れといえよう。60歳代前半の雇用については、高齢者の雇用確保措置実施企業割合(51人以上企業)は2008年で9割以上等、量的な面では進展がみられているが、継続雇用での形が多く、希望者全員が少なくとも65歳まで働けるとする企業割合は4割となっている。また、70歳までの雇用確保措置実施企業割合は約1割となっている。

当機構の調査結果からは、企業は、定年到達時の賃金水準や公的給付の状況を加味しながら継続雇用者の賃金水準を決定しつつ、継続雇用時の年収水準の大幅な低下がみられること、仕事内容は今までと同じ内容が多いが、就業形態は嘱託・契約社員が多く、契約期間は1年が多い、勤務形態はフルタイムが多い、年収水準や就業形態、勤務形態等労働者のニーズ(正社員希望等)とのギャップも大きい。企業の高齢者活用の実態にはバラツキがみられている他、自社での継続雇用を希望しない労働者も2割みられる。このように、継続雇用の質的な面には課題もみられている。また、労働者の就業希望は、60歳代後半も働きたい者も多いが、60歳代後半の希望する就業形態はかなり多様化している。また、当機構の分析結果によると、高齢者の就業決定には、(1)年金や定年制等制度要因、(2)従業員の意識・就業能力(本人の職務能力、健康、介護等家庭事情等)、(3)企業の人事労務管理施策(特に継続雇用の質的課題やリストラが継続雇用希望にマイナスの影響)、(4)60歳以前の働き方の状況(企業、労働者双方の対応)が影響している。

他方、今後、2013年から報酬比例部分の年金支給開始年齢が引き上げが始まり、60歳代前半は段階的に年金が全く支給されなくなることや、団塊の世代が2012年から65歳に到達する等を踏まえると、高齢者の就業ニーズ・生活ニーズへの対応を図りつつ、60歳前半までの雇用の在り方、65歳後半以降の働く環境をどう整備していくかが重要な課題といえる。前述の分析結果等からは、制度設計の在り方、高齢期の就業環境の整備だけでなく、それ以前の企業の人事労務管理の在り方や労働者が職業生涯をにらんだキャリア形成が図れるような支援が重要となってくる。こうしたことから、景気・雇用情勢とも悪化している現状で、政労使とも、雇用維持・確保対策が当面の喫緊の課題といえるが、高齢者の雇用に関し中長期的な視点に立った対応も併せて行っていくことが求められよう。

特集JILPT特集ページ「高齢者雇用」

[参考資料]

(2009年1月23日掲載)