緊急コラム #027
新型コロナの長期化で先行き不透明な雇用動向

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総務部長 中井 雅之

2021年5月14日(金曜)掲載

4月30日に公表された3月の主な雇用関係指標をみると、有効求人倍率[注1]は前月より0.01ポイント上昇して1.10倍となり[注2]、完全失業率は前月より0.3ポイント低下して2.6%と昨年4月以来11か月ぶりの水準となっている[注3]図表1)。

図表1 完全失業率、有効求人倍率の推移

図表1 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」、厚生労働省「職業安定業務統計」

2020年4月の緊急事態宣言とともに激増し[注4]、5月、6月と大幅に減少した[注5]後はほぼ平年の水準で推移していた休業者については、11都県に2回目の緊急事態宣言が発出[注6]された2021年1月に前年同月差50万人増と増加幅が拡大したが、3月には同29万人減と、2019年9月以来の減少となっている[注7]図表2)。

図表2 休業者の推移

図表2 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

注:休業者とは、就業者のうち、調査週間中に少しも仕事をしなかった者で、自営業主においては、自分の経営する事業を持ったままで、その仕事を休み始めてから30日にならない者。雇用者においては、給料・賃金の支払を受けている者又は受けることになっている者。

3月の就業者数は前年同月差51万人減と、2020年11月以降、概ね50万人前後の減少幅となっているが、産業別には、宿泊業,飲食サービス業(同40万人減と15か月連続の減)、サービス業(同19万人減と9か月連続の減)、製造業(同14万人減と5か月連続の減)、建設業(同13万人減と2か月連続の減)において減少数が大きくなっている[注8]

就業者から休業者を除いた従業者では、3月は同22万人減(前年同月比0.3%減)と減少幅は大きく縮小し、3月の週間就業時間も前年同月比1.1%減と減少幅は縮小した(図表3)。

こうした動きを踏まえて月末一週間の活用労働量(労働ニーズ)[注9]の推移をみると、2020年4月、5月と前年同月比で10%前後減少した後、減少幅が徐々に縮小し、8月以降は3~4%程度の減少幅で推移していたが、2021年3月は1.4%減と更に縮小している(図表3)。

図表3 就業状態の前年同月との比較(2020年4月~2021年3月)

図表3 表

資料出所:総務省「労働力調査」により作成。

注1:従業者は就業者のうち調査期間中に少しでも(1時間以上)仕事をした者。

注2:休業者は就業者のうち調査期間中に少しも仕事をしなかった者。

注3:週間就業時間は、月末一週間の就業時間。就業時間の対象に休業者は含まれていない。

注4:活用労働量は、従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として計算。

注5:就業率は就業者数を15歳以上人口で割った比率。稼働率は従業者数を15歳以上人口で割った比率として計算。

ここで、季節調整値により前月差の推移をみておくと、2020年4月に大幅に減少した労働力人口、就業者、雇用者は、その後は増加傾向で推移してきたが、3月には労働力人口、就業者は減少となっている(図表4)。2020年5月~2021年3月までの増加数の累積を2020年4月の減少数と比較すると、労働力人口では56.4%、就業者では50.9%、雇用者では59.3%となっており、5割強戻っている計算になる。

また、2021年3月には完全失業者が前月差23万人減となった一方で、非労働力人口は同24万人増と、単月でみるとそれまでの動きと異なって非労働力化がみられており、こうした動きが一時的かどうかは引き続きみていく必要がある。なお、非労働力人口については、2020年4月に86万人増加した後減少傾向で推移し、2020年5月から2021年3月までの累積では79万人減と、2020年4月の大幅増から91.9%減少している計算になる(図表4)。

図表4 雇用関係指標の前月との増減(季節調整値)

図表4 表

資料出所:総務省「労働力調査」

これらのマクロの雇用関係指標からは、2020年1月以来、新型コロナウイルス感染症により日本の経済社会が甚大な影響を受ける中でも、雇用の大幅な悪化は食い止められてきたと言えるだろう。その背景としては、根強い人手不足が続いていたこともあり、企業は厳しい経済環境の中でも雇用を守る行動を取り、雇用調整は労働時間や賃金が中心だったこと[注10]、そうした企業行動を、雇用調整助成金の特例措置[注11]を始めとする支援策が下支えしたことなどが挙げられる[注12]。一方で、コロナの影響は特定分野に集中する傾向があることも分かってきている[注13]

ところで従業者数については、「主に仕事」、「通学のかたわらに仕事」、「家事などのかたわらに仕事」といった主な活動状態別に見ることができる。そこで、昨年以来の従業者数の前年同月と比較した増減数の内訳を主な活動別に見てみると(図表5)、2020年4、5月の大幅な減少数に占める内訳は、「主に仕事」が過半数であったが、「通学のかたわらに仕事」、「家事などのかたわらに仕事」も相当数を占めていた。

その後は従業者数の減少数が縮小していったが、その中でも「主に仕事」の縮小が大きく、10月以降は減少数の過半数を下回り、減少数の中心は「通学のかたわらに仕事」、「家事などのかたわらに仕事」に移っていった。なお、2021年3月には「主に仕事」は、前年同月差11万人増、「通学のかたわらに仕事」は同4万人増と増加に転じた。

「通学のかたわらに仕事」は学生アルバイトが、「家事などのかたわらに仕事」は主婦パートが中心で、主に家計を支える層は「主に仕事」の従業者が中心なので、これらの動向からは、見かけよりも家計を支える層への影響は小さかったように思われる。

図表5 従業者数の対前年同月増減数の主な活動状態別内訳

図表5 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

一方、主な活動状態別に従業者数の増減を見ると(図表6)、最も従業者数の減少幅が大きかった昨年4月において、「通学のかたわらに仕事」は前年同月比45.6%減と4割以上の減少となり、その後も本年3月を除き、減少率が最も高い状態が続いていたことを考えると、学生アルバイトの雇用環境が特に厳しかったことが分かる[注14]。一方で、「通学のかたわらに仕事」や「家事などのかたわらに仕事」については、失職した場合、求職活動を行わなければ、失業者ではなく非労働力人口になることを踏まえると、これらの層の減少により、統計上、失業の増加が一定程度抑制されてきた可能性もある。

図表6 主な活動状態別従業者数の対前年同月増減率の推移

図表6 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

なお、これまでも見てきた就業日数の状況[注15]について、月末一週間の就業日数別に就業者数の前年同月差の推移をみると[注16]、2021年になっても出勤日数5~7日の従業者数の減少と、1~4日の従業者数の増加傾向が続いてきたが[注17]、3月においては、既に前年3月から同様の傾向となっていたことを受けてか、やや異なる動きとなっている(図表7)。

図表7 月末一週間の就業日数別就業者数の前年同月差の推移

図表7 表

資料出所:総務省「労働力調査」

注:就業日数については不詳もあるため、日数の差を合計しても就業者計とは一致しない。

また、雇用者の動きを正規・非正規別にみると、2021年3月は正規の職員・従業員は前年同月差54万人増となったのに対し、非正規の職員・従業員では同96万人減と、正規の増加と非正規の減少が同時に生じている状況が10か月続いている[注18]。非正規の減少を男女別にみると、引き続き、女性の非正規の職員・従業員の減少数が目立っている[注19]図表8)。

図表8 男女別、正規・非正規別雇用者の対前年同月差の推移

図表8 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

注:雇用者には役員も含まれるため、正規の職員・従業員と非正規の職員・従業員の対前年同月差を合計しても、雇用者の対前年同月差とは一致しない。

今回の新型コロナウイルス感染症の雇用面への影響[注20]については、特に、対人業務が中心の産業で働く割合の高い、女性、非正規といった層に集中的に表れてきた[注21]が、2021年3月下旬以降、第4波と呼ばれる感染拡大が起こり[注22]、3回目の緊急事態宣言が4月25日から4都府県に発出され、5月12日には2県が追加されるなど[注23]、コロナの長期化とともに先行きの不透明感が増している。感染抑制を考えると、こうした産業への更なる影響が懸念され[注24]、引き続き雇用動向を注視していくことが必要である。

当機構では、新型コロナウイルス感染症の雇用・就業への影響をみるため、関連する統計指標の動向をホームページに掲載しているので、そちらもご覧いただきたい(統計情報 新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響)。

(注)本稿の主内容や意見は、執筆者個人の責任で発表するものであり、機構としての見解を示すものではありません。

脚注

注1 ハローワーク(公共職業安定所)で受け付けた、有効期間内(原則受け付けた月から翌々月の末日まで。有効求職者については失業給付の受給期間は有効期間に含まれるなどの例外もある)の企業からの求人と仕事を求める求職者の割合を示す指標。1倍を上回ると求人超過(人手不足)となり、下回ると求職超過となる。

注2 同時に公表された2020年度の有効求人倍率は、前年度から0.45ポイント低下して1.10倍となっている。(一般職業紹介状況(令和3年3月分及び令和2年度分)について|厚生労働省新しいウィンドウ

注3 同時に公表された2020年度の完全失業率は、前年度から0.6ポイント上昇して2.9%となっている。(労働力調査(基本集計)2020年度(令和2年度)平均(PDF)新しいウィンドウ

注4 緊急コラム #012「新型コロナの労働市場インパクト─失業者は微増だが休業者は激増し、活用労働量は1割の減少─」(2020年5月29日)参照。

注5 緊急コラム #015「新型コロナの影響を受けて増加した休業者のその後─休業者から従業者に移る動きと、非労働力から失業(職探し)に移る動き─」(2020年6月30日)参照。

注6 1月8日に埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県の首都圏4都県に緊急事態宣言が発出され、1月14日には栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県の7府県が追加された。その後、2月7日で栃木県が、2月26日で岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県の6府県が、3月21日で首都圏4都県が解除された。

注7 総務省「労働力調査」追加参考表「就業者及び休業者の内訳」(PDF)新しいウィンドウ参照。

注8 総務省「労働力調査(基本集計) 2021年(令和3年)3月分結果の概要」(PDF)新しいウィンドウ参照。

注9 従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として計算しており、必要な経済活動を行うための労働ニーズ(労働需要)が顕在化した労働量とみなすことができる。

注10 新型コロナ禍における企業行動については、JILPT「第3回 新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」(PDF:1.2MB)(2021年4月30日公表)を参照。

注11 雇用調整助成金の2021年5月7日時点の累計支給決定件数は326万3,613件、累計支給決定額は約 3兆3,993億円となっている。新型コロナにおける特例措置の概要は以下に掲載されている。(雇用調整助成金(新型コロナ特例)|厚生労働省新しいウィンドウ

注12 雇用調整助成金の効果については、小林徹「新型コロナウイルス流行下(2020年2~9月)の企業業績と雇用─「第2回新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」二次分析─」(JILPTリサーチアイ第53回、2021年2月3日)及び、酒光一章「新型コロナ感染症拡大下における雇用調整助成金利用企業の特徴と助成金の効果─JILPT企業調査二次分析」(JILPTリサーチアイ第58回、2021年4月2日)で分析している。

注13 コロナの影響を受けた失業や再就職の実態については、高橋康二「コロナ禍における離職と再就職」(JILPTリサーチアイ第56回、2021年2月24日)で分析している。また、下島敦「雇用者数の動向にみる新型コロナウイルス感染症の影響」(PDF:686KB)(2021年4月7日、レポート)ではリーマンショックとの比較を行いながら、雇用面の特徴について分析している。

注14 学生アルバイトの近年の変容と新型コロナ禍における対策については、濱口桂一郎 緊急コラム #008「労働政策対象としての学生アルバイト」(2020年5月7日)参照。

注15 緊急コラム #018「6月も前月より休業者は大幅に減少し従業者は大幅に増加─活用労働量(労働ニーズ)は前月より増加しているがそのスピードは遅い─」(2020年7月31日)及び緊急コラム #025「新型コロナの影響を受けた2020年の雇用動向」(2020年12月28日)参照。

注16 出勤日数0日の就業者は休業者に相当する。

注17 2019年の4月は月末一週間のうち休日が3日と例年より多くなっている影響により、就業日数3日の従業者数が多くなっているなどイレギュラーな動きが見られているので、比較するときには注意が必要である。

注18 非正規の減少は13か月連続となっている。

注19 緊急コラム #020「経済活動の再開が進む中での雇用動向─新型コロナウイルスの影響による女性非正規の雇用の減少が顕著─」(2020年9月2日)及び緊急コラム #022「コロナショックの雇用面への影響は、特定の層に集中─女性、非正規の雇用動向を引き続き注視─」(2020年10月9日)参照。

注20 新型コロナウイルス感染症の働く方への影響については、JILPT「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査(JILPT第4回)」(PDF:1.1MB)(2021年4月30日公表)を参照。

注21 コロナショックの女性への影響については、周燕飛「コロナショックの被害は女性に集中─働き方改革でピンチをチャンスに─」(JILPTリサーチアイ第38回、2020年6月26日)、周燕飛「コロナショックの被害は女性に集中(続編)─雇用回復の男女格差─」(JILPTリサーチアイ第47回、2020年9月25日)、周燕飛「コロナショックの被害は女性に集中(続編Ⅱ)─雇用持ち直しをめぐる新たな動き─」(JILPTリサーチアイ第55回、2021年2月19日)、周燕飛「コロナショックと女性の雇用危機」(ディスカッションペーパー21-09、2021年3月31日)で詳細に分析している。また、「新型コロナウイルスと雇用・暮らしに関するNHK・JILPT共同調査」も参照。ひとり親については、「新型コロナウイルス感染症のひとり親家庭への影響に関する緊急調査」(PDF:538KB)(2020年12月10日)の結果も参照。

注22 感染状況については、厚生労働省のHPの以下のページに掲載されている。(新型コロナウイルス感染症について|厚生労働省新しいウィンドウ

注23 緊急事態宣言は、当初(4月25日)は東京都、大阪府、京都府、兵庫県に5月11日までの期間とされていたが、5月12日から愛知県、福岡県が追加されるとともに、5月31日まで延長されることとなり、更に対象地域拡大の検討もされている。また、沖縄県(4月12日~5月31日)、埼玉県、千葉県、神奈川県(4月20日~5月31日)、愛媛県(4月25日~5月31日)、北海道、岐阜県、三重県(5月9日~5月31日)がまん延防止等重点措置に指定されている。

注24 飲食・宿泊業の労働者への影響については、高橋康二 緊急コラム #026「飲食・宿泊業労働者の職業生活」(2021年3月19日)参照。

関連リンク