緊急コラム #012
新型コロナの労働市場インパクト─失業者は微増だが休業者は激増し、活用労働量は1割の減少─

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総務部長 中井 雅之

2020年5月29日(金曜)掲載

本日(5月29日)、4月の主な雇用関係指標が公表された。それによると、2020年4月の完全失業者は前年同月より13万人増加して189万人、完全失業率は前月より0.1ポイント上昇して2.6%、有効求人倍率は前月より0.07ポイント低下して1.32倍と、いずれも悪化した。

今回の失業の悪化の程度は余り大きくないようにも見えるが、中身をみると、4月は7日に政府による緊急事態宣言が出され、経済活動が抑制された影響が強く出ている。

以下では、総務省「労働力調査」による指標を見ていくが、最初に、各指標の関係と定義を整理しておく(図1)。

図1 労働力調査における各指標の関係

図1画像 詳細は本文参照

各々の定義について確認しておくと、まず、労働力人口は、15歳以上人口のうち、就業者(=仕事を持っている者)と完全失業者(=仕事を探して求職活動している者)の合計である。非労働力人口は、15歳以上人口のうち労働力人口以外の人口であり、調査週間中に少しも仕事をせず、かつ仕事を探していなかった者[注1]である。

次に、就業者は、調査期間中に働いていた者で、従業者(=収入を伴う仕事を少しでも(1時間以上)した者)と休業者(=就業者のうち、調査週間中に少しも仕事をしなかった者[注2])の合計である。

最後に完全失業者は、①仕事がなくて調査週間中に少しも仕事をしなかった(就業者とならなかった)、②仕事があればすぐ就くことができる、③調査週間中に、求職活動をしていた[注3]、の3つの要件を全て満たす者である。従って、仕事を失い、①、②であったとしても、調査期間中に求職活動ができなかった、あるいはしなかった者は、③を満たさないため失業者としてカウントされない。

以下では、各指標の動向について見ていく。

就業者は前年同月差で80万人の減少と、2012年12月以来88か月ぶりに減少し、このうち雇用者は36万人減とこちらも88か月ぶりの減少となっており、自営業主・家族従業者は32万人減と3か月連続の減少となっている。

雇用者のうち正規の職員・従業員は63万人増となっているのに対し、非正規の職員・従業員は97万人減と2か月連続の減少となるとともに、減少幅も拡大している。

また、就業者の減少(80万人)と比較して、求職活動ができなかったなどの理由により、完全失業者の増加(13万人)が少ない一方、非労働力人口が2015年5月以来59か月ぶりに増加し、前年同月差58万人増となっている。

さらに、就業者のうち、少しも仕事をしなかった休業者が前年同月差420万人増の597万人となっているのが特徴的である(図2)。その内訳をみると、自営業主70万人、正規の職員・従業員193万人、非正規の職員・従業員300万人と、非正規においても多くの方が休業していることが分かる。

図2 休業者の推移

図2画像

資料出所:総務省「労働力調査」

このため2020年4月の従業者は前年と比較して500万人減となり、率にして7.7%減少している。

また、2020年4月の週間就業時間は前年同月比で2.3%減少しており、人数と労働時間の両方で見るために両者を掛け合わせた活用労働量(労働投入量)として前年同月と比較すると、2020年4月の月末一週間の活用労働量は前年同月比9.8%減と、約1割減少していたことが分かる(表1)。

表1 就業状態の比較(2020年4月と2019年4月)

表1画像

資料出所:総務省「労働力調査」より作成。

注1:従業者は就業者のうち調査期間中に少しでも仕事をした者。

注2:休業者は就業者のうち調査期間中に少しも仕事をしなかった者。

注3:週間就業時間は、月末一週間の就業時間。就業時間の対象に休業者は含まれていない。

注4:活用労働量は、従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として計算。

注5:就業率は、就業者数を15歳以上人口で割った比率。稼働率は、従業者数を15歳以上人口で割った比率として計算。

ちなみに公表されている就業率は前年同月差0.7ポイント低下の59.8%であるが、従業者ベースで見た稼働率は前年同月差4.5ポイント低下の54.4%である。

5月8日のレポート[注4]でも指摘したが、企業は急激な業績の悪化の中でも、なんとか雇用を維持しようとしていることが統計からも見えてくるが、4月の鉱工業生産指数は前月比9.1%の低下となるなど、経済環境は極めて厳しく[注5]、緊急事態宣言解除[注6]後も、施設使用制限の要請等が段階的に緩和されることとなっていることからも、今後についても感染拡大第二波、第三波に向けたモニタリングが続けられるなど厳しい状況が見込まれ、今後の雇用動向を引き続き注視していく必要があり、雇用情勢が更に厳しくなる可能性もあることから、いち早い支援策の実施が不可欠である。

なお、当機構では、新型コロナウイルスの雇用・就業への影響をみるため、関連する統計指標の動向をホームページに掲載しているので、そちらもご覧いただきたい(統計情報 新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響)。

(注)本稿の主内容や意見は、執筆者個人の責任で発表するものであり、機構としての見解を示すものではありません。

脚注

注1 「通学」、「家事」、「その他(高齢者など)」の三つに分類され、仕事を探すのをあきらめた者も「その他(高齢者など)」に含まれる。一方、仕事を休んでいた者や仕事を探していた者は除く。

注2 自営業主においては、自分の経営する事業を持ったままで、その仕事を休み始めてから30日にならない者。雇用者においては、給料・賃金の支払を受けている者又は受けることになっている者。家族従業者で調査期間中に少しも仕事をしなかった者は、休業者とはならず、完全失業者又は非労働力人口のいずれかとなる。

注3 過去の求職活動の結果を待っている場合を含む。

注4 新型コロナウイルス感染症の影響を受けた日本と各国の雇用動向と雇用・労働対策(PDF:975KB)(2020年5月8日、新型コロナウイルスによる雇用・就業への影響等に関する調査、分析PT)

注5 令和2年5月の月例経済報告(2020年5月28日)では、「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響により、急速な悪化が続いており、極めて厳しい状況にある」としている。

注6 緊急事態宣言については、5月4日に、5月31日まで延長することとされた後、5月14日に北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県以外の県で解除され、5月21日には京都府、大阪府、兵庫県で、5月25日には北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県で解除され、全都道府県で解除となった。

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