ディスカッションペーパー 21-09
コロナショックと女性の雇用危機

2021年3月30日

概要

研究の目的

コロナ禍によって、日本経済は「戦後最大の危機」と言われるほどの落込みを経験した。とりわけ、男性よりも女性の雇用が大きな被害を受け、これまでに縮小傾向だった男女格差が再び拡大に転じた。その後、景気回復とともに男女格差に改善の動きがあったが、その後、緊急事態宣言が再び発動されるなど、依然、注視すべき段階にある。本稿は、JILPTが行った一連の実態調査をもとに、コロナ禍での女性の厳しい雇用状況を追った。

研究の方法

アンケート調査の個票分析。

主な事実発見

NHK・JILPT共同調査(11月)に基づく単純集計の結果によれば、4月から11月中旬までの約7か月間に、解雇や労働時間急減等、雇用の変化を経験した割合は女性が男性の1.4倍、解雇・雇止め後の非労働力化は女性が男性の1.6倍であり、女性の労働時間や収入の回復は男性よりも遅い。また、JILPTの連続調査(5月、8月、12月)の分析結果では、休業率の男女差が2020年5月末では3倍に達したことや、テレワーク比率にも男女格差が見られ、男性よりも女性の方が、テレワークが定着していないことが分かった。

NHK・JILPT共同調査を用いた多変量解析の結果、コロナ禍の雇用被害における男女格差は、主に業種や就業形態といった仕事の属性の違いによって説明できることが分かった(図表1)。

図表1 「雇用に変化あり」と「収入3割以上減少」の確率推定(Probitモデル)

図表1画像

出典:「新型コロナウイルスと雇用・暮らしに関するNHK・JILPT共同調査」の本調査より集計(「就業構造基本統計調査」の分布に準じたWB集計値)。

注:(1)各説明変数について、限界効果(1行目の数値)と標準誤差(2行目の数値)が報告されている。

(2)雇用に変化あり―解雇・雇止め、自ら離職、労働時間半減30日以上、休業7日以上のいずれか。収入3割以上減少―10月の収入対コロナ前の通常月が3割以上減少。

(3)* p値<0.1、 ** p値<0.05、 *** p値<0.01。

すなわち、飲食・宿泊等、女性雇用者が多い業種に大きな被害が生じていることや、6割弱の女性が雇用調整の対象になりやすい非正規雇用者として働いていることが男女格差拡大の主因と見られる。また、女性に限っては、未成年子を育てていることが、収入が激減する確率を高めており、コロナ禍での育児負担の増加も要因の一つと考えられる。

政策的インプリケーション

コロナ危機の終息に備え、コロナ禍の女性への影響を最小限に抑えるよう、雇用ミスマッチの解消や、職業訓練の提供、生活支援等の対策が講じる必要がある。具体的には、アフターコロナ時代に生き残れない構造的不況業種から好況業種への転職支援、職探し期間を活用した職業訓練の強化、生活困窮者への生活支援策を拡充すべきである。

政策への貢献

令和3年版「厚生労働経済白書」執筆担当者への情報提供。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「雇用システムに関する研究」
サブテーマ「新型コロナウイルスによる経済、雇用・就業への影響、及び経済、雇用・労働対策とその効果についての分析に関する研究」

プロジェクト研究「働き方改革の中の労働者と企業の行動戦略に関する研究」
サブテーマ「育児・介護期の就業とセーフティーネットに関する研究」

研究期間

令和2年度

研究担当者

周 燕飛
労働政策研究・研修機構 主任研究員

関連の研究成果

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