緊急コラム #015
新型コロナの影響を受けて増加した休業者のその後─休業者から従業者に移る動きと、非労働力から失業(職探し)に移る動き─

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総務部長 中井 雅之

2020年6月30日(火曜)掲載

本日(6月30日)公表された5月の主な雇用関係指標によると、2020年4月に大幅に増加し、その後の動向が注目された休業者[注1]は、5月は前年同月差274万人増の423万人と、増加幅は前月(420万人増)より146万人縮小し、依然としてこれまでにない高い水準にあるものの、4月の597万人からは大きく減少した[注2]図表1)。

図表1 休業者の推移

図表1グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

注:休業者とは、就業者のうち、調査週間中に少しも仕事をしなかった者で、自営業主においては、自分の経営する事業を持ったままで、その仕事を休み始めてから30日にならない者。雇用者においては、給料・賃金の支払を受けている者又は受けることになっている者。

休業者の内訳をみると、自営業主が前年同月差40万人増の57万人、正規の職員・従業員が同57万人増の126万人、非正規の職員・従業員が同161万人増の209万人と、引き続き非正規においても多くの方が休業している[注3]。また、産業別には、宿泊業,飲食サービス業の前年同月差71万人増の79万人、卸売業,小売業の同28万人増の49万人などで休業者が多くなっている。

その一方で、就業者のうち実際に稼働している従業者は、4月の前年同月差500万人減の6031万人から、5月は同350万人減の6233万人となり、4月より200万人程度増加している[注4]。こうしたことから、4月から5月にかけて休業者から従業者に移る動き[注5]がみられたと考えられる(図表2)。

図表2 就業状態の比較(2020年4、5月と2019年4、5月)

図表2の表

資料出所:総務省「労働力調査」より作成。

注1:従業者は就業者のうち調査期間中に少しでも仕事をした者。

注2:休業者は就業者のうち調査期間中に少しも仕事をしなかった者。

注3:週間就業時間は、月末一週間の就業時間。就業時間の対象に休業者は含まれていない。

注4:活用労働量は、従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として計算。

注5:就業率は、就業者数を15歳以上人口で割った比率。稼働率は、従業者数を15歳以上人口で割った比率として計算。

ただし、5月の月末一週間の週間労働時間を前年同月と比較すると5.7%減と4月よりも減少幅が拡大したため、人数と労働時間を掛け合わせた活用労働量(労働投入量)で前年同月と比較すると、5月の月末一週間の活用労働量は前年同月比10.8%減と、4月よりむしろ減少幅は拡大している。稼働する人が増えた一方、一人当たりの労働時間が減少し、トータルの活動労働量はむしろ減った形である。

公表されている就業率は60.1%と、前年同月差0.6ポイントの低下であるが、従業者ベースで見た稼働率は56.2%と、同3.1ポイントの低下となっている。

また、4月には就業者の減少がそのまま失業者の増加につながらず、非労働力人口が増加(非労働力化)する動きがみられていたが、5月にはその一部が職探しを始め、失業者に移る動きがみられる。

図表3によると、4月は就業者(季節調整値)が前月差107万人減となったが、非労働力人口が94万人増加し、完全失業者は6万人の増にとどまっていた。それが5月に入り、非労働力人口の21万人減とともに、労働力人口が21万人増となり、このうち完全失業者が19万人増となっている。

図表3 雇用関係指標の前月との増減(季節調整値)

図表1グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

5月の労働力調査の調査期間である月末一週間は、5月25日に全国で緊急事態宣言が解除[注6]された直後の時期に相当するが、活動を自粛していた離職者などが求職活動を始める動きがみられてきたと考えられる。

こうした動きもあり、5月の完全失業者は前年同月より33万人増加して198万人、完全失業率は前月より0.3ポイント上昇して2.9%となり、厚生労働省「職業安定業務統計」による有効求人倍率は前月より0.12ポイント低下して1.20倍となるなど、雇用情勢は悪化が進んでいる。

その中でも、休業者に多くの非正規の職員・従業員が含まれているなど、急激な業績の悪化の中における企業の雇用維持の努力がうかがえる。

企業の雇用維持支援のために拡充された雇用調整助成金[注7]については、5月の中旬以降申請件数、支給決定件数とも大幅に増加し、6月29日時点の速報で累計支給申請件数29万6,972件に対して累計支給決定件数は19万2,964件と実績が上がってきているが、こうした支援策が企業の努力の下支えとして機能することが重要である。

また、今後も感染拡大を防止しながら社会活動、経済活動を行うという難しい局面が続くことが見込まれるため、雇用への影響は引き続き注視していくことが必要である。

当機構では、新型コロナウイルスの雇用・就業への影響をみるため、関連する統計指標の動向をホームページに掲載しているので、そちらもご覧いただきたい(統計情報 新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響)。

(注)本稿の主内容や意見は、執筆者個人の責任で発表するものであり、機構としての見解を示すものではありません。

脚注

注1 休業者等については、緊急コラム「新型コロナの労働市場インパクト─失業者は微増だが休業者は激増し、活用労働量は1割の減少─」(2020年5月29日)で説明している。

注2 4月と5月の数値を比較する際には厳密には季節調整を行って比較すべきであるが、今回は大きな経済ショックを受けた動きであることから、原数値で比較している。

注3 総務省「労働力調査」追加参考表「就業者及び休業者の内訳」(PDF)新しいウィンドウ参照。

注4 脚注2参照。

注5 あくまでも統計上の区分であり、実際には一時的に休業していた労働者が再び働き始めたことを意味する。

注6 緊急事態宣言については、5月4日に、5月31日まで延長することとされた後、5月14日に北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県以外の県で解除され、5月21日には京都府、大阪府、兵庫県で、5月25日には北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県で解除され、全都道府県で解除となった。

注7 雇用調整助成金の特例の内容と支給実績は厚生労働省「雇用調整助成金(新型コロナ特例)」新しいウィンドウを参照。また、雇用調整助成金については、「新型コロナウイルス感染症の影響を受けた日本と各国の雇用動向と雇用・労働対策(PDF:975KB)」(2020年5月8日、新型コロナウイルスによる雇用・就業への影響等に関する調査、分析PT)も参照。

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