緊急コラム #026
飲食・宿泊業労働者の職業生活

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雇用構造と政策部門 副主任研究員 高橋 康二

2021年3月19日(金曜)掲載

1 はじめに

新型コロナウイルス(以下、コロナ)は、飛沫を通じて感染するという性質上、感染拡大防止のため大人数での会食が避けられてきた。また、人の移動が感染を拡大するとの観点から、不要不急の遠方への移動(旅行、出張など)も抑制されてきた。その結果、大きな打撃を受けたのが飲食・宿泊業である。

JILPTの企業アンケート調査によれば[注1]、2020年9月と前年同月とを比較して生産・売上額等が減少した企業の割合、人件費が減少した企業の割合、労働者が減少した企業の割合は、いずれも飲食・宿泊業において最も高い。総務省「労働力調査」によれば、同産業は2019年(平均)から2020年(平均)にかけて雇用者数を25万人減らしており、その減少幅は同調査の産業大分類のうち最大である。

このような状況下で、飲食・宿泊業労働者はどのような職業生活を送っているのだろうか。本稿では、自明のことも含むかもしれないが、JILPTの個人アンケート調査を用いて、改めてこれら労働者のキャリア、月収、仕事満足度の状況を素描する。

使用するデータは、JILPT「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」の第1回(2020年5月)、第2回(同8月)、第3回(同12月)パネルデータである[注2]。集計・分析対象は、2020年4月1日時点で民間企業に雇用されて働いており、3回の調査のすべてに回答している者である[注3]

参考までに、表1に飲食・宿泊業労働者のプロフィールを示した。ここから、飲食・宿泊業労働者には女性、若年者、非大卒、生計維持者以外、非正社員が多いことが分かる。ちなみに、飲食・宿泊業に女性、若年者、非大卒、非正社員が多いことは、総務省「就業構造基本調査」(2017年)においても観察される通りである。

表1 飲食・宿泊業労働者のプロフィール(列%)

表1画像

注:産業は、4月1日時点の勤務先のものを指している。以下の図表においても同じ。

2 キャリア

コロナ禍において、諸外国では飲食・宿泊業労働者の失職率の高さが問題になっている。たとえば、Adams-Prassl et al.(2020)は、米英独いずれの国においても飲食・宿泊業において失職率が高いことを指摘している。日本でもこれと同様の現象が見られるだろうか。

図1は、4月1日時点の民間企業雇用者について、4月から12月までのキャリアを「同一企業定着」、「(1ヶ月以上の失業・無業を経験しない)転職」、「1ヶ月以上の失業・無業を経験」の3つに分類し、4月1日時点の勤務先の産業別にその分布を示したものである。ここから、飲食・宿泊業では「失業・無業経験」が12.6%であり、他の産業より際立って高いことが分かる。日本の状況も、諸外国のそれと類似していると言えよう。他方、「転職」も8.4%と高い。コロナ禍での経営環境の悪化を受けてか、自ら進んで離職する者も多いことが窺える。

図1 4月1日時点の勤務先の産業別にみたその後のキャリア(%)

図1グラフ

注:サンプルが50件に満たない「電気・ガス・熱供給・水道業」、「郵便局・協同組合」、「わからない」は、「その他の産業」に統合した。以下の図表においても同じ。

もっとも、転職、失業・無業経験の多さには、女性、若年者、非大卒、生計維持者以外、非正社員が多いといった飲食・宿泊業の労働者特性が関係しているかもしれない。そこで、それらの労働者特性をコントロールした上で、離職(転職+失業・無業経験)に対する産業の効果を分析したのが表2である[注4]。ここから、女性、若年者、非正社員ほど離職しやすい傾向を考慮しても、飲食・宿泊業ダミーが1%水準でプラスに有意となっていることが分かる。やはり飲食・宿泊業において離職率が高いことが読み取れる。

表2 4月1日以降の離職の規定要因(二項ロジスティック回帰分析)

表2画像

注:**:p<0.01、*:p<0.05、†:p<0.1。(ref. )はレファレンス・グループ。

3 月収

雇用が減少していることから予想される通り、飲食・宿泊業においては離職率が目立って高かった。それでは、同一企業に定着している者の働き方や意識はどのようなものだろうか。図2は、4月1日以降、同一企業に定着している者について、コロナ前の通常月と比べた12月調査直近の月収の状況を示したものである。ここから、飲食・宿泊業では「減少」が42.7%であり、他の産業と比べて高いことが分かる。

図2 産業別にみたコロナ前の通常月と比べた12月調査直近の月収(%)

図2グラフ

注:集計対象は、4月1日以降、同一企業に定着している者のみ。

ちなみに、サンプルサイズが小さいため解釈には留意が必要であるが、飲食・宿泊業のなかでサービス職とそれ以外とに分けてみると、サービス職の労働者において月収が減少している割合がとりわけ高いことが分かる(図3)。接客・対人サービスを行う現場労働者ほど仕事が減っているということであろう。

図3 コロナ前の通常月と比べた12月調査直近の月収(飲食・宿泊業)(%)

図3グラフ

注:集計対象は、4月1日以降、同一企業に定着している者のみ。

飲食・宿泊業における月収の低下傾向は、労働者特性をコントロールしても見出せるだろうか。表3は、コロナ前の通常月を100とした12月調査直近の月収(月収指数)を被説明変数、労働者特性をコントロール変数として、産業の効果を分析したものである。ここから、飲食・宿泊業においては1%水準で有意に月収指数が低い(月収が低下している)ことが読み取れる。

表3 12月調査直近の月収指数の規定要因(OLS)

表3画像

注1:**:p<0.01、*:p<0.05、†:p<0.1。(ref. )はレファレンス・グループ。

注2:分析対象は、4月1日以降、同一企業に定着している者のみ。

注3:12月調査直近の月収は、コロナ前の通常月の月収との比較によるレンジでたずねられている。ここでは、そのレンジを階級値に変換し、被説明変数とした。

4 仕事満足度

12月のアンケート調査では、12月現在とコロナ問題発生前について、「ご自身の仕事について」の満足度がどのくらいだったかを、それぞれ5段階でたずねている。回顧式の質問であるため、少なからず誤差が含まれていると考えられるが、両者の差分をとることで、仕事満足度の変化を捉えることができる。図4は、その結果を産業別に集計したものである。ここから、飲食・宿泊業においては仕事満足度が低下した者が38.7%であり、最も高いことが分かる。

図4 コロナ前と比較した仕事満足度の変化(%)

図4グラフ

注:集計対象は、4月1日以降、同一企業に定着している者のみ。

この結果は、労働者特性をコントロールしても変わらない(表4)。すなわち、飲食・宿泊業では統計的に有意に仕事満足度が低下している(モデル①)。しかも、より重要なことに、飲食・宿泊業ダミーのマイナス効果は、モデル②にて月収指数をコントロールしても大きく変わらない。飲食・宿泊業労働者の仕事満足度の低下には、月収の低下以外にも原因があるということになる。

表4 コロナ前と比較した仕事満足度の変化の規定要因(OLS)

表4画像

注1:**:p<0.01、*:p<0.05、†:p<0.1。(ref. )はレファレンス・グループ。

注2:分析対象は、4月1日以降、同一企業に定着している者のみ。

注3:12月現在の満足度(5段階)とコロナ問題発生前の満足度(5段階)の差分をとった、9段階のスコアを被説明変数としている。

5 おわりに

以上でみてきたように、コロナ禍において飲食・宿泊業労働者はとりわけ離職率が高く、同一企業に定着していたとしても月収が低下し、仕事満足度も低下していた。しかも、仕事満足度の低下幅は月収の低下幅では説明がつかないほど大きなものだった。

コロナ感染が拡大してから、4~5月にかけて全国緊急事態宣言下で飲食店の営業や遠方への外出が抑制された。その後、Go To トラベル事業、Go To Eat事業により飲食・宿泊業の振興が図られたが、冬以降に再びコロナ感染拡大の懸念からそれらの事業は中断されるなどしている。そして翌1月に一部都府県に緊急事態宣言が発出され、2ヶ月半を経て宣言が解除されることになった。政府・自治体はその時々での最善の判断を試みているが、コロナ感染状況の予測の難しさも相まって、結果として飲食・宿泊業の経営が右往左往していることは否めない。

そういった環境の下、飲食・宿泊業にあっては労働者が将来の見通しを立てられず、月収の低下だけでは説明がつかないほどに仕事に対する満足度が低下しているのではなかろうか。

JILPTの企業アンケート調査によれば、9月時点の経営環境が続けば、半年以内に全産業の2割弱の企業、飲食・宿泊業では4割以上の企業が現状の雇用維持が困難になると回答している[注5]。しかし、同産業の労働者の仕事満足度の低下ぶりを考慮するならば、雇用維持が困難になるより先に自発的に離職する労働者が頻出し、産業が縮小していく可能性もないとは言えない。

とはいえ、経営が右往左往するなかで労働者を定着させる意義は乏しい。ここに、休業手当を補填することで雇用の安定を図ろうとする雇用調整助成金の発想だけでは対応できない課題がある。コロナ禍において飲食・宿泊業労働者が置かれた状況──月収の低下で仕事満足度の低下を説明できない状況──を念頭に置くならば、むしろ転職しようとする労働者に対し、企業を介さない失業給付等による所得の保障、職業紹介や能力開発支援に力点を置いた施策を講じる必要があるかもしれない。

(注)本稿の主内容や意見は、執筆者個人の責任で発表するものであり、機構としての見解を示すものではありません。

文献

脚注

注1 詳細は、中井(2020)を参照。

注2 調査実施方法の詳細は渡邊(2021)を参照。

注3 ただし、4月から12月までのキャリアが「同一企業定着」、「(1ヶ月以上の失業・無業を経験しない)転職」、「1ヶ月以上の失業・無業を経験」のいずれかに区分される者に限定している。このキャリアの3区分については、高橋(2021)を参照。

注4 「労働力調査」において2019年から2020年にかけての雇用者数の増減が少ない金融・保険業をレファレンス・グループとした。

注5 中井(2020)を参照。