JILPTリサーチアイ 第93回
「職業のリアル」への接近~job tagの職業解説におけるインタビュー調査の意義
2026年7月29日(水曜)掲載
1. はじめに
職業情報の総合サイト「job tag」
のメインコンテンツである職業解説は、現在、インタビュー調査をもとにして作成されている。本稿では、調査手法としての「インタビュー調査」に着目して、実例を挙げながらその利点を考えてみたい。
1-1. job tagに収録されている職業情報
job tagは、“労働市場の見える化”をコンセプトにする職業情報の総合サイトである。職業・仕事の内容、求められるスキルなど、職業情報をわかりやすく提供することで、働く人や求職中の方、学生・生徒、企業をはじめ、ハローワークにおける職業相談やキャリアコンサルタントといったキャリア支援者など、広く労働市場に関わる人のための情報インフラとして利用されている。
同サイトは2020年3月から一般運用が始まり、毎年度、収録職業数を増やしていき、2026年3月現在、556職業に関する職業情報を収録している。サイト全体を厚生労働省が運用管理し、当機構では、これまでの職業情報データ蓄積のノウハウを生かして、job tagに収録する職業情報の収集・整理及び同省への情報提供に取り組んでいる。
収録されている職業情報の柱は、職業解説系データと、職業の数値系データ及びタスク情報である。このうち、本稿で取り上げる職業解説系データは、仕事の内容、入職経路や労働条件の特徴といった項目により構成されている。これらの情報は、「どんな職業なのだろう?」と、特にその知りたい職業の全体像をとらえたい時に役立つものとなっている。
1-2. インタビュー調査の実施
職業解説の作成には、実際の就業者に対するヒアリング形式のインタビュー調査を行なっている。得られた素材を元にして、1職業あたり概ね2500字前後の解説文としてまとめられている。職業学習の素材として平易な表現を心がけ、同時に、求職活動場面における活用も念頭に、正確さ、専門性にも意識を置いている。job tagが提供する情報として、一貫して“職業のリアル”にこだわり、現場への接近を試みる内容になっている。
インタビュー調査は、正直なところ、手間暇がかかる手法である。
まず、1職業あたり複数の対象者(3人程度)を見つけ出し、調査協力への理解を得るところから始まる。その後、90分程度のインタビュー調査を実施し、それを素材にして職業解説文を手元で作成する。そして、関係各方面(業界団体、所管官庁など)に内容チェックを依頼し、文言の修正をする。このように書くと、さもスムーズに進むように感ぜられるが、実際は、1つの職業解説の内容が確定するまでには、綿密な準備と各種の調整が存在する。
表面をなぞっただけの概要説明の職業解説の記事なのであれば、AI活用によりそれを作成することは十分に可能であろう。job tagの整備方針として対象とする職業数を増やしていくだけとするならば、そのほうがスピードは速い。それでは、なぜ、job tagでは、職業解説を作成するに当たって、これほど手間のかかるインタビュー調査という手法を採っているのだろうか。
2. インタビュー調査ならではのアプローチ
結論を先走るようであるが、よりリアルな職業情報を扱い、また、キャリア支援の場面での実用を念頭に整備・運用されているjob tagの目指すところを考えれば、やはり実際の就業者、つまり、“その道のプロ”に対して、キャリア形成やキャリアビジョンを含めて直接にフィールドワークとして取材することの意義は深い。インタビュー調査の実例をいくつか挙げてみよう。
2-1. インタビュー調査の実例 (職業のリアルへの接近)
「下水道管路施設の点検・調査
」については、2025年に埼玉県で発生した道路陥没の大きな事故により注目を浴びるようになった職業であるが、その職業名からは伝わりにくい仕事の魅力を表現している。インタビュー対象者からはjob tagに対して、「社会インフラを下支えするやりがい、社会的な使命感を発信してほしい。(企業の立場から)これを奇貨と捉えて人材確保につなげたい。」との期待が寄せられた。
職業解説文の中では、近年の作業環境の安全面配慮や点検・調査作業の前後工程との関係といった基本的な情報に加えて、災害復旧への対応のようすや生活復旧に貢献できた時のやりがいについて記述した。また、読者へのメッセージとして「自分がこの町を支えていることを誇らしく思う」ことや、「災害支援活動の経験はひとに感謝される仕事で、やりがいがある」ことなどを掲載した。
「声優
」については、若者に関心が高いことから採り上げた職業であるが、アニメなど表舞台の華やいだ部分に焦点が当たりがちであるところ、必ずしも「光」ばかりではない現実を聴き取ることができた。例えば、「実績を積んだベテラン声優でもオーディションに挑み、役を勝ち取っていくことが求められる厳しい世界。」、「オーディションで思うような結果が出ないことが多い。これを乗り切る精神的な強さや気持ちの切り替えの早さが必要。」、「ナレーションはほとんどの場合スタジオで原稿を渡されるため、初見で原稿を読める瞬発力が求められる。」など、実際の生の声を集めた。また、「レギュラーの仕事を持って安定収入を得ている人は少なく、声優以外の副業で生計を立てている人が多い。」といった、なかなか聞きづらい経済面の話を深掘りすることができた。
職業相談、キャリア支援場面において、ややもすると夢を見がちな若者に対して、仕事選びの判断材料の一つとなりうる実態面を助言として一言添えられるような内容を提供できるものとなっている。職業のリアルへ接近できた一例と言えるだろう。
「トラックドライバー
」については、いわゆる物流の2024年問題にからめて、その後の状況にアプローチする構えでインタビュー調査に臨んだ。業界団体からは「業界全体として働き方改革の取組みが進んでおり、イメージアップに取り組み中」であることや、「荷主側の意識の変化や、ドライバーの業務負担の軽減、女性・若者の参入の取組みをPRしてほしい。」といった声が寄せられた。業界が抱えるドライバー不足という深刻な課題に対して、労働時間等の労働条件の改善、物流の適正化・効率化、トラック輸送の生産性向上に取り組んでいるようすがひしひしと伝わってきた。職業解説文では、荷待ち時間や手荷役、荷役作業時間の削減に取り組む荷主が増えるなど、荷主側の意識・行動にも変化がみられ、ドライバーの労働時間や日々の業務負担の軽減につながっていることを盛り込むことができた。また、同団体からは、job tagで収録されている職業名「トラック運転手」について、「イメージ戦略の一環としてトラックドライバーに変更してほしい。」との声があり早速対応したが、これも実際に顔を合わせてやりとりをするインタビュー手法だからこそ得られた情報に基づくものである。
「宇宙開発技術者
」は、技術の進歩が早く、また、裾野の広い成長産業として注目される職業の一つであり、開発技術の面を聴き取る構えでインタビューに臨んだ。その中でスタートアップ企業の就業者から、「例えばロケット発射場の建設というビジネスは、地域に雇用を生み、また、観光資源となり地域経済の起爆剤になる。そういったグランドデザインを描ける仕事だ。」という話があり、これを受けて職業解説文には、産業、地域雇用への視点を加味することができた。
また、「最先端産業であり、世界中の国や地域に関わると同時に、エリアで見るとその地域の産業振興に貢献できるグローカルな仕事だ。」ということや、「様々な非宇宙産業からの進出が進んでおり、宇宙産業はビジネスとしても将来性が高い。」といった職業の魅力、これからの伸び代を聴き取ることができ、それらは読者へのメッセージの形で掲載することとした。
2-2. インタビュー調査の実例 (語られるキャリアヒストリー)
AI調べだけではなかなか得られない情報収集ができることをインタビュー調査の実例として紹介したが、加えて、これらのインタビュー調査の中で、気づかされたことにも触れておきたい。
インタビュー調査の場面では、「この職業の魅力は何か?」や、「この職業を選んだきっかけや理由は?」と尋ねた際に、具体的な背景を聞き込んでいくと、本人の記憶が呼び起こされ、キャリアヒストリーが語られることが多い。インタビュー調査から得られた素材について、現在の職業・ポジションに至るこれまでの道筋に着眼して、いくつかの例をみてみよう。
(例①)夢や興味の延長線上で職業選びを模索した結果である場合。
例えば、「子供の頃、スーパーカーブームだったのでプラモデルカー作りから入って、車好きが昂じてそのまま延長したという感じ。(自動車検査員
)」、「声優によるドラマCDを夢中で聴き、自分もお芝居がしたい、それが原動力になった。(声優
)」などの声が聞かれた。
(例②)何かきっかけとなる出来事や、影響を受けた人との出会い等がある場合。
例えば、「被災地に入り、建築物が簡単に壊れることに非常にショックを受けた。(耐震診断
)」ことをきっかけとして挙げる声が聞かれた。
(例③)組織への必置義務がある等により必要に迫られて資格取得し、その任に就いた結果、現在がある場合。
例えば、「人事部署で就業規則を作っていたら、会社としてルールに則らないといけないため慌てて資格を取りに行った。(衛生管理者
)」などの声が聞かれた。
(例④)配属された部署の業務内容だったことから携わっている場合。
例えば、「新入社員の時に、浮体式の部署に配属されて今に至る。(風力発電の企画・調査
)」、「資格自体を知らなかったが、社内異動で今の配属部署になり初めてその仕事を知り、資格を取った。(作業環境測定士
)」などの声が聞かれた。
これらの例に限ってみてみると、運や縁など、半ば偶発性による要素もあるが、それぞれの共通点としては、自らの成長欲求や前進への準備性を高く保持している姿勢や、漫然と過ごしていれば見過ごしてしまうようなキャリア形成上のチャンスへの気づき、あるいはそれを逃さない観察眼と、前向きな選択及び積極的な行動がとられているように感じられた。
改めて、プランド・ハップンスタンス(計画された偶然性)理論(Krumboltz,1999)といったキャリア理論の一つを持ち出すまでもなく、置かれた環境や所与の条件のもとで、そのような様々な(偶発的なものも含めた)内的、外的な要素を取り込んでいるようす、また、一連の職業キャリア上の選択を重ねることでキャリア形成を図り、現在の職業、ポジションにつなげているようすが窺われた。ただし、上記の例は今回のjob tag職業解説のためのインタビュー調査から得られた素材であり、得られた気づきの点は必ずしも他の職業・個人にも当て嵌まるものばかりではない点に一定の留意が必要である。
job tagが持つ職業情報を提供するというサイトの性質上、これらの個別具体的な内容に多くの紙面を割けないことが、ややもどかしいところではあるが、極力、対象職業のやりがいに関するくだりにその趣旨を溶け込ませることや、読者むけのメッセージに盛り込むこととして、職業解説文に反映するよう心がけた。
3. インタビュー調査の利点と醍醐味
上記でみてきたような心理や行動の遷移、キャリア選択など質的に深みのある内容は、表面的な制度説明だけではなかなか表現できないものである。インタビュー調査は、優れてそれらを収集できる手法であるということを実感するところである。
3-1. インタビュー調査の利点 (深層へのアプローチ)
一般的に、インタビュー調査の利点を挙げると、回答を選択肢から選ぶアンケート調査では把握できない本音、深層心理、行動の背景を、その場の判断により、掘り下げられることだろう。直接に対話するからこそ把握できる、肌感覚、空気感といった相手との“間”。微妙な表情の変化や声のトーン。これらの非言語の情報も重要な判断材料となる。
インタビュー調査では、予め質問項目を用意しているものであるが、やりとりの中で質問を臨機応変に変えられるため、より深く核心に迫ることが可能となる。デプスインタビューでは、心理や行動の推移、キャリア選択のようすなどを深掘りできる。それだけに、デリケートなテーマを扱いやすく、職業のリアルに接近しようとするjob tagには最も適した手法と実感する瞬間にたびたび出会った。job tagならではの部分を支える研究調査手法であると感じる。
3-2. インタビュー調査の醍醐味 (想定以上の“とれ高”)
「声優」で例を挙げたが、光が当たる部分だけではない厳しい現実世界についても記述した。安定収入を得られている人は少なくむしろ副業がデフォルトだという話は、実際には、関係構築が図られたインタビュー後半のやや雑談的なやりとりの中で「実は・・・」ということで聴き取ることができたものである。
また、「作業環境測定士
」で見られたように、「最初からその職業を目指していたわけではないが・・・」、といったキャリアヒストリーは、問わず語りに語られたものが多い。その他、「宇宙開発技術者
」の、地域産業・雇用創出にも寄与する点は、対話の流れから導き出されたものであり、想定していなかった新たな気づきが得られたものである。
さらに、「トラックドライバー
」で見られたように、job tagが有する“公器”としての発信力に期待する声があり、インタビュー調査ではそれをしっかりと受け止めることができる。実際のインタビューを通じて、業界団体の要望や、その職業の将来を思う人の“思いや熱意”に触れることができ、それらをjob tagというサイトを通じて発信できる点も意義深いものと言える。
これらの想定以上の材料が得られた時に、それらを職業解説文にうまく反映し情報提供することはサイト利用者にとって大きなプラスになるだろう。実際のやりとりの中で想定した以上の“とれ高”がある、これはインタビュー調査の醍醐味と言えるだろう。
また、幸いなことにjob tagは、インタビュー調査による職業解説系データ収集と並行して、ウェブ就業者調査により定量的な数値系データの収集を行なっている。後者のデータは、各職業のスキルのレベル(読解力、数学的素養等)、知識の重要度(経済学・会計学、人事労務管理等)、アビリティ(指先の器用さ、トラブルの察知等)などを職業間で比較可能な数値により表わしたものである。job tagでは、両データの“組み合わせの妙”により、職業をより“立体的に”捉えることを試みており、職業のリアルへの接近に一定程度寄与しているといえるだろう。
4. おわりに
当機構では、長年に亘り、産業・職業をよく観察し、職業情報の収集・整理を行なってきた歴史がある。職業構造の分析やキャリア支援の文脈の中で、就業者の深層心理、行動への接近を試みてきた。その用いる心理学的、社会学的な調査手法としてインタビュー調査を中心に据えている。研究対象としてのjob tagは、その延長線上にあるといえ、手法としてのインタビュー調査は、非常に親和性が高く、理に適っている。
さはさりながら、職業情報の総合サイトjob tagが果たすべき社会的責務として、できるだけ対象職業を増やし、全体として幅広く労働市場をカバーする必要がある。そのためにも、調査・整備のスピードアップが必要であるところ、インタビュー調査は、物理的な実施スピードに限界があり、スピードとの両立が難しいという悩みを常に抱えていることも事実である。
職業情報を収集する手法として、インタビュー調査のみにこだわらない柔軟性が必要な時期に差し掛かっているものと考えられる。実際に、調査項目や職業解説文をみると、制度関係や外的な環境変化に関する情報収集はAI向きのものがあるように感じられる。その一方で、就業者の内面に亘る──そしてそこがjob tagの真髄なのであるが──職業人としての誇りや、やりがいなどの熱い思い、肌感覚として日々感じ取る職務遂行ぶりの聴き取りには、やはりインタビュー調査が断然勝るだろう。
研究調査対象としてのjob tagを考えた場合、情報収集にはAIをうまく補助的に活用しながらも、決してその内容を鵜呑みにせず、また、依存せずの構えが必要である。職業のリアルに迫る「核心部分」は、対面のインタビュー調査を念入りに行なう現行の手法がベストマッチしており、かつ、現実的な手法だろう。そうした中で、作業スピードとのバランスを考えれば、AIと賢く付き合いながら、ハイブリッドな職業情報の収集やデータ集積、表現を模索する時期が来ていることは確かなことと思われる。




