JILPTリサーチアイ 第81回
大学生のインターンシップにかかる三省合意の改正は就職活動に影響を及ぼすのか?─内閣府『学生の就職・採用活動時期等に関する調査報告書(令和5年12月8日)』より─

人材開発部門 統括研究員 堀 有喜衣

2024年3月8日(金曜)掲載

1.はじめに

来年3月卒業予定の大学生の就職活動が本格的にスタートした。この学年の学生は、改正されたインターンシップにかかる三省合意(現在の文部科学省、厚生労働省および経済産業省による)のもとで初めて就職活動を行うことになる。

現時点では改正された三省合意の下で行われる学年の就職活動について把握することはできないが、本稿は、まもなく卒業する今年度の4年生を対象に実施した内閣府『学生の就職・採用活動時期等に関する調査報告書(令和5年12月8日、以下本報告書)』をもとに、今年度のインターンシップと就職活動についていくつかの推測を論じたい(調査概要は末尾を参照)。

1997年の就職協定の廃止とともに、大学から職業への新しい移行のあり方に寄与するとしてインターンシップが導入されて以降、三省合意においてインターンシップを採用目的としないという点は堅持されてきた。しかし令和4年、政府として就職スケジュールの遵守を呼びかけつつ、インターンシップにかかる三省合意の変更に至った。三省合意とは、インターンシップに関する基本的認識や推進方策を取りまとめた「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」(文部科学省、厚生労働省及び経済産業省合意)を指している。

この三省合意の改正に影響を与えた「採用と大学教育の未来に関する産学協議会2022年度報告書」は、インターンシップを、タイプ1:オープン・カンパニー、タイプ2:キャリア教育、タイプ3:汎用的能力・専門活用型インターンシップ、タイプ4:高度専門型インターンシップ、の4つの類型にわけ、タイプ3の専門活用型インターンシップとタイプ4について、採用活動開始以降に限り、取得した学生情報の利用を可能とした。専門活用型インターンシップは、参加期間の半分を超える日数を就業体験にあてる、職場の社員が学生を指導しフィードバックする、2週間以上で長期休暇期間に実施、など要件も多くなっている。

2023年4月に政府から公表された「インターンシップを活用した就職・採用活動日程ルールの見直しについて」は、2025年度卒業・修了の学生について、現行の就職・採用活動日程ルールを原則としつつも、タイプ3のうち専門活用型インターンシップを実施した場合、3月広報活動開始以降の採用選考活動に学生情報を活用することが容認されることになった。

採用直結型インターンシップを実施していた企業もこれまで存在していたものの、今回の三省合意の改正は、条件付きながらインターンシップと採用との結びつきを建前においても認めるものであり、この三省合意の改正は大学関係者にとって衝撃を持って受け止められた。というのは就活ルールと呼ばれ、近年は3月広告解禁、6月採用選考開始となっていた就職活動開始時期という、新規大卒採用における唯一の就職秩序に対しての挑戦と受け止められたからである。大学生活が就職活動に侵食されてしまうという危機感がそこにはあった。

他方で筆者は堀(2023)において、今回の三省合意の改正の影響は限定的であろうこと、現在大学側が警戒しているのは、専門活用型インターンシップの活用をきっかけに、インターンシップの名を借りた企業説明会兼採用選考がさらに広がり、歯止めがきかなくなって、学生が大学3年生の秋から就活の様々な活動に巻き込まれていくことであり、企業の採用の早期化について着目することが重要だと述べた。昨年度のデータではその影響がまだ捉えられなかったが、改正の影響を多少なりとも受けたと考えられる今年度は、どこまで企業の採用は早期化したのだろうか。またインターンシップはどのように運営されているのだろうか。

そこで内閣府において実施されている「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査」から、主に令和5年調査について確認したい。この調査は平成26年から行われており、大学4年生と大学院2年生に対して実施されているが、本稿は大学4年生のみの分析のみ活用する。

2.インターンシップの広がりについて

三省合意においては、専門活用型インターンシップのみ、インターンシップを採用選考に活用してもよいということになっていた[注1]。しかしインターンシップは多様であり、また本報告書においては、専門活用型インターンシップという名称での調査項目はない。そこで要件に着目し、期間や就業体験・採用選考の有無について確認する。

インターンシップへの参加については、回答者の8割近くが参加経験があると回答している。すべてのインターンシップの参加のうち、半日または1日が全体の8割を占めている点に経年的な変化はない。

図表1によれば、5日以上のインターシップを経験した者(「5日以上のインターンシップと呼称されるものの参加状況」)は全体の22.0%であった。インターンシップのほとんどは1日または半日であり、5日以上のインターンシップの経験者はまだ4分の1にすぎないということである。なお理系では34.9%ということなので(図表2)、5日以上のインターンシップはより理系が念頭に置かれているようである。

図表1 5日以上のインターンシップと呼称されるものの参加状況

図表1グラフ

資料出所:内閣府(2023),p.28.

図表2 インターンシップの日数(文系/理系)

図表2グラフ

資料出所:内閣府(2023),p.149.

5日以上のインターンシップのうち、就業体験を伴っている割合(企業の業務内容の説明や職場見学のみのものについては含まない)は81.2%と過年度に比べて高くなっている(図表3)。

図表3 就業体験を伴っている割合

図表3グラフ

資料出所:内閣府(2023),p.29.

また5日以上かどうかは分からないが、「採用のための実質的な選考を行う活動を含んでいた」インターンシップは51.9%と半分を占めている(図表4)。

図表4 採用のための実質的な選考を行う活動

図表4グラフ

資料出所:内閣府(2023),p.32.

よってほとんどのインターンシップは、専門活用型インターンシップの要件をほぼ満たしていないことが推測されるが、インターンシップの半分は採用選考の一部に組み込まれているようになっていると学生には認識されている。

ただしインターンシップが学業に悪い影響があったとする認識はもともと低く、むしろ下がっており、今のところ大学の懸念は顕在化していない(図表5)。

図表5 学業への影響

図表5グラフ

資料出所:内閣府(2023),p.31.

この要因の一つには、ウェブのみの実施がインターンシップ全体の7割を占めていることが推測される(図表6)。ウェブだと概して学生の負担は軽くなる(企業もそうであろう)。栗田(2023)は、物理的・費用的な面でインターンシップのオンライン化は、企業の実施率や学生の参加率に寄与していると指摘している。よってインターンシップ方法の多様化は学生のインターンシップへの参加をさらに促進するだろうが、学業の妨げになるとは限らない。特に地方学生においてはウェブでの参加によって、インターンシップでの地域格差が縮小しやすいという利点もあるだろう。

図表6 インターンシップの参加方法

図表6グラフ

資料出所:内閣府(2023),p.35.

3.採用選考の早期化について

次に採用選考の早期化について、面接や内定に着目して論じる。採用選考の早期化はさかんに報道されるが、実際には面接のピークの時期について全体の半数を超えるのは4月であり、3月(19.9%)と4月(30.6%)の回答が多くなっている(図表7)。過去調査と比べると、特に前倒しというほどの変化は起きていない。

図表7 採用面接のピーク

図表7グラフ

資料出所:内閣府(2023),p.55.

図表8によれば、採用面接が対面のみというのは17.0%にとどまっており、ここでもウェブの活用が進んでいる。

図表8 面接方法

図表8グラフ

資料出所:内閣府(2023),p.59.

図表9によれば、内々定については調査時点で9割が内々定を得ていたが、最初の内々定は早くなっている。一部の企業の採用活動が早期化しているというのは、本調査でも確認できる。

図表9 内々定の状況

図表9グラフ

資料出所:内閣府(2023),p.61.

ただし図表10によれば、就職予定企業の内々定を受けた時期をみると、国内企業(ベンチャー企業以外)については6月がピークとなっている。学生のほとんどは国内企業(ベンチャー企業以外)に就職するつもりでいるため、多くの学生にとっての本番は3月以降であり、国内企業(ベンチャー企業以外)の内々定が過半数に達するのは5月である。過去には大学3年生の12月に広報活動解禁という時期もあったことを思うと、就活ルールによる歯止めが一定程度あると判断できる。

図表10 就職予定企業の内々定を受けた時期

図表10グラフ

資料出所:内閣府(2023)概要,p.12.

注:企業の種類別の集計対象者の数が必ずしも多いわけではないことから、ここでは、大学4年生・大学院2年生について合わせて集計した結果のみ参照。

ただし就職活動期間は昨年度に引き続き、長くなっていると認識されている(図表11)。学生にとっての就職活動の始まりは、インターンシップのウェブサイトへの登録、終わりは就職先の決定ということのようであるので(図表12)、インターンシップは就職活動の長期化を招いてしまっている。

他方で、インターンシップの受け入れ先を見つけるのが困難という時代があったことを鑑みると、人手不足は学生のインターンシップ経験の拡大に大いに寄与している。人手不足の状況が企業を前のめりにさせているとも解釈したほうがよいかもしれない。

図表11 就職活動期間

図表11グラフ

資料出所:内閣府(2023),p.78.

図表12 就職活動の始まりの時期と終了の時期に関する認識

始まったタイミング

図表12グラフ(始まったタイミング)

終わったタイミング

図表12グラフ(終わったタイミング)

資料出所:内閣府(2023),p.79, 80.

4.おわりに

本稿では、新規大卒就職についての内閣府調査を参照しながら、インターンシップにかかる三省合意の就活への影響を検討した。インターンシップは学生にとって就活の始まりと認識されており、選考活動が含まれるケースも半数程度あったが、ウェブ実施が多数となっているため学生には学業への妨げになっているとはあまり認識されていなかった。また採用活動の早期化は一部企業にはあてはまるが、ほとんどの学生にとって就活の本命企業の内々定が6月以降であることには変わりはなく、面接のピークや就職しようと考えている企業の内々定時期は特に早まっているわけではなかった。

今のところ三省合意の改正の就職活動に対する影響は限定的であるが、これも就活ルールあってのことだろう。早期の採用活動を抑制することはできないとしても、ある一定の時期に促すために政府が就活ルールを明示し続けることは重要である。今年度の就職活動はより直接的に三省合意改正の影響を受けることになるため、調査結果が注目される。

筆者は諸外国に比べ、日本の学校から職業への移行はあまりに急激であり、若者が円滑に移行するために、移行の道筋をなだらかにするための支援は重要だと考えている。その一つの手段としてインターンシップは欠かせないツールであることはまちがいない。ただし、インターンシップのありようは常に新規大卒採用への採用意欲に強く規定される。今後も長期的には人手不足になることはまちがいないとはいえ、短期的に調整局面にくることはあるだろう。その時にはまた大きくインターンシップの状況は変わるだろうが、学生の不利にはならないような配慮が求められる。

本稿で活用した調査は厳密にサンプリングされているわけではないものの一定のボリュームを持ち、また経年的に変化を捉えやすいように工夫されている。新規大卒就職を考える上で欠かせないデータとなっているため、今後も調査の継続が望まれる。

調査概要

内閣府『学生の就職・採用活動時期等に関する調査報告書(令和5年12月8日)「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査」

対象:
大学4年生、大学院2年生(医学科・薬学科・歯学科・看護学科・獣医学科、海外からの留学生を除く。)
方法:
インターネット調査。62の大学から所属対象学生に案内。
期間:
2023年7月13日から8月14日(8月1日時点の状況を回答)
有効回答件数:
大学4年生3,482件、大学院2年生1,483件、合計4,965件。

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参考文献

  • 栗田貴祥,2023,「コロナ前後の就職活動と就業意識の変化」『IDE現代の高等教育』2023年11月号.
  • 堀有喜衣,2023,「新規大卒労働市場の長期トレンドと就職活動」『IDE現代の高等教育』2023年11月号.

注:本稿の記述の一部は、堀(2023)を参照している。

脚注

注1 専門活用型インターンシップの活用について、日本経済団体連合会の会員企業への調査である「質の高いインターンシップに関する意向調査結果」(2023年実施:1,521社に依頼、回答数275社)によれば、「すでに実施している」企業が37%(102社)、「2023年度より実施予定(検討中を含む)」の企業が19%(52社)であり、2023年度に実施予定(検討中含む)の企業は約6割(154社)であった。また「すでに実施」「2023年度より実施予定」と回答した企業において、2023年度における学生受入人数を聞いたところ、「1~9名」が26%(39社)、「10~49名」が25%(37社)という調査結果となっている。