JILPTリサーチアイ 第70回
働く女性の更年期離職

著者写真

日本女子大学教授・JILPT客員研究員 周 燕飛

2021年11月5日(金曜)掲載

働く女性にとって更年期症状は大きな試練

誰にでも訪れる更年期。個人差はあるものの、女性の場合、平均閉経年齢(50-51歳)の前後5年間に、体力の低下や精神的落込み、睡眠障害、体の痛みなどの更年期症状に悩む人が多い[注1]。こうした更年期症状による体の不調は、とりわけ働く女性にとって大きな試練である。

職場の理解や支援を得られず、「仕事を続ける自信がない」「働ける体調ではない」「昇進を辞退せざるをえなかった」など、仕事と体調の両立に悩んでいるケースが少なくない。海外では、更年期症状が女性の仕事に悪影響を及ぼすという研究報告も多数上がっている。例えば、40-70歳のオーストラリア女性1,000人を対象とするアンケート調査によれば、ホットフラッシュや寝汗といった更年期症状が、仕事満足度と働く意欲を低下させ、離職意向を高めている[注2]。また、アメリカの更年期女性に対する大規模調査によれば、寝汗の深刻さと労働生産性の間に負の関連性があることが分かっている[注3]

日本では、これまで女性の更年期症状と仕事に関する大規模調査が実施されておらず、更年期症状が仕事に与える影響について、定量的な把握が行われてこなかった。更年期女性の就業率が7割を超え、人口数の多い団塊ジュニア(1971-1974年生まれ)が続々と更年期に入っている現在、更年期症状が女性雇用にどれほどのダメージを与えているのか、またどのような支援が求められているのかを解明することが急務である。

最近行われたNHKの調査によって、これらの疑問点の一部が明らかになっている。この調査は、NHKが2021年7月下旬に、更年期症状を経験した40~59歳有業男女5,334人(うち、男性1,038人、女性4,296人)を調査したものであり、筆者も調査票の作成や分析に関わった。調査によれば、更年期症状が原因で離職した女性は、46万人に上ると推計される。以下では、このNHK調査「更年期と仕事に関する調査2021」の結果[注4]を元に、更年期女性の雇用問題を探ることにする。

更年期症状を自覚した者の約7割は受診しなかった

NHK調査では、本調査に先立って、20-59歳の女性約3万人を対象とするスクリーニング調査が行われた。このスクリーニング調査によれば、更年期特有の症状を「現在、経験している」と報告した割合は、やはり50代前半層が最も高くなっている(45.3%)。次いで40代後半層(32.8%)と50代後半層(29.3%)が多い。やや意外なのは、40代前半層においても、7人に1人が更年期特有の症状を報告していることである。また、過去3年以内の経験を含めると、40代後半層の34.9%、50代前半層の52.3%が、いずれかの時点で更年期症状を自覚している/自覚していた(図1)。

一方、更年期症状を自覚した者(現在または過去3年以内の経験者)のうち、医療機関を受診しなかった者の割合が全体の約7割を占めている。受診率は、40代前半層で30.0%、40代後半層で32.4%、50代前半層で31.7%、50代後半層で29.8%に止まっている。また、更年期症状を自覚した者のうち、更年期障害・症状と診断された割合(診断率)は、40代前半層で11.7%、40代後半層で16.8%、50代前半層で20.3%、50代後半層で21.8%となっている。年齢層の高い女性ほど、診断率が高くなっている。

図1 更年期症状の経験率、受診率、診断率(%)

図1グラフ

出典:NHK「更年期と仕事に関する調査2021」(スクリーニング調査)の女性標本(n=29,505)より集計。

更年期離職の女性は46万人規模

それでは、40代、50代女性の雇用は、更年期症状によってどの程度の影響を受けているのだろうか。本調査において、①「現在または過去3年以内に更年期症状を自覚しており」、②「更年期症状の診断スコアが"受診推奨レベル"」で、かつ③「発症当時に有業である」という3条件を満たす40-59歳層のサンプルを抽出し、その雇用状況について詳しく調べた。

その結果、更年期症状が原因で、いずれかの雇用劣化(非正規化、降格・昇進辞退、労働時間・業務量減、仕事をやめた)が起きたと自ら認識した者の割合は、全体の15.3%を占めていることが分かった。種類別でみると、更年期症状が原因で離職(仕事をやめた)を余儀なくされた者がもっとも多い。更年期離職率は、40代が8.1%、50代が10.1%、45-54歳層が9.0%となっている。また、発症当時は正社員だった女性に比べて、非正社員だった女性は、更年期離職の割合が3.3ポイント高くなっている(図2)。

図2 更年期症状が原因で、雇用劣化が起きたと認めた者の割合(MA,%)

図2グラフ

出典:NHK「更年期と仕事に関する調査2021」(本調査)の女性標本(n=4,296)より集計。

注:a 人事評価が下がった・降格した・昇進を辞退 b 雇用形態が変わった(正社員から非正社員になった、契約社員からパートになったなど)

表1 更年期離職・更年期ロスの推計人数

女性就業者数(万人)※ 症状経験率(%) 本調査出現率(%) 更年期離職 更年期ロス(雇用劣化)
低位推計(万人) 高位推計(万人) 低位推計(万人) 高位推計(万人)
40-59歳 1,331 36.9 16.2 9.4 20.2 45.9 15.3 33.1 75.3
45-54歳 720 43.5 18.7 9.0 12.2 28.3 14.8 20.0 46.5

(参考:男性労働者の更年期ロス)

男性就業者数(万人)※ 症状経験率(%) 本調査出現率(%) 更年期離職 更年期ロス(雇用劣化)
低位推計(万人) 高位推計(万人) 低位推計(万人) 高位推計(万人)
40-59歳 1,628 8.8 5.5 7.4 6.7 10.6 20.5 18.4 29.2
45-54歳 869 8.8 5.6 8.5 4.1 6.5 21.0 10.2 16.0

※総務省統計局「労働力調査」2020年平均値

出典:NHK「更年期と仕事に関する調査2021」と労働力調査を元に集計。

注:低位推計は「女性就業者数×本調査出現率×更年期離職率(または雇用劣化率)」、高位推計は「女性就業者数×症状経験率×更年期離職率(または雇用劣化率)」に基づいて算出。

表1は、症状経験率(図1)と更年期離職率(図2)、ならびに労働力調査の女性就業者総数の情報を元に、更年期離職の推計人数を試算した結果である。更年期症状が原因で離職した40代、50代の女性は、高位推計で45.9万人(45-54歳層では28.3万人)に上るとみられる。より厳格化した更年期症状の基準(3条件)を満たす割合(本調査出現率)を用いると、40代、50代女性の更年期離職は少なく見積もっても20.2万人(低位推計)になるとみられる。こうした40代、50代女性の更年期離職による1年間の経済損失は1,848億円(低位推計)~4,196億円(高位推計)にも及んでいる(詳細は付表1参照)。

さらに、非正規化、降格・昇進辞退などを含む雇用劣化、いわゆる「更年期ロス」に遭う40代、50代女性はさらに多いとみられる。その推計人数は、33.1万人(低位推計)~75.3万人(高位推計)に達する。45-54歳層に限定してみても、「更年期ロス」に遭う人数は、20万人~47万人規模となっている。また、女性ほど多くないものの、「更年期ロス」に遭う45-54歳男性労働者数も16万人(高位推計)に上っている。

更年期離職が起きた理由

一方、更年期症状が原因で雇用劣化が起きた者に対して、その理由をたずねると、「仕事を続ける自信がなくなったから(49.6%)」「働ける体調ではなかったから(36.4%)」「職場に迷惑がかかると思ったから(34.4%)」「職場に居づらくなったから(18.8%)」を挙げる者が多い。

離職した者にその理由を尋ねても同じような傾向が見られる。「仕事を続ける自信がなくなったから」が6割でもっとも多く、「働ける体調ではなかったから」「職場や会社に迷惑をかかると思ったから」という理由も、それぞれ4割強、3割を占めている(図3)。

図3 雇用劣化が起きた理由(MA,%)

図3グラフ

出典:NHK「更年期と仕事に関する調査2021」(本調査)より集計

注:いずれかの雇用劣化(降格・昇進辞退、非正規化等雇用形態が変わった、仕事を辞めた、労働時間・業務量減)が起きたと認識した女性(n=659)が集計対象である。

一番求められているのは、休暇を取得しやすくする支援

職場や国の支援については、「有給休暇や生理休暇を使いやすい職場環境の整備」を望む者がもっとも多い(43.6%)。次いで多いのが、「更年期症状で休んだ時の収入保証」(41.6%)と「更年期症状で休んでも不利益な取扱いを受けない支援」(37.6%)である。休みやすくするための支援を求める人が多いことが分かる。

症状の深刻さ別にみると、症状が深刻な人ほど、あらゆる支援を希望する者の割合が高くなっている。とくに「治療に当たっての経済的支援」については、症状間のギャップが大きい。すなわち、「治療に当たっての経済的支援」を希望する割合は、症状の軽い者が28.9%であるのに対して、症状の重い者は43.0%に上っている(表2)。症状の重い者ほど、更年期症状の治療や症状緩和のためにかかった治療費用が高いことが[注5]、その背景にあると考えられる。

表2 症状の深刻さ別、職場や国の支援制度に関する希望(MA,%)

女性全体 1~2点(軽) 3点(普通) 4~5点(重)
有給休暇や生理休暇を使いやすい職場環境の整備 43.6 40.0 43.7 47.2
更年期症状で休んだ時の収入保証 41.6 37.3 40.7 47.7
更年期症状で休んでも不利益な取扱いを受けない支援 37.6 35.5 36.1 42.3
更年期症状の時に使える休暇制度の新設・拡充 37.3 32.0 37.2 42.8
治療にあたっての経済的支援 34.4 28.9 32.6 43.0
働く時間を柔軟に変更できる制度(短時間勤務も含む) 30.3 25.9 29.9 35.6
症状を緩和できる環境(職場の休憩所や職場環境の改善など) 23.4 20.5 21.7 29.2
負担の少ない業務に(一時的な)変更できる制度 22.5 18.1 21.5 28.5
更年期症状によって勤務時間や勤務形態を変えた時の収入補填 21.6 15.9 21.8 27.0
職場などで更年期症状について相談できる窓口の設置 19.9 17.3 18.6 24.7
働く場所を柔軟に変更できる制度 19.0 14.8 18.5 24.1
更年期症状を経験した先輩や専門家からの助言やサポート 14.3 12.3 13.7 17.2
負担の少ない役職に(一時的な)変更できる制度 9.8 7.3 9.8 12.5
国や職場からの支援・制度が必要だとは感じない 13.3 17.0 13.7 8.8
標本サイズ 4,296 1,154 1,995 1,147

出典:NHK「更年期と仕事に関する調査2021」(本調査)の女性標本より集計。

注:症状の深刻さは、更年期症状による辛さ、日常生活への影響を点数化して表したもので、1は「全く影響がない」、5は「日常生活が困難」として、点数が高いほど症状が深刻である。

(2022年4月13日(水曜)加筆)

付表1 更年期離職による経済損失

  更年期離職者数(万人) うち、発症時正社員 発症前の平均賃金(万円) 平均発症年数 年間所得損失(億円)
※(離職者数×平均賃金)/平均発症年数
年間経済損失(億円)
※年間所得損失×労働分配率の逆数
正社員 非正社員
低位推計              
女性 20.2 24.9% 303.5 146.0 3.54 1,057 1,848
男性 6.7 74.0% 423.7 244.4 3.28 767 1,341
男女計 26.9 1,825 3,190
高位推計              
女性 45.9 24.9% 303.5 146.0 3.54 2,400 4,196
男性 10.6 74.0% 423.7 244.4 3.28 1,216 2,126
男女計 56.5 3,616 6,322

(出典)NHK「更年期と仕事に関する調査2021」をもとに集計。

注1:40-59歳男女の更年期離職者が1年間無業と仮定。

注2:労働分配率は、「雇用者報酬/(GDP×雇用者数/就業者数)×100%」として、2019年の数値(57.2%)を使用(出所:JILPT『ユースフル労働統計 2021 労働統計加工指標集』27頁)。

注3:四捨五入の関係で、合計が一致しない場合がある。

脚注

注1 Avis NE et. al (2015) Duration of menopausal vasomotor symptoms over the menopause transition. JAMA Intern Med. 175(4):531–539.

注2 Jack G, Bariola E, Riach K, Schnapper J, Work PM.(2014) Women and the menopause: an Australian exploratory study. Climacteric.17(Suppl 2):34.

注3 Whiteley J, DiBonaventura MD, Wagner JS, Alvir J, Shah S.(2013)The impact of menopausal symptoms on quality of life, productivity, and economic outcomes. J Women's Health 22(11):983–990.

注4 調査の詳細は、「NHK実施「更年期と仕事に関する調査2021」結果概要―仕事、家計への影響と支援について―(PDF:877KB)」を参照されたい。

注5 詳細は、注4の資料13頁(図表2-1)を参照されたい。