JILPTリサーチアイ 第31回
OECDにおける「雇用の未来」の議論

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経済社会と労働部門 研究員 関家 ちさと

2019年3月13日(水曜)掲載

2019年2月11日(月曜)から12日(火曜)の2日間にわたり、フランスで開催されたOECD(経済協力開発機構)雇用作業部会に出席した。初めて出席した国際会議の概要と会場での主な議論について報告したい。

1. 会議の概要

開催場所はパリ16区にあるOECD本部である。会議の議題は、OECDが毎年発行する『OECD Employment Outlook 2019』(以下、Outlook2019)である。Outlook2019は、雇用に関するその年の重要課題について加盟国36カ国を比較することで国際的な雇用のトレンドを明らかにし、それに対する政策上の課題と対策をまとめている。会議の開催以前に約400ページに及ぶOutlook2019の素案が各国に配布され、それを受けて各国政府が疑問点や修正点、加筆して欲しい点などを整理し、会議当日に報告する。こうした議論を踏まえて最終的なOutlook2019が完成する。

出席者の構成はOutlook2019を企画・執筆したOECDの分析官や加盟国36カ国の行政官にくわえ、EUやILO(国際労働機関)、BIAC(経済産業諮問委員会)、TUAC(労働組合諮問委員会)などの国際機関の代表者からなり、110人ほどであった。席は円卓で、中心の円に1カ国あるいは1組織の代表者が1人~3人座り、外側の円に残りの出席者が座る。使用言語は英語とフランス語である。

1日目はBIACとTUACの代表者がOutlook2019全7章についてまとめて意見を述べたのちに、第2章から第6章の章ごとに時間を区切り、各章について各国代表者が意見を述べた。2日目は第7章と第1章、来年度と再来年度のOutlook2019で扱うテーマについて、各国代表者が議論した。さらに、今年のOutlook2019最大の関心事であった「成人学習」について、パネルディスカッションも行われた。

章ごとの議論はつぎのように行われた。1)特定の章についてBIACとTUACから出された意見を座長が簡単に紹介し、2)その章の執筆担当者が章の内容についてプレゼンした後、3)各国が意見を述べ、4)座長がそれらの意見をとりまとめ、5)執筆者が主要な意見に対して回答する。

2. 主な議論

会場での主な議論を整理したい。1日目~2日目の前半にかけては、Outlook2019について、つぎのような議論があった。Outlook2019では、「雇用の未来」と題して、仕事の自動化や高齢化によってa) 雇用の量とb) 質、c) 包括性がどう変化するかを予測し、変化に対する政策的課題をまとめている。仕事の量については、全体的な量は変わらないが、仕事の自動化によって機械が仕事を代替するため、いくつかの仕事はなくなる可能性が高いと予測している。政府としては、労働者が衰退リスクの高い仕事からすばやく他の仕事へ移行できるよう支援することが求められる。仕事の質については、これまでの雇用形態とは異なる雇用形態の出現によって、雇用の安定性(質)が低下すると予測される。そのため、新しいタイプの雇用の質の確保が重要課題となる。包括性については、女性や低学歴の若者にくわえ、実質的には雇用者に近い働き方をしているにもかかわらず、自営業者として扱われている労働者など、不完全雇用(Underemployment)の状態にある労働者の包括性の問題が強調された。政府には、これら弱い立場にある労働者の特定と保護、彼ら・彼女らの交渉力の強化と、継続的な職業訓練支援が求められる。

こうした指摘に対して、各国からはつぎのようなコメントがあった。仕事の量については、新しい仕事への移行を支援するための具体的な政策として、他国の好事例を紹介して欲しいとの要望が多く聞かれた。仕事の質については、仕事の安定性の低下には、労働者側の働き方の変化も影響していると考えられ、キャリア開発の面から見れば必ずしも悪い影響ばかりではないため、書き方をもう少し中立的にすべきとの意見があった。包括性については、不完全雇用の状態にある労働者の定義の明確化を求める意見や、そうした労働者の現状把握の難しさが指摘された。また移民労働者についての言及を求める声もあった。そのほか、国際比較で自国のデータが欠落していたり、他国と比べて低く評価されている理由を尋ねる国や、好事例としてOutlook2019に記載して欲しい政策を紹介する国もあった。

2日目の後半は、成人学習をテーマとして議論が行われた。上記Outlook2019に関連し、仕事の自動化が進むことで技能の陳腐化のスピードが速まっているうえ、高齢化に伴って個人の職業人生が長くなっていることから、個人の技能の維持・向上や再教育の重要性が増している。このことから、OECDでは成人学習の重要性を強調し、その現状を探るため、Outlook2019と別に『Getting Skills Right』というレポートを作成し、各加盟国がどの程度、成人学習に関する環境を整備できているかを評価している。2日目の後半では、同レポートに関する報告と、パネルディスカッションが行われた。

具体的な提言としては、成人学習の受講率はとくに低技能者や失業者、高齢者の間で低いため、こうした労働者には集中的な情報提供と、個別の支援が必要であること。市場の求める技能ニーズに合わせて成人学習のプログラムや政策を整備することなどが示された。これに対して各国からは、主に成人学習が生産性へ与える影響と、訓練意思の低い労働者に積極的に訓練を受けさせるための具体的な対策や好事例を示して欲しいとの意見があった。パネルディスカッションでは、参加国や企業を中心に、成人学習を促進する政策や制度の紹介があった。

以上、会議の概要と主な議論について報告した。上記のような雇用環境の将来予測や、それに対する対抗策については、既に日本でも研究や議論が進んでいる。経済的にも、政治的にも異なる背景をもつ国々が、程度の違いはあるが同様の課題に直面していることは興味深い。日本としても、今後一層、国際的な動向を注視していく必要がある。

36カ国という国々の代表が一堂に会し、2日間にわたり真剣に議論する様子には圧倒された。今後、日本の研究者として、こうした国際会議の場でどのように貢献していくことが出来るか、わたし自身考えていきたい。