資料シリーズNo.286
「job tag」(職業情報提供サイト(日本版O-NET))の
インプットデータ開発に関する研究(2023年度)

2024年11月13日

概要

研究の目的

2018年度と2019年度に当機構が初期開発し、その後毎年度情報の拡充・更新を行っている職業情報のデータセットについて、2023年度は既存7領域のうち「知識」と「仕事の性質」領域の情報更新を主たる目的とした。また、就業者のメンタルヘルスに関する調査も併せて実施した。

研究の方法

企業・団体等へのヒアリング調査、およびWebモニターを用いた就業者調査
(Web調査の実査期間:2023年11月~12月、スクリーニング後の有効回答数:21,599件)

主な事実発見

本研究の主たる目的である公共の職業情報インフラの作成については事実発見という考え方は馴染まないが、職業大分類ごとに集約してデータを整理したところ、図表1、2に示す通り概ね各大分類の特徴と合致する結果が得られた。たとえば知識に関しては第4群の医療・看護等の職業ではKN22「医学・歯学」(3.95)が、第5群の保育・教育の職業ではKN24「教育訓練」(2.69)が、第10群の警備・保安の職業ではKN30「公衆安全・危機管理」(2.21)が、第11群の農林漁業の職業ではKN9「農業・畜産業」(2.59)が、第12群の製造等の職業ではKN8「生産・加工」(2.39)が、第13群の配送・輸送等の職業ではKN7「輸送」(2.07)がそれぞれ平均値1位となっている。

また仕事の性質に関しては項目ごとに指標が異なるため項目間で平均値を直接比較することはできないが、全体で最も平均値が高かったのはWC1「他者との関わり」の4.27で、WC14「空調のきいた屋内作業」の4.10が続いた。職業大分類別で見ても1位と2位が入れ替わりつつも、9の職業群でこの2項目が上位2項目となっている。

その他の6つの職業群についてはそれぞれ以下の特徴が見られた。第3群の法務・経営等の専門的職業は1位がWC14「空調のきいた屋内作業」(4.53)であるが2位はWC24「電子メール」(4.30)であった。第10群の警備・保安の職業は1位がWC1「他者とのかかわり」(4.38)であるが2位はWC10「厳密さ、正確さ」(3.95)であった。第11群の農林漁業の職業は1位がWC18「立ち作業」(4.20)、2位がWC16「屋外作業」(4.17)であった。第13群の配送・輸送等の職業は1位がWC1「他者との関わり」(4.13)であるが2位はWC16「屋外作業」(3.93)であった。第14群の建設・土木等の職業は1位がWC1「他者とのかかわり」(4.16)であるが2位はWC18「立ち作業」(3.97)であった。第15群の運搬・清掃等の職業は1位がWC18「立ち作業」(4.22)、2位がWC31「歩行、走行」(3.67)であった。

以上の結果はいずれも各大分類の仕事内容と整合性のある結果であり、妥当なデータが得られていたことが示唆される。

図表1 知識の取得データ:職業大分類別の平均値と標準偏差
(いずれかの職業群で平均値最大であった11項目を抜粋)

440の職業を15種の職業大分類別にグループ分けして、知識領域の各項目の平均値と標準偏差を記載している。また職業群ごとに最も平均値が高かったセルを色付けして強調しており、上述の本文ではこれらの強調セルについて言及している。
KN1 KN2 KN5 KN7 KN8 KN9 KN12 KN13 KN22 KN24 KN30
職業大分類 該当職業数 ビジネスと経営 事務処理 顧客サービス・対人サービス 輸送 生産・加工 農業・畜産業 設計 建築・建設 医学・歯学 教育訓練 公衆安全・危機管理
1 管理的職業 7 M 2.71 2.69 2.55 1.04 1.04 0.60 0.83 0.72 0.70 1.55 1.60
SD (0.51) (0.36) (0.53) (0.15) (0.23) (0.15) (0.12) (0.13) (0.21) (0.51) (0.41)
2 研究・技術の職業 51 M 1.54 2.08 1.68 0.82 1.51 0.59 2.19 0.95 0.76 1.29 1.37
SD (0.48) (0.35) (0.44) (0.42) (0.82) (0.69) (1.05) (1.05) (0.82) (0.37) (0.39)
3 法務・経営・文化
芸術等の 専門的職業
54 M 1.84 2.50 2.40 0.76 0.98 0.49 1.08 0.76 0.74 1.20 1.28
SD (0.68) (0.60) (0.58) (0.51) (0.56) (0.32) (0.78) (0.67) (0.44) (0.63) (0.46)
4 医療・看護・保健の職業 27 M 1.11 1.76 2.35 0.36 0.48 0.29 0.38 0.22 3.95 1.93 1.58
SD (0.53) (0.57) (0.53) (0.23) (0.55) (0.33) (0.34) (0.15) (0.71) (0.67) (0.67)
5 保育・教育の職業 16 M 0.99 1.95 2.06 0.32 0.32 0.32 0.32 0.27 1.08 2.69 1.36
SD (0.37) (0.50) (0.67) (0.16) (0.22) (0.19) (0.25) (0.17) (0.56) (0.54) (0.53)
6 事務的職業 49 M 1.37 2.59 2.13 0.97 0.75 0.38 0.53 0.46 0.69 1.02 1.17
SD (0.66) (0.66) (0.70) (0.74) (0.53) (0.21) (0.33) (0.32) (0.81) (0.40) (0.43)
7 販売・営業の職業 40 M 1.48 1.73 3.01 0.91 0.93 0.50 0.46 0.42 0.63 0.96 0.86
SD (0.47) (0.60) (0.51) (0.45) (0.48) (0.32) (0.27) (0.39) (0.66) (0.31) (0.30)
8 福祉・介護の職業 12 M 1.32 2.32 2.71 0.58 0.43 0.30 0.26 0.38 2.45 2.00 1.34
SD (0.57) (0.65) (0.38) (0.31) (0.30) (0.15) (0.15) (0.31) (0.63) (0.36) (0.33)
9 サービスの職業 38 M 1.18 1.28 2.82 0.57 0.80 0.47 0.30 0.29 0.67 0.97 0.90
SD (0.55) (0.52) (0.76) (0.40) (0.66) (0.42) (0.16) (0.18) (0.55) (0.43) (0.39)
10 警備・保安の職業 11 M 0.72 2.07 1.05 1.01 0.34 0.23 0.52 0.63 1.40 2.14 2.21
SD (0.20) (0.86) (0.46) (0.54) (0.23) (0.16) (0.31) (0.30) (1.00) (0.77) (0.54)
11 農林漁業の職業 11 M 1.05 1.07 1.23 0.99 1.69 2.59 0.47 0.59 0.55 0.64 0.64
SD (0.31) (0.29) (0.51) (0.20) (0.65) (1.29) (0.25) (0.27) (0.46) (0.37) (0.36)
12 製造・修理・塗装・製図等の職業 71 M 1.10 1.36 1.23 1.00 2.39 0.48 1.20 0.71 0.42 1.07 0.90
SD (0.33) (0.44) (0.47) (0.32) (0.54) (0.31) (0.63) (0.72) (0.35) (0.42) (0.33)
13 配送・輸送・機械運転の職業 23 M 0.62 0.82 1.31 2.07 0.61 0.28 0.44 0.54 0.40 0.85 0.87
SD (0.32) (0.48) (0.54) (0.92) (0.38) (0.16) (0.45) (0.56) (0.27) (0.46) (0.45)
14 建設・土木・電気工事の職業 14 M 1.12 1.53 1.26 0.91 1.19 0.36 1.53 2.89 0.40 0.99 1.03
SD (0.28) (0.35) (0.34) (0.25) (0.32) (0.14) (0.45) (0.38) (0.15) (0.21) (0.25)
15 運搬・清掃・包装・選別等の職業 16 M 0.57 0.70 1.04 0.91 0.79 0.31 0.33 0.36 0.26 0.59 0.62
SD (0.29) (0.42) (0.64) (0.63) (0.59) (0.22) (0.24) (0.31) (0.18) (0.28) (0.30)
  全体 440 M 1.29 1.80 1.98 0.88 1.14 0.49 0.87 0.64 0.89 1.22 1.13
SD (0.62) (0.77) (0.85) (0.59) (0.84) (0.53) (0.82) (0.73) (1.04) (0.64) (0.51)

※Mは群内平均値を、SDはその標準偏差を、網掛けは各職業群において平均値が最大であったセルを表す。

図表2 仕事の性質の取得データ:職業大分類別の平均値と標準偏差
(いずれかの職業群で平均値最大、または2番目に大きかった7項目を抜粋)

440の職業を15種の職業大分類別にグループ分けして、仕事の性質領域の各項目の平均値と標準偏差を記載している。また職業群ごとに最も平均値が高かったセルと、2番目に平均値が高かったセルを色付けして強調しており、上述の本文ではこれらの強調セルについて言及している。
WC1 WC10 WC14 WC16 WC18 WC24 WC31
職業大分類 該当職業数 他者とのかかわり 厳密さ、正確さ 空調のきいた屋内作業 屋外作業 立ち作業 電子メール 歩行、走行
1 管理的職業 7 M 4.55 3.85 4.53 2.15 1.99 4.37 2.01
SD (0.42) (0.35) (0.30) (0.56) (0.23) (0.32) (0.28)
2 研究・技術の職業 51 M 4.38 3.86 4.43 1.98 2.15 4.32 1.99
SD (0.29) (0.30) (0.62) (0.88) (0.76) (0.65) (0.55)
3 法務・経営・文化芸術等の専門的職業 54 M 4.25 3.95 4.53 1.92 1.96 4.30 1.90
SD (0.39) (0.30) (0.23) (0.57) (0.70) (0.48) (0.46)
4 医療・看護・保健の職業 27 M 4.71 4.17 4.80 1.53 3.40 3.13 2.84
SD (0.19) (0.35) (0.14) (0.46) (0.75) (0.73) (0.63)
5 保育・教育の職業 16 M 4.56 3.60 4.44 2.66 3.34 3.24 2.68
SD (0.26) (0.39) (0.26) (1.15) (0.64) (0.73) (0.76)
6 事務的職業 49 M 4.48 3.94 4.56 1.86 2.11 4.03 2.13
SD (0.31) (0.33) (0.41) (0.60) (0.69) (0.75) (0.50)
7 販売・営業の職業 40 M 4.50 3.62 4.42 2.28 3.55 3.53 2.94
SD (0.41) (0.32) (0.35) (0.80) (1.08) (0.85) (0.61)
8 福祉・介護の職業 12 M 4.74 3.78 4.54 2.75 3.24 3.34 3.05
SD (0.12) (0.26) (0.28) (0.52) (0.62) (0.66) (0.53)
9 サービスの職業 38 M 4.35 3.48 4.26 2.00 4.12 2.67 3.18
SD (0.29) (0.36) (0.61) (1.02) (0.74) (0.77) (0.68)
10 警備・保安の職業 11 M 4.38 3.95 3.88 3.79 3.08 3.56 2.78
SD (0.18) (0.49) (0.93) (0.53) (0.67) (0.78) (0.40)
11 農林漁業の職業 11 M 3.48 2.78 2.20 4.17 4.20 2.06 3.41
SD (0.30) (0.40) (0.84) (0.60) (0.32) (0.31) (0.55)
12 製造・修理・塗装・製図等の職業 71 M 3.87 3.65 3.75 2.09 3.51 2.98 2.75
SD (0.39) (0.30) (0.78) (0.80) (0.70) (0.74) (0.46)
13 配送・輸送・機械運転の職業 23 M 4.13 3.44 2.87 3.93 2.82 2.34 2.83
SD (0.33) (0.41) (0.83) (0.51) (0.77) (0.70) (0.70)
14 建設・土木・電気工事の職業 14 M 4.16 3.64 2.29 3.93 3.97 2.98 3.22
SD (0.23) (0.16) (0.40) (0.60) (0.30) (0.43) (0.27)
15 運搬・清掃・包装・選別等の職業 16 M 3.48 3.08 3.23 2.79 4.22 1.94 3.67
SD (0.42) (0.42) (0.69) (1.04) (0.40) (0.51) (0.43)
  全体 440 M 4.27 3.72 4.10 2.32 3.03 3.41 2.61
SD (0.46) (0.43) (0.86) (1.02) (1.07) (0.99) (0.74)

※Mは群内平均値を、SDはその標準偏差を、網掛けは各職業群において平均値が最大であったセルを表す。

一方、併せて調査した就業者のメンタルヘルス不調に関する調査については、職業大分類ごと、個別職業ごとに検討された。メンタルヘルスの不調の度合いを示す心理的苦痛の計測には、日本語版K6尺度(0~24点)が用いられた。また、身近な他者やメンタルヘルスの専門家へ、メンタルヘルスの問題について助けを求める(援助要請する)意図(各援助要請先について1~7点)も計測された。

心理的苦痛における15種の職業大分類ごとの検討では、図表3に示したように、心理的苦痛の値が高い職業として、「福祉・介護の職業」(6.48点)、「販売・営業の職業」(6.09点)、「製造・修理・塗装・製図等の職業」(6.19点)が挙げられた。反対にK6の値が低い職業としては、「農林漁業の職業」(4.07点)「警備・保安の職業」(4.84点)「管理的職業」(4.87点)が挙げられた。援助要請意図については、すべての大分類において、援助要請意図が最も高かった援助資源は「配偶者・パートナー」であり、唯一すべての大分類において平均値が4点(「どちらとも言えない」相当)を超えていた。その他の援助資源は、「職場の上司」「職場の同僚」「職場以外の友人・知人」を除いて、どの職業大分類においても平均点が4点を超えることはなかった。ビデオ通話やテキストチャット、またAIチャットカウンセリングいったテクノロジーを用いた援助要請先への援助要請意図は、特に低い傾向にあった。

個別職業ごとの検討では、カウンセラー関連の3職業「キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント」「カウンセラー(医療福祉分野)」「スクールカウンセラー」に着目して分析がなされた。個別の値を見ると、「スクールカウンセラー」のK6得点が低い傾向が見られたものの、職業を独立変数とする一要因分散分析を行ったところ、3職業の間に5%水準での有意差は見られなかった。援助要請意図については、「カウンセラー(医療福祉分野)」「スクールカウンセラー」は、「キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント」に比較して、全ての援助資源において援助要請意図が高かった。「カウンセラー(医療福祉分野)」と「スクールカウンセラー」を比較すると、おおむね似通った傾向を示していたが、「配偶者・パートナー」「職場以外の友人・知人」「職場のカウンセラー」「職場以外のカウンセラー」への援助要請意図は、とくに「スクールカウンセラー」において高かった。

こうした結果を基に、就業者のメンタルヘルスや対処方法としての援助要請について議論がなされた。

図表3 職業大分類ごとのK6得点の平均値(棒グラフ)

図表3画像:K6得点について15種の職業大分類別、および全職業の平均値を棒グラフで表している。棒グラフにはヒゲがつけられており、標準偏差を表している。上述の本文でも言及の通り、最も平均値が高かったのは福祉・介護の職業の6.48点であり、最も低かったのは農林漁業の職業の4.07点であった。

政策への貢献

作成したデータの一部は厚生労働省が開発・運営する「job tag」(職業情報提供サイト(日本版O-NET))に収録され、全国のキャリア教育、キャリア支援の現場で活用されることが期待される。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「職業構造・キャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「職業構造・職務分析(日本版O-NET含む)に関する研究」

研究期間

令和5年度

執筆担当者

田中 歩
労働政策研究・研修機構 統括研究員
鎌倉 哲史
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
大橋 英永
労働政策研究・研修機構 研究助手

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