資料シリーズNo.250
先進各国のキャリア関連資格及び
キャリア支援のオンライン化に関する研究

2022年3月25日

概要

研究の目的

2001年「キャリア・コンサルティング研究会」の設置から20年、2016年のキャリアコンサルタント登録制度の創設・施行(キャリアコンサルタントの国家資格化)から5年が経過し、キャリアコンサルティングを中心としたキャリア形成支援施策は、振り返りの必要性に迫られている。特に、制度当初から指摘されていた問題、当初、想定されなかったがその後の社会経済の動向の中で浮かび上がってきた問題、個人のキャリア形成をめぐる直近の環境変化の中で急ぎ対応が求められる問題など、検討すべき事項が多々残されている。

こうした中、更なるキャリアコンサルティングの推進を図るため、改めて、海外の関連制度の最新情報を収集し、それに照らして日本の関連施策のあり方を検討する必要が生じている。そこで、本資料シリーズでは、① キャリア支援者養成に係る海外の研究動向、② キャリア支援関連資格の先進各国との比較、③ オンライン相談に象徴されるキャリア支援施策のオンライン化の3点について検討を行うことを目的とした。

具体的には、欧州キャリア支援論におけるキャリア支援者養成の議論をレビューし、日本に対する示唆を得る。また、アメリカ、イギリス、カナダ、シンガポール等の先進国におけるキャリアコンサルティング関連資格について、その種類、資格取得・保持の要件等を明らかにする。最後に、これらキャリア支援者養成の直近の課題としてキャリア支援全般のオンライン化に資する結果を得るべく、オンライン相談に関する調査結果を分析し、今後のキャリアコンサルティングに有益な知見を見出すこととする。

研究の方法

  • キャリア支援に関する国際機関(OECD、CEDEFOP、ETF等)で公刊されている報告書等を中心とした文献サーベイ
  • インターネット上に公開されている先進各国のキャリア支援関連資格に関する情報収集
  • 既に実施した直近のキャリア支援施策に関する調査からオンライン相談等に関する設問の再分析。なお、再分析に用いた調査の概要は次のとおり。
① 調査方法:
Webモニター調査。
② 調査対象:
20~50代の就業者6,000名。性別×年代(20代、30代、40代、50代)×雇用形態(正社員、正社員以外)を総務省統計局「2018年度労働力調査」(基本集計)の比率に応じて割り当てた6,000人。
③ 実施時期:
2020年11月。
④ 調査項目:
基本属性、勤務先規模、職業、収入他。キャリア相談経験(オンライン経験含む)、オンライン相談に対する認識等。詳しくは、労働政策研究・研修機構(2021)『就業者のライフキャリア意識調査―仕事、学習、生活に対する意識』調査シリーズNo.208も参照のこと。

主な事実発見

  • キャリア支援者養成に係る海外の研究動向:従来からキャリア支援の質向上を重視し、特に、キャリア支援者の専門化(professionalisation)に関する議論を継続的に行ってきた欧州キャリア支援論を検討した。キャリア支援者養成に関する代表的な文献のサーベイを行った結果、欧州キャリア支援論では、キャリア支援者の養成を主に大学院教育と統合する議論が優勢であることが示された。ドイツのキャリア支援者養成の事例がよく紹介されるが、キャリアカウンセリング、キャリア心理学のみならず、教育学、経済学、経営学、法学など幅広く学術的な内容を学習するのが特徴であった。日本においても、従来以上により幅広に各学問領域の基礎的な内容を学ぶべきことが示唆される。その他、① 他国の同水準の資格と比べて概して専門性が十分でなく、かつ高度な専門性を有する資格の整備が現状でも未だ不十分である点、② キャリア支援者の専門家としてのアイデンティティを形成することが極めて重要であり、そのために初期訓練においていっそう高度な訓練が検討されるべきである点、③ 国による企業内キャリア支援に対する問題関心はある程度まで日本固有でかつ世界的にも先進的な施策展開であり、そのため日本独自に検討する必要がある点などが示された。また、キャリア支援者の養成に係る直近の課題として、ICTを活用したキャリア支援、及びその際に求められる人材要件と専門性に関する議論も盛んであり、情報機器及びオンラインを活用したキャリア支援が相当に検討されていることを指摘した。
  • キャリア支援関連資格の先進各国との比較:アメリカ、イギリス、カナダ、シンガポール等の先進各国のキャリア支援関連資格について、各国のキャリア関連資格を付与する団体のホームページなどの公開情報に基づいて検討した。その結果、各国ともに、様々なタイプの民間のキャリア関連資格が存在することが改めて示された。そうした中、大きな民間資格に統合されるか(アメリカ、シンガポール)、国である程度、統一(イギリス、シンガポール)するといった動向がみられた。この点、日本のキャリアコンサルティング制度も広く見れば、同じような政策的な推移をたどったと言える。その他、先進各国との比較の結果、以下の諸点が知見として示された。① 大学や大学院などが主体となって実施されている資格取得プログラムがある。② 対面の講習だけでなく、オンラインコースや自己学習がトレーニングとして認められる。③ 指導者資格の取得においては、実務経験や学歴だけでなく、研究歴や教育歴が要件となる場合がある。④ 諸外国においても資格は能力証明的な意味合いが強く、業務独占的な位置付けとしてカウンセリングの免許や許可証のような扱いとなっているのは一部の地域に限られている。⑤ 資格間の互換性があり、要件の一部を異なる資格で満たせる場合がある。
  • オンライン相談に象徴されるキャリア支援施策のオンライン化:2020年に収集したオンラインによるキャリアコンサルティングに関連するデータの再分析を行うことで、日本のオンライン相談を考える上での有益な知見を得た。具体的には、① 日本でも2020年秋時点でオンライン相談の経験者が1/3に達するなど、一定の広がりを見せていた。その際、時間や場所を選ばず、対面せずに話せる点が評価されていた(図表1)。② また、キャリアコンサルティング未経験者の4割が「対面」での相談を希望し、以下、「電話やメール」が3割、「オンライン相談」は2割と続いていた。③ 概して「オンライン相談」は、個室があり、情報機器が整っており、仕事に使える部屋がある場合に選好されており、自宅設備の状況に左右されることが示された(図表2)。④個人属性とも関連がみられており、大卒・デスクワーク・勤務先規模300人以上では「自宅でオンライン」、男性・年収400万円以上では「対面」、女性・非大卒・年収400万円未満、非デスクワーク、勤務先規模30人未満では「電話やメール」を希望していた(図表3)。日本でも、過去に電話やメール、SNSによる相談が断続的に検討されてきたが、今後も引き続き多チャンネル多媒体によるキャリア支援の提供を模索する必要がある。なお、セルフ・キャリアドックは、企業以外でキャリア支援を受けられない層へのキャリア支援の媒体(cf. 人間ドック)と位置づけることができ、改めてその機能を整理すべきことが示唆された。

図表1 オンライン相談の評価(複数回答)

図表1画像

図表2 オンライン相談の選好における自宅環境による違い

図表2画像

図表3 オンライン相談の選好における属性による違い

図表3画像

政策的インプリケーション

上記「主な事実発見」参照のこと。

政策への貢献

「キャリアコンサルティング登録制度等に関する検討会」等の各種キャリア形成支援に係る会議・研究会等で資料として活用予定。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「全員参加型の社会実現に向けたキャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「労働者の主体的なキャリア形成とその支援のあり方に関する研究」

研究期間

令和2~3年度

担当者

下村 英雄
労働政策研究・研修機構 キャリア支援部門 副統括研究員
黒沢 拓夢
労働政策研究・研修機構 キャリア支援部門 アシスタント・フェロー

関連の研究成果

入手方法等

入手方法

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