調査シリーズNo.208
就業者のライフキャリア意識調査
―仕事、学習、生活に対する意識

2021年3月31日

概要

研究の目的

近年、我が国の就業者のキャリアをめぐる環境は大きく変化しつつあり、人生100年時代を見据えた社会経済システム全般に関わる政策的なグランドデザインが幅広く議論されている。そうしたなか、働く人々のキャリア及びその支援についても、各人のワークキャリアのみならず、ライフキャリアも含めた人生全体との関わりの中で検討する必要がある。

特に、本人のキャリア及びキャリア支援ニーズを、家族構成、年収、就労形態、勤務先規模等の従来から検討されてきた要因の他に、学校時代の学習、生涯学習、人間関係、性格特性、社会観、結婚観・家族観、幸福感、老後観・健康観等の様々な要因との関連で検討することにより、就業者のライフキャリア全般に関する視点から把握することができる。このことによって、従来の検討では明らかにされなかった新たなキャリア支援ニーズ、及びキャリア形成支援施策につながるシーズを掘り下げて示唆することが可能となる。

以上の問題意識から、本研究では、改めて就業者のライフキャリアについて調査研究を行い、①就業者のライフキャリアに関する意識の実情を詳細に明らかにすること、②就業者のライフキャリア意識と人生・生活全般における広汎な意識との関連を検討すること、③就業者のライフキャリア意識の検討結果からキャリア形成支援施策全般に関する有意義な示唆を得ることを目的とした。

研究の方法

アンケート調査。調査対象は、性別×年代(20代、30代、40代、50代)×雇用形態等(正規就労、正規就労以外(自営等含む))を総務省統計局「2018年度労働力調査」(基本集計)の比率に応じて割り当てた6,000人。調査方法はWebモニター調査。実施時期は2019年11月。あわせて1年後の2020年11月に同一対象者に対して部分的に質問項目を一致させた調査を実施した。2019年調査に回答した6,000名のうち、1年後の2020年調査にも回答した人数は4,670名であった。

主な事実発見

  1. 職業・キャリアも含めたライフキャリア全般についての問題点の平均得点を年代別にまとめた結果、20~30代は「職場の人間関係」と「仕事内容」の平均得点が高い(=問題を抱えている)が、年代が上がるにつれて「自分や家族の健康」と「親族と地域」の平均得点が高くなった(=問題を抱えていた)。

    図表1 年代別のライフキャリア全般についての問題点

    図表1

  2. 自律的なキャリア意識を持っている場合、職業やキャリアについて問題を感じる程度が低く、自らのスキルに自信を持ち、キャリア支援・キャリアサービスを積極的に利用する傾向がみられた(ただし、専門のカウンセラーに相談したいという傾向は低かった)。

    図表2 自律的なキャリア意識別の職業・キャリアに問題を感じる程度

    図表2

  3. 自分が働く職場に対する評価(職場観)について、「非常によくあてはまる+非常によくあてはまる」の回答が最も多かったのは「家に仕事を持ち帰ったことはめったにない」であり、以下「上司や同僚と気軽に話ができる」「自分のやり方と責任で仕事ができる」「仕事の計画、決定、進め方で決めることができる」と続いていた。主に(労働負荷)(人間関係)(裁量性)のサブグループについては肯定的に回答されていた。一方、最も少なかったのは「若いうちから将来の進路を考えて人事管理が行われている」であり、以下、「意欲を引き出したり、キャリア形成に役立つ教育が行われている」「この職場では、誰でも必要なときに必要な教育・訓練がうけられる」「グループや個人ごとに、教育・訓練の目標が明確にされている」と続いていた。(キャリア)(休暇)のサブグループについては、否定的に回答されていた。

    図表3 職場観の回答

    図表3

  4. ライフキャリアを考えるにあたって学習は重要な意味を持つが、成人期の学習の重要性を高く認識していたのは、高学歴の者、中学卒業時の学業成績の良かった者、正規雇用者、管理的職業・専門的技術的職業に従事する者、大企業で働く者、高収入の者などであった。それに対して、特に学習・研修の参加経験は無いと回答した者は、非正規雇用者あるいは中高年で多かった。非正規雇用者の中では男性の方が学習・研修参加経験の無い者が多かった。なお、非正規雇用者では学習のための障壁として「学習に費やすお金がない」と回答する者も多く、こちらは女性の非正規雇用者に多くみられた。

    図表4 雇用形態・性別・年代別の「学習・研修参加経験なし」の割合

    図表4

  5. 性別に、年収と幸福度の関連について検討した結果、男性は年収増加に伴い幸福度が上昇し、600~700万円未満以降は横ばいとなった。女性は、100~200万未満から500~600万円未満まで年収増加に伴い幸福度が緩やかに上昇し、それ以降は大きな上下動が示された。女性は低収入であっても幸福度が比較的高く、幸福度と年収の関連は比較的弱かった。男性は先行研究と同様、年収による幸福度の上昇は一定水準で頭打ちになることが示された。

    図表5 性別・個人年収別の幸福度

    図表5

  6. コロナ禍での職業観・キャリア観の変化及び職業生活の変化と職業やキャリアに問題を感じる程度は密接に関連していた。コロナ禍によって職業観・キャリア観や自らの職業生活が大きく変化したと回答した者ほど、コロナ禍前後における職業やキャリアに問題を感じる程度が大きくなった。

    図表6 コロナ禍での職業観・キャリア観の変化別(左)及びコロナ禍での職業生活の変化別(右)にみた職業やキャリアに問題を感じる程度の変化

    図表6

政策的インプリケーション

  1. 従来からの「日本型雇用慣行」が、漸次、崩れ行くという認識が広く共有されながらも、現状では、学卒時の就職活動の成否がその後のキャリアに大きく影響を与えるなど、日本は「やり直し」が難しい社会であることが本調査結果の各所で示された。成人の生涯学習、リカレント学習、職業訓練を含めたリスキル施策を含めて、キャリアのやり直しが可能な社会へのより一層の展開が求められる。あわせて、こうした時代背景にあって自律的なキャリアへの意識の高まりも広く示された。自らのキャリア形成に主体的に取り組みたいというニーズは根強く、このニーズに応えるべく充実したキャリア形成支援施策が求められていた。
  2. 成人期の学習の重要性を高く認識していたのは、高学歴の者、中学卒業時の学業成績の良かった者、正規雇用者、管理的職業・専門的技術的職業に従事する者、大企業で働く者、高収入の者などであった。それ以外の者では、成人後の学習に十分な意欲が示されず、また実際に学んでいない者も多かった。諸外国で指摘される成人期の学習格差は、日本でも同様に示されたと言え、この格差を是正すべく何らかの政策的な対応が求められる。学習に対する動機づけや教育訓練機会の情報を提供する専門家としての役割をキャリアコンサルタント等にも求め得ることが示唆される。
  3. 幸福感には、「経済的豊かさ」「雇用状況」「人と社会のつながり」「将来展望」「性格特性(不安傾向が低いこと)」などが影響を与えていた。先行研究と同様、概して経済的豊かさは幸福感に対して影響を与えていたが、一方で、経済的豊かさが一定の水準に近づくと幸福度は徐々に頭打ちとなることが示された。ライフキャリアを支援の対象として考えた場合、その究極の目標は人の幸福感を高めるところに求められるが、収入の他、適切な労働負荷、組織との適合性、心理面の支援、他者との交流に向けた支援などが、ライフキャリアの支援を考える際に重要な要因となることが示された。
  4. ライフキャリアを考える背景には将来に対する漠然とした不安が伏在していることが示されたが、現在、コロナ禍の渦中にあって、よりそうした不安が高まっている。コロナ禍を挟んだ変化は、一般に思われている以上に意識面での変化である可能性が高く、具体的・現実的に生じた職場の変化以上に、コロナ禍による職業観・キャリア観の変化、コロナ禍による不安が人々の意識に影響を与えていた。多くの場合、心理面でのケアも含むことが多いキャリアコンサルティングをはじめとする各種のキャリア形成支援施策においても一定の対応が求められる。

政策への貢献

キャリアコンサルティング施策を中心に幅広くキャリア形成支援政策(キャリアコンサルティング施策の他、セルフ・キャリアドック施策、ジョブ・カード施策等含む)および職業能力開発政策に資する。

本文

全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「全員参加型の社会実現に向けたキャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「労働者の主体的なキャリア形成とその支援のあり方に関する研究」

研究期間

令和元年度~令和2年度

執筆担当者

下村 英雄
労働政策研究・研修機構 副統括研究員
松原 亜矢子
労働政策研究・研修機構 統括研究員
岩崎 久美子
放送大学教養学部教授
新目 真紀
職業能力開発総合大学校能力開発院准教授
高橋 浩
ユースキャリア研究所代表
黒沢 拓夢
労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー
東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース

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