労働政策レポート No.12
職業訓練及びキャリアコンサルティングの統計的手法による効果検証

2019年3月29日

概要

研究の目的

職業訓練及びキャリアコンサルティングについては、これまで継続的にその効果の検討・検証が求められてきた。現在、先進各国において、職業訓練及びキャリアコンサルティングを含むキャリアガイダンス施策を一定のエビデンスに基づいて議論しようとする動向がみられるが、それらの動向をふまえて、本研究では、既存データの再分析による職業訓練及びキャリアコンサルティングの効果を検討することを目的とした。

特に、本研究では、職業訓練及びキャリアコンサルティングの効果を検証するにあたって、おもに行動計量学(心理学)における傾向スコア・マッチングの手法を用いた先行研究を参照した。傾向スコア・マッチングによって職業訓練の受講者・非受講者、キャリアコンサルティングの経験者・非経験者の属性や特徴を均質化することができ、職業訓練及びキャリアコンサルティングが就職・満足感・収入などに与える影響を、相当程度まで、職業訓練及びキャリアコンサルティングそのものに一意に求めることが可能となる。

なお、本研究は、厚生労働省より要請のあった「職業訓練・キャリアコンサルティングの統計的手法による効果検証」に応えたものであり、データの提供その他の協力を受け、今後の職業訓練施策及びキャリアコンサルティング施策に資するべく行われたものである。

研究の方法

本研究のうち、職業訓練の効果に関する検証は、訓練受講者と訓練を受講していない者を含む求職者のそれぞれについて、ハローワークの業務システムである「ハローワークシステム」において作成・保有されている(1)求職台帳、(2)適用事業所台帳等の雇用保険業務に関する台帳から、部分的に情報を抽出し、これらを雇用保険の被保険者番号により接続させたデータを用いた。

キャリアコンサルティングの効果に関する検証は、労働政策研究・研修機構(2017)のデータを用いた。このデータは、約1万人の大規模調査を実施し、キャリアコンサルティングを経験したことがある者とない者を分けるスクリーニング項目を用意して、「キャリアコンサルティング経験者」と「キャリアコンサルティング未経験者」に群分けを行った点に特徴がある。

どちらのデータについても傾向スコア・マッチングの手法を用いて、職業訓練の受講群・非受講群およびキャリアコンサルティングの経験群・非経験群の属性を一定程度均質にして比較を行った。

主な事実発見

  1. 本研究の検討の結果、職業訓練の受講者は非受講者に比べて、(1)就職率が高い(図表1)、(2)前職の賃金が低かった場合、就職先の賃金が高い、(3)「社会保険・社会福祉・介護事業」「その他の事業サービス業」等の産業に就職する割合が高かった。また、④職業訓練の受講の有無によって就職後の定着状況は変わらないが、受講者の方がやや離職が多かった。

    図表1 訓練受講者・非受講者別の雇用保険被保険者資格取得日の有無(就職の有無)

    図表1画像

  2. キャリアコンサルティングの経験者は非経験者に比べて、(1)総じて満足感が高い(図表2)、(2)職業能力に自信がある、(3)転職経験を一定にした場合には収入が高かった。

    図表2 キャリアの専門家への相談経験の有無別の各側面に対する満足感

    図表2画像

  3. 「企業内のキャリアに関する専門家に相談経験あり」と「企業外のキャリアに関する専門家に相談経験あり」の比較を傾向スコア・マッチングの手法を用いた同様の手続きによって行った結果、企業外のキャリアコンサルティングでは転職が多かったが、企業内のキャリアコンサルティングでは転職が少なかった(図表3)。

    図表3 企業内-企業外のキャリアの専門家への相談経験の有無別の転職回数

    図表3画像

政策的インプリケーション

  1. 職業訓練に関しては、第一に、就職率の向上に一定の効果がみられた一方、就職後の離職者も一定程度みられた。このことから職業訓練に就職率向上の効果は認められるものの、それとは別に就職後の定着を高める方策を検討する必要があることを指摘できる。第二に、求職者の状況や特性に応じて適切な職業訓練があり、従来以上に、求職者の個人属性にあった職業訓練の提供を考える必要性が示された。その際、現状においても職業訓練とキャリアコンサルティングの相乗効果を意識した取り組みはハローワークでなされているが、今後、よりいっそう推進させていくべきであることが示唆される。第三に、これも従来からなされている職業訓練手法の継続的な検討が課題となるが、学校教育、企業研修などと比べて、職業訓練はその教授法が十分に議論されることが少ないため、いつどこで誰にどのように実施した際により効果があるのかという「learner-centered pedagogies(受講者中心の教授法)」の視点からさらに精緻な検討の必要性が示される。
  2. キャリアコンサルティングに関しては、第一に、その後の満足感や収入等に一定の良い効果が示される一方で、キャリアコンサルティングと転職には密接な関連がみられており、この両者の関連を重視すべきことが示唆される。人のキャリアにとって大きな節目となる転職ではキャリアコンサルティングが結びつくことが多いと想定すべきであることが示される。第二に、企業内外のキャリアコンサルティング経験を比較した場合、企業内キャリアコンサルティングの経験者の方が転職が少なかった。一般に、企業におけるキャリアコンサルティング導入の議論では社内の有能な人材が流出することを危惧することが多い。今回の結果から、むしろ社内に適切に相談の受け皿を作らない場合、企業外に相談の場を求めるため、かえって人材の流出につながることが考察される。第三に、キャリアコンサルティング施策の議論は、従来からエビデンスに基づいた施策の展開よりは、むしろキャリアコンサルティングの理想像を措定する規範的な視点からの議論が多かった。今後は、日本でも様々なエビデンスを重視すべきであることが示唆される。

政策への貢献

職業訓練施策及びキャリアコンサルティング施策を中心に、幅広く人材開発行政に資する。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「全員参加型の社会実現に向けたキャリア形成支援に関する研究
サブテーマ「労働者の主体的なキャリア形成とその支援のあり方に関する研究」
「職業訓練・キャリアコンサルティングの統計的手法による効果検証」に対応

研究期間

平成30年度

執筆担当者

下村 英雄
労働政策研究・研修機構 主任研究員

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