資料シリーズNo.245
「労働時間制度に関する調査結果」の分析

2021年12月24日

概要

研究の目的

裁量労働制を軸とした労働時間法制度の人事実務における運用等の課題を把握し検討すること。

研究の方法

厚生労働省抽出分事業場と一般データベース抽出分事業場の二つのサンプルに対する質問紙調査票郵送法。事業場票は人事等担当者が回答・返送し、労働者票は人事等担当者を通じて配布のうえ労働者本人が回答し直接返送。

調査時期
平成25年11月中旬から同年12月中旬。
有効回収率
厚労省抽出分事業場:29.8%(1,614票)
厚労省抽出分事業場労働者:18.5%(10,023票)
事業場DB抽出分事業場:32.0%(2,428票)
事業場DB抽出分事業場労働者:17.1%(12,983票)

主な事実発見

第1章では、現行法令から導出された「管理監督者」の要件である、①「職務内容、責任と権限」、②「勤務態様」、③「賃金等の待遇」、及び裁量労働制の要件である、④「自律性・裁量性」が管理職や裁量労働制適用労働者の労働時間に与える影響を考察した。

分析結果を要約すると、管理職に関する分析では、上記 ②「勤務態様」のあり方が管理職の労働時間に対して重要な影響を与えていることがわかった。また、裁量労働制適用労働者に対して、上記 ④「自律性・裁量性」は明確な影響を与えていないが、裁量労働制の適用それ自体が労働時間を長くしていた。この結果は、裁量労働制の適用労働者が、実際には裁量をもって労働時間を決められていないという、運用上の問題がある可能性を示唆している。

図表1-5 管理職の労働時間に影響する要因
図表1-6 裁量労働制適用労働者の労働時間に影響する要因

第2章では、仕事の特性と個人の特性に着目しつつ、裁量労働制が適用されている労働者の裁量労働制の適用を受けていることの満足度に影響する要因を分析している。要約すると次のようになる。

裁量労働制という働き方には、「自分で仕事のペースや手順を変えられる」や「会社以外の場所でも仕事ができる」など裁量性・自律性のある柔軟な働き方ができることがプラスとなるが、「締切り・納期がタイトな仕事が多い」ので、「時間に追われている感覚がある」という負の側面をもたらす傾向もある。その一方で、裁量性・自律性のある柔軟な働き方ができることが「仕事に熱中して時間を忘れてしまうことがある」につながっている可能性もある。また、仕事に生きがいを感じるなど仕事志向が強いことや、職場に対する帰属感が高いことは、やりがいが持てる仕事や働きやすい職場環境があってのことと言えるのではないか。

裁量労働制に限らず、働き方に対する満足度を高めるには、仕事の負荷を抑えつつ仕事の性質に応じたやりがいを醸成する環境を整えるということが求められる。そのためには、仕事の配分の仕方など管理職の管理能力が問われる。個々の労働者の働き方や時間管理の問題について、管理職の在り方についても検討する必要がある。また、仕事に対するポジティブな側面に着目した時間管理も求められる。

図表2-28 職務満足度の要因分析の結果のまとめ

第3章では、裁量労働制が適用される者の働き方や仕事の特質を踏まえ、働く者の健康確保、特に休息時間(終業から始業までの時間)確保のあり方について検討した。分析結果をまとめると次のようになる。

  1. 一定の睡眠時間は健康確保にとって重要である。労働時間が長い場合のほか、深夜労働や自宅での仕事が頻繁にある場合にも、睡眠時間の確保が難しくなる。
  2. 裁量労働制、特に専門業務型裁量労働制が適用されるような専門的業務の中には、深夜労働、休日労働、自宅での仕事を伴う業務もみられ、休息時間の確保に課題がある。
  3. 勤め先で一律の出勤時刻が設定されていると、睡眠時間の確保が難しくなる場合がある。特に、深夜労働を伴いがちな業務では、翌日の出勤時刻が決められていると、最低限の休息時間さえも奪う可能性がある。法の趣旨を活かし、出退勤時刻を柔軟に設定できることが、健康確保の観点から重要である。
  4. 深夜・休日労働がある者、睡眠時間が短い者ほど、会社の健康・福祉確保措置に対する追加的ニーズをもっている。特に、一定時間以上の勤務や休日労働が行われた場合の特別休暇・代償休日の付与など、自身の仕事の進め方にあわせて休息時間を確保できる措置の必要性が高い。

図表3-16 睡眠時間の規定要因(順序ロジスティック回帰分析)
図表3-17 会社の健康・福祉確保措置への納得感の規定要因(二項ロジスティック回帰分析)

第4章では、裁量労働制の導入・運用・普及について、どのような問題があるのかを検討し、裁量労働制がよく機能していくための政策的実務的課題を検討した。検討結果をまとめると以下のようになる。

  • 裁量労働制不導入の理由について考えるとき、従業員規模と業種の特性を考慮した対応を検討する必要があること、
  • 裁量制導入効果については、さまざまな異なる導入効果に着目した促進策を検討していく必要があること、

が分かった。

また、裁量制導入効果を高めるために検討した導入効果の背景事情については、

  • 幅広で明確な裁量労働制導入目的は意識改革効果を高めること、
  • 多様な長時間労働削減策の併存がより効果的であること、
  • 能力・仕事・成果による評価の方が意識改革効果が高いこと、
  • 裁量労働制適用者に対する特別手当があり、手当の評価は成果で行い、金額が一定額以上だと導入効果が高まること、
  • 専門業務型と企画業務型では、出退勤の自由度について効果の現れ方が異なるため、状況を見究めて慎重に検討すべきこと、
  • 業務遂行指示方法・期限設定方法・進捗状況把握については、管理者の緩やかな関与(裁量制適用者・管理者間のコミュニケーション)がある場合は導入効果がより高まること、

が分かった。

なお、導入の際の課題としては、主として、労働時間管理、行政手続関係、労使委員会運営関係が挙げられる。

図表4-3 従業員(正社員)規模別、裁量労働制不導入理由(複数回答)
図表4-4 業種別、裁量労働制不導入理由(複数回答)
図表4-5 従業員(正社員)規模別、裁量労働制導入効果(複数回答)
図表4-6 業種別、裁量労働制導入効果(複数回答)

政策的インプリケーション

上記「主な事実発見」記載のとおり。

政策への貢献

労働時間法政策に関する論議への貢献。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「働き方改革の中の労働者と企業の行動戦略に関する研究」
サブテーマ「労働時間・賃金等の人事管理に関する調査研究」

研究期間

平成27年度

執筆担当者

池添 弘邦
副統括研究員
高見 具広
副主任研究員
藤本 隆史
リサーチアソシエイト

関連の研究成果

入手方法等

入手方法

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研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ
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成果普及課 03-5903-6263 

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