資料シリーズNo.241
自ら考えて動く仕事探し―求職活動支援の研究―

2021年9月30日

概要

研究の目的

労働者を取り巻く雇用環境は絶えず変化している。この雇用環境に適応するには、職業や仕事に関する新たな能力やスキルを獲得し続ける必要がある。求職者は、これらに加え、仕事を探す上での新たな能力やスキルも身に付けなければならない。こういった変化する環境への適応に重要と考えられている心理的メカニズムが、欧米で研究が進むセルフレギュレーション(self-regulation)である。

セルフレギュレーションとは、「個人が目標を達成するために自らの判断・感情・行動をコントロールする現象及びそれに関連するプロセスである」(尾崎,2013)。求職活動にあてはめると、求職者が希望の就職を実現するため、自分自身の置かれている就職環境に応じて、自発的に求職行動を選択し、実行すること、つまり「自ら考えて動く」仕事探しである。

この「自ら考えて動く」仕事探しができれば、求職活動中に不調や挫折を経験したとしても、その経験から学び、希望の就職が実現するまで粘り強く求職行動を取り続けることができるようになると考えられている(Kanfer, Wanberg, & Kantrowitz,2001: Van Hooft, Kammeyer-Mueller, Wanberg, Kanfer, & Basbug,2020)。

労働政策研究報告書『求職活動支援の研究―自律型求職活動モデルの実用可能性の検討―』(労働政策研究・研修機構,2020)では、求職活動におけるセルフレギュレーションのプロセスを包括的にモデル化した自律型求職活動モデル(Van Hooft, Wanberg, & Van Hoye, 2013)に着目した。同モデルは処方箋(しょほうせん)モデルとされ、希望の就職を実現するため、クリアすべき求職活動の基準を示すものである。この基準を基に、求職者は自身の求職行動のどこをどのように変えればよいのか、そして支援者は求職者がどこでつまずいているのかを理解できるようになることが想定されている。この報告書では支援者の側から、自律型求職活動モデルの実用可能性を検討した。2017年度に、同モデルの考え方やノウハウの解説をハローワーク職員の研修機関の研修へと組み込み、アンケート調査を実施した。その結果、9割以上のハローワーク職員が、同モデルは現場で有用であると評価をした。

本報告書では、求職者の側から、自律型求職活動モデルの実用可能性を実践的に検討した。2018年度に厚生労働省職業安定局首席職業指導官室と共同で、同モデルに基づいた就職支援セミナーである『ここがポイント!求職活動マインドセミナー』(労働政策研究・研修機構,2019)を開発し、2018年10月~12月の間に全国19労働局、31箇所のハローワークで32回、実施した。参加した求職者は739人であり、セミナーの終了後、アンケート調査を実施した。この調査の結果を詳細に分析し、求職者が求職活動を進める上で同セミナーをどのように評価しているかを検討し、どのような支援をすると、求職者が「自ら考えて動く」求職活動ができるようになるのかを考察した。

図表1 自律型求職活動モデルの実用可能性の検討の段階と研究成果物の関係

図表1画像

研究の方法

本報告では、自律型求職活動モデルの実用可能性を検討する際、アクションリサーチ(action research)の手法を採用した。アクションリサーチとは、「実践的問題と基礎的研究との結合によって、両者の循環的刺激で学問の進歩と社会改善とが相互扶助的に進むことをめざす学問の方向」(中村,1972) と定義される。研修研究では、その実践的問題と基礎的研究をつなぐ要として「研修」を位置付ける。

①研究

求職活動における自律型求職活動モデルの妥当性を検討するため、次の2つの観点から文献研究を進めた。第1に、理論的な側面から、自律型求職活動モデルと就職の成功(employment success)との関係を検討した。前報告書では、自律型求職活動モデルで示されている求職活動の基準を中心に検討した。本報告書では、自律型求職活動モデルにおけるセルフレギュレーションの考え方を明らかにした上で、そのセルフレギュレーションが就職の成功に及ぼす影響を検討した。

第2に、実証的な側面から自立型求職活動モデルと就職の成功との関係を検討した。 自律型求職活動モデルは、研究者が求職活動に関する研究論文に一つひとつ目を通し、それらの研究の結果を基に就職の成功に結びつく要因を明らかにし、それらを求職活動の基準としてまとめたものである(Van Hooft et al., 2013)

このような研究は記述的レビュー(narrative review)と言われる。この方法では、調査や実験の結果を統計的に分析することは行われない。文献の選択から、それらを整理し、結論を導き出す一連のプロセスについて、客観的な手続きを基に説明されることもほとんどない。これに対し、メタ分析(meta-analysis)は記述的レビューの欠点を補う方法とされている。具体的には、求職活動の研究について行われた複数の実証研究の結果を、統計的な手法を用いて統合することである(山田・井上,2012)。

Van Hooft et al. (2020) は、求職活動の研究に関するメタ分析を行っており、主要な心理学系の雑誌を中心に2019年までに公表された求職活動に関する論文を341本収集し、それらの論文で扱われている調査や実験の結果をメタ分析にかけた。その結果、求職活動の研究の統合的見地として、セルフレギュレーションが就職の成功に影響を及ぼしていることを明らかにした。

両研究は、その性格が記述的レビューとメタ分析と、それぞれ違うが、いずれも求職活動におけるセルフレギュレーションのプロセス全般を扱っており、また研究の前提となる求職活動の定義がほぼ一致していることから、表裏一体の関係にあると考えられる。このことから、後者のメタ分析から得られた求職活動の研究の統合的見地を参考として、実証的な側面から自律型求職活動モデルと就職の成功との関係を検討した。

②研修

心理学の理論を実証するには、その理論に基づき、研究の対象となるターゲットの行動変容を起こし、期待される成果を上げる必要がある。アクションリサーチでは、行動変容の具体的な手段が「研修」である(Lewin,1946)。今回の研究の場合、ターゲットは求職者の行動であり、研修とは自律型求職活動モデルに基づく「求職活動マインドセミナー」(労働政策研究・研修機構,2019)になる。このセミナーを、求職者を対象として実施した。

本研究の目的は自律型求職活動モデルの実用可能性の検討にあるが、これと並行して、当機構では厚生労働省から求職者の早期再就職を目的とした就職支援セミナーの研究開発の依頼を受けていた。この依頼を受け、研修研究の枠組みの下、求職活動マインドセミナーを厚生労働省と共同で開発した。

③実践

実践とは、求職者が研修で学んだり身に付けたりしたことを、求職活動において「実践」することである。本研究では、求職者が研修の効果により、セルフレギュレーションの心理的メカニズムを働かせ、不調や挫折を経験しても粘り強く求職行動を取り続けることができるようになり、その結果、再就職など就職の成功の可能性が高くなることを想定している。

今回は、このような求職活動マインドセミナーの効果の検証まで至っていない。その代替として、ハローワークにおいて、求職活動支援プログラムである求職活動マインドセミナーを実施し、セミナーの終了後にアンケート調査を行い、求職者にとって求職活動を進める上で、同セミナーに参加したことが役に立つかどうかを尋ねた。また、「役に立つ」と肯定的に回答した求職者を対象に、具体的に役に立つと感じたところを記入してもらい、その内容を分析した。これらの結果から、自律型求職活動マインドセミナーの実用可能性を検討した。なお、セミナーの講師は松原亜矢子前統括研究員と榧野潤統括研究員が担当した。

主な事実発見

本報告書では、求職活動の当事者である求職者の側から自律型求職活動モデルの実用可能性を検討した。まず文献研究をもとに自律型求職活動モデルの妥当性を検討した。求職活動の実証研究を対象としたメタ分析の結果から、これまでの研究の統合的見地として、セルフレギュレーションが求職活動の質を上げ、就職の成功のみならず、就職後の雇用の質にもよい影響をもたらすことが明らかにされた(Van Hooft et al.,2020)。このメタ分析の結果を、求職活動の量よりも、そのプロセスの質に焦点を当てる自律型求職活動モデルの妥当性を支持する結果であると解釈した。

次いで、自律型求職活動モデルに基づく研修プログラムは、筆者の知る限り、まだ開発されていないことから、厚生労働省と共同して、同モデルに基づく研修プログラムである求職活動マインドセミナーを研究開発し、ハローワークにおいて求職者を対象とした就職支援セミナーとして実施し、その実用可能性を検討した。

このアンケート調査の結果から、全員ないし、ほとんどの求職者が求職マインドセミナーの参加に満足し、求職「活動」マインドを理解し、求職活動を進めるにあたり、同セミナーが有用であり、ハローワークを積極的に利用したいという気持ちになったと評価した(図表2参照)。

図表2 求職者の求職活動マインドセミナーの評価

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また、求職活動マインドセミナーが有用であると評価した者のうち、どのような点が有用であるかを尋ね、自由記述で書いてもらった内容を分析したところ、「目標設定」、「求職活動の心構え」、「目標・計画・実行・振り返りのサイクルを回すこと」の3種類のカテゴリーが上位を占める結果となった(図表3参照)。このセミナーの有用性が想定通りに評価されたと言えよう。

図表3 求職活動マインドセミナーの有用性に関する自由記述の内容分析

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政策的インプリケーション

求職者をとりまく就職環境は不確実性を増している。コロナ禍による経済活動への影響、人工知能に代表される最先端のデジタル技術の普及による産業構造の変化、テレワークの導入に見られる働き方の変化など、これまでになかったような変化が次々と起こっている。このような不確実性の高い時代にあっては、求職者は環境に依存して受け身的でいると、その変化にふりまわされるだけであり、能動的に仕事探しに取り組むことが重要となるだろう。それとともに、変化する環境への柔軟な適応も求められ、環境の変化を受け容れ自らの意識や行動を変える自己管理(self-regulation)も必須となるだろう(Van Hooft et al.,2020)。自律型求職活動モデルは、これら能動性と自己管理の2つの機能を促進する求職活動の管理サイクルである。求職者が希望の就職の実現のため、今後、この管理サイクルを回すための知識や技能の習得を目的とした求職活動支援プログラムが、更に重要となることが考えられよう。

政策への貢献

本研究の目的は自律型求職活動モデルの実用可能性の検討にあるが、これと並行して、当機構では厚生労働省から求職者の早期再就職を目的とした就職支援セミナーの研究開発の依頼を受けていた。この依頼を受け、研修研究 の枠組みの下、求職活動マインドセミナーを厚生労働省と共同で開発した。この実施マニュアルを作成し、全国の労働局及びハローワークに配布した。

本文

本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「全員参加型の社会実現に向けたキャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「職業相談・紹介技法と求職活動の支援に関する研究」

研究期間

平成30年度~令和2年度

執筆担当者

榧野 潤
労働政策研究・研修機構 統括研究員
松原 亜矢子
労働政策研究・研修機構 前統括研究員
石川 智子
東京大学大学院教育学研究科 臨床心理学コース修士課程
山口 綾香
有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部
ヘルスケア マネジャー

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