資料シリーズ No.124
労使コミュニケーションの経営資源性と課題
―中小企業の先進事例を中心に―

平成25年5月31日

概要

研究の目的

労使コミュニケーションの経営資源性の実態を究明し、その資源性をより多くの労使に広げて企業の発展と労働者の働き甲斐のある職場の実現を図るとともに それに必要な政策的課題を探ること。

研究の方法

ヒアリング調査

主な事実発見

中小企業では、朝礼、日報、部門会議、社長質問会、経営チェックシート、経営指針発表会など多様な労使コミュニケーションが行われている。労使コミュニケーションの種類は各社各様であり、また、労使コミュニケーションの円滑化を決断した背景も異なる。労使コミュニケーションの効果を3つの側面で確認することが出来る。第1に、企業内効果として、企業の持続的な発展・利益創出・収益体質の向上、労働生産性の向上、対外環境適応力の向上、定着率の向上(離職率の低下)等を挙げることが出来る。

第2に、労働者効果として、仕事の進め方、設備の導入、残業の決定、人事評価などにおいて企業からの権限委譲の下、労働者が自主性・自発性を発揮し、自分の能力や可能性を最大限発揮し、自己実現を果たしている。

第3に、企業外効果として、労働者の働きやすい職場環境の醸成とワーク・ライフ・バランス等の推進により、少子高齢化や非正規労働者・雇用問題の解消、そして旺盛な社会貢献等を果たしている。

以上のような労使コミュニケーションを生み出すための要件としては次のような「3K2S」が必要である。第1に、社長が労使コミュニケーションの重要性を認識し、それを本格的に行おうとする決断(Ketsudan)、第2に、企業の全経営情報を一般従業員に開示する経営情報の完全公開(Koukai)、第3に、従業員の自主性・自発性が発揮できるように、社長の権限を従業員に委譲する権限委譲(Kengenijou)、第4に、労使が相手の存在を自分と等しく認める労使の相互尊重(SougoSonnchou)、そして、第5に、言動の一致、相手の言動の予見可能性が見える相互信頼(SougoShinrai)である。

さらに、労使コミュニケーションが、その効果をより多く生み出していく好循環の実現には、使用者の半労働者化、労働者の半経営者化が求められる。使用者(社長)は、従業員が就業規則に従うように、自らの行動や報酬を明らかにして守り、従業員からのチェックを受ける「使用者の半労働者化」が進むと、従業員は、社長・会社を信頼し、会社の利益=自分達の利益という認識の下、働く意欲と能力、チームワーク等の労働の質を高めるとともに、視野を会社全体に広げて判断するという「労働者の半経営者化」が進む。それにより、企業の持続的な維持・発展が実現し、社長も従業員もウィン・ウィンすることが出来る。

政策的インプリケーション

労使コミュニケーションの円滑化は、企業内、労働者、企業外の効果を生み出しているが、日本では、それを体系的に律する法律は存在しない。労使コミュニケーションの効果に鑑みると、それを個別企業の労使の自主性に任せておくことは、その資源性の発揮を逸する機会費用が大きい。それを防ぐためには、労使コミュニケーションの構造、協議内容や役割、担い手の選出などを律するといった労使コミュニケーションのシステム化を促す政策対応・法律制定が望まれる。

政策への貢献

従業員過半数代表の問題点を解消し、集団的労使関係の再構築を検討する際、現場の実態の把握と政策立案の内容の方向付けに貢献することを期待する。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究 「労使関係を中心とした労働条件決定システムに関する調査研究」

サブテーマ「従業員代表制実態調査研究プロジェクト」

研究期間

平成24年度(調査期間:平成22~24年度)

執筆担当者

呉 学殊
労働政策研究・研修機構 主任研究員
前浦 穂高
労働政策研究・研修機構 研究員
鈴木 誠
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー

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