労働政策研究報告書 No.171
企業内キャリア・コンサルティングとその日本的特質
―自由記述調査およびインタビュー調査結果

平成 27年5月20日

概要

研究の目的

本研究では、厚生労働省の要請を受けて、企業を中心としたキャリア・コンサルティングの活用事例を収集し、それら収集した事例をもとに、現在の日本における企業内キャリア・コンサルティングの実態、また、その運営体制、および個々の従業員の支援と組織全体への支援などの特徴を分析し、検討することを目的とした。

研究の方法

本研究では、自由記述調査とインタビュー調査を実施した(どちらも2014年3~4月実施)。自由記述調査では、キャリア・コンサルタント43名から、①おもにキャリア・コンサルタントとして活動している企業等の概要、②従業員個人にとって有効だった事例、③組織にとって有効だった事例について記述を求めた。④その他、キャリア・コンサルティングを企業に普及させていく上での課題や、その解決のために必要なこと、重要なこと、政策的に行うべきことについても情報収集を行った。各設問とも1,000字以上の記述を求めた。インタビュー調査では、大企業で働くキャリア・コンサルタントおよび企業領域で働くフリーのキャリア・コンサルタントにインタビューを行った。10社前後の大企業もしくは大企業子会社の事例について総計20名前後のキャリア・コンサルタントに話を聞いた。1回のインタビューはおおむね1時間半前後であった。上述した自由記述調査とおおむね同様の内容の他、企業内キャリア・コンサルティングの特徴や自社における進め方、企業内で働くキャリア・コンサルタントに求められる能力、企業内の他の部署や制度との連携など、幅広いテーマについて多岐にわたって情報収集を行った。

主な事実発見

  1. 日本における企業内キャリア・コンサルティングの展開は目覚ましく、広がりと深まりを見せていること、特に、この20年で、企業内キャリア・コンサルティングのノウハウが蓄積され、企業内キャリア・コンサルティングの組織内における役割や機能が明確化してきていることが示された。具体的には、大別して、(a)リテンション機能、(b)関係調整・対話促進機能、(c)意味付与・価値提供機能といった日本型とも言うべき特徴がいくつか指摘できた。
  2. 企業内キャリア・コンサルティングの運営と体制について、現在、人事部門や他の様々な従業員支援の部門と連携して従業員サービスを提供している例が多い。また、キャリア研修その他のキャリア形成支援施策と密接に連携させて相談を行っている場合が多い。さらに「上司部下の関係調整→組織開発」も重要な仕事となっていた。

    図表1 企業内キャリア・コンサルティングの体制と運営

図表1画像

  1. 企業内キャリア・コンサルティングによる個々の従業員(クライエント)への対応に関する議論も、ある程度、収斂してきている。相談内容としては、おおむね、(a)異動や昇進に伴う仕事内容の変化、(b)モチベーションの低下、(c)キャリアアップ、(d)時短勤務・有期契約で働く女性の問題、(e)メンタルヘルスと関連するキャリア問題、(f)その他があり、相談の過程としては、(a)導入段階(聴く、質問する)、(b)整理段階(整理する、説明する、リファーする)、(c)展開段階(確認する、掘り下げる、働きかける)といったプロセスがある。

    図表2 企業内キャリア・コンサルティングのプロセス

    図表2画像

  2. 企業内キャリア・コンサルティングの「組織開発」に対する効果は、おおむね、個々の職場内のインフォーマルな関係構築から組織適応・組織定着、上司部下の関係調整、経営層への情報提供と進む。キャリア・コンサルティングの導入当初は、個別面談のみが行われるが、個人の支援のために上司との関係改善の必要性が認識される。さらに、職場や組織全体の影響も見えてくる。結果的に、支援や介入の対象は、導入時から次第にレベルをより上位へと組織の中心へとシフトさせていく。

政策的インプリケーション

  1. 企業内キャリア・コンサルティングについては、時にアウトプレースメント的な機能が期待される場合があるが、現状では、むしろ日本的な雇用システムを背景に、従業員を引き留めようとするリテンション施策として機能している面が強い。ただし、労働移動促進の観点からは、同様の理由から、外から参入してきた労働者の受け入れや定着に力を発揮している場合も多く、企業内部に相談サービスを提供するという企業内キャリア・コンサルティングの特徴がよく示される。
  2. 日本のキャリア・コンサルティングに対する問題関心のベースには、上司-部下の関係調整という狙いが最初期の段階から濃厚にみられた。現状においても、多様化する職場環境、従業員構成の中で、職場内の関係調整・対話促進は重要な課題となっており、管理者のキャリア形成支援マインド・知識・スキルを習得させるといった方向性で何らかの支援を行うことは、今後、十分に検討されるべき課題となる。
  3. 企業内キャリア・コンサルティングは単独で機能するよりは、むしろ、企業内の関連諸制度(他の相談室、キャリア研修、他のキャリア形成支援施策)と一体化して運用することで、より効果をあげていた。従来以上に、よりいっそう、企業内の他の施策との関連で企業内キャリア・コンサルティングを啓発普及する方策が考えられる。特に、企業内キャリア・コンサルティングは、企業内の人的資源管理・人事労務施策、能力開発・キャリア開発施策の効果を高めるための触媒として機能する面がある。なかでも、キャリア研修との一体的な運用が効果的であると見られており、メンタルヘルス・労働移動促進とあわせて、従来以上に、よりいっそう企業内能力開発・教育研修支援の施策として考えうる可能性がある。
  4. 企業内キャリア・コンサルティング単独の効果としては、表面的には、抽象的である「意味提供・価値付与機能」と「組織開発」が重要となる。したがって、一方では、より抽象的な相談内容に乗れるような企業内キャリア・コンサルタントの専門性・スキルの向上を、従来以上に考えるべきである。また他方では、「組織開発」を、今後の企業内キャリア・コンサルタントの重要なコンピテンシーとして考えるべきである。

政策への貢献

キャリア・コンサルティング施策を中心に、幅広くキャリア形成支援政策および職業能力開発政策に資するものと思われる。なお、本研究の一部は、厚生労働省キャリア形成支援室による「キャリア・コンサルティング研究会」などで資料として活用された。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「生涯にわたるキャリア形成支援に関する調査研究」

研究期間

平成25年度~平成26年度

執筆担当者

下村 英雄
労働政策研究・研修機構 主任研究員
高橋 浩
ユースキャリア研究所、法政大学講師

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