調査シリーズNo.194
ものづくり産業における技能継承の現状と課題に関する調査結果

2020年2月3日

概要

研究の目的

ものづくり産業において熟練技能は事業の中核を支えるものであり、その技能の継承が円滑に行われなければ、ものづくり産業全体が衰退することになりかねない。平成28年度能力開発基本調査によると、製造業において技能継承の問題があると回答した事業所は54.7%と産業全体の35.4%に比べて高い水準にある。団塊の世代が定年を迎えた2007年の51.6%を上回っており、ものづくりの技能継承は、より深刻化している。技能継承における課題としては、① 技能の伝え手の問題、② 技能の受け手の問題、③ 技能の「見える化」の問題などが考えられるが、こうした点も含め、その課題についてさらに検討を進める必要がある。そこで、ものづくり産業における技能継承の現状と課題等を把握するために企業アンケート調査を実施した。

研究の方法

企業アンケート調査(郵送方式)。

全国の日本標準産業分類(平成25(2013)年10月改訂)による項目「E 製造業」に分類される企業のうち、〔繊維工業〕〔パルプ・紙・紙加工品製造業〕〔印刷・同関連業〕〔化学工業〕〔石油製品・石炭製品製造業〕〔プラスチック製品製造業〕〔ゴム製品製造業〕〔なめし革・同製品・毛皮製造業〕〔窯業・土石製品製造業〕〔鉄鋼業〕〔非鉄金属製造業〕〔金属製品製造業〕〔はん用機械器具製造業〕〔生産用機械器具製造業〕〔業務用機械器具製造業〕〔電子部品・デバイス・電子回路製造業〕〔電気機械器具製造業〕〔情報通信機械器具製造業〕〔輸送用機械器具製造業〕に属する従業員数30人以上の企業2万社。

平成26(2014)年経済センサス基礎調査(確報)での企業分布に従い、民間信用調査機関(東京商工リサーチ)所有の企業データベースから業種・規模別に層化無作為抽出した。

主な事実発見

◆大多数の企業が技能継承を重要と認識するものの、うまくいっている企業は半数弱

技能継承をどの程度、重要だと考えるか尋ねたところ、「重要」が66.4%、「やや重要」が28.4%、「それほど重要でない」が2.8%、「重要でない」が0.5%で、大半の企業が「重要」「やや重要」との認識を示した(図表1)。

図表1 技能継承をどの程度、重要だと考えるか(単位:%)

図表1画像

技能継承が会社としてうまくいっていると考えるか尋ねたところ、「うまくいっている」が5.2%、「ややうまくいっている」が39.8%、「あまりうまくいっていない」が47.1%、「うまくいっていない」が6.7%で、「うまくいっている」「ややうまくいっている」と回答した企業が5割弱となっている(図表2)。

図表2 技能継承が会社としてうまくいっていると考えるか(単位:%)

図表2画像

「うまくいっている」「ややうまくいっている」と回答した企業(n=2,643)に、うまくいっている理由を尋ねると(複数回答)、「計画的にOJT を実施しているから」(59.5%)が最も回答割合が高く、次いで「指導者と指導を受ける側とのコミュニケーションがよく図られているから」(39.0%)、「技能継承を受ける側の社員の新しい技能や知識を身につけようとする意欲が高いから」(35.1%)、「継承すべき技能を見極められているから」(22.1%)、「OFF-JT(会社の指示による職場を離れた教育訓練)、自己啓発支援を十分に実施しているから」(17.3%)などの順となっている(図表3)。

図表3 技能継承がうまくいっている理由(複数回答)(単位:%)

図表3画像

◆約8割のものづくり企業が将来の技能継承を不安視

将来の技能継承について、どのように考えているか尋ねたところ、「不安がある」が15.2%、「やや不安がある」が65.2%、「あまり不安はない」が17.4%、「不安はない」が1.0%で、全体として約8割の企業が不安を感じているとした(図表4)。

図表4 将来の技能継承について、どのように考えているか(単位:%)

図表4画像

◆採用・定着が順調な企業などが、技能継承がうまくいっている企業割合が高い

過去5年間のものづくり人材の採用に対する評価、ものづくり人材の定着状況(同業同規模の他社との比較)、一人前といえる技能者になるまでの人材育成・能力開発の取り組みに対する評価別に、技能継承に対する評価についての回答結果をみたところ、採用が「うまくいっている」企業では、技能継承が「うまくいっている」「ややうまくいっている」割合は8割以上、定着状況が「よい」企業では同割合が7割近く、人材育成・能力開発の取り組みが「うまくいっている」企業では、同割合が9割超におよんだ(図表5)。

図表5 技能継承が会社としてうまくいっていると考えるか(過去5年間のものづくり人材の採用に対する評価、ものづくり人材の定着状況に対する評価、ものづくり人材が一人前になるまでの育成・能力開発の取り組みに対する評価別)(単位:%)

図表5画像

政策的インプリケーション

人材育成・能力開発がうまくいっている企業ほど、技能継承についてもうまくいっている企業割合が高いことから、引き続き、企業の人材開発に対する行政側の支援は重要である。

政策への貢献

「平成30年度ものづくり基盤技術の振興施策」(令和元年版ものづくり白書)に活用。人材開発行政にかかる政策立案のための基礎資料として活用される。

本文

全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

情報収集

研究期間

平成30年度~令和元年度

調査実施担当者

荒川 創太
労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員補佐
郡司 正人
労働政策研究・研修機構 調査部 調査部長
藤本 真
労働政策研究・研修機構 人材育成部門 主任研究員

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.127)。

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