調査シリーズNo.188
IT関連教育訓練の現状に関する調査
~教育訓練実施事業者・教育訓練受講者のアンケート調査結果~

2019年3月29日

概要

研究の目的

2017年6月に発表された「未来投資戦略」は、「長期停滞を打破し、中長期的な成長を実現していく鍵は、近年急激に起きている第4次産業革命(IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット、シェアリングエコノミー等)のイノベーションを、あらゆる産業や社会生活に取り入れることにより、様々な社会課題を解決する「Society 5.0」を実現することにある」とし、「Society 5.0」の実現に向けた道筋や、そこで必要な取組みを示している。

こうした動きを踏まえ、本研究では、ITを基盤とするイノベーションの社会的な活用にあたって今後より一層必要性・重要性が増すと考えられる、主に社会人を対象としたIT関連の教育訓練の現状について調査・分析を行い、社会的・政策的な課題について検討した。

研究の方法

1.IT関連の教育訓練を実施する事業者を対象とするアンケート調査の実施・集計・分析

IT関連分野の教育訓練(研修・セミナー・通信教育講座など)について、a.供給(提供)の実態、b.供給(提供)をめぐる質向上などに向けた取り組み、c.供給(提供)における課題、などを把握する目的で実施した。

調査対象
調査前の情報収集から、IT関連の教育訓練を実施している事業者が相対的に多いと予想された、① ソフトウェア業、② 情報処理・提供サービス業、③ インターネット附随サービス業、④ 専修・各種学校、⑤ 教養・技能教授業の各産業に該当する従業員10人以上の企業と、IT関連の諸団体で、計9,976事業者。
調査期間
2018年2月10日から3月9日で、2,970事業者から有効回答を得た(有効回答率:29.8%)。

2.IT関連の教育訓練を受講する社会人を対象としたアンケート調査の実施・集計・分析

IT関連分野の教育訓練について、① 受講の現状、② 受講の目的、③ 受講による能力開発・キャリア形成上の効果、④ 受講における課題などを把握する目的で実施。

調査対象
IT関連の教育訓練を、調査時点までの3年間のうちに受講した20歳以上の正社員/非正社員5,000人を、楽天リサーチ株式会社(現.楽天インサイト株式会社)が有するWebモニターから選抜した。
調査期間
2018年3月9日~3月12日

主な事実発見

  1. IT関連の教育事業を調査時点で実施していたのは、回答事業者全体の6.5%にあたる192事業者である。事業者の従業員規模別に集計してみると、100人未満の規模の事業者では実施率が5~7%程度であるのに対し、100~299人規模の事業者では10%を超え、300人以上の事業者では14.4%となっている。IT関連の教育事業は、従業員規模が3ケタに達するような規模の大きい事業者の方がより取り組みやすいことをうかがわせる。
  2. IT関連教育訓練を実施している192事業者のうち、2017年に対面型講義(研修・セミナーなど)を実施していたのは169事業者である。最も実施した事業者が多かったのは「プログラミング」(55.6%、169事業者における比率、以下同)で、半数以上の事業者が実施している。以下、「セキュリティ」(37.9%)、「ソフトウェア・アプリケーション」(34.3%)、「システム開発」(34.3%)、「Webデザイン/Web開発」(30.8%)と続く。

    経済産業省が創設したIT関連スキルのレベルを示す基準「ITスキル標準」(以下、「ITSS」)に沿う形で、実施されている対面型講義のレベルを事業者に尋ねたところ、ITSSレベル1相当の講義を実施した事業者が74.0%で、同様にレベル2相当の講義の実施率が58.6%、レベル3相当の講義の実施率が49.7%、レベル4相当の講義の実施率が31.4%となっている。最も受講者の多かったレベルとしては、レベル1相当を挙げる事業者が44.4%で最も多く、以下、レベル3相当(20.1%)、レベル2相当(19.5%)と続く。

  3. 一方、2017年に通信教育のIT教育訓練を実施したのは32事業者である。実施している事業者が比較的多い分野は、「プログラミング」(43.8%、32事業者における実施率、以下同)、「Webデザイン/Web開発」、「ネットワーク」、「セキュリティ」(いずれも31.3%)、「システム開発」、「ソフトウェア・アプリケーション」(いずれも28.1%)などである。

    32事業者のうち、ITSSレベル1相当の講義を実施した事業者が81.3%で、同様にレベル2相当の講義の実施率が56.3%、レベル3相当の講義の実施率が56.3%、レベル4相当の講義の実施率が37.5%であった。最も受講者の多かったレベルとしては、レベル1を挙げる事業者が34.4%で最も多く、以下レベル2(31.3%)、レベル3(18.8%)と続く。

  4. 対面型講義を実施している業者の主な業種別にIT各分野の実施率を集計してみると、業種によって実施率に大きく差の出る分野が散見される。図表1に挙げた6分野に共通しているのは、第1に専修・各種学校での実施率が40~50%台に達しており、ソフトウェア業や情報処理・サービス業における実施率に比べてかなり高くなっていることである。第2は対面型講義を実施する事業者の中で最も多数を占めるソフトウェア業での実施率が、「ソフトウェア・アプリケーション」分野を除いては集計を行った3業種中最も低く、実施率そのものの数字もさほど高くない点である。

図表1 業種別の実施率に大きな差が見られる対面型講義の分野

図表1画像

  1. 受講費用に対する支援策を活用した受講者の比率を、勤務先の従業員規模別に集計したところ、従業員9人以下の企業に勤務している受講者は、受講費用に対する支援策を「利用していない」比率が55.0%と、全体に比べて20ポイント以上上昇する。勤務先が10~29人規模の回答者も「利用していない」比率が全体に比べて10ポイント近く高い。従業員の教育訓練に対する財政的支援が相対的に得られにくい小零細企業の現状から影響を受けていると言えよう。また雇用形態別の違いも大きい(図表2)。

図表2 受講費用に対する支援の有無
(複数回答、回答者全体、年齢別、勤務先規模別、雇用形態別)

図表2画像

政策的インプリケーション

  1. 現状、IT関連の教育訓練に取り組んでいる事業者は回答事業者の6.5%で、今後関わっていきたいと考える事業者は22.4%なので、IT関連の教育訓練のプロバイダーは、その裾野を今後広げていく可能性はある。ただ一方で、現状は小規模事業者による参入はより困難であると考えられ、裾野をより円滑に拡大していくためには、事業者に対する支援(直接的支援、あるいは教育訓練給付金制度を通じた支援)や、共同事業体(コンソーシアム)形式によるプロバイダー運営の推進、などといった施策が求められるだろう。
  2. ITSSレベルの観点からみると、現在行われているIT関連教育訓練はレベル1・2といった、より低いレベルのものが多数を占めており、レベルが高くなるほど実施する事業者が少数になっていく。この結果からは、現状ではレベルの高い教育訓練は受講者がより少なく経済的な採算が合わないことが推測され、より高度なレベルのIT教育訓練に対するニーズが高まるまでのつなぎとして、今以上に積極的にITSSレベル3・4相当の教育訓練を支援する必要がある。また、ITSSレベル5以上のスキルを養成する訓練機関は、より公営に近い形で運営する方が望ましいと考えられる。
  3. 小零細企業の勤務者や、正社員以外の雇用形態で働く勤労者は、IT関連教育訓練の受講にあたって、勤務先からの金銭的支援を受けていない傾向がより強い。一方で、これらの勤務者・勤労者は教育訓練給付制度を利用する傾向は強まるが、勤務先からの支援の不足を補うほど十分に活用しているとは言えず、結果として受講にあたって金銭的支援を受けない傾向がより強い。

    こうした勤務者・勤労者に対する、教育訓練給付制度のより一層の周知や、あるいは給付の増額による利用の拡大などを図る必要がある。

政策への貢献

民間教育訓練プロバイダーの活動に対する支援や指導にあたっての基礎的資料として活用される予定。

本文

全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「多様なニーズに対応した職業能力開発に関する研究」
サブテーマ「職業能力開発インフラと生産性向上に向けた人材の育成に関する研究」

研究期間

平成29~30年度

研究担当者

藤本 真
労働政策研究・研修機構 主任研究員

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