調査シリーズNo.170
非正規労働者の組織化とその効果
―アンケート調査による分析―

平成29年3月31日

概要

研究の目的

本研究の目的は、非正規労働者を組織化した労働組合が、組織化後に、非正規労働者(組合員)に対して、どのような取組を行い、どのような成果をもたらすかを明らかにする。

研究の方法

本研究では、2016年7月から10月まで実施した『非正規労働者の処遇改善の実態に関するアンケート調査』に基づく観察事実の整理と分析を行う。有効回答数は3,227であり、回収率は約15.0%である。

主な事実発見

本研究の主な事実発見は、3点である。以下では、労働組合に加入した非正規労働者を非正規組合員と呼び、組合のタイプは図表1の通りとする。

第1に、非正規労働者の組織化の背景である。その背景について、非正規労働者比率(非正規労働者が従業員全体に占める割合)と組織化の対象となる非正規労働者の業務内容の2つの側面から見ると、非正規労働者比率が高い事業所(企業)であるほど、組織化される可能性が高く、組織化の対象となる非正規労働者は、より正社員に近い仕事を担当する非正規労働者である可能性が高いことがわかった。前者は、非正規労働者の量的な重要性(量的基幹化)であり、後者は、非正規労働者の質的な重要性(質的基幹化)を示す。ただし組織化の理由には、非正規労働者の基幹化以外に、①非正規労働者の労働条件の向上、②非正規労働者の雇用の維持、③正社員と非正規労働者のコミュニケーションの向上もあり、組織化の背景を基幹化だけで説明するのは困難である。

第2に、組織化が進む余地である。未組織組合の中には、組織化を検討している組合(未組織・組織化検討中組合)が存在するほか、非正規労働者を組織化した組合(組織化組合)の3割程度が更なる組織化を検討している。他方で、未組織組合で組織化の取組を行っていない組合(未組織・組織化未実施組合)の多くは組織化を検討しないと回答している。今後、非正規労働者の組織化がどの程度進展を見せるかは、未組織組合の多くが組織化の必要性を認識し、取り組むかにかかっている。

第3は、組織化の効果である。労働組合は、非正規労働者を組織化すると、多様なチャンネルを通じて、非正規組合員の意見を収集したり、彼(彼女)らの処遇改善を実現する等、非正規組合員のため活動を行ったりする。補章では、傾向スコア・マッチング法を用いて、非正規労働者を組織化することによる非正規労働者の処遇改善効果を検証している。組織化によって、非正規労働者の処遇改善が実現される割合が高まる可能性があることが明らかとなった。労働組合は、非正規労働者の組織化を通し、その発言機構(組合員の意見を代弁する組織)としての機能を果たし得る。

図表1 組合のタイプ

図表1画像

政策的インプリケーション

本報告書の政策的インプリケーションは、労働組合が非正規労働者を組織化すると、労働組合は正社員組合員と非正規組合員の利害を調整し、「組織内の均衡処遇」を実現する可能性があるということである。

労働組合が正社員と非正規労働者の賃金格差に対して、どのような方針を持っているかを見ると(図表2)、非正規労働者を組織化した組合は、両者の賃金格差を縮める必要性を感じているのに対し、未組織組合は、両者の賃金格差を容認するか、その方針を決めていない。こうした意識の差は、労働組合が正社員と非正規労働者間の賃金格差を是正する取組を行うか否かにつながると考えられる。

そのうえで、正社員と非正規労働者の賃金格差を是正するための取組の1つとして、正社員と非正規労働者の賃金制度を公開することがあげられる。正社員と非正規労働者間の適切な賃金格差を設定する(均衡処遇の実現)には、両者の仕事と賃金制度の違いを理解する必要があるからである。

正社員と非正規労働者の賃金制度の公開状況を見ると、組織化・非正規組合員存在組合は、正社員と非正規労働者の賃金制度について、非正規労働者を含め、広く従業員や組合員に公開している。逆に、未組織組合では、正社員の賃金制度については、正社員のみに開示する割合が高く、非正規労働者の賃金制度については、開示していない割合が高い。

これらの調査結果を踏まえると、労働組合は非正規労働者の組織化を通じて、正社員と非正規労働者の賃金格差の是正を組合の方針に組み込み、両者の賃金制度に関する情報共有を促す。そして、非正規労働者の処遇改善が行われる過程において、組織内で「適切な」処遇格差のありようを議論することにつながっていくものと考えられる。その先にあるのは、「組織内の均衡処遇」の実現ではないだろうか。

図表2 正社員と非正規労働者の賃金格差に対する方針

図表2画像

政策への貢献

非正規労働者の処遇改善ならびに今後の集団的労使関係のありようを模索する際の判断材料となる。

本文

お詫びと訂正(2022年11月30日)

本報告書の第Ⅱ部付属資料327ページ記載の「Q35非正規労働者への意見収集の対応結果」の表(PDF:1.6MB)において、本来掲載すべき数値とは別の数値が掲載されていました。お詫びして訂正いたします。なおHP掲載の本文には、訂正を反映しております。

全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「非正規労働者施策等戦略的労働・雇用政策のあり方に関する調査研究」
サブテーマ「正規・非正規の多様な働き方に関する調査研究」

研究期間

平成28年度

執筆担当者

前浦 穂高
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
中野 諭
労働政策研究・研修機構 副主任研究員

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