労働政策研究報告書No.237
労働局あっせんにおける解雇型雇用終了事案の分析
概要
研究の目的
解雇無効時の金銭救済制度について、令和4年4月より労働政策審議会労働条件分科会における審議が始まり、今日まで審議が続けられているところであるが、同分科会における審議に資するため、厚生労働省からの要請に基づき、労働局あっせん事案について調査を行った。
研究の方法
令和5年度内に4労働局で処理が完結したあっせん事案のうち、解雇型雇用終了事案に該当する485件を対象として、あっせん制度運営関係では申請人、あっせん終了区分、制度利用期間、解決期間及び弁護士・社会保険労務士の利用の状況について、労働者の属性では労働者の性別、年齢、雇用形態、賃金形態、勤続期間、賃金月額、賃金形態別賃金額、職種及び役職について、企業の属性では企業の業種、企業規模(従業員数)及び労働組合の有無について、事案の内容では雇用終了形態及び雇用終了事由について、請求関係では請求事項及び請求金額について、解決関係では解決内容、解決金額、月収表示の解決金額、勤続期間当たりの解決金額及び勤続期間当たりの月収表示の解決金額について、集計分析している。さらに、これら諸項目と解決金額とのクロス集計、月収表示の解決金額とのクロス集計、その他のクロス集計を行い、労働局あっせんにおける解雇型雇用終了事案の全体像を浮かび上がらせている。
主な事実発見
- あっせん制度運営関係
(1) あっせん終了区分
全485件中、合意成立は180件(37.1%)、被申請人の不参加は207件(42.7%)である。
(2) 制度利用期間
あっせん申請した日から終了した日までの期間は、合意成立事案180件中、2-3月未満が85件(47.2%)と最多で、1-2月未満は75件(41.7%)でこれに次ぐ。
(3) 解決期間
雇用終了日からあっせん終了日までの期間は、合意成立事案180件中、3-6月未満が74件(41.1%)と最多で、2-3月未満が44件(24.4%)でこれに次ぐ。
- 労働者の属性
(1) 性別
男性に係る案件が212件(45.4%)、女性に係る案件が255件(54.6%)であり、2008年度調査、2012年度調査では男性の方が多かったので逆転している。
(2) 年齢
年齢が判明した事案のうち、60代が35件(27.8%)、50代が29件(23.0%)と中高年齢層が多い。
(3) 雇用形態
直用非正規が254件(52.4%)と過半数を占め、正社員は159件(32.8%)、派遣が65件(13.4%)であり、2008年度調査、2012年度調査では正社員が過半数を超えていたので逆転している。
(4) 賃金形態
月給が218件(53.8%)と過半数を占め、時給は157件(38.8%)であり、日給は18件(4.4%)、年俸は8件(2.0%)に過ぎない。
(5) 勤続期間
1-6月未満が152件(31.4%)と3分の1近くを占め、1月未満の75件(15.5%)、6月-1年未満の69件(14.3%)と、1年未満の短期勤続者が6割強に及ぶ。2012年度よりほぼ半分に短縮している。
(6) 賃金月額
20-30万円未満が171件(42.2%)と最多で、10-20万円未満が77件(19.0%)とこれに次ぐ。2012年度は10-20万円未満が最多であったので上昇している。中央値は23.0万円である。
(7) 職種
事務従事者が115件(25.4%)と最多で、専門的・技術的職業従事者が80件(17.7%)、サービス職業従事者が79件(17.4%)、販売従事者が61件(13.5%)と続く。ブルーカラー系は2割以下である。
- 企業の属性
(1) 企業の業種
医療・福祉が74件(16.4%)、卸売・小売業が57件(12.7%)と多く、製造業は40件(8.9%)に過ぎない。
(2) 企業規模(従業員数)
10-50人未満が98件(22.1%)、100-300人未満が86件(19.4%)、10人未満が81件(18.2%)であり、中央値は70人である。
(3) 労働組合の有無
労働組合の存在する企業が59件(13.1%)、存在しない企業が390件(86.9%)である。
- 事案の内容
(1) 雇用終了形態
雇用終了の法形式的な分類で見ると、普通解雇が249件(51.3%)と過半数を占め、雇止めが163件(33.6%)と約3分の1で、整理解雇は25件(5.2%)、懲戒解雇は20件(4.1%)と少ない。
(2) 雇用終了事由
使用者が雇用終了するに至った理由を見ると、労働者の行為が263件(54.2%)と過半数を占め、労働者の能力・属性は122件(25.2%)であり、経営上の理由は66件(13.6%)に過ぎない。
- 請求事項と請求金額
(1) 請求事項
金銭のみを請求するものが401件(83.0%)で最も多く、次いで金銭又は復職を求めるものが58件(12.0%)で、復職のみ請求は12件(2.5%)、金銭及び復職を請求は11件(2.3%)と少ない。
(2) 請求金額
50-100万円未満が124件(27.3%)、50万円未満が109件(24.0%)、100-200万円未満が98件(21.5%)であり、中央値は90.3万円である。
- 解決内容と解決金額
(1) 解決内容
合意成立事案180件中、復職は2件(1.1%)に過ぎず、復職せずが178件(98.9%)と大部分である。
(2) 解決金額
10-20万円未満が40件(22.3%)、20-30万円未満が32件(17.9%)、30-40万円未満と50-100万円未満がいずれも24件(13.4%)であり、中央値は23.5万円である。
図表1 労働局あっせんにおける解決金額
件数
%
5万円未満
14
7.8
5-10万円未満
16
8.9
10-20万円未満
40
22.3
20-30万円未満
32
17.9
30-40万円未満
24
13.4
40-50万円未満
11
6.1
50-100万円未満
24
13.4
100-200万円未満
10
5.6
200-300万円未満
4
2.2
300-500万円未満
2
1.1
500-1,000万円未満
2
1.1
1,000-2,000万円未満
-
-
2,000-3,000万円未満
-
-
3,000-5,000万円未満
-
-
5,000万円以上
-
-
合計
179
100.0
中央値(万円)
23.5
第1四分位(万円)
10.0
第3四分位(万円)
45.7
(3) 月収表示の解決金額
解決金額を賃金月額で除した月収表示の解決金額を見ると、1月分未満が66件(38.8%)、1-2月分未満が54件(31.8%)で、この両者で7割を超える。中央値は1.03月分である。
図表2 労働局あっせんにおける月収表示の解決金額
件数
%
1月分未満
66
38.8
1-2月分未満
54
31.8
2-3月分未満
22
12.9
3-4月分未満
8
4.7
4-5月分未満
5
2.9
5-6月分未満
3
1.8
6-9月分未満
9
5.3
9-12月分未満
-
-
12-18月分未満
2
1.2
18-24月分未満
-
-
24-36月分未満
-
-
36月分以上
1
0.6
合計
170
100.0
中央値(月分)
1.03
第1四分位(月分)
0.57
第3四分位(月分)
2.14
政策的インプリケーション
労働政策審議会労働条件分科会における審議の素材となる。
政策への貢献
第205回労働政策審議会労働条件分科会(令和7年11月18日)において厚生労働省事務局より概要を報告。
本文
研究の区分
プロジェクト研究「多様な働き方とルールに関する研究」
サブテーマ「多様な/新たな働き方と労働法政策に関する研究」
研究期間
令和6~7年度
執筆担当者
- 濱口 桂一郎
- 労働政策研究・研修機構 研究所長
関連の研究成果
- 労働政策研究報告書No.123『個別労働関係紛争処理事案の内容分析―雇用終了、いじめ・嫌がらせ、労働条件引き下げ及び三者間労務提供関係』(2010年)
- 労働政策研究報告書No.174『労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析』(2015年)
- 労働政策研究報告書No.226『労働審判及び裁判上の和解における雇用終了事案の比較分析』(2023年)
- 調査シリーズNo.244『解雇等無効判決後における復職状況等に関する調査』(2024年)
- 調査シリーズNo.260『解雇等に関する労働者意識調査』(2025年)
- (近刊)労働政策研究報告書『諸外国における解雇の金銭解決制度に関する有識者等に対するヒアリング調査(仮)』(2026年)
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