労働政策研究報告書No.233
キャリアコンサルティングの有用度及びニーズに関する調査

2025年3月31日

概要

研究の目的

平成28年のキャリアコンサルタント登録制度の創設後、キャリアコンサルタント登録者数は概ね着実に推移している。また、各種の規定(信用失墜行為の禁止義務、守秘義務、名称の使用制限)が整備されることによって、キャリアコンサルタント及びキャリアコンサルティングに対する信頼性は向上し、企業や労働者からの期待も高まっている。特に、昨今の日本の社会経済状況をふまえて政府から出される各種のガイドライン・指針等では、キャリアコンサルティングに大きな期待が寄せられている。

しかしながら、これら各方面からの大きな期待に、キャリアコンサルティングは必ずしも十分に応えられていないのではないかという懸念も指摘されてきた。そのためキャリアコンサルティングは継続的に新たな視点から見直していく必要に迫られてきた。

本研究では、以上のような問題意識から、キャリアコンサルティングの有用度及びニーズについて幅広く検討を行うことを目的として大規模な調査を実施し、その結果をとりまとめた。こうした振り返りの作業を通じて、多様化する役割を担う新たなキャリアコンサルティング・キャリアコンサルタントのあり方を模索した。

研究の方法

① 調査方法:
調査会社のモニターを利用したインターネット調査とし、下記割り当ての調査対象を収集した時点で調査を終了することとした。
② 実施時期:
2023年8月
③ 調査対象:
20~50代の11,820名(就労者9,900名、非就労者1,920名)に調査を実施した。その際、本調査では、20代前半・20代後半・30代前半・30代後半・40代前半・40代後半・50代前半・50代後半×男性・女性の16セルを設定し、各セルに400~900名を割り付けた。年代性別の割り付けは、総務省統計局「2023年度労働力調査」(基本集計)の比率に応じた。各セルの割り付けを満たした時点で調査を終了した。

主な事実発見

  1. キャリアコンサルティング経験者にキャリアコンサルティングの有用度をたずねた結果、① 約6割が相談したことによりキャリアや職業生活が変化したと回答した。② 具体的な変化としては「将来のことがはっきりした」「就職できた」「仕事を変わった」が多かった。③ 相談が「とても役立った」と「やや役立った」の合計、今後もキャリアコンサルティングを「受けたい」と「どちらかと言えば受けたい」の合計のいずれも5割前後であった。以上の結果から、キャリアコンサルティング経験者にとって相談の経験は、ある程度まで有用であったと受け止められていることが示される(図表1)。

    図表1 キャリアコンサルティング経験者の「あなたのキャリアや職業生活は変化しましたか」に対する回答

    図表1画像:キャリアコンサルティング経験者に「あなたのキャリアや職業生活は変化しましたか」と質問した回答結果。変化したが約6割、具体的な変化は「将来のことがはっきりした」「就職できた」「仕事を変わった」が多かった。

  2. キャリアコンサルティング未経験者に「職業生活や職場の問題についてキャリアコンサルタントまたはその他の専門家に相談したいと思いますか」と質問した結果、「相談したい」は2.6%、「どちらかと言えば、相談したい」は12.4%であり、合計で15.0%であった。一方、キャリアコンサルティング経験者に「今後も機会があれば、キャリアコンサルティングを受けたいと思いますか」と質問した結果、「今後も受けたい」は18.8%、「どちらかと言えば今後も受けたい」は29.4%であり、合計で48.2%であった。以上の結果から、過去にキャリアコンサルティング経験がある者は再びキャリアコンサルティングを受けたいという意向が高いことが示される(図表2)。なお、キャリアコンサルティング未経験者の相談を受けたいという意向はキャリアコンサルティングの認知度と密接な関連が示されており、キャリアコンサルティングの認知度が高いほど相談を受けたいという思いが高いことが示される(図表3)。

    図表2 キャリアコンサルティング未経験者の相談意向と経験者の相談意向

    キャリアコンサルティング未経験者の相談意向 度数
    相談したい 220 2.6
    どちらかと言えば、相談したい 1037 12.4
    どちらとも言えない 3276 39.1
    どちらかと言えば、相談したくない 1153 13.8
    相談したくない 2682 32.1
    合計 8368 100.0
    キャリアコンサルティング経験者の相談意向 度数
    今後も受けたい 330 18.8
    どちらかと言えば今後も受けたい 516 29.4
    どちらとも言えない 623 35.5
    どちらかと言えば今後は受けたくない 240 13.7
    今後は受けたくない 45 2.6
    合計 1754 100.0

    図表3 キャリアコンサルティング未経験者の相談意向とキャリアコンサルティングの認知度の関連

    図表3画像:キャリアコンサルティング未経験者の相談意向はキャリアコンサルティングの認知度と密接な関連が示されており、キャリアコンサルティングの認知度が高いほど相談意向が高い。

  3. キャリアコンサルタント等のキャリアに関する相談の専門家への相談経験の有無別に「現在の職業生活やキャリアに対する満足感」を示した。相談経験の有無以外の要因を均一にする傾向スコアマッチングの手法を用いて検討を行った結果、職業生活に対して「かなり満足している+やや満足している」割合は、専門家に相談経験ありでは54.8%である一方、専門家に相談経験なしでは33.9%であった。参考として2016年調査の別のデータでも同様の分析を行った結果、専門家に相談経験ありの方が値が大きかった。専門家への相談経験がある方が、概して、現在の職業生活やキャリアに対する満足感が高いことが示される。

    図表4 専門家への相談経験の有無別の現在の職業生活やキャリアに対する満足感

    図表4画像:専門家への相談経験がある方が、概して、現在の職業生活やキャリアに対する満足感が高い

政策的インプリケーション

キャリアコンサルティングを経験したことがある者には、一定程度まで、キャリアコンサルティングの有用度が感じられているが、キャリアコンサルティングの経験のない者では概してキャリアコンサルティングを受けたいと思う人は多くない。背景には、キャリアコンサルティングの認知度の低さがあり、認知度が高い場合には相談を受けたいという意向も高いことから、今後もキャリアコンサルティング及びキャリア形成に対する積極的な啓発普及が求められる。なお、キャリアコンサルタントのようなキャリアに関する相談の専門家への相談の経験者は、その後の職業生活やキャリアに対する満足感が高いという結果が、過去の調査に引き続いて見られており、改めてキャリアコンサルティングの有用性について示唆を与える。

政策への貢献

厚生労働省における「キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会」他の各種キャリア形成支援に係る会議・研究会等で資料として活用予定。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「職業構造・キャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「キャリア形成・相談支援・支援ツール開発に関する研究」
課題研究「企業で働く労働者におけるキャリアコンサルティングのニーズ及び有用度に関する調査」

研究期間

令和5~6年度

執筆担当者

下村 英雄
労働政策研究・研修機構 統括研究員

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研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

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