労働政策研究報告書No.227
第2回キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査

2023年6月21日

概要

研究の目的

日本のキャリアコンサルタント登録制度は平成28年に創設され、その後、登録者数は順調に推移している。令和4年度末で制度創設後7年を迎え、キャリアコンサルタント登録者数は6万人を超えたが、更なる制度の推進を図るため、随時、継続的にその活動状況等を調査し、今後の登録制度や関連施策のあり方を検討する必要がある。

特に、これまでキャリアコンサルタントを対象とした調査は過去に4回実施され、経年比較が行われた。その結果、キャリアコンサルタントの高齢化、キャリアコンサルティングの需給調整機関領域から企業領域への相対的な転換、キャリアコンサルティングの認知度及び周知等の課題が明らかになった。しかし、その後、前回調査から5年以上が経過しており、その間の実態把握は十分に行われていない。

そこで本研究では、過去4回の調査と質問項目の内容をあわせて調査を実施し、キャリアコンサルティング・キャリアコンサルタントの実態をより詳しく把握することを企図した。特に、経年比較による長期的な傾向が観察されるのか、また異なる変化が見られるのかについて検討することを目的とした。

研究の方法

調査対象:
特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会(以下、協議会)に2022年6月3日時点で登録済みのキャリアコンサルタント(以下、登録者)のうち、協議会が登録者に提供しているメールニューズサービスに登録している者58,748名。
調査方法:
登録者に対して、上記メールニューズサービスを通じて、専用調査用サイトのリンク先を連絡。登録者は当該サイト上で調査に回答。
実施時期:
2022年7~8月(7月21日調査票発送、8月5日締切。当日到着分までを回収)。
回収数・回収率:
回収数7,586通、回収率12.9%。
調査項目:
過去4回の調査との経年比較が可能なように調査項目を作成。

①キャリアコンサルタントの基本属性(性別、年齢、居住地、専門分野他)

②キャリアコンサルタントの就労状況(就労先の有無、就労先の職種・規模・役職他)

③キャリアコンサルタントの活動内容(専業・兼業、具体的な活動内容・相談内容他)

④キャリアコンサルタントとして活動していない理由(活動場所がない者に対する設問)

⑤キャリアコンサルタントのフリーランスとしての活動実態(仕事の獲得方法他)

⑥キャリアコンサルタント自身のキャリア形成(学歴・職歴・職業経験他)

⑦キャリアコンサルタントとしての意識(満足感、課題、今後の新たな活動他)

⑧キャリアコンサルタント登録制度等に対する自由記述 等

主な事実発見

1.過去4回の調査結果との経年変化(概要)

過去4回の調査結果との比較を通じて、この約15年におけるキャリアコンサルタントの活動状況の変化を捉えた。図表1には、経年変化の概要をまとめた。

図表1 経年変化の結果のまとめ

この約15年におけるキャリアコンサルタントの活動状況の経年変化の概要を示した。
年齢 30~40代が大きく減少し、50代がピークとなり、60代以上が増加するなど、高齢化の傾向が顕著だった。特に、男性では60代以上が増加し、女性では2006年に40代にあったピークが50代にシフトした。
性別 2013年以降、女性が6割、男性が4割という傾向は継続しており、直近5年間でその傾向がやや強まった。なお、性別・年齢は「50代女性」「40代女性」「50代男性」「60代男性」の順に多く、この性別・年齢で7割を占める。
活動地域 活動地域は直近5年間で東京・愛知が増加、大阪で減少したが、国勢調査との比較では、東京、愛知、京都、大阪で人口比に対するキャリアコンサルタントの人数が多い。
活動の有無 2006年から2013年まで活動している割合は増加していたが、2013年以降、活動している割合は減少に転じ、現在、約3割が活動していない。
主な活動の場 ①需給調整機関領域は2006年には約5割だったが現在約2割と一貫して減少。②企業領域は2006年には2割強だったが現在約4割と一貫して増加。③学校領域、地域・福祉領域、その他は微増。概して、2006年から2022年に至る16年間で需給調整機関領域から企業領域への転換が顕著だった。
専任・兼任の状況 専任・専業は約4割、兼任・兼業は約6割だが、直近でこの傾向は変わらなかった。
業種 「職業紹介・労働者派遣業」が含まれる「その他のサービス業」及び「教育、学習支援業」で、2006年以降一貫して減少傾向がみられた。
資格取得の目的 直近5年間で「専門能力を高めるため」「仕事上必要だったため」が減少し、「職業人生の将来に備えるため」「定年後経験を活かして社会貢献するため」が増加していた。
関連資格の有無 関連資格では「教員免許」「心理相談員」が減少し、「衛生管理者」「ファイナンシャル・プランナー」が増加した。
就業状況・就労形態 正規雇用は2006年から2010年に4割を超えていたが2013年にいったん激減した後、増加に転じ、直近では5割を超えている。
活動状況 毎日活動している割合は減少し、活動していない割合が増加した。ただし、民間需給調整機関及び地域領域ではほぼ毎日活動している割合が増加した。
年収 直近5年間でキャリアコンサルタントの年収は若干増加した。
主な相談内容 就職・転職活動や履歴書・エントリーシートの書き方等の相談内容が減少し、現在の仕事内容、企業内の異動希望、今後の生活設計・能力開発・キャリアプラン等の相談内容が増加した。
最も困難な相談内容 調査によって増減はあるが、従来と変わらず、メンタルヘルス、発達障害、職場の人間関係が最も困難な相談内容だった。
キャリアコンサルティングを行う上での課題 従来と変わらず、自分自身の力量、キャリアコンサルティングの認知度、相談を行う環境の未整備などが挙がった。処遇面の不十分さが課題と認識される割合は減少していた。
2017年と2022年の直近の比較 ①「キャリアコンサルティングに関連する活動」以外だけで生計を立てている割合が増えた。②キャリアコンサルティングの活動に対する満足感及びキャリアコンサルタント資格が役立っている感覚は減少した。③キャリアコンサルティングの仕事に従事する割合が減り、人事・総務・事務・管理の職務の割合が増加した。④概して大企業に勤務する割合が増加した。

2.主な活動の場の変化

上述の経年変化のうち、図表2には「主な活動の場」の変化を示した。2006年以降、現在に至るまで「需給調整機関領域」が減少し、「企業領域」が増加、「学校領域」「地域・福祉領域」「その他」が微増していることが示される。

図表2 各調査におけるキャリアコンサルタントの主な活動の場

キャリアコンサルタントの主な活動の場は、2006年以降、現在に至るまで「需給調整機関領域」が減少し、「企業領域」が増加している。
  2006年 n=2254 2010年 n=2377 2013年 n=3051 2017年 n=2783 2022年 n=5885
需給調整機関領域 47.9% 41.3% 38.5% 23.8% 20.5%
企業領域 24.2% 28.4% 26.9% 40.2% 41.7%
学校領域 15.8% 17.5% 21.1% 20.2% 20.6%
地域・福祉領域 6.8% 6.4% 7.5% 6.1% 10.7%
その他 5.3% 6.4% 6.0% 9.7% 6.5%

図表2画像

3.最も多い相談内容、対応が難しい相談内容

直近1年間に個人に対して行ったキャリアコンサルティングの相談活動で最も多い相談内容は「現在の仕事・職務内容」(40.4%)であり、以下、「就職・転職活動の進め方」(37.8%)、「今後の生活設計、能力開発計画、キャリア・プラン等」(37.0%)が続いていた。「現在の仕事・職務内容」は前回調査(2017年)では31.8%の第4位であったのが、今回第1位となった。

また、最も対応が難しい相談内容は「発達障害に関すること」(20.5%)であり、以下、「メンタルヘルスに関すること」(17.7%)、「職場の人間関係」(13.3%)が続いていた。

図表3 「多い相談」(複数回答)と「難しい相談」(単一回答)

直近1年間のキャリアコンサルタントの相談活動で最も多かった相談内容は「現在の仕事・職務内容」だった。最も対応が難しい相談内容は「発達障害に関すること」だった。
  多い相談 (上位3つ) 対応が難しい相談
n %
現在の仕事・職務の内容 2152 40.4% 143 2.7%
今後の生活設計、能力開発計画、キャリア・プラン等 1974 37.0% 424 8.0%
企業内の異動希望等 490 9.2% 198 3.7%
職場の人間関係 1554 29.1% 708 13.3%
部下の育成・キャリア形成 585 11.0% 128 2.4%
就職・転職活動の進め方 2017 37.8% 272 5.1%
将来設計・進路選択 809 15.2% 234 4.4%
過去の経験の棚卸し、振り返り等 797 14.9% 61 1.1%
履歴書やエントリーシートの書き方・添削等 1644 30.8% 89 1.7%
職業適性・自己分析 762 14.3% 180 3.4%
面接の受け方 939 17.6% 48 0.9%
個人的な生活面に関すること (家庭生活や人間関係など) 484 9.1% 388 7.3%
学生生活に関すること(授業やゼミの選択など) 112 2.1% 57 1.1%
メンタルヘルスに関すること 700 13.1% 946 17.7%
発達障害に関すること 310 5.8% 1093 20.5%
その他 100 1.9% 173 3.2%
個人に対する相談は行わなかった 190 3.6% 191 3.6%
全体 5333 100.0% 5333 100.0%

※上位3個所に網掛けを付した。

政策的インプリケーション

1.キャリアコンサルタントの高齢化について

本調査の結果、キャリアコンサルタントは50代が中心であること、60代以上が増加し、30~40代の減少が著しいことが示された。キャリアコンサルタントの高齢化は、前回調査で指摘されていたが、その傾向はさらに強まっていた。職業経験・人生経験が豊富な中高年がキャリアコンサルタント資格を取得することは望ましい一方、20~30代で資格を取得し、キャリアコンサルタントとして実務経験を積むプロパーのキャリアコンサルタントが一定割合で存在することが望まれる。海外では、大学・大学院等の高等教育段階でキャリア支援者を養成する取り組みをしているケースもある。若い年齢層のキャリアコンサルタント養成の方策の1つとして念頭に置きたい。

2.キャリアコンサルタントのIT及びデジタル分野への対応について

キャリアコンサルタントに中高年層が多い点と関連して、年齢が高いほどキャリアコンサルティングに関する活動において各種オンラインのツールを用いる比率が低いことが示された。こうした結果を踏まえると、成長産業と目されているIT及びデジタル分野への対応が難しいという課題を指摘しうる。キャリアコンサルタントのIT及びデジタル分野への対応は喫緊の課題であり、この分野に対する理解を深める必要がある。また、IT及びデジタル分野に限らず、様々な産業・業界の動向を常にアップデートし、主要な職業の仕事理解に注力することはキャリアコンサルタントとして極めて重要な取り組みである。特に、コロナ禍を経て、オンライン相談等への対応は不可欠となっている。海外でも、現在、最も論じられているトピックはキャリア支援のオンライン化・ICT化及びそのためのキャリア支援人材のITスキルの向上である。日本でも、実践・理論の両面から従来以上に取り組んでいく必要がある。

3.キャリアコンサルタント自身のキャリア形成について

本調査の結果から、キャリアコンサルタントは更新講習の他、様々な機会を見つけ、継続学習に励んでいる一方、未だその力量は十分ではないと感じている者も多いことが示された。その原因の1つとして、資格取得後、実際の相談機会に恵まれず、場数を踏んでスキル形成を行っていくことができていないキャリアコンサルタントがいるという課題がある。指導(スーパービジョン)も組み合わせつつ、何らかの形で試行的な相談経験の機会の確保、特に、インターンシップなどのより現実の相談場面に近い形での実習等が求められる。

4.キャリアコンサルタントの活動領域について

現在、キャリアコンサルタントの約4割が企業領域で活動しており、この15年で、需給調整機関領域から企業領域へと大きくシフトしていた。また、この活動領域のシフトに伴い、相談内容においても、内部労働市場に対応するキャリアコンサルティングが拡大し、その裏返しで、就職や転職などの相談を扱う外部労働市場におけるキャリアコンサルティングの相対的な縮小が起きていることが本調査の結果から示された。キャリア形成・学び直し支援センターの拡充などの労働者個々人の学び・学び直しの支援が重視されており、企業を通じたキャリア支援から、個人の主体的なキャリア形成の促進を支援する個人対象のキャリア支援施策へといった施策の展開も示されている。内部労働市場/外部労働市場におけるキャリア支援のバランスを適切に検討する必要がある。

政策への貢献

厚生労働省における「キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会」他の各種キャリア形成支援に係る会議・研究会等で資料として活用予定。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「職業構造・キャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「キャリア形成・相談支援・支援ツール開発に関する研究」

研究期間

令和4~5年度

執筆担当者

下村 英雄
労働政策研究・研修機構 副統括研究員
高橋 浩
ユースキャリア研究所 代表
前田 具美
特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会
新目 真紀
職業能力開発総合大学校能力開発院 教授

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