労働政策研究報告書No.226
労働審判及び裁判上の和解における雇用終了事案の比較分析
概要
研究の目的
解雇無効時の金銭救済制度について、厚生労働省「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」が令和4年4月に報告書を取りまとめ、同月より労働政策審議会労働条件政策分科会における審議が始まったところであるが、同分科会における審議に資するため、厚生労働省からの緊急調査依頼に基づき、平成26年にJILPTが実施した調査(平成調査)に倣って調査を行った。
研究の方法
令和2~3年の2年間に終局した労働審判の調停・審判事案、裁判上の和解事案、計1200件程度について、1地裁本庁内にて閲覧し、その場で調査項目についてデータ入力する。
そのデータをもとに、労働者の属性、企業の属性、時間的コスト、請求金額等請求内容、解決内容・金額等について分析するとともに、解決金額の決定に影響を及ぼす要因等について分析・考察する。
今回の調査対象
- 労働審判:
- 2020,2021年(暦年)に1地裁で調停又は審判(異議申立てがないものに限る。)で終局した労働審判事案(「金銭を目的とするもの以外・地位確認」)785件(平成調査は4地裁452件)。
- 裁判上の和解:
- 2020,2021年(暦年)に1地裁で和解で終局した労働関係民事訴訟事案(「金銭を目的とするもの以外・地位確認」282件(平成調査は4地裁193件)。
主な事実発見
1 労働者の属性
(1)性別
裁判上の和解では男性に係る案件が174件(61.7%)、女性に係る案件が108件(38.3%)であり、労働審判でも男性に係る案件が494件(62.9%)、女性に係る案件が291件(37.1%)と、いずれも男性6割強、女性4割弱という比率になっている。前回の平成調査との比較では、今回、女性比率が急激に上昇したことが分かる。
(2)勤続期間
平成調査と令和調査の間で最も大きな落差を示しているのが労働者の勤続期間である。このわずか7~8年の間に、裁判上の和解においても労働審判においても勤続期間はほぼ半減している。
(3)役職
平成調査と令和調査であまり大きな変化は観察できない。裁判上の和解ではいずれにおいても役職なしが8割弱であり、部長・工場長級が1割弱、課長・店長級が7%程度である。また労働審判においては、役職なしが9割弱から8割強へ若干減少し、その分部長・工場長級と課長・店長級が若干増えている。
(4)雇用形態
裁判上の和解、労働審判いずれも無期が8割弱と多数を占め、有期が2割弱であり、派遣は2%弱にとどまる。
(5)賃金月額
賃金月額の分布は、前回よりも若干上昇している。裁判上の和解においては、平成調査では20万円台が最も多かったが、令和調査では30万円台が最も多い。また労働審判においては、平成調査でも令和調査でも20万円台が最も多いことに変わりはないが、その前後の分布状況が大きく高額の方にシフトしている。
2 企業規模(従業員数)
裁判上の和解も労働審判も想像以上に中小零細企業の労働者が活用しているという事実が明らかになった。
3 時間的コスト
訴訟の提起や労働審判の申立から解決までの制度利用に係る期間は、前者の方が後者よりも相当長期にわたるという傾向は平成調査と令和調査で変わらない。しかしながらそのいずれにおいても、平成調査よりも令和調査においてやや長期化の傾向が見られる。
また、制度利用に係る期間の長期化に伴って、解決に要した期間も若干長期化の傾向が見られる。
4 請求金額
中央値で見た場合、裁判上の和解における総請求金額は約840万円であるのに対して、労働審判における総請求金額は約290万円である。
5 解決内容と解決金額
(1)解決内容
解決内容を雇用存続の有無と金銭解決の有無で見ると、裁判上の和解で272件(96.5%)、労働審判で758件(96.6%)と、いずれも96%以上が雇用存続せずに金銭解決しており、これが圧倒的大部分を占めている。
(2)解決金額
平成調査に比べて、令和調査では裁判上の和解と労働審判のいずれも解決金額がかなり上昇している。
件数 | % | |
---|---|---|
1-5万円未満 | - | - |
5万-10万円未満 | 2 | 0.7 |
10万-20万円未満 | 7 | 2.5 |
20万-30万円未満 | 4 | 1.5 |
30万-40万円未満 | 4 | 1.5 |
40万-50万円未満 | 2 | 0.7 |
50万-100万円未満 | 33 | 12 |
100万-200万円未満 | 54 | 19.6 |
200万-300万円未満 | 28 | 10.2 |
300万-500万円未満 | 54 | 19.6 |
500万-1000万円未満 | 45 | 16.4 |
1000万-2000万円未満 | 26 | 9.5 |
2000万-3000万円未満 | 6 | 2.2 |
3000万-5000万円未満 | 6 | 2.2 |
5000万円以上 | 4 | 1.5 |
計 | 275 | 100 |
平均値(円) | 6,134,219 | |
中央値(円) | 3,000,000 | |
第1四分位(円) | 1,200,000 | |
第3四分位(円) | 6,000,000 |
件数 | % | |
---|---|---|
1-5万円未満 | 1 | 0.1 |
5万-10万円未満 | 4 | 0.5 |
10万-20万円未満 | 13 | 1.7 |
20万-30万円未満 | 16 | 2.1 |
30万-40万円未満 | 23 | 3 |
40万-50万円未満 | 25 | 3.3 |
50万-100万円未満 | 149 | 19.6 |
100万-200万円未満 | 219 | 28.9 |
200万-300万円未満 | 109 | 14.4 |
300万-500万円未満 | 107 | 14.1 |
500万-1000万円未満 | 62 | 8.2 |
1000万-2000万円未満 | 19 | 2.5 |
2000万-3000万円未満 | 7 | 0.9 |
3000万-5000万円未満 | 3 | 0.4 |
5000万円以上 | 2 | 0.3 |
計 | 759 | 100 |
平均値(円) | 2,852,637 | |
中央値(円) | 1,500,000 | |
第1四分位(円) | 800,000 | |
第3四分位(円) | 3,000,000 |
政策的インプリケーション
労働政策審議会労働条件分科会における審議の素材となる。
政策への貢献
労働政策審議会労働条件分科会において厚生労働省事務局より報告。
本文
研究の区分
緊急調査
研究期間
令和3~4年度
研究担当者
- 濱口 桂一郎
- 労働政策研究・研修機構 研究所長
- 藤澤 美穂
- 労働政策研究・研修機構 統括研究員(研究当時)
※本報告書の執筆は、濱口が担当した。
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