労働政策研究報告書 No.204
再家族化する介護と仕事の両立
─2016年改正育児・介護休業法とその先の課題─

2020年3月30日

概要

研究の目的

2016年改正(2017年1月施行)の育児・介護休業法における仕事と介護の両立支援制度の改定を踏まえて、今後のさらなる仕事と介護の両立支援の課題を明らかにするため、介護離職や家族介護者の就業実態を調査する。

研究の方法

アンケート調査

調査対象:2000年4月以降に家族の介護を経験し、次の条件のいずれかに該当する男女

  1.  現在介護をしており、現在の年齢が20~69歳の者
  2.  すでに介護を終了しており、要介護状態終了時点の年齢が20~69歳の者

※同居だけでなく、別居や施設での介護も含む。

調査方法等

  1. 抽出:調査会社保有の登録モニターから、指定した回収条件を満たすようにサンプルを抽出し、指定した回収数になるまでモニターに回答依頼を行う。また、そのために対象者の属性を把握するスクリーニング調査を行う。
  2. 調査票の配付・回収:インターネットを使用してブラウザ等の画面で回答を得る。

回収数 4,000件

主な事実発見

  1. 【両立支援制度と働き方の離職抑制効果】法定の両立支援制度の相関関係をコントロールすると介護休業制度に有意な離職抑制効果がある。
  2. 【改正育児・介護休業法の浸透状況】改正法を知っている介護者は今後の就業継続見込みが高い。だが、改正法の認知割合は高いといえず、介護休暇や短時間勤務、所定外労働免除の制度理解が浸透しているとはいえない。
  3. 【介護への関わり方と勤務時間短縮ニーズ】短時間勤務や所定外労働免除の背景には、入浴・食事・排泄等の日常的介助を家族が担うことを望ましいとする意識がある(図表1)。だが、要介護者の自立を重視する意識の広がりが、そのニーズを下げている(図表2)。

    図表1 家族と外部の専門家の望ましい介護役割

    図表1画像

    図表2 要介護者とのかかわり方別 短時間勤務とその必要性の有無割合
    ―家族と外部の専門家の介護役割意識別―

    図表2画像

    家族主義:「すべて家族」「家族が中心」脱家族主義:「すべて専門家」「専門家中心」中立:「半分ずつ」

    献身的:不自由がないように何でも手助けする 自立重視:なるべく手助けしないで要介護者自身にさせる

  4. 【働く介護者のウェルビーイングと離職意向】現在就業している介護者の離職意向について「続けられない」という人と「わからない」という人は傾向が異なっており、「わからない」という人はうつ傾向があったり、相談相手がいなかったりという課題がある。
  5. 【配偶関係と就業継続見込み】有配偶者は要介護者との関係、家族・親族による相談、私生活を話せる職場の雰囲気が就業継続見込みに影響しているが、無配偶者は仕事の時間に合った介護サービスや、自分以外に同じ仕事を担当する人の有無が就業継続見込みに影響している。
  6. 【若年介護者の結婚問題】30代、40代での介護発生は女性の結婚確率を有意に低下させる。介護施設の利用は、女性のみならず、男性の結婚確率にもプラスで有意な影響を与えている。

政策的インプリケーション

仕事と介護の両立支援は、労働時間管理(休暇・休業、勤務時間短縮)や介護サービス(在宅、施設)、健康管理、経済的支援等のハードウェアと、上司・同僚や家族との人間関係、相談相手・情報提供元のようなソフトウェアに分けられる。介護離職を防止し、仕事と介護の両立を可能にするためには、ハードだけでなくソフトの支援も重要である。今後はシングル介護者の増加により、ハードの整備が一層切実になる。だが、人手不足や財政制約によってハードを拡充できない場合には、ハードとソフトをどのように組み合わせて効果的な支援ができるか、検討を重ねる必要がある。

政策への貢献

育児・介護休業法の見直し等、仕事と介護の両立支援政策を検討する上での基礎資料となりうる。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「働き方改革の中の労働者と企業の行動戦略に関する研究
サブテーマ「育児・介護期の就業とセーフティーネットに関する研究」

研究期間

平成29年~令和元年度

研究担当者

池田 心豪
労働政策研究・研修機構 主任研究員
新見 陽子
同志社大学 教授
山口 麻衣
ルーテル学院大学 教授
大風 薫
お茶の水女子大学 准教授
周 燕飛
労働政策研究・研修機構 主任研究員

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