労働政策研究報告書 No.186
労働力不足時代における高年齢者雇用

平成28年11月30日

概要

研究の目的

人口減少等に伴い労働力不足が深刻化する中で、高齢者がより一層活躍できる社会環境を整えていくことが極めて重要である。具体的には、60代前半層について、企業内における継続雇用が定着しつつある中で、一層の能力発揮、円滑な雇用管理などによる生産性の向上が重要になっているとともに、60代後半層以降については、将来における一層の人口減少、労働力不足も踏まえるならば、より一層の活躍が課題となっていると考えられる。

本研究は、JILPTがこれまで行ったアンケート調査等を活用しながら、これらの課題に対する解決策の方向性を探ることを目的としている。

研究の方法

これまでJILPTが行ってきた高年齢者雇用のアンケート調査等も踏まえ、外部の研究者も参画する「高年齢者の雇用に関する研究会」のメンバーが原稿を執筆し、同研究会における検討を経て、報告書のとりまとめを行った。

主な事実発見と政策的インプリケーション

第1章「高年齢者雇用の現状と課題」においては、高年齢者雇用をめぐる状況について述べるとともに、高年齢者の雇用・就業をめぐる課題として、「60代前半層を中心とした高年齢者の雇用の課題」、「60代後半層以降又は高年齢者全般の雇用の課題」、「高年齢者の活躍や関連施策の課題」に分けて課題を提起している。具体的には、「60代前半層を中心とした高年齢者の雇用の課題」は、65歳までの雇用が義務化された中で、従業員が納得して働き、高い生産性をあげることのできる雇用管理制度を検討していくことが課題としている。また、「60代後半層以降又は高年齢者全般の雇用の課題」は、人口減少社会が進展する中で、特に、65歳以降の継続雇用や就職促進による雇用拡大が最も重要な課題としている。さらに、「高年齢者の活躍や関連施策の課題」は、①多様な形態による高年齢者の活躍、②高年齢者の雇用と年金、③高年齢者の様々な活躍と健康・介護など、様々な課題が考えられるとしている。

第2章「60代前半継続雇用者の企業における役割と人事労務管理」においては、継続雇用者の定年後の配置のあり方について、①定年前後で仕事の内容を変えない「無変化型」、②定年前後で仕事の内容は変えないが、管理職から外すなど責任の重さを変える「責任変化型」、③定年前後で仕事の内容を変える「業務変化型」の3つの類型を設定し、人事労務管理の特徴を探った。

60代前半層の雇用確保をめぐる課題については、「無変化型」と他の2類型とで状況が大きく異なっていた。「無変化型」では60代前半層の雇用確保について課題を感じないという企業が少なくなかったのに対し、「責任変化型・業務変化型」では少数にとどまっていた。「責任変化型」では管理職についていた社員の扱いが、「業務変化型」では管理職についていた社員の扱いに加え、自社内に高年齢者が担当する仕事を確保することが、主要な課題となっていたとしている(図表1)。

導かれる一つの方向性としては、定年前後で仕事の内容を変えない無変化型の雇用管理が、他の2類型(責任変化型、業務変化型)に比べて、60代前半の雇用確保にあたっての課題を抑えられる可能性がより高いため、こうした無変化型の配置を実現できる企業を増やすことである。また、別の方向性としては、他の2類型(責任変化型、業務変化型)を実施する企業が直面しやすい、高年齢者向けの仕事の確保や管理職だった社員の扱いといった課題の解決につながるサポートを検討していくことも求められる。

図表1 60代前半層の雇用確保における課題(複数回答)

単位(%)

図表1画像

注.***<.001 **<.01 *<.05 (カイ二乗独立性検定)。

第3章「60代後半以降の雇用・就業と転職」では、以下の事実が明らかとなった。

①高年齢期の就業は、男性に限っていえば、中年期に比べてむしろ変化の激しい時期であり、65歳以降において就業している人は、何らかの転職を経験している場合が多い(図表2)。その際、正規雇用から短時間就業(パート)を中心とした多様な雇用形態への変化、大企業から中小企業へといったより規模の小さな企業への転職、サービスの仕事など従来と異なる職業への転換、といった変化が生じることが多い。

②転職に際しては、元の勤務先からの出向・転籍やあっせんによることもあるが、65歳以降の就業につながるものとしては、いわゆる自力での求職活動が重要となっている。その際、ハローワークの役割が大きいが、一方で、雇用形態や求められる仕事・役割に応じて、高年齢期の転職において多様なマッチング・ルートが活用されている。

また、老後の生活を支えるのに十分な蓄積ができていないと考えられる層(就業緊要高齢層)への就業促進を図る体制整備の重要性を指摘している。高年齢者の雇用促進を考える際、本人の生活状況も踏まえた対策が重要との新たな視点を提示している。

図表2 各年代における転職経験の有無別現在の就業状況(男性・65~69歳)

図表2画像

第4章「65歳以降も継続して働くことができる企業の規定要因の検討」では、65歳以降の就業継続の可否について分析し、50代で正社員の多くが離職している企業ほど65歳以降は希望者全員が就業可能となりやすいことが示唆された。この結果は、高年齢者雇用を考える際、単に60歳以降の継続雇用の状況を見るだけでなく、60歳以前の雇用状況を含めた高年齢者雇用の全体像の実態把握の必要性を示唆しているものと考えられる。また、従業員数が大規模で、正社員率が高く、60歳前後での賃金下落率が高い企業では、65歳以降の継続雇用が全員不可となりやすいとしており、これらの企業においては65歳以降も高年齢者を活用していくためには、賃金カーブを含めた雇用管理制度を抜本的に検討する必要があることを示唆している。

第5章「どのような企業が高年齢者の中途採用を実施しているのか」では、高年齢者の中途採用の状況について分析を行い、定年後の高年齢者も評価制度に基づき賃金を決めるのが望ましいとする企業ほど、正規労働者の中途採用を実施する可能性が高いという結論が得られた。今後、人手不足分野が拡大し、高年齢者の中途採用市場が活性化していくと思われるが、その前提として、評価制度に基づく賃金設定が重要との指摘は示唆に富むものである。

第6章「中高年齢者におけるNPO活動の継続意欲の決定要因分析」は、中高年者の各グループ(50~59歳、60~64歳、65歳以上)におけるNPO活動の継続意欲の決定要因に関する4つの仮説(人的資本活用仮説、消費モデル仮説、活動動機仮説、報酬要因仮説)を検証している。同章では、政策的インプリケーションとして、NPO活動を継続させるための提言(医療系資格取得者に対するNPO活動の支援、安定的な報酬制度の実施、中高年齢者に対する啓発、非勤労所得の低い層に対する支援)を行っており、高年齢者の様々な形態での活躍としてNPO活動を選択する場合の参考になると考えられる。

第7章「高齢者の就業と健康・介護」においては、60代の高年齢者を対象に、主観的健康感及び介護負担が高年齢者の就業を与える影響を分析するとともに、就業が主観的健康感に与える影響について分析している。政策的インプリケーションとして、①中高年齢者を対象とした健康増進を含めた幅広い生活支援が高年齢者の就業を促進する可能性がある、②介護者の負担を軽減させることが高年齢者の就業促進につながる可能性がある、③高年齢者の就業を促進する政策は高年齢者の健康増進にとって有効であることが示唆された。特に、高年齢者が健康であれば就業促進となるだけでなく、高年齢者の就業促進が高年齢者の健康増進にも役立つことは高年齢者雇用政策と健康政策の連携にとっても有益な分析結果となっている。

政策への貢献

高年齢者雇用施策。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「我が国を取り巻く経済・社会環境の変化に応じた雇用・労働のあり方についての調査研究」
サブテーマ「労働力需給構造の変化と雇用・労働プロジェクト」高齢者雇用の研究

研究期間

平成24~28年度

執筆担当者

田原 孝明
労働政策研究・研修機構 統括研究員
藤本 真
労働政策研究・研修機構 主任研究員
浅尾 裕
労働政策研究・研修機構 特任研究員
鎌倉 哲史
労働政策研究・研修機構 アシスタント・フェロー
堀 春彦
労働政策研究・研修機構 主任研究員
馬 欣欣
一橋大学経済研究所 准教授
三村 国雄
一橋大学経済研究所 講師

関連の研究成果

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