労働政策研究報告書 No.180
壮年非正規雇用労働者の仕事と生活に関する研究
―経歴分析を中心として―

平成 27年9月18日

概要

研究の目的

若年非正規雇用労働者の増加が問題視されてから20年以上が経ち、最初に「就職氷河期」と呼ばれた時期に学校を卒業した者が40歳前後に差しかかるなか、35~44歳層の非正規雇用労働者が増加している。その人数は、有配偶女性を除いても、2014年時点で149万人となっている。

本研究は、25~34歳層(若年)の非正規雇用労働者と対置させて、35~44歳層(壮年)の非正規雇用労働者を「壮年非正規雇用労働者」と呼び、(1)かれらが非正規雇用労働をするに至る原因、(2)その仕事と生活の現状、(3)そこからキャリアアップするための条件を明らかにすることを目的とする。

研究の方法

本研究では、平成24年度に、壮年非正規雇用労働者を含む25名の男女にヒアリング調査を実施し、上記(1)(2)(3)について仮説的な情報収集をした(資料シリーズNo.126を参照)。

それらの知見を踏まえ、平成25年7月~8月に、全国アンケート調査「職業キャリアと働き方に関するアンケート」を、面接法と訪問留置法を併用して実施した。調査対象は全国の25~44歳の10,000名(25~34歳3,000名、35~44歳7,000名)であり、有効回収数は4,970(有効回収率49.7%)である。2014年5月刊行の報告書No.164では、この全国アンケート調査を用い、(2)壮年非正規雇用労働者の仕事と生活の現状について分析している。

本報告書は、(2)についてより詳細に分析するとともに、経歴データを用いて、(1)かれらが非正規雇用労働をするに至る原因、(3)キャリアアップするための条件を分析するものである。

主な事実発見

  1. 壮年非正規雇用労働者は、同年代の正規雇用労働者と比べて担当する職務の難易度、年収の水準が著しく低い傾向にある。男性・無配偶女性については、等価所得が低く生活に対する不満が強いこと、不本意な理由で非正規雇用労働をしている場合が多いこと、仕事満足度も低いことが確認された。加えて、男性・無配偶女性の壮年「不本意」非正規雇用労働者は、若年「不本意」非正規雇用労働者よりも仕事と生活の両面で大きな課題に直面していた。
  2. 男性・無配偶女性の壮年非正規雇用労働者の多くは、若年期には正規雇用で働いていた(図表1)。そのことを踏まえて、人々が正規雇用を辞めて非正規雇用に就くメカニズムを探ったところ、過去の職場で過重労働の経験、ハラスメントを受けた経験があるとする者ほど非正規雇用に転じやすいことが示唆された。また、仕事に関連した「病気・けが」の経験により壮年期に非正規雇用労働者となりやすくなることも示唆された。

    図表1 非正規雇用労働者の過去のキャリア

    図表1画像

    資料出所:本文121頁図表6-3-2、123頁図表6-3-4より。

  3. 男性・無配偶女性の壮年非正規雇用労働者の正規雇用への転換希望率は、若年非正規雇用労働者のそれと比べて変わらない。そして分析によれば、30歳時点で非正規雇用・無業であっても、過去に正規雇用で働いた経験がある者については、職業資格の取得や自己啓発によって、その後に正規雇用に転換できる可能性が高まることが示された(図表2)。また、必ずしも壮年期に限定されないが、転職経路として「ハローワーク」を利用することが、非正規雇用から正規雇用への転職を起こりやすくすることも示された。

    図表2 30歳時非正規雇用・無業からの正規雇用への転換の発生要因(プロビット分析)

    図表2画像

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  4. ただし、非正規雇用から正規雇用に移行するにあたり、転職にしても内部登用にしても、その可能性が比較的大きいのは20歳代までの若い年齢層であることが示された。また、30歳以降の正規雇用への転換は職種や業種が限定される傾向にあること、年齢が高い非正規雇用労働者の正規雇用への転換については、仮に成功したとしても、それに伴う収入増加が小さいことが示された。他方、必ずしも分厚く堅固なものとは言えないが、非正規雇用の労働市場のなかには、同一の職種を継続することで収入を高めていく道筋があること、同一職種経験年数が同じであったとしても、その間に会社の費用で研修を受講していた者ほど収入が高まることも示された。

政策的インプリケーション

  1. 特に男性・無配偶女性について見ると、壮年非正規雇用労働者は、若年非正規雇用労働者に比べれば人数こそ少ないものの、仕事と生活の両面でより大きな困難に直面している。これらの人々が低い収入のまま職業キャリアを終えたり、その際に年金加入期間が十分でなかったりすれば、当人の老後の生活はもとより、社会保障制度の観点から見ても、将来に大きな禍根を残すことになる。それらの観点から、 壮年非正規雇用労働者を労働政策の対象として位置づける必要性は極めて高い。なお、壮年非正規雇用労働者の仕事と生活の実態は、職種や非正規雇用労働を選択した理由などにより大きく異なっており、その支援施策を講じる際には、対象者を適切に絞り込み、支援を必要としている者により多くの支援が届くよう工夫する必要がある。
  2. 正社員の職場環境、働き方を改善することで、壮年非正規雇用労働者の増加を抑制できる可能性がある。逆に言えば、ハラスメントなどの職場内トラブル発生を放置していると、壮年非正規雇用労働者が増加する可能性もある。それらに加えて、病気やけがを負った者が不利にならないようにするためにも、治療と職業生活の両立の推進や、一時的な短時間勤務制度に限定されない短時間正社員制度の導入の推進も求められる。
  3. 壮年非正規雇用労働者についても、若年非正規雇用労働者と同様、正規雇用への転換支援を基本軸として政策を講じるべきであろう。たとえば、キャリアアップ助成金の「正規雇用等転換コース」において年齢が高い非正規雇用労働者に係わる助成率を上乗せすることに加え、同じく「人材育成コース」において非正規雇用労働者の資格取得も助成対象とすること(かつ、年齢が高い非正規雇用労働者に係わる助成率を上乗せすること)、などを検討してもよい。また、独力で転職活動を続けている非正規雇用労働者がいるならば、ハローワークの利用を促進していくことも有効である。
  4. いずれにせよ、正規雇用への転換を希望する者については、できるだけ早期に転換できるように支援した方がよい。しかし、労働行政として正規雇用への転換支援を基本軸とするべきことに変わりはないが、現実には、壮年期に正規雇用へ転換することが難しい人々がいることにも留意する必要がある。それらの層を念頭に置くならば、キャリアコンサルティングや技能検定・職業能力評価基準の活用などを通じてそのキャリアを的確に方向付けること、企業における非正規雇用労働者への研修実施を支援することなどにより、少しでも収入が高まるよう誘導することが求められる。

政策への貢献

壮年非正規雇用労働者を、労働政策の対象として位置づけることの重要性を示すとともに、エビデンス・ベースの政策研究の立場から、必要な政策の方向性を提言した。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「非正規労働者施策等戦略的労働・雇用政策のあり方に関する調査研究」

サブテーマ「正規・非正規の多様な働き方に関する調査研究」

研究期間

平成24年度~28年度(本報告書執筆は、平成26年度~27年度)

執筆担当者

高橋 康二
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
池田 心豪
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
堀 春彦
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
福井 康貴
東京大学高齢社会総合研究機構 特任助教
李青雅
労働政策研究・研修機構 アシスタント・フェロー
森山 智彦
下関市立大学経済学部 特任教員
小林 徹
労働政策研究・研修機構 研究員

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