調査シリーズNo.143
日本人の職業キャリアと働き方
―JILPT「職業キャリアと働き方に関するアンケート」調査結果より―

平成27年 6月30日

概要

研究の目的

労働政策研究・研修機構(JILPT)では、若年期から壮年期にかけて、日本人がどのような職業キャリアを歩み、現在どのような働き方をしているのかを明らかにするため、全国調査「職業キャリアと働き方に関するアンケート」を実施した。本調査シリーズは、大規模かつ包括的な全国調査という特性を活かし、日本人の職業キャリアと働き方に関する基本的な事実と課題を、できる限りシンプルな手法を用いて整理することを目的としたものである。

なお、本調査のデータは、JILPTプロジェクト研究サブテーマ「正規・非正規の多様な働き方に関する調査研究」において、具体的な研究課題に即して詳細に分析されている(注1)

※注1^既に公表されているものとして、JILPT労働政策研究報告書No.164『壮年非正規労働者の仕事と生活に関する研究―現状分析を中心として―』がある。

研究の方法

・調査実施時期:
2013年7月~8月
・調査対象者:
全国の25~34歳(若年)の男女3,000名、35~44歳(壮年)の男女7,000名(注2)、計10,000名
・母集団台帳:
住民基本台帳
・サンプリング:
層化二段無作為(系統)抽出法
・調査方法:
訪問面接法と留置法の併用
・有効回収数:
4,970(有効回収率49.7%)
・業務委託先:
株式会社日経リサーチ

※注2^35~44歳層が多くなるよう調査対象者を傾斜配分したのは、本調査がJILPTプロジェクト研究サブテーマ「正規・非正規の多様な働き方に関する調査研究」の中の「壮年非正規労働者の働き方と意識に関する研究」の一環として実施されたことによる。

主な事実発見

  1. 正規雇用と非正規雇用を比較すると、正規雇用は非正規雇用よりも勤続年数が長く、雇用の安定性に満足しており、賃金・収入が高く、教育訓練機会が多い反面、週実労働時間が長く、労働時間・休日・休暇に対する満足度が低く、仕事において不安・悩み・ストレスを感じる傾向、病気になる危険を感じる傾向、けがをする危険を感じる傾向があった(図表1)。他方、企業規模による違いに注目すると、大企業や官公庁において勤続年数が長く、雇用の安定性に満足しており、賃金・収入が高く、教育訓練機会が多い傾向が明確に示された。この傾向は、特に正規雇用の場合にはっきりしていた。それゆえ、各企業規模内で正規雇用と非正規雇用を比較すると、特に大企業と官公庁において、実態面の労働条件について大きな雇用形態間格差が確認された。(第2章)

    図表1 雇用形態・企業規模別にみた仕事満足度(スコア)

    図表1画像(雇用の安定性)

    出所:本文図表2-3-2より。

    図表1画像(労働時間・休日・休暇)

    出所:本文図表2-6-3より。

  2. 女性有業者は年齢が高いほど非正規雇用率が高かった。それは、主として結婚の影響によるものであるが、未婚女性有業者に限定しても、同年代の男性有業者より非正規雇用率は高かった。また、正規雇用の場合、「専門知識・スキルを求められる業務」など熟練業務へのかかわりは男女で違いがなかったが、「部下やスタッフを管理する業務」など企業・組織の中核的業務へのかかわりには男女差があった(図表2)。他方で、正規雇用の女性の仕事負担感は「男性並み」であった。以上を踏まえ、正規雇用の女性について、企業・組織の中核的業務へのかかわりと意識の関係を分析すると、男性の場合とは異なり、中核的業務にかかわることで仕事満足度、正規雇用継続希望が高まらないことが示された。しかし、ワーク・ライフ・バランスが維持できている状態であれば、中核的業務にかかわることで仕事満足度、正規雇用継続希望ともに高まることが示された。(第3章)

    図表2 男女別、年齢別にみた正規雇用の担当業務の状況(%)

    図表2画像

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    出所:本文図表3-4-1、3-4-4より。

  3. 非正規雇用労働者のうち、有配偶女性は、「自分の都合のよい時間に働けるから」など積極的な理由から非正規雇用労働を選択しており、仕事満足度が高く、正社員転換希望が弱かった。これに対し、男性と無配偶女性は「正社員として働ける会社がなかったから」など消極的な理由から非正規雇用労働を選択しており、仕事満足度が低く、正社員転換希望が強かった。また、男性、無配偶女性それぞれにおいて、若年よりも壮年の方が消極的な理由から非正規雇用労働を選択している傾向が強かった(図表3)。(第4章)

    図表3 男女別、年齢別、婚姻状態別にみた非正規雇用労働の選択理由(MA,%)

    図表3画像

    出所:本文図表4-2-1より。

  4. 改めて指摘するまでもなく、男女で年齢推移による雇用形態や職種の変化の仕方が大きく異なる。調査対象者の職業キャリアを集計すると、女性ではいわゆる「M字型カーブ」が確認できたのに対し、男性では年齢が高くなるとともに正規・非正規雇用ともに減少し、自営が増え無業はあまり変化しない形状が確認できた。なお、未婚女性に限ると、就業率が「M字型カーブ」を描くことはなかったが、20代半ばから30代半ばにかけて非正規雇用率は高まっていた(図表4)。また、学歴によって雇用形態、企業規模、職種が大きく異なっていた。大卒以上の場合、若年の正規雇用率が高く、年齢が高くなるとともに正規雇用率が低下する傾向は弱く、勤務先の企業規模が大きく、専門・技術職や管理職、営業職が多かった(図表5)。さらに、年齢が高くなるとともに管理職が増える傾向は、大卒以上の場合にのみ確認された。(第5章)

    図表4 男女別、婚姻状態別にみた雇用形態の履歴(%)

    図表4画像

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    出所:本文図表5-2-1~5-2-4より。

    図表5 学歴別にみた雇用形態、勤務先の企業規模の履歴(%)

    図表5画像

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    出所:本文図表5-2-5、5-2-6、5-3-19、5-3-20より。

  5. 非正規雇用から正規雇用に転換した者の多くは、企業規模の下方移動を経験していた(図表6)。また、正規雇用への転換者の転換先の業種・職種構成をみると、医療・福祉業、運輸業、小売業、飲食サービス業や販売職、運輸・通信・保安職、資格を要するサービス職、資格を要しないサービス職が(正規雇用の業種・職種構成と比べて)大きかった。この傾向は特に医療・福祉業や資格を要しないサービス職で顕著であったが、資格を要しないサービス職や飲食サービス業は、正規雇用から非正規雇用への転換者の流入先となっている様子も確認された。(第5章)

    図表6 非正規雇用から正規雇用への転換にともなう企業規模の変化(行%)

    図表6画像

    出所:本文図表5-4-2より。

政策的インプリケーション

  1. 女性が正規雇用で企業・組織の中核的業務を担いつつ定着的に働くことが求められる。しかし、企業・組織の中核的業務に携わる女性は、仕事と生活の両立が難しく、必ずしもその業務を長く続けられないことも懸念される。企業・組織において女性の中核的業務への参画を進めるにあたっては、仕事と生活の両立への配慮、長時間・不規則労働の抑制をともなう必要がある。
  2. 女性の職業キャリアにかかわるもう1つの課題は、若年期に正規雇用を離職した女性が、非正規雇用労働者の供給源となっていることである。非正規雇用労働者の供給源の大部分は既婚女性であるが、未婚女性の場合でも、同年代の男性より非正規雇用率がはるかに高く、また、20代半ばから30代半ばにかけて非正規雇用率が高まる傾向が読み取れた。
  3. 非正規雇用労働の実態および本人による評価を総合的に見たところ、非正規雇用労働者の大半を占める既婚女性でもなく、昨今その対策が拡充されつつある若年者でもない、壮年男性、壮年未婚(あるいは無配偶)女性の非正規雇用労働者が、大きな課題に直面していることが分かった。これらの人々が安定した職業キャリアを歩んでいくためにどのような政策的支援が必要か、実態に基づいて検討していく必要がある。
  4. 非正規雇用労働者の職業キャリアの安定を図る上で、正規雇用への転換が重要であることは言うまでもない。この点に関連して、非正規雇用から正規雇用への転換者の移動パターンの分析から、中小企業や、医療・福祉業が、転換者の受入先となりやすいことが明らかになった。ただし、平均的に見るならば、大企業と中小企業とで労働条件格差が存在するのも事実である。現状において非正規雇用から正規雇用への転換先となっているこれらの職場の労働条件や労務管理の実態について、情報を収集していく必要がある。
  5. 非大卒者が、大卒以上の者と比べて正規雇用に就きにくく、大企業に入りにくいなど、良好な雇用機会に与りにくいことが示された。これらの事実から、既に取り組まれていることではあるが、義務教育、中等教育段階でのキャリア教育の重要性などが、改めて確認できる。

政策への貢献

正規・非正規の多様な働き方の実態を捉える上で、基礎資料として活用されることが期待される。

本文

全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究 「非正規労働者施策等戦略的労働・雇用政策のあり方に関する調査研究」

サブテーマ「正規・非正規の多様な働き方に関する調査研究」

研究期間

平成25年度~26年度

執筆担当者(所属は2015年3月末時点)

高橋 康二
労働政策研究・研修機構 研究員
福田 隆巳
東京大学大学院経済学研究科 博士課程
小林 徹
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.72)。

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