ディスカッションペーパー25-05
職業分類別に見る就業者の仕事に関する価値観の傾向
―ワークスタイルチェックテストの得点を用いて―

2025年4月9日

概要

研究の目的

当機構が開発したワークスタイルチェックテスト(Work Style Check Test:以下、WSCT)は、高等教育課程在学者(以下、在学者)や若年求職者を対象に、企業社会へ参入する準備の程度を測定するツールとして、職業レディネス・テスト(Vocational Readiness Test:以下,VRT)とあわせて実施されることを想定したツールである。このツールに含まれる「仕事選び基準尺度」は、職業選択の際に何を重視するのか、自分はどのような働き方をしていきたいのかといった職業観や働き方の価値観を測定する尺度で、6つの下位尺度(「自己成長」、「社会貢献」、「地位」、「経済性」、「仕事と生活のバランス」、「主体的進路選択」)から構成される。

本稿は、この「仕事選び基準尺度」の得点を用いて、大きく2つの目的を検討する。1つめは、調査回答者が仕事に関する価値観を主観的に評キャリア形成・相談支援・支援ツール開発に関する研究定したデータを整理することによって、職業の特徴が価値観の得点に反映されているか確認することである。2つめは、職業分類別の価値観得点を整理することによって、各職業分類の価値観の傾向を示すことである。2つめの目的の検討にあたっては、最初に職業大分類別の価値観の傾向を整理する。また、ワークスタイルチェックテストの対象者である在学者や若年求職者の関心が高いと考えられる5つの職業大分類(「研究・技術の職業」、「法務・経営・文化芸術等の職業」、「事務的職業」、「サービスの職業」)については、中分類別の価値観の傾向を整理する。

研究の方法

(1)分析対象データ

令和2(2020)年度に当機構が実施したWeb調査データを分析対象とした。回答は504職業それぞれについて、回答者が20名分ずつ収集されるよう計画された。一部20名分の収集が難しかった職業に関しては、類似した職業とあわせて20名になるように収集された。調査は、2021年3月にWeb調査会社を通じて実施された。職業分類は、第5回改定厚生労働省編職業分類を利用した。分析対象とした回答者数は、11,384名(女性=3,502名、男性=7,864名、その他=18名)であった。

(2)分析方法

「仕事選び基準尺度」の各下位尺度得点は下位尺度を構成する8項目の合計点(最小値0~最大値32)を用いた。まず、「仕事選び基準尺度」の各下位尺度の得点を基に、各職業分類内で重視される価値観の順番による整理を行った。その際、「主体的進路選択」は職業を特徴づける他の下位尺度と異なる側面を表しているため除外し、他5つの下位尺度得点を対象とした。次に、回答者全体の平均値と各分類の平均値の得点差をグラフ化し、得点水準による整理を行った。そして、これらの結果から価値観の傾向が類似している職業分類を整理し、解釈を試みた。解釈にあたっては、資料シリーズNo.251および資料シリーズNo.287を参考に、「自己成長」と「社会貢献」を職務内容重視の価値観、「地位」と「経済性」を報酬・地位重視の価値観、そして、「仕事と生活のバランス」を働き方重視の価値観とした。

主な事実発見

(1)職業大分類別の価値観の傾向

図表1を基に、各大分類内で重視されている価値観の順番について特徴的な結果を述べる。「自己成長」の得点が最も高いのは3つの大分類(「管理的職業」、「研究・技術の職業」、「法務・経営・文化芸術等の専門的職業」)のみであった。続いて、「社会貢献」では最も重視している大分類は示されず、2番目に高い得点を示した大分類が2つ(「福祉・介護の職業」、「警備・保安の職業」)であった。「地位」は15の大分類すべてで最も得点が低かった。「経済性」においても最も重視している大分類は示されず、2番目に高い得点を示したのも「管理的職業」のみであった。「仕事と生活のバランス」は「自己成長」を最も重視していた3つの大分類を除く12の大分類で最も得点が高かった。

図表1 「仕事選び基準尺度」各下位尺度得点の平均値(M)および標準偏差(SD)

図表1画像:15の職業大分類別に、各大分類の「仕事選び基準尺度」の6つの下位尺度得点を示している。

次に、図表2を基に大分類別の得点水準の傾向を下位尺度別に整理した。「自己成長」では3つの大分類(「保育・教育の職業」、「法務・経営・文化芸術等の専門的職業」、「管理的職業」)の得点が回答者全体の平均値より1点前後高い得点であった。一方、「運搬・清掃・包装・選別等の職業」と「配送・輸送・機械運転の職業」は回答者全体の平均値から1点以上低い得点であった。「社会貢献」は回答者全体の平均値より1点以上高い大分類が4つ(「保育・教育の職業」、「福祉・介護の職業」、「警備・保安の職業」、「医療・看護・保健の職業」)示された。「地位」では、「管理的職業」の得点が回答者全体の平均値よりも2点以上高く、対して「農林漁業の職業」は2点以上低かった。「経済性」では、回答者全体の平均値より顕著に高い大分類は示されなかったが、「農林漁業の職業」が回答者全体の平均値よりも2点近く低いことが示された。「仕事と生活のバランス」では、「医療・看護・保健の職業」と「福祉・介護の職業」が回答者全体の平均値より1点以上高く、「保育・教育の職業」と「事務的職業」もまた1点近く高い値であった。一方、「管理的職業」と「法務・経営・文化芸術等の専門的職業」は回答者全体の平均値より1点以上低く、「研究・技術の職業」もまた1点近く低い値であった。「主体的進路選択」では、「保育・教育の職業」と「法務・経営・文化芸術等の専門的職業」の2つが回答者全体の平均値より1点以上高かった一方、「運搬・清掃・包装・選別等の職業」は回答者全体の平均値より1点以上低かった。

図表2 回答者全体の平均値と職業大分類別平均値の差

図表2画像:各大分類の下位尺度得点と回答者全体の平均値の得点差を下位尺度別に棒グラフにしたものである。

以上の結果を基に職業大分類別に価値観の傾向を整理したところ、大分類間で大きく5つのグループに分けられることが明らかになった(図表3)。1つめは、職務内容および報酬・地位重視の価値観を重視する一方、働き方重視の価値観をあまり重視しないグループである。これには「管理的職業」のみが含まれた。2つめは、職務内容重視の価値観のうち特に「自己成長」を重視し、次に働き方重視の価値観を重視しているグループである。このグループには「研究・技術の職業」と「法務・経営・文化芸術等の専門的職業」の2つが含まれた。3つめは、働き方重視の価値観を最も重視しつつ、職務内容と報酬・地位重視の価値観も重視しているグループである。他の職業と異なり職務内容重視の価値観の中でも「社会貢献」の得点が高く、比較的「経済性」も高いことが特徴である。このグループには2つの大分類(「医療・看護・保健の職業」、「警備・保安の職業」)が含まれた。4つめは、働き方重視の価値観を最も重視し、職務内容重視の「社会貢献」も重視しているグループで、「保育・教育の職業」と「福祉・介護の職業」の2つの大分類が含まれた。このグループ4は、グループ3と異なり、報酬・地位重視の価値観をあまり重視しない点も特徴である。5つめは、働き方重視の価値観を最も重視することが特徴のグループである。このグループには最も多い7つの大分類が含まれた(「事務的職業」、「販売・営業の職業」、「サービスの職業」、「製造・修理・塗装・製図等の職業」、「配送・輸送・機械運転の職業」、「建設・土木・電気工事の職業」、「運搬・清掃・包装・選別等の職業」)。最後の6つめは、働き方を最も重視し、報酬・地位重視の価値観をあまり重視しない傾向を示した大分類で、「農林漁業の職業」のみが含まれた。

図表3 職業大分類別の価値観の傾向

グループ 大分類名 各グループの傾向
1 管理的職業 職務内容重視および報酬・地位重視の価値観を重視している。働き方重視の価値観はあまり重視していない。
2 研究・技術の職業 職務内容重視の価値観、特に仕事を通じた成長を最も重視し、次に働き方重視の価値観を重視している。社会的地位も比較的重視する傾向にある。
法務・経営・文化芸術等の専門的職業
3 医療・看護・保健の職業 働き方重視の価値観を最も重視している。次に職務内容重視の価値観を重視し、報酬・地位重視の価値観も比較的重視している。
警備・保安の職業
4 保育・教育の職業 働き方重視の価値観を最も重視している。次に職務内容重視、特に仕事を通じた社会貢献を重視する傾向にある。
福祉・介護の職業
5 事務的職業 働き方重視の価値観を最も重視している。賃金や収入も比較的重視する傾向にある。
販売・営業の職業
サービスの職業
製造・修理・塗装・製図等の職業
配送・輸送・機械運転の職業
建設・土木・電気工事の職業
運搬・清掃・包装・選別等の職業
6 農林漁業の職業 働き方重視の価値観を重視している。報酬・地位重視の価値観はあまり重視していない。

以上のように15の職業大分類別に価値観の傾向を整理した結果、大分類ごとに価値観の傾向に特徴が見られることがわかった。多くの大分類に共通していたのは、「地位」を最も重視していない点と、「仕事と生活のバランス」を最も重視している点であった。一方、「自己成長」、「社会貢献」、「経済性」を重視する順番および得点水準は大分類によって異なることが示された。後者3つの下位尺度は、各大分類の価値観傾向を特徴づけるものと考えられる。

(2)5つの各職業大分類を構成する中分類の価値観の傾向

5つの大分類(「研究・技術の職業」、「法務・経営・文化芸術等の職業」、「事務的職業」、「サービスの職業」)について、各職業大分類を構成する中分類別に、大分類別の結果の整理と同じ方法で価値観の傾向を整理した。その結果、同じ大分類に含まれる中分類であっても、価値観の傾向が異なることが示された。職業大分類別の価値観傾向の整理では主に「自己成長」、「社会貢献」、「経済性」の3つが大分類の特徴を表していたが、中分類別の結果では各中分類を特徴づける価値観は大分類によって異なっていた。例えば、「研究・技術の職業」では、「地位」、「経済性」および「仕事と生活のバランス」の得点、「法務・経営・文化芸術の職業」では「社会貢献」、「地位」および「経済性」の得点に中分類間の違いが現れていた。そして、中分類別の結果では、資料シリーズNo. 287で示されている仕事価値観と職業の連結結果を支持する結果がいくつか示され、その職業に就業している人々の価値観の特徴が得点に反映されていることが示唆された。

政策的インプリケーション

「仕事選び基準尺度」の下位尺度得点を職業分類別に整理することによって、各職業分類の仕事に関する価値観の傾向を示す基礎的資料が提示された。

政策への貢献

本稿の知見は、公共職業安定所、若年求職者向けの相談機関での職業紹介ならびに教育機関での就職支援において、職業レディネス・テストとともに実施されるワークスタイルチェックテストの結果の解釈の手がかりとして役立てることができる。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「職業構造・キャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「キャリア形成・相談支援・支援ツール開発に関する研究」

研究期間

令和2~6年度

執筆担当者

秋山 史子
労働政策研究・研修機構 研究員

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内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

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