資料シリーズ No.230
職業レディネス・テストの改訂に関する研究
―大学生等の就職支援のための尺度の開発―

2020年3月30日

概要

研究の目的

「職業レディネス・テスト」は、中学校、高等学校を中心に進路や職業選択への準備度を測る検査として広く活用されてきたが、近年、大学等の高等教育課程の在学者や30歳代前半程度までの若年層への適用のニーズが増えてきた。そこで、このほど「職業レディネス・テスト第3版」の改訂にあわせ、現行版の検査が想定している対象者を広げ、大学生等の若年者に対する就職支援に活用できるような尺度を新規に追加することをめざして研究を行った。

研究の方法

  1. 調査 Webモニター調査により、18歳から34歳までの男女各1,200名、合計2,400名のデータを集めた。年齢の区分として、① 18歳から20歳、② 21歳から25歳、③ 26歳から30歳、④ 31歳から34歳という4つの年齢グループを設け、各グループ別に男女それぞれ300名ずつの回答を得た。学歴条件としては高等学校卒業以上とした。データの確認の過程で条件に合致しなかった7名を除外し、分析には男性1,198名、女性1,195名の回答を用いた。回答者の平均年齢は男性が25.95歳、女性が25.89歳である。
  2. 調査票の構成 回答者の属性に関するフェイスシート項目のほか、新規尺度を作成するために「働くことについての考え方・基本的態度」、「性格特性や思考特徴」、「生活態度などを含む基本的な生活特性」という3つの特性を捉えるための項目が組み込まれた。この他に新規追加尺度との関連を調べ、概念の妥当性を検証するための尺度として、職業レディネス・テスト第3版の3つの下位検査、コンピュータによるキャリアガイダンス・システムである“キャリア・インサイト”の能力評価および価値観評価、Rosenberg(1965)により開発された自尊感情尺度も合わせて実施された。調査項目数は全体で461項目であり、新規追加尺度は各項目の記述が自分にあてはまるかどうかを5段階評定で回答してもらう形式となっている。
  3. 分析方法 下位尺度ごとに探索的因子分析を行い、作成した項目が想定したまとまりに分かれるかどうかを検討した上で、因子に分かれた項目ごとに主成分分析を行った。主成分分析の結果から、各尺度につき6項目から8項目の項目を選択し、信頼性係数の算出を行った。各尺度の項目選定の後、尺度ごとに合計得点を算出し、男女間、在学者と在職者間の平均値の違いを検定したほか、新規追加尺度間や職業レディネス・テスト第3版の下位尺度得点、他の既存の検査得点との関連を調べ、測定されている概念の妥当性について検討した。

主な事実発見

  1. 新規追加尺度の構成と信頼性の検討

    ① 新規追加尺度の構成:職業レディネス・テストに追加して実施する若者向けの新しい尺度として、「仕事選び基準尺度」(働くことについての考え方・基本的態度を捉えるもの)、「基礎的性格特性尺度」(性格特性や思考特徴を捉えるもの)、「基礎的生活特性尺度」(生活態度などを含む基本的な生活特性を捉えるもの)が作成された(6項目版、7項目版、8項目版を選定)。

    ② 各尺度の構成と内容:「仕事選び基準尺度」としては「自己成長」「社会貢献」「経済性」「地位」「仕事と生活のバランス」「主体的進路選択」の6つの下位尺度、「基礎的性格特性尺度」には「気持ちの切り替え」「外界への積極性」の2つの下位尺度、「基礎的生活特性尺度」には「社会生活への心構え」という下位尺度が組み込まれた。したがって最終的に新規追加尺度は3つの概念、9つの下位尺度で構成された(図表1)。9つの下位尺度の項目数別信頼性係数(クロンバックのα係数)は.80以上の高い値となった(図表2)

    図表1 各下位尺度の内容

    図表1画像

    図表2 各下位尺度の項目数別信頼性係数(α係数)

    図表2画像

  2. 新規追加尺度による各特性の測定結果

    ① 下位尺度における回答者の平均値

    9つの下位尺度について各項目の5段階評価の回答を0点から4点で得点化し、8項目版での合計得点の平均値(得点の範囲0~32点)をグラフにしたものが図表3(男女比較)と図表4(在学者、在職者比較)である。

    図表3をみると9つの尺度それぞれの平均値の高さは男性、女性ともに「仕事と生活のバランス」が最も高く、「社会生活への心構え」、「主体的進路選択」が21点以上となった。男女ともに低かったのは「地位」と「気持ちの切り替え」だった。男女間での平均値の違いをみると、「地位」、「気持ちの切り替え」、「社会貢献」、「自己成長」で男性の平均値が女性よりも高かった(p<.001)。「社会生活への心構え」、「仕事と生活のバランス」については、女性の方が男性よりも高めであった。

    図表4の各尺度の平均値の相対的な高さは男女別で集計したときと変わらないが、在学者・在職者間での違いをみると、「自己成長」、「社会貢献」、「地位」、「主体的進路選択」に関する平均値の違いが大きかった(p<.001)。在職者に比べ在学者において職業や仕事に前向きに取り組みたいという姿勢が強くみられる結果となった。

    図表3 8項目版の各下位尺度得点平均値の男女比較

    図表3画像

    図表4 8項目版の各下位尺度得点平均値の在学者・在職者比較

    図表4画像

    ②下位尺度間の関連性の検討

    各尺度項目の合計得点を用いて、同じ項目数の尺度間で相関係数を求めた(図表5)。サンプルサイズが大きいためすべての値が有意となっているが、その中で.30以上の値が得られたものに網掛けを施した。基礎的性格特性の「外界への積極性」は仕事選び基準尺度の多くの下位尺度や基礎的生活特性の「社会生活への心構え」と比較的強い正の相関を示した。仕事選び基準尺度の「仕事と生活のバランス」、基礎的性格特性の「気持ちの切り替え」については他の尺度との関連性はそれほど高くないことが示された。

    図表5 仕事選び基準尺度、基礎的性格特性、基礎的生活特性尺度間の相関係数(Pearsonのr)

    図表5画像

  3. 上記を踏まえた検査としての実用化に向けた検討

    高卒後、高等教育課程に在学する者や30歳代前半程度までの若者を想定した「職業レディネス・テスト」の新規追加尺度の原案が作成された。今後はこの尺度を一つの検査として構造化し、進路指導や就職支援の場で試行的に実施することによって、「職業レディネス・テスト」と合わせたときの活用や解釈の方法、効果的な利用方法についての検討を進めることが課題となっている。

政策的インプリケーション

本研究で開発された新規追加尺度は、これまで、「職業レディネス・テスト」が扱ってきた‘やりたいこと(職業興味)’や‘できること(職務遂行の自信度)’という適性の側面だけでなく、若者が自らの仕事選びの基準や就業に関連する基本的性格特性、生活特性を総合的に考えて職業選択という課題に取り組めるような就職支援ツールとして、若年者の職業相談や進路指導に役立てることができる。

政策への貢献

職業レディネス・テストとともに公共職業安定所や若年者向けの相談機関での職業紹介・就職支援に用いられる。

本文

本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「全員参加型の社会実現に向けたキャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「職業情報、就職支援ツール等の整備・活用に関する研究」

研究期間

平成29~令和3年度

執筆担当者

室山 晴美
労働政策研究・研修機構 理事
深町 珠由
労働政策研究・研修機構 主任研究員
秋山 史子
労働政策研究・研修機構アシスタントフェロー

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.146)。

関連の研究成果

  • 研究開発成果物 『職業レディネス・テスト第3版手引、問題用紙、回答用紙、結果の見方・生かし方』(2006年)
  • 研究開発成果物 『職業レディネス・テスト[第3版]―大学、短期大学、専門学校等での実施のためのガイドブック』(2013年)

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