資料シリーズNo.287
Web提供型の仕事価値観検査の開発

2024年11月22日

概要

研究の目的

本研究の目的は、仕事を選ぶ時に重視される条件や働き方についての考え方を測定する仕事価値観検査の開発である。この検査は、厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)の自己診断ツールの1つとしての利用が想定されている。そこで、Web提供型の検査であること、結果がjob tag上の職業情報と連結されるような機能を備えることが開発の条件となる。

研究の方法

仕事価値観検査の開発にあたっては、仕事価値観に関わる11個の要素を選定した上で各要素を測定するための予備調査項目(5段階評定)を作り、就業者と高等教育課程在学者を対象とした2回のWeb調査を実施した(対象者は4,298名)。

データに基づいた項目分析により、11変数について各4項目、全44項目が選定され、信頼性、妥当性が確認された。仕事価値観検査の結果に応じて提示される職業リストの作成にあたっては、job tag上に搭載されている職業に関する数値情報が用いられた。

就業者20名以上から仕事価値観に関する評定値が得られている426職業が分析され、評定値に基づき職業のグループ分けが行われた。

その上で、検査によって得られる仕事価値観尺度得点と職業グループを連結する方式が構築された。

主な事実発見

本研究の検査の開発過程で得られた主な知見は以下の通りである。

(1)仕事価値観尺度の作成と信頼性の確認

尺度の作成にあたっては各項目(5段階評定)を0~4点で得点化し、予め想定された11変数毎に主成分分析を実施し各4項目を抽出した。各変数(尺度)の項目でクロンバックのα係数を算出した結果、一定以上の高い信頼性が確認された。加えて11変数の構造をみるために因子分析を行った結果、11変数は「職務重視(5変数)」、「働き方重視(4変数)」、「報酬・地位重視(2変数)」という3因子で解釈できた。3因子に含まれる変数とそれぞれの信頼性係数を図表1に示す。

(2)11変数の平均値の水準と属性別の傾向

調査対象者全体および就業者、在学者別に11変数の各4項目の合計得点の平均値を算出し(得点範囲は0~16点)、全体の平均値の高い順に変数を並べ替えた(図表2)。各変数が該当する因子別にみると、「働き方重視」に関する変数が「職務重視」や「報酬・地位重視」に関する変数よりも高めに位置した。在学者の平均値は全体的にどの変数でも就業者より高めとなった。

(3)job tag上の職業のグループ分け

job tag上の各職業の仕事価値観の数値データを用いて、職業のグループ分けを行った。数値データは、各職業の就業者に仕事価値観の11変数の内容に関して該当職業においてどの程度満足感が得られるかを5段階(1~5点)で評定してもらった値の平均値である。

426個の職業について各職業の11変数の平均値を用いてクラスタ分析を行い7個のグループに分けた上で、「職務重視」、「働き方重視」、「報酬・地位重視」に関する合計得点を用いて14個の職業グループを作成した。職業グループ別に11変数の平均値を算出し、3つの合成変数内での順位を付したものが図表3である。全体としてどのグループでも「職務重視」に関しては「専門性」や「達成感」の値が高く、満足感が得やすいと評価されているが、「働き方重視」や「報酬・地位重視」では上位の変数がばらついており、それぞれのグループの特徴が反映されている。

(4)個人の得点水準と職業のグループとの連結

仕事価値観検査の個人の検査結果とjob tagの職業を連結させる方法として、個人の得点を「職務重視」、「働き方重視」、「報酬・地位重視」に関する得点水準(高中低)の組み合わせで区分し、その得点水準の区分に関して類似したパターンをもつ職業グループを選択して表示するという方法が検討された。調査で収集された4,298名の得点をその方式で分類した結果、表示される職業グループに大きな偏りは生じないことが確認された(図表4)。

図表1 仕事価値観検査の3因子別の変数(尺度)名と信頼性係数(クロンバックのα係数)

仕事価値観検査の尺度として作成された11変数(尺度)の信頼性係数。最も高いのは「奉仕・社会貢献」の.91、最も低いのは「自律性」および「労働安全衛生」の.80となった。
合成変数 「職務重視」に関する変数
変数 達成感 自己成長 専門性 奉仕・社会貢献 自律性
α係数 .86 .89 .88 .91 .80
合成変数 「働き方重視」に関する変数  
変数 私生活との両立 雇用や生活の安定性 良好な対人関係 労働安全衛生  
α係数 .84 .85 .87 .80  
合成変数 「報酬・地位重視」に関する変数      
変数 報酬や収入 社会的認知・地位      
α係数 .83 .89      

図表2 調査対象者全体、就業者、在学者の各変数の平均値(全体の平均値の高い順)

図表2画像:仕事価値観検査の11変数(尺度)の調査対象者全体、就業者および在学者別の平均値をまとめた

図表3 職業グループ別の各変数の仕事価値観評価の平均値(M)および合成変数内の平均値の順位

426個の職業の数値情報に基づいて職業をグループ分けし、仕事価値観変数に関する評定値の平均値および合成変数内の平均値の順位をまとめた表である。
職業GR  平均値(M)、変数内の順位 「職務重視」に関する変数 「働き方重視」に関する変数 「報酬・地位重視」
に関する変数
達成感 自己成長 専門性 奉仕・社会貢献 自律性 私生活との両立 雇用や生活の安定 良好な 対人関係 労働安全衛生 報酬や 収入 社会的認知・地位
GR1 M 3.444 3.618 3.753 3.670 3.403 3.211 3.433 3.432 3.161 2.735 3.079
順位 4 3 1 2 5 3 1 2 4 2 1
GR2 M 3.850 3.826 4.039 3.526 3.829 3.371 3.609 3.604 3.494 3.466 3.445
順位 2 4 1 5 3 4 1 2 3 1 2
GR3 M 3.940 3.907 4.036 3.509 3.799 3.586 2.944 3.723 3.627 2.837 3.184
順位 2 3 1 5 4 3 4 1 2 2 1
GR4 M 3.866 3.777 4.036 3.415 3.786 3.081 3.179 3.453 3.212 3.204 3.434
順位 2 4 1 5 3 4 3 1 2 2 1
GR5 M 3.938 3.892 4.143 3.103 3.804 3.266 2.651 3.482 3.249 2.564 2.987
順位 2 3 1 5 4 2 4 1 3 2 1
GR6A M 3.577 3.514 3.743 3.167 3.604 3.340 3.440 3.367 3.315 3.290 3.194
順位 3 4 1 5 2 3 1 2 4 1 2
GR6B M 3.289 3.380 3.565 3.041 3.356 3.321 3.433 3.350 3.356 3.241 3.121
順位 4 2 1 5 3 4 1 3 2 1 2
GR7 M 3.433 3.381 3.558 2.981 3.374 3.343 3.236 3.338 3.346 2.900 2.897
順位 2 3 1 5 4 2 4 3 1 1 2
GR8 M 3.477 3.391 3.505 2.912 3.442 3.235 2.863 3.338 3.212 2.591 2.783
順位 2 4 1 5 3 2 4 1 3 2 1
GR9 M 3.515 3.390 3.569 2.867 3.385 3.003 2.821 3.148 2.928 2.627 2.751
順位 2 3 1 5 4 2 4 1 3 2 1
GR10A M 3.082 3.074 3.130 2.893 3.019 3.242 3.241 3.215 3.213 2.889 2.802
順位 2 3 1 5 4 1 2 3 4 1 2
GR10B M 3.039 2.963 2.918 2.735 2.997 3.385 3.076 3.209 3.229 2.481 2.438
順位 1 3 4 5 2 1 4 3 2 1 2
GR11 M 3.071 3.043 3.210 2.777 3.054 2.979 2.897 3.029 2.960 2.597 2.605
順位 2 4 1 5 3 2 4 1 3 2 1
GR12 M 2.861 2.755 2.806 2.653 2.882 3.006 2.820 2.903 2.786 2.445 2.367
順位 2 4 3 5 1 1 3 2 4 1 2

※「順位」は「職務重視」、「働き方重視」、「報酬・地位重視」の3変数内での順位(高い順に1から)。

※「職務重視」と「働き方重視」については1位に濃い網掛け、2位に薄い網掛け。「報酬・地位重視」は1位に網掛け。

図表4 表示される職業グループ別にみたデータの人数と割合

提示される職業グループごとに、調査で収集した4298名のうち何名が該当するかをまとめた表である。
提示グループ GR1 GR2 GR3 GR4 GR5 GR6A GR6B GR7
人数 431 162 277 244 186 342 40 568
割合(%) 10.03 3.77 6.44 5.68 4.33 7.96 0.93 13.22
提示グループ GR8 GR9 GR10A GR10B GR11 GR12 非提示
人数 580 405 207 293 501 60 2 4298
割合(%) 13.49 9.42 4.82 6.82 11.66 1.40 0.05 100.00

※「非提示」は、回答結果がすべての尺度得点で0もしくは1点であったため、職業が提示されないことを示す。

※上記は第1候補として示される職業グループであり、web上では第2候補の職業グループも示される。

政策的インプリケーション

仕事価値観検査は、働くことに関する意識や仕事選びの際に重視される条件の特徴を明らかにする。能力や職業興味等の傾向と合わせて結果を活用することによって様々な特徴を踏まえた上での職業検索に役立てることができる。

政策への貢献

本研究で開発された仕事価値観検査は、厚生労働省によりプログラム開発が進められた後、job tag上の自己診断ツールの1つとして組み込まれて一般公開される予定である。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「職業構造・キャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「キャリア形成・相談支援・支援ツール開発に関する研究」

研究期間

令和3~6年度

執筆担当者

室山 晴美
労働政策研究・研修機構 特任研究員
秋山 史子
労働政策研究・研修機構 研究員

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