ディスカッションペーパー 23-02
業務の男女差と男女間賃金格差の関連
―個人レベルのタスクスコアを用いた一考察―

2023年3月31日

概要

研究の目的

2022年は男女間賃金格差に関心が集まった年であった。同年7月には女性活躍推進法の省令改正が行われ、301人以上の企業に対しては「男女の賃金の差異」の公表が義務付けられた。こうしたなかで、どのようなメカニズムのもとで男女間賃金格差が生じているのかということにも関心が集まっている。

これまでの男女間賃金格差の研究は、伝統的に労働市場における機会の男女格差に注目し、勤続年数と役職の男女差が賃金格差の主要な要因であると指摘してきた。しかしながら、今日に至るまで方法論的な限界もあり、業務の男女差に着目して男女間賃金格差を検討する研究は多くなかった。近年は、社会科学全般において「タスク(業務)」に着目する研究が増加している。これらの研究は、労働経済学を中心として発展してきた、格差に対する産業・職業構造の変化の影響を「タスクスコア」というよりミクロなレベルで評価する「タスク・アプローチ」という理論枠組みに依拠している。しかしながら、「タスク・アプローチ」を男女間賃金格差へ応用する研究はあまり多くない。

そこで、本稿では、個人レベルでのタスク(業務)を測定している最新のデータを活用し、業務の男女格差が男女間賃金格差にどの程度寄与しているかを明らかにする。

研究の方法

以下の調査の2次分析を行った。

主な事実発見

分析の結果次のことがわかった。

  1. 中央値でみたときの男女間賃金格差のうち、独立変数の分布の違いによって説明できる部分は職業生活調査で約67%、自動化調査では約51%である。また、職業生活調査における分布効果は賃金分布の上位及び下位では30%強にまで低下する。
  2. 男女間賃金格差に対する業務(タスク、図表中のAKK3)の男女差の直接的な影響は、勤続年数や役職と比較して、特に大きいわけではない。「男性の方が抽象タスクスコアが高く、抽象タスクスコアが高いほど賃金も高い」という性別・タスク及びタスク・賃金の関連が記述的には観察されたが、業務の男女差を縮小することが直接的に男女間賃金格差を是正する程度はかなり小さい。
  3. 勤続年数と役職の固有の効果は主に賃金分布の上位で観察される。勤続年数と役職の男女差を是正した場合に生じる変化は女性の賃金分布の上位の上昇である。

したがって、本稿の主たる問いである「業務の男女格差が男女間賃金格差にどの程度寄与しているか」に対する答えは「業務の男女格差の直接的な寄与は小さい」となる。つまり、今この瞬間に業務の男女格差を是正することが直ちに男女間賃金格差の縮小につながるわけではない。むしろ、そういった男女間賃金格差の瞬間的な縮小につながる要因としては、従来から指摘されている勤続年数と役職のほうが重要である。

図表1 各変数の分布が男性と同一であると仮定した場合の、 女性の反実仮想的な賃金分布
(職業生活調査)

図表1画像:男女間賃金格差に対する業務(タスク、図表中のAKK3)の男女差の直接的な影響は、勤続年数や役職と比較して、特に大きいわけではない。

出所:職業生活調査より筆者作成.

図表2 各変数の分布が男性と同一であると仮定した場合の、 女性の反実仮想的な賃金分布
(自動化調査)

図表2画像:男女間賃金格差に対する業務(タスク、図表中のAKK3)の男女差の直接的な影響は、勤続年数や役職と比較して、特に大きいわけではない。

出所:自動化調査より筆者作成.

政策的インプリケーション

第1に、業務の男女差の是正は、直接的には男女間賃金格差の縮小には結びつかない。しかし、抽象タスクスコアと役職には関連があることから、抽象的業務への従事が中核的ポストの登用につながっているのか、中核的ポストへの登用が抽象的業務への従事を促すのかについては別途検討の余地がある。男女均等に向けた介入において業務の男女差の是正に取り組むべきかについて完全に否定はできないものの、勤続年数や役職の男女差の是正以上に優先されるものではないと結論づけられる。第2に、女性の就業継続・管理職登用は女性の賃金分布の上位を上昇させる。すなわち、賃金分布下位での男女格差の是正には従来とは異なるアプローチが必要であることが示唆される。

政策への貢献

男女間賃金格差問題の基礎資料とする。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「多様な人材と活躍に関する研究」
サブテーマ「多様な人材と活躍に関する研究」

研究期間

令和4年度

執筆担当者

田上 皓大
労働政策研究・研修機構 研究員

関連の研究成果

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※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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