ディスカッションペーパー 19-06
仕事・働き方の自律性と労働時間
―社会学的な観点からの論点整理

2019年3月29日

概要

研究の目的

本稿は、既存研究の文献レビューに基づき、仕事・働き方の自律性と労働時間について、社会学的な観点から論点整理を行うものである。

長時間労働の是正、健康やワーク・ライフ・バランスの確保、多様な人材の活躍などの観点から、ホワイトカラー労働における今後の労働時間(管理)のあり方を考えるにあたり、働く者が時間配分を柔軟に調整・配分できる仕組みや、そうした柔軟性を担保するための仕事の自律性(裁量性)は、考察すべきテーマであろう。本稿は、既存研究の文献レビューから、このテーマについて仮説的な整理を行うものである。

研究の方法

既存研究の文献レビュー

主な事実発見

社会学的な労働研究では、「自律性」が鍵概念として扱われてきた。仕事の自律性(裁量性)は、目の前の仕事の内容や進め方を自分でやりくりできる程度に関わる。そして、仕事の自律性や裁量性といった概念で、使用者(会社や上司)の管理様式によって、労働者個々が仕事で自由を行使できる余地がどのように制約を受けるかに着目してきた。

労働時間との関係では、自分や家庭の都合に合わせて始業・終業時刻を柔軟に変えられるなど、労働時間の配分・調整を柔軟に行えることが、ワーク・ライフ・バランス上メリットであると実証されてきた。特に育児・介護等との両立局面で、時間的な柔軟性の効果が示されてきた。仕事の自律性は、そうした労働時間配分・調整の柔軟性を担保する資源といえる。

一方で、労働時間管理が緩やかな場合に「働きすぎ」のリスクがあるという指摘もあり、検討を要する。「働きすぎ」となるひとつの背景は、仕事量の決まり方に裁量が乏しい場合である。そして、過重なノルマを課されるならば、いくら仕事の進め方に裁量性があっても過重労働に陥ることになりかねない。こうした仕事量に関する裁量の不足が、問題としてまず指摘できる。

加えて、会社組織の中では評価・昇進を意識することから自由でなく、そのために長時間労働になることが指摘される。組織内行動の方向付け(組織文化やコミットメント、昇進競争等)が強い場合、働き方の自由度が高いといっても、実質的には働き方の選択肢が制約されよう。

さらには、会社・上司との関係で仕事の自律性が高くても、顧客都合に即応して働くことが求められる場合、多忙な状態になりがちである。こうした場合むしろ、会社・上司が個々の従業員の業務の状況や時間を適切に把握・管理することで、顧客都合の働き方に対して一定の歯止め(壁)となるなど、働きやすさを確保する役目を果たすことが求められる。

自律的な働き方は、場合によっては、仕事と仕事以外の境界が曖昧になることにもつながる。既存研究からは、特に男性や職業的地位の高い者で境界が曖昧になり、家庭生活上の問題が(状況として)生じやすいことが示される。ただ、問題が主観的に認識されるかはまた別のことであり、働きすぎの「問題」をどうとらえるかによって導かれる結論は異なりうる。

政策的インプリケーション

本稿の整理からは、まず、仕事・働き方の自律性の意義が再確認される。それは、労働時間の柔軟な配分・調整を容易にする資源であり、当人の主観的認識(働く時間をどう意味づけるか)にもポジティブな影響をもたらす。この点、企業においては、自律性を制約する要素(過大なノルマ、顧客の過度な要求)を制御するマネジメントが求められる。

それとともに、自律的な働き方自体がもたらしうるものにも目配りが必要だ。本稿で検討したように、特定の制約を想定しなくても、自宅に仕事を持ち帰る、休日でも仕事関係の連絡を頻繁にとる、家族と過ごしていても仕事のことを考えるなど、仕事と仕事以外の境界があいまいになり、仕事に区切りがつきにくい状態にもなりうるからだ。それは実質的には仕事領域の拡張が起こっていると言える。そういう状況を評価する際に難しいのは、当人が主観的には問題(例えばコンフリクトやストレス)を認識していない場合がありうることである。とはいえ、過重労働防止の観点からは、健康や家庭生活上の障害が目に見えて起こるまでその働き方を問題視しないのでは不十分と考える。このような形の「働きすぎ」を防ぐには、企業における細心の仕事管理(個々の仕事量と進捗の把握・管理)が求められるのはもちろんのこと 、働く者個人においても、仕事と仕事以外の時間を意識的に区切るような心がけも問われてこよう。

政策への貢献

長時間労働削減等の政策立案のための基礎資料となることが期待される。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「働き方改革の中の労働者と企業の行動戦略に関する研究」
サブテーマ「労働時間・賃金等の人事管理に関する調査研究」

研究期間

平成30年度

研究担当者

高見 具広
労働政策研究・研修機構 研究員

関連の研究成果

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 03(5991)5104

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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