従業員による営業秘密漏洩の対応策
 ―労働法、知的財産法、通報法と個人データ保護法に基づく実務

上東 亘 (渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 パートナー)

日本企業のベトナム拠点において、顧客情報、発明情報、ビジネスモデル、取引情報、人事・財務情報など企業が有する情報資産は、企業の競争力の維持と強化において重要性が増しており、その情報管理は重要な課題である。現地で雇用するベトナム人労働者のコンプライアンス意識が十分でないという指摘もあるが、日本人とベトナム人の間で慣習や意識、感覚が異なるという問題もある。そのような前提のもと、社内のルールの作成とその定着は事業の成功と強い関連性がある。例えば、営業秘密の管理のルールが挙げられる。営業秘密の持ち出しや情報漏洩は、どの会社にも起こりうる問題である。そこで、ベトナム子会社における営業秘密漏洩の対応策について、最近の法改正も踏まえて以下に解説する。

1 営業秘密の漏洩

(1) 営業秘密

ア 定義

営業秘密については、「ベトナム知的財産法(法律36/2009/QH12号により一部改正された法律50/2005/QH11号(以下「知的財産法」という))」、「知的財産法の改正及び補足に関する法律07/2022/QH15号など)」に規定がある。営業秘密とは、「財政的投資・知的投資から得られた情報であって、開示されておらず、かつ、事業において利用可能な情報」と定義されている(知的財産法第4条第23項)。

なお、営業秘密に関係する法令は他にもあり、具体的には「競争法(法律23/2018/QH14号)」第45条第1項や「サイバーセキュリティ法(法律24/2018/QH14号)」第17条にも、類似する用語が使用されている。これらの法律でも営業上の秘密を漏洩することは、不公正な競争行為や秘密情報の漏洩行為として禁止されているものの、営業秘密の定義が明確にされていないため、保護の範囲が明確とはいえない。

イ 営業秘密所有者

営業秘密所有者とは、「適法に営業秘密を取得し、かつ、それを秘密に保持する組織又は個人」である。(知的財産法第121条第3項)。

また、担当職務を遂行する従業者により担当職務の履行中に取得された営業秘密は、関係当事者による別段の合意がない限り、使用者又は職務割当者に属するとされている(同条項)。このため、原則、従業員が職務の過程で取得した営業秘密は、その使用者である会社に属すると解することができる。もっとも、労働者個人が業務を通じて発見、開発したものやノウハウといった重要な情報については、後に当該情報の帰属について紛争に発展する可能性がある。そのため、従業員との秘密保持契約等の中で、職務上得られた秘密情報や、それを利用した知的財産等に関する権利は会社に帰属することを事前に明確に合意しておくことが望ましい。

営業秘密所有者の権利として、原則、第三者が無断で営業秘密を使用、開示等することを阻止できる。ただし、阻止できない行為も定められており、例えば、営業秘密所有者以外の者が、違法に取得されたことを知らずにその営業秘密を開示又は使用することなどが列挙されている。(知的財産法第125条第3項)。

(2) 営業秘密の保護要件

営業秘密として保護されるための要件は以下のとおりである(知的財産法第84条)。

  • (ⅰ)公知でなくまた容易に取得されるものでもないこと
  • (ⅱ)業として使用されるときは、それを所有又は使用しない者よりも、その所有者に対して有利性を与えることができること
  • (ⅲ)それが開示されず、また容易に入手することもできないよう必要な措置を講じて、その所有者が秘密を保持していること

これを踏まえると、社内で営業秘密として情報管理の措置を取っているという事実が、上記の保護要件を満たすことにつながり、対象情報が営業秘密として保護を受けられることになる。そのため、まずは社内の情報管理が重要となる。

他方、営業秘密として保護されない情報は以下のとおりである(知的財産法第85条)。

  • (ⅰ)身元に関する秘密
  • (ⅱ)国家管理の秘密
  • (ⅲ)安全保障及び国防の秘密
  • (ⅳ)事業に無関係な他の秘密保持情報

(3) 労働法上の保護手段

ア 就業規則

ベトナム労働法(45/2019/QH14号)(以下「労働法」という)にも営業秘密の保護に関連する条項が存在する。例えば、就業規則の記載事項(労働法第118条第2項)に、以下のとおり定めている。

  • (ⅰ)労働時間、休憩時間
  • (ⅱ)職場の秩序
  • (ⅲ)労働安全衛生
  • (ⅳ)職場のセクシャルハラスメントの予防、防止、職場のセクシャルハラスメント行為の処分の手順、手続
  • (ⅴ)使用者の財産、営業機密、技術機密、知的所有権の保護
  • (ⅵ)労働契約と異なる業務に一時的に労働者を異動させる場合
  • (ⅶ)労働者の労働規律違反行為及び懲戒処分の形式
  • (ⅷ)物的責任
  • (ⅸ)懲戒処分権限を有する者

したがって、営業秘密、技術機密、知的財産権の保護について就業規則で規定することになる。

イ 懲戒解雇

営業秘密の漏洩は、懲戒解雇事由(労働法第125条)でもある。法定の事由は以下のとおりである。

  • (ⅰ)労働者が職場で、窃盗、横領、賭博、故意に基づく傷害の惹起、麻薬使用をする
  • (ⅱ)労働者が、使用者の営業機密、技術機密の漏洩、知的所有権の侵害行為を行う、使用者の財産、利益に関して重大な損害を惹起する行為を行う、若しくは特別に重大な損害惹起のおそれがある行為を行う、又は就業規則に規定されている職場でのセクシャルハラスメントを行う
  • (ⅲ)昇給の延期又は降格の懲戒処分を受けた労働者が、懲戒処分が解消されない期間内に再び懲戒処分された違反行為を行う
  • (ⅳ)労働者が、正当な理由なく、30日間に合計5日、又は365日間に合計20日、無断欠勤する

ウ 損害賠償請求と懲戒の時効

労働者が使用者に損害を与えた場合の損害賠償請求の時効は、原則、労働者が使用者に損害を生じさせる行為を行った日から6か月である(政令第145/2020/NĐ-CP号第72条第1項)。

懲戒処分の時効も、違反行為から6か月である。ただし、違反行為が使用者の財産や技術上・経営上の秘密の漏えい等に関する場合には、懲戒処分の時効は12か月になる(労働法第123条第1項)。なお、損害賠償請求の時効にはこのような延長の定めがないため注意を要する。

この起算点は、使用者が違反行為を知ったときではなく、違反行為時と実務上解される。したがって、違反行為の把握が遅れて期間を徒過した場合には、損害賠償請求や懲戒ができなくなるおそれがある。

(4) 秘密保持契約

ア 労働法の規定

営業秘密の保護は、法令によるだけでなく、使用者と労働者との間で合意して契約を締結することも重要であり、これは実務上よく行われている。秘密保持義務の合意については、労働法にも定めがあり、「雇用者は、労働者が法令の定めるところにより営業上の秘密又は技術上の秘密に直接関わる業務に従事する場合、営業上の秘密又は技術上の秘密の保護に関する内容及び期間並びに違反した場合の権利及び賠償について労働者との間で書面により合意する権利を有する」とされる(労働法第21条第2項)。

これを受けた通達第10/2020/TTBLDTBXH号(以下「通達第10号」という)第4条第1項では、従業員が法律に規定された営業又は技術の秘密に直接関連する職務に従事する場合、使用者は、法律の規定に従って、労働契約又は別の文書で、営業又は技術の秘密の保護の内容について従業員と合意することができるとされている。契約書の作成時に参考となる主要な内容は、①営業秘密のリスト、②使用範囲、③保護期間、④保護方法、⑤労働者の権利及び義務、及び⑥違反時の対応である。

営業又は技術の秘密保持契約をしたあとに、これに違反した場合、使用者は当該従業員に損害賠償請求などができることも規定されている(通達第10号第4条第3項)。通達上は以下の2つの場合に整理されている。

  • (ⅰ)労働者が労働契約期間中に違反行為をした場合は、労働法に基づいて解雇及び損害賠償の手続
  • (ⅱ)労働契約の終了後に労働者の違反行為が判明した場合は、民法又はその他の関連法令に基づいて、賠償の請求・賠償訴訟の提起

イ 実務上の対応

営業秘密を守るため、使用者は、合意により、労働者の在職中及び退職後にも秘密保持義務を課すことが考えられる。実際にこのような合意をすることはよく行われており、その合意のポイントとしては、①入社時点で誓約をとる、②秘密情報をできる限り列挙・特定する、③退職時の秘密情報に関する資料等の返還義務を定める、④職務上、創作されたアイデア、ノウハウなどは会社帰属を明確化する、などが挙げられる。

(5) 競業避止

ア 兼業

ベトナムでは労働の流動性が高く、労働者は同業他社の条件が良いと転職することも珍しくない。法令上は、ベトナムでも職業選択の自由が認められている(ベトナム2013年憲法第35条)。また、労働法上、兼業は認められている(労働法第19条)。兼職することとなる他社が同業であってもこれを禁じてはおらず、秘密保持を理由とする例外的な兼業禁止規定は存在しない。このように、ベトナムでは兼業が明確に認められており、実際に兼業するベトナム人労働者は珍しくはない。

イ 競業避止の合意

兼業に加え、退職後に同業他社に転職する、又は同種の事業を自身が立ち上げるなどの競業による営業損害の危険もよく聞かれるところである。この問題を防止するため。競業避止義務について労働者と合意することが考えられる。もっとも、この合意で、無条件に全面的に同業に就くことを禁止できるわけではない。期間の定めのない競業避止義務の合意をしたとしても無効になる危険があるため、実務では、期間、地域、職種などを制限して締結される傾向にある。

裁判で競業避止義務について争われた例があり、退職後12か月間、同業他社、競合し得る他社、関連会社、取引先等に就職しないとする競業避止義務を定めた秘密保持契約が有効であるとする裁判例(755/2018/QĐ-PQTT)がある。

2 内部通報

(1) 通報法

企業の営業秘密の漏洩などの問題が発生したとき、当該現場や漏洩した従業員の周りの他の従業員がまず早期に情報を得ることが少なくない。このような場合に、社内で早期に適切に通報がなされれば、損害を抑えられる可能性がある。そのためには内部通報制度の確立が有効である。

通報に関し、ベトナムにおいては、通報法(法律25/2018/QH14号)(以下「通報法」という)が、国家管理に関する全ての分野における個人、組織、機関の違法行為の通報を奨励し、幅広く違法行為を発見したときには通報するよう求めている。通報法の他、通報者を保護するための具体的なガイドラインを定める通達(通達08/2020/TT-BLDTBXHを改正する通達09/2021/TT-BLDTBXH号。以下「通達第08号」という)がある。

ア 通報者と保護対象者

あらゆる個人が、刑事犯罪を除くあらゆる機関・組織・個人の違法行為一般を通報することを対象とする(通報法第2条第1項)。刑事犯罪については、刑事訴訟法に基づき、告発することが国民の義務とされている。自己の勤務先の違法行為のみが対象ではない。

イ 通報経路

対象事実や通報される者に応じて、権限を有する管轄当局への直接の通報が求められる。すなわち、企業の内部で通報制度を設計し、これに従って上司や窓口に報告を求めているわけではなく、当局に通報を求める法令である。基本的には、社内通報窓口の設置は、企業に義務付けられていない。ただし、政令、通達により、銀行や公開会社など一部の類型の企業には義務付けられている。

ウ 保護要件と保護義務

通報受理の要件は、通報が①法に従った形式であること、②当局の管轄があること、及び③違法行為が存在する理由があること、である(通報法第29条第1項)。地位、職務、生命、健康、財産等々が侵害されるおそれがある場合に、根拠をもって、これを通報することで保護を受けることができる。

通報があった場合、当局は、違法行為を停止させ、通報者の安全を保護する義務を負う(通報法第11条)。

エ 職場に関する通報の保護

職場環境においては、労働者は通報したことによって差別を受けることなく従前どおり業務に従事し、従前と同様の給与の支払いを受けることができなければならず(報復の禁止)、使用者にはそれを保障する義務がある(通報法第57条)。それが脅かされている場合、関係当局は、労働者からの保護要請に基づき、又は自ら、使用者を指導する等して通報者を保護し、労働環境を保持するよう要求する。使用者はその要求に従って労働者を保護する義務を負い、当局と労働組合に報告し、組合はその実施を監督する責任がある(通達第08号第7条)。

通報内容が労働に関する場面か、又は一般の違法行為の場面かを区別をするために、労働に関する通報と認められるための要件があり、これを満たしたときには、労働分野の通報として上記のとおり保護される。つまり、職場で通報したことによって差別されたり、賃金が下がったりということがないように勤務上の保護を受けられるのは、労働法令、労働契約に従う労働者に限られる(通達第08号第3条)。そして、仕事が害され、又はその危険があると信ずるに足る証拠が必要である(通報法第47条第3項)。

(2) 実務

通報法に従うと、企業目線で言えば、企業内の問題を従業員に直接当局に通報される懸念がある。すなわち、初期段階では、通報対象となる事象は企業内のことか、企業外のことか、企業は被害者なのか、それとも企業が関与している不祥事なのか、判然としない状況も考えられるところ、当局に急に通報されることになる。そして、当局がその通報を受けて、疑わしいときに、当該企業に働きかけてくることが予想される。企業としては、急に当局から、「企業に関する違法行為の通報がある」と連絡を受け、それに対して急な対応を迫られるおそれがある。そうなった場合、企業としては適切な対応が難しくなることが予想される。そこで、通報法には企業に内部通報の窓口を設置する法的義務はないものの、実質的に、日本と同様に社内窓口を設けることも考えられる。

通報窓口の設置義務は上述のとおり原則無いため、その制度設計は柔軟に可能である。通報窓口の設置方法として、①ベトナムの子会社内の窓口、又は②日本本社の窓口を設定して管理をするという場合がある。それぞれメリット・デメリットがあり、ベトナム現地の窓口では、ベトナム人従業員が通報や報告・相談がしやすく、上司のベトナム人に報告したいという動機づけになることも考えられる一方、日本に直接通報をすることはベトナム人従業員にとってハードルが高いと思われる。他方で、ベトナム現地で内部通報が完結してしまうと、日本本社としては把握ができず、適切な対応が時機に遅れる可能性もある。この他、日本の本社の窓口と、ベトナム子会社の窓口を併用することや、法律事務所やコンサルタントなどに外部委託して通報窓口を設定することもある。いずれの方法を選択するにしても、関連社内規定の整備とその周知、社員教育が重要である。

3 社内の不正調査と個人データの取り扱い

(1) 不正調査の手法

不正発覚時には、日本本社の担当部署、外部専門家と早期に連携し、メールや銀行の取引履歴などの客観的証拠を収集する必要がある。第三者委員会の設置、データフォレンジック(デジタル機器等に保存された電磁的記録の抽出・分析)等大きなコストがかかる可能性もある。

不正の事実が客観的に確認できた段階で、関係者のインタビューなどを実施する。当該不正が会社業務に与える社会的、金銭的インパクトなども踏まえたうえで措置(不正事実の公表、懲戒処分、民事請求、刑事告訴など)を実施し、再発防止策を検討する。

証拠収集や調査の担当を、ベトナム現地の子会社の役員か、又は本社の所管部門か、どちらが主導するかも検討を要する。

なお、事前の策として、日頃から規程作成、研修実施や業務フローの見直し等が重要である。

(2) 個人データ保護法

ア 個人データ保護法の公布

社内の不正調査の際には従業員の個人データを取り扱う場面も想定され、またその個人データを調査や分析のために日本本社に送ることも考えられる。

ベトナムでは、個人データ保護法第91/2025/QH15号(以下「個人データ保護法」という)が、2025年6月に国会で承認され、成立した。2026年1月1日から施行されている。これは、ベトナムにおける個人データの規制を定めた初の一般的、網羅的な法律である。その施行細則である政令第356/2025/ND-CP号(以下「政令第356号」という)も2025年12月31日に公布され、2026年1月1日より施行されている。

イ 適用対象

個人データ保護法では、以下の者(データ主体)の個人データ取り扱いに直接関与し、又は関連する外国の機関・組織・個人を適用対象とすることが明記された。

  • (ⅰ)ベトナム国民
  • (ⅱ)無国籍であるがベトナムに居住し、個人識別証明書の発行を受けているベトナム出身者

したがって、ベトナムに居住しているベトナム人従業員の個人データを取り扱うには注意を要する。

ウ 個人データの定義

個人データ保護法第2条第1項では、個人データとは、特定の個人に関連する又は特定の個人の識別に寄与する情報と広く定義されている。基礎データと機微データに分類できるが、基礎個人データには、氏名、生年月日、死亡日、性別、国籍などの他、個人の画像なども含まれる。

したがって、従業員の入社時の情報や、社内の監視カメラの個人を特定できる映像などは個人データに該当し、規制の対象となると考えられる。

エ 個人データ主体の同意取得

個人データの管理者は、個人データを処理する場合、収集、利用、開示等の全ての処理過程について、原則としてデータ主体から同意を取得する必要がある。データ主体の同意については、個人データの取り扱いに関する情報提供を行ったうえで有効な同意をとる必要がある。すなわち、データ対象者が、以下の事項について十分に認識したうえで、自発的に行われなければならない(個人データ保護法第9条第2項)。

  • (ⅰ)処理されるデータの種類、処理の目的
  • (ⅱ)個人情報を処理する組織・個人、管理者又は管理取扱者の情報
  • (ⅲ)データ主体の権利・義務

同意は、明確かつ具体的になされる必要があり、通知に対して返答がないことをもって同意とみなすことはできない(同条第3項及び第4項)。

同意取得が不要となる例外も規定されている。個人データ保護法第19条では、複数の例外のうちの一つとして、緊急事態において、データ主体若しくは他の個人の生命、健康、名誉、尊厳、権利若しくは正当な利益を保護するため、又は、侵害行為に対して、自己、他者、国家若しくは機関・組織の正当な権利若しくは利益を必要な方法で保護するためであれば、個人データの処理に同意は不要となる、と規定されている。個人データ管理者、個人データ処理者、個人データ管理・処理当事者及び第三者は、この場合に該当することを証明しなければならないが、例えば、社内で問題が発生し、内部通報で被害の発生又は拡大を抑えるという場面では、同意なしに個人データを処理することが可能と考え得る。

オ 個人データ越境移転影響評価に関する義務の免除適用範囲

ベトナム人従業員のデータを親会社に送る場合として、親会社がベトナム国外のサーバーでベトナムの従業員の情報を管理する、又は日本からベトナムのサーバーにアクセスしてベトナムの従業員の情報を確認する、などが考えられる。

ベトナム人の個人情報をベトナム域外に移転する場合は、「データ移転影響評価」を実施したうえで、所定の様式で越境移転影響評価書類を作成し、域外移転開始から60日以内に管轄当局に提出しなければならない(個人データ保護法第20条第2項d)。

この個人データ処理の移転影響評価書類には、データの管理者又は管理者兼処理者としての使用者の情報、そのデータ保護担当部署・担当者の情報、データ処理目的などの詳細を記載する。提出書類の中には、評価書類だけでなく、データ主体から取得した同意書や、移転先及び移転元の間で締結されたデータ処理に関する双方の責任を定める書面(契約等)も含まれる。

個人データ保護法では、データ移転影響評価義務が免除される場合がある(個人データ保護法第20条第6項)。それは以下のとおりである。

  • (ⅰ)従業員の個人データをクラウドコンピューティングサービス上に保管する場合
  • (ⅱ)個人データ主体が自ら自身の個人データを越境移転する場合
  • (ⅲ)管轄政府当局が個人データを越境移転する場合
  • (ⅳ)政府が定めるその他の場合

これらに加え、政令第356条第17条第3項では、法令の規定に従って、労働規程や労働協約に従った国境を越える人事管理のための個人データの越境移転も、当該義務が免除されると規定されている。

これにより、不正調査以前に、ベトナム子会社の従業員の情報をクラウドで管理するなど人事管理目的での従業員情報の日本本社への移転は、当該義務を免れると考えられる。

カ 個人データ保護規制違反に関する行政処分

本法では、個人データ保護規制違反に対する行政処分について違反行為ごとに、罰則を定めた。その内容は以下のとおりである(個人データ保護法第8条)。

  • (ⅰ)個人データの売買行為については、違反により得られた利益が判明した場合、その利益の10倍。利益がない場合、又は利益に基づいて算出された罰金が30億ドン未満の場合は、30億ドン。
  • (ⅱ)国境を越えたデータ移転に関連する違反については、組織の前年度売上高の5%。前年度に売上高が記録されていない場合、又は売上高に基づいて算出された罰金が30億ドン未満の場合は、30億ドン。
  • (ⅲ)その他の違反の場合は、30億ドン。

キ 留意点

従業員の監視(例えば、職場での監視カメラによる録画や、パソコンやスマートフォンのログの監視)について、個人データの規制の例外となる規定は無い。

不正調査にて個人データの取り扱いが避けられない場合を踏まえ、入社時や調査開始時に同意を取って対応するということが考えられる。調査の過程で、個人データの取り扱いに関する違反をしてしまうなど、別の問題に発展しないよう注意が必要である。

以上

参考レート

プロフィール

写真:上東 亘氏

上東 亘(かみひがし わたる)

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 パートナー
Asia Pacific International Law Firm(APAC)ハノイオフィス出向等を通じて、合計4年間程度ベトナムに駐在。その他、ILOベトナム国別事務所External Collaborator、労働政策研究・研修機構 ベトナム労働情報研究会委員など就任。主な著作として、「ILOによるベトナム労働法・労働組合法に関連する技術協力の概要―2013年から2015年にかけての14の政令制定に対する支援の評価―」自由と正義 Vol.67 No.12(2016)、「JILPT海外労働情報19-03 ベトナムの労働を取り巻く現状」(労働政策研究・研修機構、2019)<共著>など。

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