ベルギーの公共職業安定機関等におけるAIの導入状況
- カテゴリー:職業相談・職業情報・職業適性、雇用・失業問題、労働条件・就業環境
- フォーカス:2025年12月
- 第2節 公共職業安定機関等におけるAIの導入状況(VDABの事例)
- 第3節 AI導入の経緯。効果・メリット、課題、見直しや改善の方向性
- おわりに
はじめに
本稿は、ベルギーの公共職業安定機関におけるAIの導入状況について、文献調査により収集した情報を取りまとめたものである。ベルギーには現在、地域・言語別に4つの公共雇用サービス(PES)が活動している。本稿は、第1節でベルギーの公共職業安定機関の概要について簡単に説明する。第2節では、公共職業安定機関におけるAIの導入状況について、ベルギーのPESの中でAIの活用が最も進んでいると思われるフランダース雇用訓練サービス(VDAB)の事例を紹介する。
第1節 公共職業安定機関の概要
1.公共職業安定機関の種類
ベルギーでは現在、地域・言語別に次の4つの公共雇用サービス(PES)が活動している。
- フランダース雇用職業訓練サービス(VDAB)(フランダース地域担当、オランダ語)(注1)
- ACTIRIS(ブリュッセル首都圏担当、オランダ語とフランス語)(注2)
- Le FOREM(ワロン地域担当、フランス語)(注3)
- ADG(ドイツ語コミュニティ担当、ドイツ語)(注4)
2.フランダース雇用職業訓練サービス(VDAB)の概要
フランダース地域のPES機関として、フランダース雇用職業訓練サービス(VDAB)が求職者のためのワンストップサービスを提供している。2007年5月7日の法令により、VDABはフランダース政府から独立し、法人格(政府外の自治機関としての地位)が与えられた。VDABの取締役会は、会長(1名)、雇用主と従業員の代表者(各4名)、独立取締役(6名)、政府委員(2名)、マネージングディレクター(1名)で構成される(注5)。運用面では、フランダース政府が取締役会長を任命する。また、フランダース政府は、代表組織の提案に基づいて、雇用主と従業員の代表者を含む取締役会の全メンバーを任命する(注6)。
VDABは、ブリュッセルにある本部、5つの州支部、受入施設と研修施設を組み合わせた60のコンピテンスセンター、約20の代理店で構成される。
VDABには2021年末時点で常勤職員(フルタイム換算)が4,502人のおり、その内訳は2,461人が地方公務員(54%)、1,630人が公法請負業者(36%)、962人が講師(20%)となっている(注7)。
第2節 公共職業安定機関等におけるAIの導入状況(VDABの事例)
1.求職者のニーズ理解に基づく、的を絞った支援の提供
(1)プロファイリングツールによる求職者のニーズの特定
VDABは2017年初頭にAI対応のNext Stepツールの初プロトタイプを発表し、求職者のプロファイリングにAIをいち早く導入した。VDABは、PESへの登録から6週間以内にすべての新規求職者に連絡を取り、スクリーニングを行うことを目指しており、労働市場で最も困難に直面している求職者を優先している。この連絡戦略の一環として、Next Stepと呼ばれるAIベースのプロファイリングモデルが、ケースワーカーが脆弱な求職者を特定するのを支援している。このツールは、求職者を推定(再)雇用の可能性(つまりプロファイリング・スコア)に応じて5つのグループに分類し、ケースワーカーが優先順位に従って連絡を取ることができるようにする。
Next Stepは、AIを使用して労働市場で最も困難な状況にある求職者を特定するプロファイリングモデルである。Next Stepはランダム・フォレスト・モデル(注8)を使用して、個人が今後6カ月以内に仕事を見つける可能性を推定する。これらのプロファイリング・スコアを推定するために使用されるデータは、求職者がPESに登録し、オンライン・プロファイルを完了したときに収集される。これには、次の3つの主要な情報カテゴリが含まれる。
- 居住地、年齢、教育レベル、職業スキルと能力及び過去の職歴と失業期間(現在のものを含む)などの社会経済的特性
- 職業、業界、場所などの仕事の好み
- 行動指標:求職者のVDABのWebサイトでの活動を求職行動の代理として使用し、ログイン、個人ポータル(MijnLoopban)での情報の追加または変更、求人のクリックなどのクリック・データを収集する。
求職者と、求職者の復職を支援するケースワーカーは、求職期間中いつでもこれらのデータを補完及び更新できる。予測モデルに入力するデータベースは毎日更新され、プロファイリング・スコアも同様に更新される。
ケースワーカーが受け取る情報は、求職者が所属するグループのみであり、次にすべきことの決定に影響を与えないよう、個別のスコアは提供されない。ケースワーカーは、電話インタビューの後、専門知識と個人の状況に関する独自の評価に基づいて、求職者に必要な支援を決定する。
ケースワーカーは、プロファイリング・スコアを推定できない失業者に最初に連絡を取る。トレーニング・プログラムに登録している人など、特定の状況に該当する一部の人は求職の義務が免除される。その他のケースでは、求職者のプロフィールに、モデルを適切に実行するために必要なすべての情報が含まれていないことがある。この場合は、その人がオンライン・プロフィールを完成させる方法に関する指導を必要としていることを示している可能性がある。
ケースワーカーは最初のグループに属するすべての個人に連絡を取った後、他の4つのグループの求職者への対応を開始できる(注9)。
VDABは、新規登録者の雇用までの距離を計算するアルゴリズムを使用し、雇用から最も遠いと分類された人を優先的に呼び戻す。雇用までの距離は、6カ月以内に仕事が見つかる可能性の関数である。このモデルは、申請者の個人ポータル(MijnLoopban)での活動に応じて継続的に更新される。この予測モデルは、求職者データと労働市場データの2つのデータに基づいており、次の2種類のデータが使用される(注10)。
- 求職者に関する以下の個人データ
- Dimona(即時宣言、雇用主が加入者に関する情報を社会保障制度へ送信する個別の文書で、労働市場への参入と退出を追跡できるようにする)と相互参照されたキャリアパス
- MijnLoopbanでの活動(例えば、履歴書データと仕事の希望)
- 能力に関する情報
- VDABのサービスによって提供されるマクロ経済及び労働市場データ
予測モデルの結果に応じて、求職者は3つのカラーグループ(赤:就職の可能性35%未満、オレンジ:同35%以上65%未満、緑:同65%以上)に分けられる。就職から最も遠いと分類された求職者は、優先的に呼び戻されてファイルを完成させた後、必要に応じてコンピテンスセンターに紹介される。その他の求職者は、登録後6週間以内に呼び戻されてファイルを完成させた後、最も適切な求人に誘導される。
(2)キャリア管理と就職活動オリエンテーション
2013年から2016年にかけて、VDABはフランダースの労働市場に関連する包括的な新しいスキル分類法を確立した。VDABは職業と運用ディレクトリ(ROMEバージョン3)から出発し、より詳細にそれを充実させて、VDABの内部ディレクトリであるCompetentを形成した。Competent内の各職業は、必須スキル、オプション・スキル及びソフト・スキルに関連付けられる。診断中に求職者に尋ねる質問は、その人のすべてのスキルとソフト・スキルをカバーできるものでなければならない。その上で、求職者の希望に対応する仕事で求められるスキルとそれらを比較し、「能力ギャップ」に対処することを目的としている。この調整は、VDABが利用者に提供する次の3つのアプリケーションにおいて使用される(注11)。
- Orient:キャリアガイダンス・アプリケーションであり、詳細なアンケートを通じて特定された利用者のスキルを、職業の遂行に必要なスキルと照合することによって機能する。
- Jobbereik:求職者のスキルに関するツールであり、労働市場の職業に必要なスキルに関連しており、ファイルに保存されている特定のデータに基づいている。最も自立した求職者は、ディレクトリ内の既存の職業と自分の間のギャップを測定することができる。特定の状況で観察可能な能力ギャップに応じて、このツールは訓練など、VDABのオファーに含まれるサービスを提案する。
- APIマッチング:求人情報と求職者のプロフィールをマッチングするツールであり、「雇用主」バージョンも存在する。最初の診断時に確立されたスキル(訓練コースの受講時にコンピテンスセンターのアドバイザーによって拡張される可能性がある)に基づいて、求職者に地理的エリア内の既存の求人情報が提供される。アカウントを持つ雇用主は、求人情報に一致するプロフィールを表示できる。
スキルの分類は、インターネット上の求人情報と需要のあるスキルの包括的なレビューを通じて、3カ月ごとに更新される。外部のサービスプロバイダーがこの件に関する情報フローを定期的にVDABに送信する。
VDABは、求人情報のデータを使用して、求職者の現在の能力とスキルが潜在的な職業にどの程度適合しているかを視覚化するのに役立つJobbereikツールを構築した。Jobbereikは、ディ-プラーニングとグラフ分析を使用して、求職者が追求できる可能性のある職業や仕事を提示する。入力した職業だけでなく、より幅広く、他の職業や業界で役立つ可能性のあるコアな転用可能なスキルも考慮に入れる。このツールは、仕事のモビリティと転職を支援する上で大きなメリットをもたらす(注12)。
Jobbereikは、既存のスキルと能力を考慮して検討できる職業と職務のセットを視覚化するのに役立つ。Jobbereikの基本的な前提は、コア・スキルと能力が職業や業界間で部分的に転用可能であるということである。実際は、利用者が希望する職業を入力すると、多かれ少なかれ同様のスキルプロファイルを必要とする、可能性のある代替職業のリストが表示される。多くの人は新しい仕事を探すときに最後に従事した職業だけに焦点を当てているが、Jobbereikは通常検討されない職業を強調することにより、新しい雇用機会を開くことができる。提案された職業の中には、求職者がすぐに利用できる職業もあるが、新しいスキルの習得が必要な職業もある。いずれの場合も、Jobbereikは個人のスキルプロファイルを利用して、対応するキャリアシフトを行うために埋める必要があるスキルギャップに関する洞察を提供する。これにより、個々の求職者の職業上の好みだけでなく、彼らの準備が整っていて習得できるスキルの種類に応じて、提案されたキャリアシフトの妥当性と実現可能性を測ることができる。職業の流動性をさらに支援するために、VDABは、提案されたキャリアシフトに対して、Jobbereikが受講可能な教育及び訓練プログラムのリストを提案できるようにする新しい機能を開発している(注13)。
VDABは、労働条件に関する関心や好みに基づいて、顧客が適切で可能性のある職業を探すのに役立つ、別の類似のAIベースのツールOrientも実装した。このオンラインサービスは、求職者が記入した好みに関するアンケートとVDABの職業とスキルの分類を使用して結果を生成する。このほかにVDABが実装しているAIツールには次のものがある(注14)。
- Competentiecheck(コンピテンシーチェック):国民がダイナミックな労働市場における自分のスキルと能力を理解するのを支援することを目的としている。このツールの利用者は職業を入力し、その役割に関連する主要な能力に対して自分自身を評価するよう求められる。これは、自分のスキルが最新かつ関連性があるかどうかを評価するためのものである。これに基づいて、Competentiecheckは訓練と仕事の提案(現在のスキルとスキルの向上によって獲得できるスキルの両方に基づく)を提供する。
- Competency-Seeker(コンピテンシー抽出ツール):Jobbereikやその他のVDABツールのバックグラウンドでは、利用者がプラットフォームや履歴書に入力した情報を、AIを搭載したCompetency-Seekerが分析し、求職者の過去の職務経験に基づいてスキルを抽出する。このツ-ルは雇用主が作成した求人広告内のコンピテンシーを特定するためにも使用される。
VDABは、一方では雇用主が職務内容に追加することを検討できるスキルと能力を特定し、他方では求人に最も適した職業を特定するツールを使用している。より正確には、後者のツール(職業ファインダー)は、VDABの職業と能力の分類に含まれる600の職業のそれぞれから求人の「距離」を推定し、求人広告に「最も近い」適合職業の(再)ラベル付けをする。
VDABのCompetency-Seekerは、求職者と雇用主の両方が、保有している、または求めているスキルプロファイルを充実させ、洗練させるのに役立つ。VDABのツールは、PESの職業とスキルの分類(Competent)と個人がオンラインで提供する情報に基づいてこれを行う。このツールは、脆弱な求職者が自分のスキルとコンピテンシーを特定することを支援する際に、ケースワーカーによっても使用される。Competency-Seekerは、利用者がPESのWebサイトにアップロードした履歴書や求人広告の内容、オンライン・プロファイルを完了する際に手動で入力した情報を分析する。次に、このツールは、アップロードされた文書やオンラインで入力された文書に明示的に記載されていないスキルとコンピテンシーを提案する。求職者の場合、このツールは暗黙のスキル(例えば、職歴として「トラック運転手」が記載されているプロファイルから「トラック運転免許」)を検出する。採用企業の場合、Competency-Seekerは、職務、作業タスク、企業の活動全般に関する情報に基づいて、募集されている仕事に必要なスキルとコンピテンシーのセットを提案する(注15)。
2.労働市場マッチングと雇用者サービス
(1)求職者と求人のマッチング
VDABは2018年、「デジタル・ファースト(Digital First)」ラインを中心に構築された新しいサービスモデルの提供を開始した。これは、デジタルチャンネルを顧客とのコミュニケーションの中心に据えたデジタル・ファーストサービスであり、顧客はデジタルチャンネルを介してPESとやり取りすることを推奨される。求職者は、「登録ウィザード」に登録することから始める。このウィザードは、求職者が仕事探しをどのように考えているか、個人的な状況がどのようなものかを探るために、ターゲットを絞ったAI主導の質問を行う。この準備作業は、個人のデジタルダッシュボードに保存される。求人ダッシュボードは、オンライン求人のクリック行動の個人履歴、顧客のプロフィールを雇用主の既存の求人と自動的にマッチングする機能、特定の求職者の検索行動を類似のプロフィールと比較し、そこから提案を生成するJobnetと呼ばれる新しいアルゴリズムなど、様々な(ビッグ)データの結論に基づいて求職者に求人を提供する。スマートアルゴリズムは、求職者が何を求めているかを様々な方法で学習する。求職者のプロフィールに一致する求人を見つけ、関連する検索用語や求人・通勤意欲など他の基準も考慮する(注16)。
さらに、VDABは2021年、ディープラーニングと自然言語処理機能を組み合わせた、AIを活用した新しいマッチングソリューションTalent APIを発表した。このツールは、求職者のプロフィール(地理的な所在地、過去の職務経験、スキル)及び求人情報の内容に基づいて、対象を絞った求人情報を生成する。求人広告に含まれる同義語も考慮することで、より広範なマッチングの可能性を生み出す。加えて、このアプリケーションは、求職者が既に閲覧した求人案件と類似した案件を特定するために、求職者が求人案件を検索する際の閲覧行動を考慮に入れる。個々の求職者プロファイルと求人情報は、その後、独自の高次元ベクトルに変換され、前述のジョブマッチング特性のいくつかの側面にわたって類似性スコアが生成される。以前のバージョンとは異なり、Talent APIはより高い透明性を確保したマッチング・ツールである。異なる次元にわたるマッチング・スコアを求職者に示すことで、生成されたマッチング候補の正当性を示すことができる(注17)。また、雇用主が候補者の履歴書を参照するために、PESのWebサイトにアクセスするたびに(例えばGoogle検索経由)、アプリケーションには雇用主が参照できる類似の求職者プロファイリングが表示される。これにより、雇用主はVDABのWebサイトを直感的に操作し、検索を段階的に絞り込んで最適な候補者を見つけることができる(注18)。
Talent APIは、求人が求職者のプロフィールにどれだけ合致しているかを示すスコアを計算し、高いものから順にランク付けする。このスコアは、いくつかのAIベースのミニモデルに基づいて計算される。各ミニモデルは、プロフィールの特定の部分に対する個別のスコアを計算する。各ミニモデルのスコアに、対応するウェイトを掛け合わせた数値を合計して予備スコアを算出し、さらに修正を加えて最終のスコアを計算する。各ミニモデルの概要は次のとおりである(注19)。
- やりたい仕事:求人の職種が、求職者がプロフィールで希望する職業とどの程度一致しているかを確認する。職種をクリックすると、その職種が求職者が興味を持っている職業に追加される。
- 職務経験:求人の職名が求職者のプロフィールの職務経験とどの程度一致しているかを調べる。
- トレーニング・コース:求人の職名が求職者のプロフィールの学歴とどの程度一致しているかを確認する。
- 教育学位:求職者の教育レベル(例えば学士)が求人に必要な教育レベルとどの程度一致しているかを確認する。
- 場所:空席ポジションの場所が求職者のプロフィールの連絡先住所とどの程度一致しているかを確認する。
- スキル:求人に必要なスキルが求職者のプロフィールのスキルとどの程度一致しているかを調べる。
- 言語:求人に必要な言語スキルを備えているかどうかを確認する。
各ミニモデルのスコア及びウェイトが以下の数値だとすると、最終スコアは次のような方法で算出される。
- 職務経験:スコア=30%、ウェイト=0.2
- やりたい仕事:スコア=100%、ウェイト=0.2
- 教育:スコア=50%、ウェイト=0.05
- 場所:スコア=80%、ウェイト=0.3
- スキル:スコア=50%、ウェイト=0.15
- 言語:スコア=100%、ウェイト=0.05
- 教育レベル:スコア=40%、ウェイト=0.05
補正なしの予備スコアは、「30×0.2+100×0.2+50×0.05+80×0.3+50×0.15+100×0.05+40×0.05=67%」となる。
さらに、求職者は日中の仕事を希望しているが、求人が夜勤の場合、予備スコアに0.9を掛ける修正を行い、最終スコアは「67%×0.9=60.3%」と算出される。
(2)求人広告のデザイン支援
VDABは、雇用主への支援の分野で2つのAIイニシアチブを実施している。第一に、コンピテンシー抽出ツールで、雇用主が作成した求人広告に含まれるコンピテンシーやスキルを特定し、説明文に欠けているものを提案する。第二に、職業検索ツール(Beroepzoeker)は、同じ求人情報を分析しているが、これはVDABの職業分類に従って、各求人に最も適した職業名を特定する。より正確には、このツールは求人広告に「最も近い」職業を表示するために、職業分類に含まれる600の職業それぞれとの距離を推定する。これにより、雇用主は最も正確な求人広告を作成することができ、求職者は求人広告の一貫性が強化されることにより、求人求職活動への支援を受けることができる(注20)。
3.行政活動と知識創造
(1)労働市場情報の生成
VDABはAIを活用した労働市場のモニタリングに取り組んでおり、ニューラルネットワークモデルを利用して、職業と関連スキルの需要を測定及び予測している。これは求人広告のデータを利用して行われている(注21)。
第3節 AI導入の経緯、効果・メリット、課題、見直しや改善の方向性
1.AIを導入するに至った経緯
VDABは、求職者が自分の興味やスキルに最も適した仕事を見つけられるよう支援するため、求職者に100問を超える広範なアンケートへの回答を求めるオリエンテーション・テストを実施していた。その後、労働専門家が特定の質問と職業の間の関係を示すスコアリングを手作業で作成する必要があり、このプロセスは、求職者とVDAB職員の両方にとって時間のかかるものであった。
VDABはオリエンテーション・テストの改善において機械学習に大きな可能性を見出し、テストを以下の3つの戦略目標に沿ったものにするため「デジタル・ファースト」のアプローチを採用した。
- キャリアに関して、すべての現役市民に視点を提供する。職業生活においてどの方向に進みたいかを発見するのに役立つ、最新のユーザー・フレンドリーなツールを開発する。
- 柔軟なツールを通じて求職者に新しい様々な分野や仕事の機会を検討するよう促す。
- オリエンテーション・テストやその他のデジタル・ツールに機械学習と人工知能を統合することは、フランダースの労働市場における信頼できるアドバイザー及びデータ・ディレクターとしてのVDABを強化する目的に適している。
AIコンサルタントのSuperlinearとVDABのAIチームが協力し、人工知能と機械学習の最新の開発成果を活用してオリエンテーション・ツールを刷新した。
新しく改良されたオリエンテーション・ツールの目的は以下のとおりであった。
- オリエンテーション・テストのユーザー・インターフェイスを改善してパーソナライズし、テストを受ける個人に合わせて自動的に調整する。
- テストを完了するのにかかる時間を短縮する。
- 機械学習アルゴリズムを通じて特定の質問と職業間の関係を自動的に生成することにより、VDABがテストを維持しやすくする。
- 現在の労働市場に合わせた、より良い仕事の提案によってテストの結果を改善する。
- 母国語がオランダ語でない国民がテストを受けやすくする。
- 利用者に依存せず、公平で偏見のない結果を導く。
VDABはオリエンテーション・テストを短縮して簡素化すると同時に、ユーザー・エクスペリエンスと結果の品質を向上させたいと考えていた。そのため、多分野にわたるアプローチにより、合理化されたデジタル・オリエンテーション・テストOrient 2.0を開発した。AIの導入により、オリエンテーション・テストを様々なレベルで改善することに成功した。アンケートの回答時間は45分から10分に短縮され、約80%の時間節約となった。テストの徹底的なパーソナライゼーションにより、平均問題数は114問から58問に削減された。さらに、機械学習の活用により、受験者への推奨がより正確になった。
これらの改善を支えるテクノロジーは、AIの潜在能力を最大限に活用している。Orient 2.0に実装された機械学習モデルSuperlinearとVDABは、求職者の回答と職業の関係性を捉え、具体的なフォローアップの質問をすることでアンケート回答者の分析を完了し、その人が特定の仕事を好む可能性を計算し、最終的にデータに基づいた、個人と現在の求人市場に合わせた求人提案を提供する(注22)。
2.AIを導入し、生じている効果・メリット
(1)VDABで使用されているAIアプリケーション
VDABは数年前から、AIアプリケーションの開発に特化した革新的なチームを擁している。VDABは、データと人工知能の可能性を最大限に活用し、就職活動を可能な限り容易にすることを目指している。2018年以降、VDABは人工知能を何らかの形で活用した約20種類のアプリケーションを開発した。主なAIアプリケーションは表1のとおりである。以下の4つAIアプリケーションは、人々が自身で始めることができる(注23)。
- Vacaturesuggestiesは、求職者のプロフィールに類似したプロフィールに基づいて、求職者と求人をマッチングする。
- Orient(注24)は、求職者の興味に基づき、どの職業が興味深いかを示す。
- Jobbereik(注25)は、個人の能力に基づいて、どの求人が到達可能かを表示する。
- Competentiecheck(注26)は、求職者のスキルが最新かどうかを確認するのに役立ち、最後に、適切なトレーニング・コースの提案を受け取る。
最も人気のあるAIアプリケーションはJobbereikとOrientである。2024年7月までの4年間で、これらのアプリケーションの利用者数は100万人を超えた。Jobbereikでは、結果ページにアクセスした利用者の約60%が結果に反応している。つまり、求人、研修コース、職業に関する情報を閲覧したり、結果を電子メールで送信またはダウンロードしているということである。
| AIアプリケーション | 内容 |
| Beroepzoeker(注27) | 1,300を超える職業のデータベースにアクセスできる。各職業について、仕事内容、ロボット化の可能性、利用可能なトレーニング・コース、年収、現在の求人情報を確認できる。 |
| Competentiecheck | 現在の職業でどのようなスキルを持っているか、またどのトレーニング・コースがさらに役立つかを知るのに役立つ。 |
| Competent(注28) | 職業能力プロファイルのデータベースであるCompetentの自動提案を作成する。データベースはAIを使用して最新の状態に保たれる。 |
| Itemwise | 閲覧した求人に基づいて、興味があると思われる類似の求人を提案する。 |
| Jobbereik | 求職者が能力に合った仕事を見つけるのに役立つ。 |
| Job map | 空きポジションを視覚化し、労働環境の傾向を分析するのに役立つ。 |
| Kans op werk | 求職者が6カ月以内に仕事を見つける可能性を推定する。これは優先順位を決定するのに役立つ。 |
| Orient | 求職者の興味に基づいて、どの仕事が求職者に適しているかを見つけるのに役立つ。 |
| Skill framework | 履歴書、求人情報、トレーニングコース内のスキルを検出する情報源。 |
| Skill navigator - tagger | テキスト内のスキルを自動的に認識して名前を付けるアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)。 |
| Skill trends | 時間の経過とともにスキルと職業がどのように変化するかを追跡する。 |
| Talent API | 労働市場における需要と供給を比較し、プロフィールと空きポジションをマッチングする。 |
連邦公共サービス(FPS)戦略支援局の資料によると、2023年時点で、運用が中止されたものを除き、23のAIアプリケーションが実現している(表2)。
| 年 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 |
| AIアプリケーションの実現数 | 2 | 5 | 8 | 14 |
| Kans op werk Jobnet |
Kans op werk Jobnet Graph database Activiteitsgraad Beroepzoeker C1 |
Kans op werk Jobnet Graph database Activiteitsgraad Beroepzoeker C1 Jobbereik Orient Jobmap |
Kans op werk Jobnet Graph database Activiteitsgraad Beroepzoeker C1 Jobbereik Orient Jobmap Bias analyse Orient Beroepzoeker C2 Datagedreven Competent Diverse annotatietools Competentiezoeker 2.0 voor CV’s Data pipelines Advertsdata |
|
| 年 | 2022 | 2023 | ||
| AIアプリケーションの実現数 | 19 | 23 | ||
| Kans op werk TalentAPI Profiel → Job TalentAPI Job → Job Graph database Beroepzoeker C1 Jobbereik Orient Jobmap Bias analyse Orient Beroepzoeker C2 Datagedreven Competent Diverse annotatietools Competentiezoeker 2.0 voor CV’s Data pipelines Advertsdata Skill Navigator Jobbereik Opleidingsuggesties Skill tagger API Skilltag based Jobbereik Competentiecheck |
Kans op werk TalentAPI Profiel → Job TalentAPI Job → Job Graph database Beroepzoeker C1 Jobbereik Orient Jobmap Bias analyse Orient Beroepzoeker C2 Datagedreven Competent Competentiezoeker 2.0 voor CV’s Skill Navigator Jobbereik Opleidingsuggesties Skill tagger API Skilltag based Jobbereik Competentiecheck CV scanner Publieke Skill tagger API Publieke Skill Navigator API Motivering weigering opleidingen Bias analyse Kans op Werk Bias analyse TalentAPI |
|||
資料出所:連邦公共サービス(FPS)戦略支援局の資料を基に作成(注29)。
欧州公共雇用サービスの報告書「PESのプロセスとサービスにおけるAIの機会(注30)」は、AIを次の3つの主要なタイプに分類している(注31)(表3)。
- 特化型人工知能(Artificial Narrow Intelligence、ANI):推奨システムや最新のチャットボットなどの特定のタクス向けに設計されており、AIアプリケーションのほとんどがこのカテゴリに分類される(第3世代)。
- 汎用人工知能(Artificial General Intelligence、AGI):人間の知能にさらに近づくことを目指すAI(第4世代)。
- 人工超知能(Artificial Super Intelligence、ASI):人間の知能を超える仮想のAI(第5世代)。
これらは、基本的な統計分析などの第1世代の伝統的な分析(Traditional Analytics、TA)や機械学習と深層学習の基本形式を導入する第2世代の高度な分析(Advanced Analytics、AA)から深化したものである。
表3:様々な世代の分析の概要

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出所:European Network of Public Employment Services(2025)"Opportunities of AI within PES processes and services"を基に作成。
同報告書は、各国のAIアプリケーション実現の概要に関する資料の中で、VDABが開発したAIアプリケーションについて表4のように整理している(注32)。
| 名称 | 分野 | 目標 | 利用者 | アプローチ | 分析の世代 | 現状 |
| Kans op werk | プロファイリング | X時間以内に就職する確率を計算 | 支援スタッフ、雇用主 | 機械学習分類器(ランダムフォレスト) | 第1.5世代 | 生産中 |
| Jobnet | マッチング | 求職者と求人のマッチング | 支援スタッフ | 深層学習、ニューラルネットワーク、グラフ分析 | 第2世代 | 中止 |
| Talent API | マッチング | 求職者と求人のマッチング | 求職者、支援スタッフ | アンサンブル | 第2世代 | 生産中 |
| Jobbereik | キャリアガイダンス | 市民に対し、自身のプロフィールを改善するための隣接/類似能力に関する洞察を提供 | 一般市民 | 深層学習、ニューラルネットワーク、グラフ分析 | 第2世代 | 生産中 |
| Orient | キャリアガイダンス | 求職者が調査と機械学習による推奨を通じて労働市場で方向性を見出すのを支援 | 求職者、一般市民 | 深層学習 | 第2世代 | 生産中 |
| Beroepzoeker | キャリアガイダンス | 人々が自由記述により職業検索を行えるようにする | 一般市民 | 深層学習 | 第2世代 | 生産中 |
| Competentiecheck | キャリアガイダンス | 利用者の現在の職務におけるスキルを分析し、利用者と現在の職務に必要なスキルとの間のスキルギャップを算出し、現在の職務に遅れを取らないためのトレーニングを推奨 | 一般市民 | 深層学習、自然言語処理 | 第2世代 | 生産中 |
| Competentiezoeker | キャリアガイダンス | 自由記述および記述抽出に基づく能力検索 | 一般市民 | 深層学習、自然言語処理 | 第2世代 | 生産中 |
| Motivering weigering opleidingen | キャリアガイダンス/個人行動計画 | 訓練を拒否する動機が正当かどうかを分析 | 支援スタッフ | 深層学習 | 第2世代 | 生産中 |
出所:European Network of Public Employment Services(2025)"Opportunities of AI within PES processes and services"を基に作成。
(2)生じている効果・メリット
労働市場がかつてない速さで変化している世界では、自分が本当にできること、知っていることなど、自分の能力に焦点を当てることが重要である。VDABは、VDABが使用するAIアプリケーションのCompetentキャリア・データベースは、変化し続ける労働市場における羅針盤となると評価している(注33)。
Competentは、ベルギーにおける職業及び能力の標準言語であり、卒業証書以上のものを見るのに役立つ、専門的な能力プロファイルのデータベースでもある。
Competentの専門能力プロファイルには、職業に不可欠な能力、ソフト・スキル、デジタル・スキルの詳細な説明が含まれる。
パートナー、利用者、AIからの入力により、Competentは常に労働市場の最新動向を把握している。
労働市場は常に変化しており、仕事は変わり、新しいテクノロジーが導入される。労働市場が逼迫している状況では、欠員に完全に一致する従業員を見つけるのは容易でない。VDABは、Competentは、企業と求職者に、変化する労働市場における職業と能力に関する貴重な概要を提供し、職業に必要な能力を明確にするのに役立つとしている。
Competentのできることは次のとおりである。
- 人材と仕事を結び付ける:求職者のスキルをマッピングし、それを雇用主のニーズとマッチングさせる。
- コンピテンシーベースのHRポリシーを設定する。VDABサービスとのシームレスな統合のために、コンピテンシーベースの職務記述書を実装する。
- 教育と仕事を結び付ける:労働市場の変化するニーズに迅速に対応するトレーニングを提供する。
- グローバルに接続:国際標準(ISCO、ESCO)にリンクする。
- 共通の能力言語を作成する:多くのパートナーとCompetentを使用して、共通の能力言語の構築を支援する。
- 政策アドバイスを提供する:能力と職業に基づいた労働市場レポートを通じて政策を立証する。
Competentの各専門能力プロファイルは情報の宝庫であり、職業ごとに次のものが見つかる。
- 複数の名前:検索用語としても使用される職業の一般的な名前
- 専門能力:能力は、仕事の文脈で実行される行動で表現されるスキル(何ができるか)と知識(何を知っているか)で構成される。この行動は個人の特性や動機によっても影響を受ける。
- 職業に必須の能力:すべての専門家が知っておくべき、そしてできること
- 職業におけるオプションの能力:仕事の状況に応じて何が追加されるか
- ソフト・スキル:職業でうまく機能するために必要な個人的なスキル
- デジタル・スキル:職業の一部となるデジタル・スキル
- 資格:職業を実践するために必要な証明書および/または卒業証書
Competentは、ソーシャル・パートナーとSynerjob(VDAB、Actiris、Bruxelles-Formation、Le Forem、ADG)との強力なパートナーシップの結果であり、協力して共通の能力言語を構築している。
3.実施後における課題
(1)開発を中止した事例
VDABは新しいマッチング・エンジンとしてJobnetを2010年代後半に開発し、その後利用を中止した。その目的は、①求人への求職者、②求職者間(例えば、同じような求職者がどのような仕事を探しているかを知るため)、③求人に対する求職者、④求人間(例:類似の空席を探す)の4つの方向でより正確なマッチングを提供することであった。Jobnetはディープラーニング(DL)を使用して開発され、最も正確な一致を導き出すためにニューラルネットワーク(NN)(注34)が展開された。また、4つの異なる言語であいまいな意味マッチング(コンテンツとコンテンツ)を実行することもできた。Jobnetは他のソリューションと比較して優れたパフォーマンスを発揮したが、その高度な機能と複数のNNレイヤーにより、特定のマッチングがどのように行われたか、どの変数がどの結果に寄与したかを判断することが事実上不可能であるという大きな欠点があった。これには主に、①モデルの説明可能性が課題となり、信頼性と透明性が損なわれたこと、②個々の変数の寄与が不明な場合、変数レベルでの推奨事項(より良いマッチングを生成するために履歴書をどのように改善できるかなど)を提供することが困難になったこと、の2つが影響した。VDABはJobnetの開発を進めないことを決定し、代わりに、透明性を高めながら高レベルのマッチングを生成するアンサンブル学習(注35)アプローチを選択した(注36)。
(2)組織と人材の準備に関連する障壁
VDABは、PESサービスの提供におけるAIの使用に関しては先駆者の1つである。VDABは、AIシステムと対話するための個人のトレーニングに多額の投資を行っている。VDABの従業員と顧客の多くは、長年にわたってAIアプリケーションを使用しており、AIに関連する利点、リスク及び制限についてある程度理解している。それにもかかわらず、VDABは、個人がAIを効果的に使用できるように、継続的な支援と訓練を提供し続けている。VDABはまた、AIアプリケーションを含むデータ駆動型ツールを有効に活用するために必要なコア・スキルを評価及び開発するための措置を講じている。例えば、2021年には、VDAB従業員のデータ・リテラシーのレベルを測定し、経営陣に推奨事項を提供することを目的とした調査を開始した。
VDABはツール固有の訓練を提供していない。AIアプリケーションの全ての訓練は、ケースワーカーに委託された様々なミッションに焦点を当てた、より広範なカリキュラムに統合されている。ケースワーカーは、アプリケーションが関連付けられているサービスを提供するために必要な一連のスキルの一部として、特定のAIアプリケーションの使用方法を学ぶ。
ケースワーカーは、様々な支援資料やイベントにもアクセスでき、AIに関する一般的な知識を継続的に高めたり、PES内で使用されているAIアプリケーションに関する質問の答えを見つけたりすることができる。この目的のために、VDABは次のような様々な教育的アプローチを採用している。
- 情報セッションやイベント(「Coffee with the Future」、「Lunch & Learnセッション」、「Digiwijs」など)では、デジタル・リテラシーからAIの一般的な機能、ケースワーカーが日常業務で使用するAIアプリケーションに関するより具体的な質問まで、様々なトピックについてケースワーカーとIT担当者の間でオープンなコミュニケーションが実現している。さらに、ケースワーカーは開発プロセスに関与して現場の経験や専門知識を開発者と共有し、様々なイノベーション・ラボ、ワーキンググループ、テスト手順に参加することで、AIソリューションに対するより深い洞察を得ることができる。
- オンラインコースやウェビナーにケースワーカーと顧客の両方がアクセスできる。VDABは、AIアプリケーションを様々な観点から検討する「インスピレーション」セッションも開催している。通常、PESのケースワーカー、マネージャー、IT担当者、及びセルフサービス・モードまたはPESカウンセラーを通じて間接的にAIアプリケーションを使用する可能性のあるVDABの顧客が集まる。これらのインスピレーション・セッションで収集されたすべてのヒント、事例及び情報は、誰もが利用できる実用的なガイダンスと支援資料を開発するための基礎として役立つ(注37)。
(3)AIの倫理的利用とガバナンス
VDABは政府機関として、責任を持ってAIを使用することが非常に重要であると考えており、①正確で信頼できるデータを使用すること、②性別や出身地などに基づく偏見や差別を避けること、に注意を払っている。AIアプリケーションは公正かつ客観的で、すべての人に平等な機会を保証するものでなければならないとしている(注38)。
データとAIの使用にはリスクが伴う。VDABはこれらのリスクを制限するためにさまざまな対策を講じている。VDABは、すべての申請を倫理チェックに照らしてテストしており、このテストに合格したアプリケーションのみを使用する。
VDABは、以下の3つの基本原則に照らしてAIアプリケーションをテストする。
- 透明性:AIアプリケーションがどのように機能し、なぜ決定を下し、それがどのような影響をもたらすのかを明確に説明する。
- 信頼:公正かつ信頼できる結果を保証するために、AIアプリケーションを徹底的にテストおよび評価する。
- すべての人にメリット:VDABだけでなく、求職者、従業員、そして社会全体に役立つアプリケーションを構築する。
VDABは2022年、AIの正確かつ責任ある使用を監視する倫理委員会を設立した。この独立委員会は、3人の社内専門家と4人の社外専門家で構成され、データとAIを取り巻く倫理的問題について助言を行っている。
例えば、AIが女性には男性よりもパートタイムの求人をより多く提案していることが分かった。問題はそれが正しいかどうかである。データに基づいて、女性は男性よりパートタイムの仕事に関心が高いのかもしれないが、実際にどうかは分からない。たとえデータが現実を反映しているとしても、それをどう扱うかは難しい判断である。こうした倫理的ジレンマは、倫理委員会に付議され、最善の対処方法や必要な調整方法が検討される(注39)。
おわりに
フランダース地域の公共雇用サービス(PES)機関であるフランダース雇用職業訓練サービス(VDAB)は、AIアプリケーションの開発に特化した革新的なチームを擁しており、データと人工知能の可能性を最大限に活用し、就職活動を可能な限り容易にすることを目指している。VDABは2018年以降、人工知能を何らかの形で活用した約20種類のアプリケーションを開発した。最も人気のあるAIアプリケーションはJobbereik(個人の能力に基づいて、どの求人が到達可能かを示す)とOrient(求職者の興味に基づき、どの職業が興味深いかを示す)である。2024年7月までの4年間で、これらのアプリケーションの利用者数は100万人を超えた。Jobbereikでは、結果ページにアクセスした利用者の約60%が結果に反応している。つまり、求人、研修コース、職業に関する情報を閲覧したり、結果を電子メールで送信またはダウンロードしている。VDABは2022年、AIの正確かつ責任ある使用を監視する倫理委員会を設立した。この独立委員会は、3人の社内専門家と4人の社外専門家で構成され、データとAIを取り巻く倫理的問題について助言を行っている。
注
- VDABウェブサイト
(本文へ) - https://www.actiris.brussels/fr/citoyens/
(本文へ) - https://www.leforem.be/
(本文へ) - https://adg.be/
(本文へ) - VDABウェブサイト
(本文へ) - General Inspectorate of Finance, General Inspectorate of Social Affairs in France(2023) “Comparison of Public Employment Services in Different European Countries “ANNEX Ⅲ Belgian Flanders” P3.(本文へ)
- VDAB(2024) “jaarverslag 2023”(PDF:15.42MB)
(本文へ) - ランダム・フォレストは機械学習に広く使われるアルゴリズムである。複数の決定木から得た出力を組み合わせて、1つの結果を導き出す。分類と回帰問題の両方に対処するため、その使いやすさと柔軟性から採用が促進されている。(本文へ)
- OECD (2023) “Artificial Intelligence and Labour Market Matching” P24.(本文へ)
- 注6資料 P11.(本文へ)
- 注6資料 P12.(本文へ)
- OECD (2024) “A new dawn for public employment services Service delivery in the age of artificial intelligence” P42.(本文へ)
- 注9資料 P22.(本文へ)
- 注12資料 PP42-43.(本文へ)
- 注9資料 PP19-20.(本文へ)
- ILO(2019) ”Key developments, role and organization of Public Employment Services in Great Britain, Belgium-Flanders and Germany” PP97-98.(本文へ)
- 注12資料 P45.(本文へ)
- 注9資料 P21.(本文へ)
- VDABウェブサイト
(本文へ) - 注12資料 P49.(本文へ)
- 注12資料 P53.(本文へ)
- https://superlinear.eu/impact/superlinear-and-vdab-reinvent-orientation-test-with-artificial-intelligence
(本文へ) - VDABウェブサイト
(本文へ) - https://orientatie.vdab.be/
(本文へ) - https://jobbereik.vdab.be/
(本文へ) - VDABウェブサイト
(本文へ) - https://www.jobpersonality.com/beroepenzoeker
(本文へ) - https://extranet.vdab.be/competent
(本文へ) - VDABウェブサイト(PDF:2.59MB)
(本文へ) - European Network of Public Employment Services(2025) “Opportunities of AI within PES processes and services".(本文へ)
- 注30資料 PP5-6.(本文へ)
- 注30資料 PP61-62.(本文へ)
- VDABウェブサイト
(本文へ) - 「ニューラルネットワーク(NN)」とは、人間の脳内にある神経細胞(ニューロン)とそのつながり、つまり神経回路網を人工ニューロンという数式的なモデルで表現したもの。NNは機械学習や深層学習(ディープラーニング)などを学ぶ際に知っておくべき基本的な仕組みである。(本文へ)
- アンサンブル学習は、機械学習の手法で、より精度の高い予測を得るために、2つ以上の学習モデル(例:回帰モデル、NN)を組み合わせたもの。アンサンブル・モデルは、複数の個別のモデルを組み合わせて、単一モデルの場合よりも正確な予測を生成することができる。(本文へ)
- 注30資料 PP32-33.(本文へ)
- 注9資料P36.(本文へ)
- VDABウェブサイト
(本文へ) - Vrt nwsウェブサイト
(本文へ)
参考文献
- European Network of Public Employment Services(2025) “Opportunities of AI within PES processes and services"
- General Inspectorate of Finance, General Inspectorate of Social Affairs in France (2023) “Comparison of Public Employment Services in Different European Countries” ANNEX Ⅲ Belgian Flanders”
- ILO(2019) ”Key developments, role and organization of Public Employment Services in Great Britain, Belgium-Flanders and Germany”
- OECD (2023) “Artificial Intelligence and Labour Market Matching” P24
- OECD (2024) “A new dawn for public employment services Service delivery in the age of artificial intelligence”
- VDAB (2024) “jaarverslag 2023”
諸外国の公共職業安定機関等におけるAIの導入状況調査―ベルギー、フランス、スウェーデン、韓国
- ベルギーの公共職業安定機関等におけるAIの導入状況
- フランスの公共職業安定機関におけるAIの導入状況
- スウェーデンの雇用仲介庁におけるAIの導入状況
- 韓国の公共職業安定機関におけるAIの導入状況
関連情報
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