諸外国の労働時間法制
 ―ホワイトカラー労働者への適用(アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス)

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本調査は、厚生労働省の要請に基づき、アメリカドイツフランスイギリスの4カ国を対象に、各国の労働時間法制について文献調査等により情報収集を行ったものである。特に、わが国では働き方改革に関連した法整備の一環として、ホワイトカラー労働者に係る労働時間法制の適用除外等に関する議論があることから、これに対応する法制度の有無を含め、諸外国における現状をまとめた。

1.労働時間に関する基本的な法制度

労働時間に関する法制度を、主な項目によってまとめると、およそ次表の通りとなる(図表1)。

図表1: 労働時間に関する法制度の概要
画像:図表1

(1)労働時間の上限

まずアメリカでは、労働時間の上限に関する規制はない。原則として、被用者を週40時間を超えて使用してはならないが、1.5倍以上の割増率で賃金が支払われる場合は、40時間を超えることが許容される。また、1日単位の上限に関する規定はない(注1)

一方、ドイツでは、最長労働時間は、1日8時間、週6日(つまり1週間あたり48時間)と定められている。ただし、6カ月または24週の期間で平均が1日8時間になる場合、使用者は1日の労働時間を10時間まで延長することができるほか、限定的に1日10時間を超える労働時間も許容されている。

フランスでは、1日当たりの法定労働時間(超過勤務を含む)は、原則として10時間と規定されているが、例外として12時間まで就労が認められる場合がある。また、1週当たりの最大週労働時間は48時間であるが、これも例外的な場合には週60時間まで就労が許可される。

イギリスでは、1日当たりの労働時間について上限は設定されていない。週当たり労働時間については、原則として、算定基準期間となる任意の17週間において、48時間を超えないこととされる。ただし、職務内容や労使協定等により、算定基準期間を52週まで延長することが可能である。

(2)休憩・休息(日、週当たり)

アメリカでは、休憩・休息に関する法的規定としては、「5~20分程度の短い休憩」を「被用者の効率を高めるもの」として、有給の労働時間に含むことが定められている。

ドイツでは、1日の労働時間が6時間を超えて9時間以下の場合に30分、9時間を超える場合に45分の休憩を付与することとされている。また、労働者は、1日の労働時間の終了から次の日の開始までの間に連続した最低11時間以上の休息時間をとらなければならない。さらに、日曜日および法定祝日の休息について、労働者は、0時から24時まで就業してはならない。

フランスでは、6時間に1度、20分以上の休憩時間を与えなくてはならない。また、原則として、2就業日の間は、少なくとも11時間の休息を取らなくてはならない。さらに、1週間に一度は、連続した24時間の休息(休日)を与えなければならない。休日は、原則として、労働者の利益のため、日曜日に与える必要がある。

イギリスでは、就業が6時間を超える場合に20分以上の休憩、また1日(24時間)当たり最低11時間の休息、さらに週(7日)当たり最低24時間の休息(または14日間につき連続した最低48時間の休息、ただし場合により分割等が可能)を与えることとされている。

(3)休暇

アメリカでは、休暇に関する法的規定はない。

ドイツでは、原則として、継続勤務期間が6カ月以上の労働者は1年につき24日以上の年次有給休暇を取得することができる。

フランスでは、1カ月ごとに2.5日、年間で30労働日の法定の年次有給休暇が付与される。ただ、法律上、土曜日は労働日の計算になるため、実質的には25日の年休である。これは、仕事や資格、報酬、労働時間に関係なく、被用者に与えられる権利であり、パートタイムの従業員であっても、フルタイムの従業員と同じ権利を持つ。

イギリスでは、休暇の対象となる年(leave year)当たり5.6労働週、年間28日間の有給休暇を付与しなければならない(週当たりの労働日が5日未満の場合は案分)。

(4)夜間・シフト労働

アメリカでは、夜間・シフト労働に関する法的規定はない。

ドイツでは、深夜労働(23時から6時まで、製パン・製菓は22時から5時まで)は1日8時間を超えてはならないが、1カ月または4週間で調整される場合、1日10時間までの就労が許容される。

フランスでは、一般的なケースでは、午後9時から午前7時の時間帯を含む9時間連続で就労した場合に「夜間労働」とみなされる。夜間労働者が行う毎日の労働時間は8時間を超えてはならないとされている。

イギリスでは、午後11時~午前6時の時間帯(労働者と使用者の間に合意がある場合は午前0時~午前5時を含む7時間以上の時間帯)を夜間とし、これを3時間以上含む労働の17週間(または労働者と使用者の間で合意された期間)の平均が、1日(24時間)当たり8時間を超えてはならない。

(5)変形時間制

アメリカでは、26週または52週単位の労働時間の変形制を認めている。ただし、いずれも1日12時間、1週56時間を超える労働に対しては、1.5倍の割増賃金を支払わなければならない。

ドイツでは、1日の労働時間は原則として8時間を超えてはならないとされているが、例外としては6カ月平均で8時間を超えなければ10時間まで延長することができる。

フランスでは、労働協約が締結されている場合は最長3年、締結されていない場合で従業員規模が50人未満の場合は9週間、50人以上の場合は4週間を限度として法定労働時間を超えた労働時間の調整が可能である。ただし、年1607時間を超えた場合や一定期間の平均労働時間が週35時間を超えた場合は、超過勤務手当が支給される。

イギリスでは、算定基準期間は原則17週間とされているが、労使間の合意等により最長で52週間まで延長できる。

(6)適用除外等

アメリカでは、①最低賃金と最長労働時間の両方または②最長労働時間のみについて、適用除外とする職種等を定めている。①には、後述のホワイトカラー・エグゼンプションの職種のほか、娯楽業や水産業、農業の一部労働者、あるいはベビーシッターや犯罪捜査官など、多様な13職種が対象として列挙されている。また②には、運輸業やメディア業、あるいは農業関連の一部労働者など、さらに多くの職種(21職種)を含む。このほか、一部の業種や特定の種類の企業等については、最長労働時間に関する特例措置がある。

ドイツでは、「管理的職員」には、労働時間法は適用されない。

フランスでは、家内労働者、商業代理人、住み込み不動産管理人等、坑内労働者、農業労働者は、労働法典の特別規定もしくは別法(坑内労働者、農業労働者)において、通常の労働時間規制とは別途、労働関係が規定されており、通常の労働時間規制からは除外されていると解される。また、取締役・幹部職員・上級管理職(カードル)については、労働時間規制の一部のみが適用されるか、別途の規定が設けられている。

イギリスでは、職種によって、労働時間の上限、休憩・休息、夜間労働の全てまたは一部について、適用が除外される。

2.ホワイトカラー労働者に係る労働時間法制

(1)適用除外の対象範囲と適用除外の内容

次に、各国の労働時間法制がホワイトカラー労働者をどのように適用除外としているかを見るが、その際のホワイトカラー労働者の範囲に関する目安として、日本の管理監督者、並びに高度プロフェッショナル制度及び裁量労働制における定義を参考にする。管理監督者は、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるもの」と定義される。該当するか否かは「実態に即して判断すべき」とされ、判断基準として、①当該者の地位、職務内容、責任と権限からみて、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあること、②勤務態様、特に自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること、③一般の従業員に比してその地位と権限にふさわしい賃金 (基本給、手当、賞与) 上の処遇を与えられていること、が挙げられている(注2)

高度プロフェッショナル制度は、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者が対象範囲とされる。専門性の高い業務(金融工学等を用いた商品開発、資産運用等)(注3)に従事し、使用者から具体的な指示を受けないことなどが要件となっている。また、裁量労働制については専門業務型と企画型に分かれるが、同様に、専門性の高い業務や事業運営の企画立案、調査、分析の業務(専門型で19業種(注4)、企画型では4要件(注5))に従事し、業務の手段や時間配分などに関して使用者の具体的な指示を受けない労働者について、実労働時間にかかわらず労働協約等で定めた労働時間数分を働いたものとみなす。

各国におけるホワイトカラー相当の労働者はどのように定義されているのか。

まずアメリカでは、「管理職(executive)」「運営職(administrative)」「専門職(professional)」「外勤営業職 (outside salesman)」及び「コンピュータ関連職」がホワイトカラー・エグゼンプションの対象とされ、最低賃金と最長労働時間に関する規制が適用除外となる(注6)。俸給基準要件(実際の労働時間にかかわらず定額の給与を支給)、俸給水準要件(週給684ドル以上)、職務要件(管理や経営および専門知識を要する)の3つの要件が定められている(図表2)。

図表2:ホワイトカラー・エグゼンプションの適用対象者と必要とされる要件
画像:図表2

ドイツでは、「協約外職員」及び「管理的職員」が相当すると考えられる。「協約外職員」とは、高度な資格を有し、労使が締結した労働協約の最高賃金を超える賃金を得ている労働者を指す。労働時間法が適用されるため、原則として1週間あたり48時間の最長労働時間規制が適用されるものの、個別の労働時間が定められていることは稀で、その業務に沿って自己の責任で労働時間を管理することが期待されている(注7)、とされる。また「管理的職員」は、①事業所またはその部門に雇用されている労働者を、自己の判断で採用及び解雇する権限を有する者、②包括代理権または業務代理権を有する者(ただし、業務代理権は使用者との関係でも重要であることを要する)、③上述の①②以外で、企業もしくは事業所の存続と発展にとって重要であり、かつ、その職務の遂行に特別の経験と知識を必要とするような職務を通常行う者、とされる。なお、職種等によらず、労働時間管理を受けない働き方を使用者が認める「信頼労働時間制度」があるが、これを利用する労働者の多く(管理的職員を除く)は、労働時間法の適用を受ける。

フランスでは、上述のとおり幹部職員(上級管理職あるいはカードル)が労働時間規制の適用除外を受ける。2000年の法改正に伴い、規制適用の有無の明確化が図られた結果、「経営幹部職員」「作業チームに統合された幹部職員」「自律的な幹部職員」の3類型に区分されている。このうち「経営幹部職員」は、(1)労働時間編成上大きな独立性を持つような重要な責任を委ねられ、(2)自律性の高い意思決定を行う権限を与えられており、(3)当該企業ないし事業場における報酬システムのなかで最も高い水準の報酬を得ている者と定義され、労働時間、休息、休日等の諸規定を受けないものとされる。ホワイトカラー・エグゼンプションに相当する適用除外の対象となるのは、この「経営幹部職員」に限られる。その他の幹部職員は、1日10時間、1週間48時間、年間1607時間、年間218日という何らかの上限の範囲内で就労し、予め定められた労働時間を超過した場合には残業代が支給される。「作業チームに統合された幹部職員」は、職務の性質上、作業チームや部門所属して部門内の労働時間管理に従う労働者を指し、労働時間、休憩および休日に関する法規定の適用対象となるが、週労働時間が35時間を頻繁に超える場合に、39時間を上限とする代わりに1日あるいは半日単位の休息を割り当てる「労働時間短縮制度」による調整が可能である(39時間を超える場合、割増率が適用される)。また「自律的な幹部職員」は、上記2類型に当てはまらない幹部職員で、所属する部署における通常の就業時間を適用するのが不可能な性質の業務に従事している者、労働時間の配分の裁量を委ねられ、且つ、所属する部署における通常の就業時間を適用するのが不可能な性質の業務に従事している者を指す。こうした幹部職員は、包括労働時間制(週35時間の法定労働時間を超える所定内労働時間、ただし1日10時間、1週間48時間、年間1607時間という上限の範囲内で、予め設定し、これに応じた賃金を決定)あるいは年間労働日数制(年間の就労日数を、218日を上限として予め定める制度)の適用対象となる。

イギリスでは、ホワイトカラー・エグゼンプションに相当する制度はない。労働時間規則には、各種の規制項目の適用除外を受ける業務が列挙されているが、このうち上記のホワイトカラー労働者に相当すると考えられるのは、「役員又は自ら方針を決定する権限を有する者」である。業務・職務に関する具体的な定義はなく、労働時間が計測されない(unmeasured working time)ことが要件とされる。この区分の労働者には、労働時間規則に定められた週当たり労働時間の上限のほか、休憩・休息、夜間労働に関する規制が適用されない。年次有給休暇については適用となる。なお、労働者が個別に、週労働時間の上限に関する適用除外に合意することができる、いわゆる「オプトアウト」には、最長時間以外の規制が適用され、また時間外労働に関する手当の有無とも直接かかわるものではない。上記の時間が計測されない労働者やこれに関する適用除外とは、基本的に異なるものといえる。

(2)運用

実際の運用では、労働者が適用除外を受けるか否かは、どのように決まるのか。

アメリカでは、ある労働者がホワイトカラー・エグゼンプションに該当するかどうかは、行政規則の定義をもとに使用者が判断する。行政当局に届け出る必要はない。ただし、非対象者(ノンエグゼンプト)に誤って適用(誤分類、misclassification)した場合、使用者は公正労働基準法(FLSA)違反として集団訴訟、行政訴訟の対象になり、未払賃金や割増賃金のバックペイ、及び賠償金支払い等のリスクを負う。

ドイツでは、「信頼労働時間制度 (Vertrauenszeit)」は、ほとんどの場合、テレワーク(Telearbeit)で行われている 。また、「協約外職員(Außertarifliche Angestellte)」は、対象となる範囲、要件は、各労働協約によるが、一般的に、大学卒業以上の学歴や一定の職業経験が必要とされているようである。「管理的職員(leitende Angestellte)」の対象となる範囲、要件は、事業所組織法(BetrVG)5条3項を考慮すると、企業の存在と発展にとって重要な、起業家的な業務内容を遂行していること、とされる。どの働き方となるかについては、当該職種の募集の段階で明記されていることが多い。

フランスでも、労働者が幹部職員の類型のいずれかに該当するかについては使用者が判断するとみられる。これに関連して、一部の企業では、経営幹部に該当しない上級管理職を経営幹部として就労させていることが指摘されており、時間外労働に関する手当の支払いをめぐって訴訟に発展する事例もみられる。

イギリスでは、職位を問わず全ての労働者について、時間外労働に対して賃金の支払いを受ける法的な権利が保証されておらず、その扱いは雇用契約等によるとされる。事例調査によれば、一般の労働者については、団体交渉を通じて、あるいは慣行として、契約上の時間を超える労働時間に割増手当を上乗せした賃金が支払われることが比較的一般的とみられる。一方、管理職や専門職については、より雑多な状況がうかがえるが、何らかの手当の支給や、あるいは代替的な休暇の付与などの対応を行っている事例も多く見られる。なお、政府調査や、公的統計に基づく労働組合による試算等の結果からは、実態として一定割合の管理職相当の労働者が、無給の時間外労働に従事している状況が窺える。

まとめ

アメリカでは、労働時間自体の規制よりも割増賃金の適用による労働時間の抑制が意識されているのに対して、欧州各国では安全衛生の観点から、労働時間(最長労働時間、休憩・休息、休暇等)を直接の対象とした規制が主眼となっている。

適用除外とするホワイトカラー労働者の対象範囲については、経営に関する業務や専門性を要する業務に従事していること、という点では共通性も見られるものの、ホワイトカラー・エグゼンプションにおける適用除外の要件(具体的な職務や俸給水準)からは、アメリカの制度が欧州各国より広範な層を対象としていることが窺える。

なお、各国とも運用上、個別の労働者に関する適用除外の適否は、主に使用者の判断による(雇用契約、あるいは求人時に記載等)。アメリカでは、この判断を誤分類として時間外手当の支払いを求めて裁判で争うケースがみられるが、欧州各国では同種の裁判等はほとんど確認されない。これにはやはり、対象範囲の広さが影響していると推測される。

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