2回目のロックダウンがフランス経済に与える影響

【海外有識者からの報告】
海外在住の有識者から提供された現地の状況についての報告です(なお、本報告は執筆日における当地の情報であり、必ずしも最新の情報を反映されたものではない)。

鈴木 宏昌(早稲田大学名誉教授、IDHE-ENS-Paris-Saclay客員研究員)

この秋、多くのヨーロッパの諸国と同様に、フランスは、新型コロナの第2波に襲われ、ついに、10月30日から1カ月間のロックダウンとなった。10月初めから多くの大都市で、夜の外出禁止令が出されていたが、新型コロナによる感染確認者、新規入院患者、重症患者の数が増え続けていたので、政府はロックダウンに踏み切らざるを得なかった。この秋のロックダウンは、この春、3カ月続いたものと比べると、緩やかで、営業している店も多いが、一般の人の行動は、食料品の買い物と仕事による移動などを除けば、1日1時間、自宅から1キロ以内の散歩やスポーツのみが許されることになった。春のロックダウンと異なり、学校(幼稚園から高校まで)や公共機関は開いている。12月以降、どの程度ロックダウンが軽減されるのかはまだ未定だが、感染者数や病院の入院患者の増減に沿って、段階的、かつ地域別に制限措置が軽減される可能性もある。

とはいえ、2回のロックダウンがフランス経済に与える影響は甚大である。経済活動は、夏から秋口にかけて回復傾向にあったものが、10月から歯車は逆転し、今年全体の経済成長率は、大きな後退になることが確実になった。最近、INSEE(国立統計経済研究所)や労働省が、この春のロックダウン期間における経済活動や労働の実態に関して、調査結果を公表し始めている。そこで、本稿では、春のロックダウン期間の経済活動や政府の経済支援策の効果などをまとめてみたい。はじめに、この春、フランス政府がとった措置とその救済策を確認し(1)、その後、ロックダウンが与えた経済・労働への影響を検討してみる(2)。また、現在進行中である2回目のロックダウンに関するINSEEの予測も紹介してみたい(3)。

1. この春のロックダウンと政府がとった経済支援策

この春、多くの人が、まだ新型コロナを遠い東アジアの感染病と思い込んでいた頃、突然、3月17日にマクロン政権は、衛生上の非常事態として、厳しいロックダウンに踏み切った。3月15日における新型コロナの新規感染者は、5千人くらいであったので、マクロン政権は思い切った措置を取ったと言える。ところが、最初は1カ月の予定だった厳しいロックダウンは、感染の蔓延がとどまらず、結局、5月11日までに及んだ。その後、段階的に制限は緩和されたが、経済活動がある程度回復するのは6月に入ってからとなる。このロックダウンの3カ月間、食料品と薬品を扱う商店を除き、すべての商店、レストラン、学校は閉鎖され、公共サービスもストップした。企業活動は許されていたが、厳しい衛生基準が企業に課せられた。労働者間の一定の距離(最低1メートル)をとること、集会の禁止、机やパソコンなど人が接触した場所の定期的な消毒、マスクの着用(4時間ごとに新しいマスクを使用)などだったので、多くの職場は混乱した。恒常的なマスクの不足もあった上に、労働者の多くが、得体のしれない新しいウィルスに感染することへの恐怖があり、労働者が職場に行くことを拒否するケースも多かった。自動車産業の工場などでは、製造ラインの変更が必要となり、1カ月以上、まったく稼働できないことも多かった。また、建設の現場では、労働者間の距離を確保することが難しかったことがあり、同時に資材の供給がストップし、ほとんど稼働できなかった。

他方、テレワークは、この間、急速に拡大した。それまで、テレワークは、一般的に、使用者が許可した時のみ可能だったが、政府は、衛生上の非常事態として、テレワークを労働者の権利とし、できる範囲でテレワークの活用を企業に求めた(2節aで、詳しく述べる)。

政府は、ロックダウンで経済活動を大きく制限することの代償として、企業と労働者にさまざまな支援策をとっている。まず、なんといっても大きな措置は、部分的失業制度である。2008年の世界危機の際に、ドイツが一時的失業制度(操業短縮手当)を大いに活用し、素早く経済の立て直しに成功した例から学び、特別法で部分就業を制度化し、企業の存続を図るとともに雇用を守ることを行った。また、企業が簡単にこの制度を利用できるように、ネット上の申請やその審査の簡素化を図った(2節b参照)。

このほか、政府がとった経済支援策としては、中小企業を対象とした政府担保の巨額の融資を行うとともに、需要が落ち込む企業の社会保障の使用者負担(日本に比べてこの比率が高い)を免除した。また、商店などを対象として、地代や賃料の支払い延期などを認めた。危機的状況となった航空会社や自動車産業には、巨額の補助金を約束し、企業の存続と雇用の維持に努めた。さらには、貧困層を対象とした連帯保障所得などの特別支払いを行った。このように、ロックダウンで生産活動が低下する中、国が企業の代わりに巨額の財政支出を行い、経済活動を全面的に支えた。その結果、国の財政赤字は、2019年末のGDPの98%から2020年末には少なくとも120%に増大することが予測されている。さらに、増税を怖がる国民の心理を読み、2022年まで、政府は増税はしないと公言している。

春のロックダウンが終わると、政府は国内の観光産業を支えるために、移動制限を取り除いたことから、この夏、フランス国内の海岸や山岳地帯は観光客で結構にぎわっていた。多くの若者は、新型コロナのことを忘れ去り、いつものようにバカンスを楽しんだ。その一方、外国観光客の激減から、パリなどの高級ホテルなどは、ほとんど閉店に追い込まれていた。

9月に入ると、学校や企業は活動を開始するが、すぐに新型コロナ感染者が若者を中心として増え始める。春の時は、感染者や入院患者は、首都圏、北部地方(リール周辺)とアルザス地方に集中していたが、この秋は、南のマルセイユやリヨンなどで感染者が増えた。9月末から10月にかけて、1日の新規感染者数は毎日のように5千人を超え、多くの大都市圏で、夜の外出禁止令が出された。しかし、感染者や入院患者数は増え続け、10月末には、新規感染者数が毎日のように、5万人規模となり、ついに、政府は10月30日から12月1日までの全国的なロックダウンを決定する。ただし、春と異なり、学校(大学を除く)と公共サービスが平常通り開いている上に資材の供給を行う交通・運輸や専門の商店は開業している。そのため、製造業や建設業はほぼ平常に近い活動を続けている。その一方、ホテル、レストランやカフェ、スポーツジム、食料品以外の一般商店は閉鎖された。新聞・テレビの報道では、多くの地方都市で営業禁止の措置に抗議活動が行われている。とはいえ、10月末の世論調査でみると、国民の大部分は、政府のロックダウンの措置を支持している。なお、新型コロナの流行は、11月中旬をピークに、その後、新規感染者数、入院患者数は減ってきているが、地域によっては、重症患者用のベッドは不足気味である。新型コロナによる死者は、春の3万人から11月30日には、5万2千人と増加した。

2. 労働に関する政府の施策とその実施状況

最近、INSEEや労働省の調査で、この春のロックダウン期間の経済や雇用への影響が次第に明らかになってきている。この節では、主に労働経済に関する状況をみてみる。

a) テレワーク

テレワークは、以前から注目されていて、すでに、2005年にテレワークに関する労使の中央協定が採択され、それに基づいた法律も存在していた。その主要なポイントは、テレワークが労使双方の合意の下で行われ、その労働条件に関しては、企業レベルの協定で定めることが望ましいというソフトなものだった。そのためもあり、テレワークの普及は限られていた。2017年の労働省の調査では、雇用労働者の3%がテレワークを使っていたが、そのうち多くは、週に1日あるいは2日という部分的なテレワークで、週3日以上はわずかに0.9%でしかなかった(注1)。職種別では、専門職及び管理職で多く、他の階層ではほとんど使われていなかった。

ロックダウンが始まると、企業は、テレワークが可能な職種に関しては、テレワークを行うことが義務化された。一般的には、100%のテレワークが原則ながら、部分的なテレワークも可能と定められ、それらの具体的な実施方法を労働組合あるいはその代表との社会的対話で行うことが推奨された。

では、テレワークの3月以降の実態はどうなのだろうか?フランス連帯・保健省直属の研究機関INSERM(国立保健医学研究所)がINSEEなどの複数の機関と協力して、新型コロナ対策として立ち上げた大規模調査で、その実態を見てみよう(注2)。このEpiCovidという調査が実施されたのは5月の第1週であり、その前の週にテレワークでのみで働いたと答えた人は28%で、部分的にテレワークを行ったが16%であった(注3)。当然ながら、職種による違いは大きく、カードルと呼ばれる専門職・管理職層では、8割がテレワークで、その6割近くは、100%のテレワークであった。それに対し、現場の生産労働者はわずかに6%がテレワークを行うと答えた。中間的専門職(技術職、学校の教諭や看護婦など)や事務職は、テレワークのみと部分的なテレワークを合計して、4割前後であった。次に、最近の労働省の企業アンケート調査をみると、ロックダウン終了後には、テレワークで働く人の割合は減少している(注4)。6月の段階では、雇用労働者の17%、9月には12%に落ちている。テレワークを多く活用しているのは、情報産業と金融業で、製造業では少ない。また、大企業(従業員500人以上)ではある程度(9月に18%)活用されているが、小企業ではまれにしか使われていない。

このように、政府の奨励にもかかわらず、テレワークは全体で3割くらい、それも限られた職種でしか使われなかったのが実態の様である。テレワークの普及を阻害している要因は、企業側にも、労働者側にもあるようだ。企業からは、各人の仕事の管理が難しいことやチームとして動けないことへの不満が強い。その一方、労働者側からは、自宅に仕事に専念できるスペースがない、あるいはオンライン会議では、上司や同僚からちょっとしたアドバイスが得られないといった不満が聞かれる。また、あるコンサルタントの意見では、テレワークが円滑に行われるためには、管理体制の見直しが必要だが、今回のテレワークは、その準備なく行われたので、継続的な発展は難しいと指摘している。実際、労働者側にも、上司や同僚との接点がなくなることで、心理的な疎外感を訴える人も多い。管理職・専門職といったカテゴリーを対象とした国際的な世論調査では、フランスで今後もテレワークで働きたいと答えたのは、わずかに16%で、ベルギーやイギリスなどに比べて低い数字にとどまっていた(注5)。やはり、テレワークでの同僚や上司との接点のなさは心理的な負担となっている模様である。結局、現段階では、100%のテレワークは一般的には難しく、週1-3日といったテレワークの方が企業側にも労働者側にもメリットが大きいようだ(注6)

なお、最近 労使のテレワークに関する中央交渉で、2005年の中央協定の改正に関する文章がまとまった(注7)。大枠には変更なく、労使の同意の下、テレワークが行われる。しかし、テレワークの定義などが拡大され、自宅などでのテレワークの経費は使用者が負担するとされるが、実際の費用の見積もりは企業レベルの労使交渉に任されるとしている。

b) 部分的失業制度

この春、マクロン政権は、ロックダウンにより生産活動が止まる代償として、影響を受ける企業や労働者に一連の支援策を用意したが、その中でも柱としたのが部分的失業制度だった。もともとは、2013年に雇用維持のためにあった措置を大幅に拡大し、新型コロナで需要が大きく低下したり、衛生基準をクリアーすることの困難な企業を対象として、余剰となった労働者を一時的にレイ・オフすることを認め、その間の賃金を国が支払い、雇用を守ろうとするものである。この特別措置の適用期間は6カ月の特別法(3月25日のデクレ)で、部分就業も認められる。具体的には、企業は、雇用労働者に70%の給与を払うが、その後、国は使用者にその負担分を支払う仕組みで、労働者は、レイ・オフされている期間、社会保障拠出金が免除されるので、従前の賃金の84%が確保される仕組みである。つまり、企業は、売上が大きく減るのを見越した場合、その余剰労働者を一時的にレイ・オフし、企業の負担を軽減することができる。さらに、この制度は、学校が閉鎖されたために、自宅で子供の面倒を見る必要がある労働者にも拡大される。待遇は他の労働者と同じく、賃金の70%だが、これは労働者の権利で、使用者は拒否することはできない。この春、部分的失業制度は、多数の企業により活用され、一時は延べで800万人以上の雇用労働者がこの制度の恩恵を受けた。また、この夏には、新型コロナの危機が長期化することを見越して、政府は、類似の長期部分的失業を可能にする制度(APLD)を採択する。これは、労使合意を条件として不況が長引く産業を対象として、最大2年間の部分的失業を認めるもので、仕組みは春の部分的失業と同じながら、国の助成の割合が引き下げられ、企業も15%の負担することになった。APLDを利用しない場合の部分的失業制度は、国の助成の割合がさらに低く、企業負担が40%になる予定である。

では実際に、この春、この部分的失業制度はどのように活用されていたのだろうか?表1は労働省や関係機関が推計した数字である(注8)。突然のロックダウンだったので、多くの企業は、3月から4月にかけて、その多くの雇用労働者を部分的失業制度の対象とした。4月の時点では、実に延べ人員で860万人、すなわち約2千万人であるフランスの民間企業で働く労働者の4割が部分的失業制度の恩恵を受けた。もっとも、フルタイム労働と換算すると、550万人なので、3割程度にとどまる。ロックダウンが続いた5月までに、使用者の代わりに国が負担した額は、169億ユーロに上る。その後、衛生基準に対応する企業が増え、部分的失業対象の労働者数は急激に減ってゆくが、レストラン、企業へのサービス(弁護士事務所、不動産業者、清掃業者等)では、この制度を利用し続けるものが多かった。9月の段階でも、100万を超える雇用労働者が職場に復帰できず、部分失業の状態である。

表1:部分的失業制度の適用労働者数(推計)
  2020年3月 2020年4月 2020年5月 2020年6月 2020年7月 2020年8月 2020年9月
部分的失業の労働者数(延べ、100万人) 7.0 8.6 7.2 3.5 1.9 1.3 1.1
フルタイム換算の部分的失業者、100万人 2.2 5.5 2.9 1.4 0.8 0.5 0.5
国の負担(Mdユーロ) 3.3 8.8 4.8 2.3 1.3 0.9 0.8

資料出所:Activité et conditions de la main d'œuvre pendant la crise sanitaire Covid 19, octobre 2020.

また、この部分的失業制度の効果に関して、INSEEは総労働時間の変化から興味深い結果を見出している。フランスの企業は、すべての労働者の労働時間と賃金を社会保障費の徴収を行うURSSAFに報告する義務がある。この統計を使いながら、部分的失業制度の効果を見ている(注9)。賃金支払いの対象となる総労働時間は、2019年の第4四半期との比で、第1四半期は-3%、第2四半期は-22%となっている。これに対し、雇用労働者数は、2020年第2四半期で、わずかに-2.7%でしかなかった。同じ時期に、製造業の落ち込みは-20.4%, 消費が-16%であったのに比較し、雇用労働者への影響は軽微なものとなっている。ちなみに、失業率の推移をみてと、2020年第2四半期には、前年の第4四半期(8.1%)に比べて改善され、7.1% に低下した。もちろん、新型コロナの感染を恐れて、失業者が就職活動をできなかったこともあるが、部分的失業制度の貢献で企業倒産や解雇が少なかったためと思われる。このような部分的失業制度のないアメリカで、この春、失業率が大幅に増えたのとは対照的である。もっとも、経済活動が戻った第3四半期になると、失業率は9.0%と多少悪化する。

C) 経済指標の悪化と財源問題

フランス経済は、2019年末、成長軌道にあったが、3カ月にわたる多くの経済活動の停止は、フランス経済に深い影を投げかけた。まず、GDPは、2020年の第1四半期に6%近くのマイナスを記録した後、第2四半期には-13.7%という過去に経験のない後退となった(表2参照)。その反動で、第3四半期には18.7%と急速な回復をしたが、それでも、前年比では-4.3%の水準であった。この内容をセクター別にみると、まず4月の段階(まる1月ロックアウト)で、製造業全体は-20.4だったが、製造業の中でも比重の高い自動車産業などは-49%と未曽有の低下を記録した。もっとも、この産業は、国が、雇用への影響を勘案し、様々な支援策をとったことから、5月から6月にかけて、急速に回復する。もう一つの花形産業である航空機産業は、4月の段階では、-10%くらいと比較的影響が軽かったが、世界の観光業が危機的な状況を受け、9月の段階でも回復する目途が立たず、下請け業者などでリストラが頻発している。サービス業では、営業がストップしたレストラン、ホテル、個人へのサービス(美容院やクリーニング)は、4月の段階で、前年比で実に7割以上の減となっている。

表2:新型コロナ危機下の経済指標 (単位:%)
  2020年T1 2020年T1 2020年T2 2020年T3
GDP -0.2 -5.9 -13.7 18.7
製造業 -1.6 -6.8 -20.4 23.9
世帯の消費 1.6 -4.7 -16.0 -1.3
可処分所得(実質) 0.5 -0.7 -2.6 3.7
貯蓄率 15.1 19.2 26.7 16.9

資料出所:INSEE, Informations rapides, No. 303,2020年11月27日

ロックダウンの期間、最も増えたのは貯蓄率で、フランスの世帯がこの春に貯蓄した総額は、100億ユーロを超えると推計されている。また、一般世帯の実質購買力は2020年の第2四半期でも、わずかに-2.6%でしかなく、いかに国が世帯の所得を支援したのかが分かる。

とはいえ、ロックダウンが世帯に与える影響は、その家族構成や職業によりかなり異なる。EpiCovidの5月第1週の調査では、世帯の経済状態が悪化したと答えた人は、全体では、4人に1人だったが、所得階層の低い人ほど、悪化したと答えている(注10)。職種別にみると、職人と商人では、経済状態の悪化を訴える人の割合が高く、その他では、3割弱であった。また、就業者の間では、2-3割が経済状況が悪化したと答えたのに対し、年金生活者では、わずかに6%でしかなかった。

最後に、所得水準と関連の深い住宅問題に関する話題を紹介しよう。この3月のロックダウンのとき、マクロン大統領のテレビ演説で全面的なロックダウンを発表したのと実際に法が施行されるまでには2日ほどの時間があった。マクロン演説の翌日には、パリの周辺の高速道路は、夏のバカンスのはじめと同じように、大変な交通渋滞が記録された。パリのマンション生活を諦め、別荘や実家に行く家族が高速道路に集中した。ナビの記録や電気消費からの推定では、パリ地域の約2割の人がパリを離れたという。3カ月続く厳しい外出制限の期間を、狭いパリのマンションで、小さな子供と一緒に過ごすのと、地方の庭付きの別荘でテレワークを行う専門職・管理職の人たちとでは、生活環境の面で雲泥の差があった。また、新型コロナの感染者や死亡者は、圧倒的に貧困層に多かった。図らずも春のロックダウンは、経済格差が健康・医療の面でもあることを明確にした。

3. 2回目のロックダウンとその影響

10月30日から12月1日まで続くロックダウンは、現在進行中である。しかし、今回の新型コロナの場合、政策担当者は、刻々と変わる感染状況や経済情勢をなるべくリアルタイムで知る指標を必要としている。そこで、フランスの基礎統計を作成するINSEEのチームは、リアルタイムで経済状況を把握するために、インターネットの情報(例えば、家庭にいる時間、交通機関の状況、グーグルにおけるレストランなどの検索数、経済紙のキーワード検索)、電気の消費量、多数の業界からの景気情報などを使った複合的な指標で、4月の状況と対比させ、11月の景気指標を割り出した(注11)。その結果、11月のGDPは、前年比で-13%と推計された(注12)。12月については、3つのシナリオが用意されている;状況が改善されれば-6.5%、ロックダウンが継続する場合は-9.5%, 中間値を-8%とする。中間のシナリオでは、第4四半期のGDPは、-4.5%で、2020年通期では、-9から-10%と予測している。ちなみに、最近発表されたOECDの予測では、フランスのGDPは-9.1%で、イタリアと同じだが、ドイツ(-5.5%)やEUの平均-7.5%より悪化する予測となっている。

この秋のロックダウンに対する政府の経済支援策は、春とほぼ同じである。まず、テレワークが可能な場合は、テレワークが義務化され、部分的失業制度の特別措置が12月末まで延長された。そのほか、強制的に閉鎖された業種には大きな助成金が用意されている。また、貧困対策として、低所得者層に対し、国から救済の一時金が支払われる予定である。

最後に、上記のようなすさまじい経済支援策の財源問題を簡単にみておきたい。これまで、EUでは、各国の財政赤字をGDPの3%以内に抑える規定があり、フランスやイタリアなどは、絶えず苦労して、財政支出を抑えていた。ところが、この春、とくに地中海諸国で、新型コロナが蔓延し、非常事態として、この財政規律は適用が停止された。その後は、フランス政府は、大幅な財政赤字を覚悟し、企業と労働者に対する巨額の経済支援を行っている。その一環で、医療、年金、失業保険などは大幅の赤字になると予測されている。その一方、国庫への歳入は、消費税の低下、企業に対する課税の引き下げなどで大きく落ち込んでいる。したがって、この増大する財政赤字を補填するのは、ほとんどが金融市場からの借り入れとなる。EUの総額7500億ユーロの経済復興計画もあるが、フランスにわたるのは400億ユーロなので、国の赤字と比べると、大きな数字とは言い難い。

ところで、フランスの赤字は、2020年第2四半期で、2兆6380億ユーロ、GDPの114%に達していた。今年前期の半年で2580億ユーロほど赤字幅が増大し、GDP比で16ポイントの赤字増加になった。この秋の2回目のロックダウンがあることから、国の赤字はGDPの120%を超えるのではないかと見られている。フランスが非常事態とはいえ、強気で財政赤字を続けているのは、金融市場における金利の低さのお陰である。EU中央銀行が裏で信用を担保していることから、現在のところ、金融市場でのフランス実質的な借り入れ金利はゼロに近いと言われている。赤字が拡大し、フランス国債に対する評価が落ちれば、当然、フランスは借入金の返済に苦しむことになるが、大部分の専門家は、金融市場で金余りの状態が続いているので、金利が上がる可能性は短期的には少ないとみている。したがって、今の段階では、赤字覚悟で、景気回復政策を優先させ、経済システムの保全を図り、雇用を守るべきという論調が圧倒的である。ただし、経済の専門家の中には、フランスがイタリアと同じように、体質的な赤字国家になり、EU内の相対的地位が下がることに警鐘を鳴らす人も多い。

プロフィール

写真:鈴木宏昌氏

鈴木 宏昌(すずき ひろまさ)

1964年早稲田大学政治経済学部卒業、69年ルーアン大学(フランス)博士課程修了、70年から86年までILO本部(ジュネーブ)勤務、86年から早稲田大学商学部助教授、91年同教授(2010年まで)、現在、早稲田大学名誉教授、IDHE-ENS-Paris-Saclay客員研究員。専門分野は、労働経済。特に雇用、労働時間、労使関係の国際比較。

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