部分的失業制度の特例措置で遡及支給も可能に

【海外有識者からの報告】
海外在住の有識者から提供された現地の状況についての報告です(なお、本報告は執筆日における当地の情報であり、必ずしも最新の情報を反映されたものではない)。

藤本 玲(フランス在住JILPT情報収集協力員)

新型コロナウイルス(Covid-19)の感染が拡大する中、2020年3月12日、マクロン大統領はフランス全土で、翌週から全ての学校を休校とするとともに、テレワークの推進を企業に強く求めることを表明した。同時に、経済への打撃を緩和するため、部分的失業制度などを積極的に活用し、雇用を維持する方針を表明した(注1)。3月14日にはフィリップ首相が感染拡大を抑制することを目的に、カフェやレストラン、映画館、食料品以外の商店などの翌日以降の営業禁止を発表した。3月15日の日曜日は、好天に恵まれたこともあり、カフェや商店が閉まる中、多くの市民が公園や河川敷等に集まった。政府は感染爆発を恐れ、フランス全土で3月16日の正午から少なくとも15日間、外出を禁止すること(テレワークが出来ない場合の通勤や食料品購入のための外出などは除く)を決定し、マクロン大統領が発表した(3月15日)。この外出禁止は、4月15日まで延長となり、その後、5月11日まで再延長となった。

1.企業支援策

フランス政府は、休業を命じられたり、売り上げが激減するなど新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けている企業に対する支援策を打ち出した。その主なものは、以下の通りである(注2)

(1)部分的失業制度の特別措置による雇用維持

フランスでは、事業活動の縮小または一時停止を余儀なくされた事業主が雇用の維持を図るための休業手当(補償金)に要した費用を一部助成する部分的失業制度(chômage partiel)がある。日本の雇用調整助成金制度に相当する。従業員を休ませた場合、企業は、通常、70%(税・社会保険料賦課前、手取りではおよそ84%)(注3)の賃金相当額(但し、最低でも1時間当たり8.03ユーロ)を休業手当として従業員に支払い(注4)、企業に対して、休業させた従業員1人1時間当たり7.74ユーロ(従業員数250人以下の企業の場合)、または7.23ユーロ(従業員数251人以上の企業の場合)の助成金が支給されるというものである(注5)

新型コロナウイルス感染拡大を受け、2020年3月以降は、実質的には企業の負担なしで、70%の賃金相当額の手当が、部分的失業制度を利用して従業員を休ませた企業に支払われるようになった(注6)

この助成金を受給するためには、事業を縮小または停止した企業が、労働省のウェブサイトにアクセスし、部分的失業を申請しなくてはならない。通常の制度では事前に申請する必要があるが、3月16日以降は特別措置として30日まで遡って行うことが可能となった。

(2)零細企業に対する助成金支給

零細企業や独立自営業者などに対して、国及び地方圏が拠出する連帯基金から最高で1500ユーロの助成金が給付されることとなった。

従業員数10人以下の小規模企業や独立自営業者で、年間の売上高が100万ユーロ未満でかつ課税対象の利益が6万ユーロ未満で、営業が禁止されることになった事業に従事している場合(テイクアウトや配達などでの営業を継続している場合も含む)か、2020年3月の売り上げが前年同月比で50%以上の減少した場合に(注7)、最高で1500ユーロの助成金(3月分として)が支給される。同様に、4月も営業が禁止されている企業や前年4月の売上高又は前年の月額平均売上高と比べて50%以上落ち込んでいる場合、最高で1500ユーロの助成金が支給される(支給は、5月1日以降)(注8)。この助成金には一切の税・社会保険料が賦課されない。

この助成金を受給するためには、税務署のウェブサイトで申請する必要がある。また、非常に困難な状況にある企業(少なくとも1人以上の従業員がいる場合)には、審査の上で、4月15日以降、2000ユーロから5000ユーロ(注9)の追加支援手当が支給されることになった。これを希望する場合は、地方圏へ申請する必要がある。

(3)社会保険料や法人税などの納付期限の延長

2020年3月15日以降に納付期限が来る社会保険料(労働者負担分及び使用者負担分)の一部または全てを、最長で3カ月遅らせることが可能となった。この遅延の場合、割増保険料などのペナルティーは一切科せられない。雇用主が社会保険料の納付の延期を望む場合、4月5日までに申請する必要があり、申請は社会保障及び家族手当に関する保険料徴収連盟(URSSAF)のウェブサイト上などで手続きすることが可能である。3月15日に社会保険料の支払期日となった従業員数50人以下の企業では、既に38万社がこの支払期日の延期を申請しており、その総額は30億ユーロに上り、同日に支払期日であった90億ユーロの3分の1に相当する額となった。

独立自営業者(travailleurs indépendants、ただし個人事業主(auto-entrepreneurs)(注10)を除く)に関しては、3月20日と4月5日の支払い期日には、社会保険料の徴収が行われないことになった。その徴収に関しては、今後、詳細が決定されるが、4月から12月にかけて分割して(平準化されて)徴収される見込みである。

企業(雇用主及びその依頼を受けた会計士・税理士)は、法人税及び労務費に課せられる租税の納付延期を申請することが可能である。この延期が認められた場合についても、延滞税などのペナルティーは科せられない。3月分が納税済の場合は、還付(払い戻し)を請求することも出来る。また、独立自営業者は、納税を最長で3カ月間延期することや、納税額を調整することが可能となった。これらの手続きは、政府の納税ウェブサイトで行うことが可能である。

その他にも、法人税や消費税の還付(従来より還付を受けられる場合)を迅速化することも決まった。

なお、大企業(注11)が税・社会保険料の納付期限の延長を申請した場合や後述する政府の保証付き融資を受けた場合、2020年に株主への配当を実施しないことや2020年に自己の株式の購入(自社株買い)を行わないことを誓約しなければならない(注12)

(4)公共料金や家賃の支払いの延期

国及び地方圏が拠出する連帯基金による助成金を受けることのできる小規模企業(既述のとおり、従業員数10人以下の企業で、営業が禁止されているか2020年3月の売り上げが前年同月比で50%以上の減少した企業)は、公共料金や家賃の支払延期を求めることができる。水やガス、電気などの公共料金の支払い延期を企業が望む場合、メールや電話で事業者に要請する必要がある。

家主で作る事業者団体は、加盟する家主に対して、政令により命令された営業禁止期間(但し4月以降)の家賃請求を停止することを求めた。この未払い(未請求)家賃は、業務・営業が再開された際に、繰り延べ債務または分割での家賃支払いの対象となり、延滞利息などのペナルティーは科せられない。

政令によって営業が禁止された中小企業(カフェやレストランなど)では、この公共料金及び家賃の支払い延期は自動的に認められる。政令で禁止されていないがこの新型コロナウイルス蔓延の影響などで業績の悪化が著しい企業の場合は、企業を救済する方法が個別に審査される。政府は、公共料金や家賃の支払延期が認められるよう、事業者に対して要請している。

(5)融資に対する最大で3000億 ユーロの政府保証

企業規模や形態に関わらず全ての企業は、資金繰りを確保するため、取引先銀行に対して、政府の保証付き融資の申し込みをすることが出来る。この措置は、2020年12月31日までの予定である。この融資は2019年の売上月額の3カ月分、または労務費の2年分相当額(2019年1月1日以降に設立された企業の場合)を上限とする。融資の返済期限は最長で5年、割賦返済が可能で、初年度は、返済をしなくても構わない。

この融資の可否を決定する審査を銀行は速やかに行うとしている。銀行が融資を仮決定した場合は、政府系金融機関であるフランス投資銀行へ保証(実質的には、国の保証)を求める。それが認められた場合、融資が正式決定される。

ただし、この融資の対象から不動産運用専門会社(土地や建物を所有し、その運用のみを事業とする法人) や金融機関は除かれている。また、これまでに支払期限に関する義務を順守していない企業、つまり、取引先への支払が滞っているなど既に経営状態が悪化している場合には、この国の保証付き融資を受けることが出来ない。

既述のように、大企業がこの政府の保証付き融資を受けた場合は、税・社会保険料の納付期限の延長を申請した場合と同様に、2020年に株主への配当を実施しないことや2020年に自己の株式の購入(自社株買い)を行わないことを誓約しなければならない。

企業支援策としてこの他にも、借入金の返済や繰延に関する金融機関との交渉が行き詰った場合、フランス銀行(Banque de France)が仲介して解決策を探ることや、顧客や取引先との係争には経済・財務省を通じた仲介を受けることも可能であるほか、商工会議所などに情報提供や支援を求めることもできることが政府の対策として明示されている(注13)

2.経済対策費

3月17日にル・メール経済・財務相が表明した緊急経済対策の費用は、総額450億ユーロだったが、4月の上旬には1000億ユーロに達する見込みとなっている(注14)。この緊急経済対策は、戦後最大のものとなりGDPの4.1%に達する。

当初85億ユーロと算定されていた部分的失業にかかる費用は、200億ユーロに達する見込みである。4月9日現在、62.8万社で就労する690万人の雇用労働者が部分的失業を利用しており、これは、民間部門で就労する雇用労働者の3割程度に相当する。零細企業に対する助成金に関する申請は、1週間強の間に75.5万件に達し、これに要する費用は、当初の10億ユーロから60億ユーロ近くにまで膨らむ見込みである。また、休校となった子供の世話をするためなどで休職しなくてはならない場合、傷病休暇の扱いとすることが可能となったが、その際に健康保険制度から支給される休業手当額は総額で15億ユーロとなると予想されている。更に、社会保険料や法人税などの納付期限を延長で255億ユーロ、税還付の迅速化(前倒し)で230億ユーロ、戦略的な企業(国にとって重要な企業)に対する支援策 に200億ユーロが見込まれている(注15)

3.経済成長及び財政への影響

国立統計経済研究所(INSEE)や経済・財務省は、コロナウイルス感染拡大の経済的な影響を次のとおり分析している。1.5カ月から2カ月のロックダウンが行われた場合、6%のGDPの減少となり、財政赤字はGDPの7.6%(当初予算では2.2%であった)に達し、公的債務は2020年末にはGDPの112%となる見通しを示している(2020年の当初予算より14ポイント高い)(注16)

4.国民の支持

調査会社Ifopが4月8日から9日にかけて約1000人の国民を対象に実施した世論調査によると、新型コロナウイルスに対する政府の対応に関する支持率は38%であった(注17)。この数値は、低下する傾向がみられ、前週と比べて9ポイントの低下、3月19日から20日にかけて行われた調査と比べて17ポイントの低下という結果となった。また、新型コロナウイルスにより困難な状況に陥っている企業に対する政府の支援に関する支持率は45%となっており、1週間前と比べて8ポイントの低下、3月19日から20日の調査と比べて12ポイントの低下であった。

このように、ロックダウンが長引き、経済への影響が拡大する中、政府の対応策が不十分と考える国民が増加していることが判る。

(執筆日:2020年4月22日)

プロフィール

写真:藤本玲氏

藤本 玲(ふじもと れい)

JILPT海外情報収集協力員。2014年6月までフランス国立社会科学高等研究院(EHESS)博士課程在籍。主な業績として、「フランスにおける若年就業と労働市場政策」『海外社会保障研究』No.176、26-38頁、Autumn 2011、「フランスにおける高年齢者就業の可能性」『保険研究』 59号、257~277頁、2007年など。

ウェブサイト最終閲覧日:2020年4月23日

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