スウェーデンの労働基準監督官制度(注1)
1. 労働監督官制度の概要
スウェーデン労働環境庁 (SWEA/Arbetsmiljöverket)は、労働環境に関連する問題を扱う行政官庁であり、職場の監査を行う。
SWEAは、組織的には労働省が所管する独立機関である。SWEAの活動には、使用者が労働環境規則を順守しているか検証するための監査と、良好な労働環境を提供し続けるために必要な活動がある。
2. 労働監督官の権限
(1)組織と機能の構成を規定する法律は以下の通り;
- 労働環境法
- 労働時間法
- 労働環境当局
(2)労働監査の範囲
SWEAは、船上労働を除く、全ての職場や全ての雇用形態における労働環境・労働時間法、規則が順守されているかどうか監査する。
SWEAはまた、遺伝子工学と農薬に関連する事項や、たばこ法と環境条例の一部条項も監査する。SWEAの目的は、職場における病気や事故のリスクを減らし、身体的、精神的、社会的、組織的観点から、労働環境を改善することである。
民間の船舶や軍艦を含め、船上労働全般の監査は、スウェーデン運輸庁によって実施される。
監査領域の一部が、他の監督官庁のものと重複しているため、ときに一部の活動が複数の監督官庁によって監査されることがある。
3. 監督組織
(1)本部と地方組織
SWEAには、中央(本部)と10の地区に支所がある。
(2)年間計画および進捗、事務所間コミュニケーション
年間計画があり、進捗を確認するための業務実績主導型のチェック体制がある。地区代表や管理本部の管理職層が、年間計画の草案をまとめる。地区事務所間では、しばしばビデオ会議が開かれる。
4. 労働監督官の身分
(1)監督官の処遇
監督官は、スウェーデン労働環境庁に雇用されている。現在、SWEAの募集は停止されており、現時点では労働環境監督官は募集されていない。
5. 労働監督官の採用試験・研修制度
(1)選考プロセス
監督官が働く地区では、業績と能力に基づいて募集活動が行われる。監督官は全て「労働環境監督官」として任命される。
(2)求められる経歴
ほとんどの監督官は、総合大学又は専門学校以上の学歴を持つ。監督業務に就く全てのスタッフは、本部採用、地区採用にかかわらず、6カ月にわたる共通の基礎研修を受講する。基礎研修後は、3年間にわたる個別の育成教育が実施される。
6. 監督対象の労働者数、監督対象の事業所数
監督対象の事業所数は、約121.6万だった(2013年)(注2)。
7. 労働基準監督官の人数、年間の監督件数
労働環境庁(Arbetsmiljöverket)では、約239人(注3)が監督業務に従事している(2013年)。
8. 労働監督官の業務と活動(年間の監督件数や日々の業務の流れ等)
(1)監査
監査訪問は、通常、電話か文書で事前に通知されるが、法律上、監督官は予告なしに監査訪問することができる。監査には1人又は複数の監督官が参加する。実際の手順は、対象となる産業、組織の大きさ、その他の環境によって異なる。
(2)予防対策への役割
SWEAは助言を与え、質問に回答し、情報を発表する。SWEAはまた、双方向サービスのホームページを積極的に展開しており、その中にはパンフレット、ウェブベースの研修、予防情報の提供なども含まれる。中央と地域の両方で、毎年さまざまな種類の職場の安全担当代表のための会議が開催されている。またSWEAは、規則と事故防止に関する情報を提供するため、業界団体の会議メンバーとなって、会議に参加している。
(3)計画
監査対象となる職場は、事故や病気のリスクが最も高いと評価された職場が選定される。アドバイスや情報は、他の執行役員、メディア、社会保険代理店、統計データ、労災報告書、病気、欠勤データ、および監督官の職場に対する知識から得られる。
(4)職場での事故と疾病の報告と登録
使用者は、職場における死亡事故、重大な負傷、同時に複数の従業員に影響を与えた事故、その他の有害な影響があった場合、SWEAに通知する義務を負う。生命や健康を危うくする深刻な事故、職場での事故、通勤途上の事故、その他の労働に有害な影響(仕事関連の病気)についても同様である。
(5)制裁措置と管理プロセス
労働環境監督官が、改善すべき労働環境の状況を発見した場合、使用者に対して、所定の期間内に改善を求める事項を記載した監査通知が送付される。監査通知に対し抗議することは許されない。使用者が監査通知に従わない場合、SWEAは所定の措置を取るため営業の禁止命令を発行することができる。SWEAは、監督官が深刻な事故や疾病リスクが差し迫っていると判断した場合にも、禁止命令を発行することができる。行政裁判所は、禁止命令または差し止め命令が守られない場合、条件付き罰金を課すことができる。使用者が禁止命令や差し止め命令に従わない場合、罰金刑、あるいは深刻な労働環境犯罪として禁固刑に処せられることがある。
(6)労使との社会対話と労働監査
労働安全衛生や監査に関する優先事項について、社会的パートナー(労使)と定期的な協議が実施されている。SWEAの戦略的活動を伝え、議論し合うため、社会的パートナーとの公式会議が定期的に開催されている。
(7)批准されたILO条約
スウェーデンは、1949年にILO条約第81号、1970年にILO条約第129号を批准している。
注
- 作成にあたり、主に以下のILOのサイトを参照した。
http://www.ilo.org/labadmin/info/WCMS_156054/lang--en/index.htm(本文へ)
- https://www.av.se/globalassets/filer/om-oss/vart-uppdrag/annual-report-of-the-labour-inspectorate-2013-sweden.pdf (PDF:381KB)
(本文へ)
- 労働時間及び安全衛生について、労働環境庁(SWEA)の監督官が監督指導。239人はフルタイム換算。年平均ベースの人数は、256人(2013年)。
(http://www.ilo.org/labadmin/info/WCMS_156054/lang--en/index.htm),
(https://www.av.se/globalassets/filer/om-oss/vart-uppdrag/annual-report-of-the-labour-inspectorate-2013-sweden.pdf (PDF:381KB)) (本文へ)
2018年4月 フォーカス:諸外国の労働基準監督制度
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- 韓国:韓国の労働基準監督官制度
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