国際フォーラム開催報告/アジアの労使関係:中国
中国の労使関係の動向

  • カテゴリー:労使関係
  • フォーカス:2006年10月

現在の中国は、経済社会の急成長の中にあって、労働分野の法制度整備や運用における公平性の確保のための模索段階にあるといえる。労使関係をめぐる法制度、運用に関して、改革開放以来の動きと現状については、以下で紹介したい。

労使関係をめぐる法規制と制度の枠組み

改革開放以降の一連の労働制度改革の中で、政策基準、労働契約管理、労働監察、労働争議処理を含む労使関係の調整が行われてきた。企業と労働者は、雇用と職業選択のそれぞれに自主権をもち、「新しい労働関係」(以下「労使関係」)の主体として対等の立場にあることが労働制度改革においては前提となっている。そういったパラダイム変革のもとで、中国の労使関係については、労働者の権益保護と経済発展のトレードオフ関係の克服を課題に模索が続いている。

(1)労働契約

事業主と労働者間に雇用関係が発生すると、「労働法」 は、労働契約もしくは集団契約を締結するよう義務付けている。労働契約は、書面で締結され、契約期限が明記されていなければならない。契約期限は、有期のものとそうでないものがある。有期契約については現在の労働法では明確な規定はない。労働法によれば、労働者が同一事業主の下で10年以上連続して働いた場合、労働契約の継続も当事者双方で認められた場合、労働者本人が期限のない労働契約の締結を希望すれば、期限の定めのない労働契約を締結すべきであると定めている。

また、「労働法」は、雇用主が労働契約を解除できる場合についても、いくつかの条件の下で30日前の労働者への事前通知を条件に認めている。

さらに、雇用主が深刻に経営困難に直面し人員削減が必要になった場合には、30日前に労働組合か従業員全員に事情を説明し、労働者側の意見を聴取した上で、労働行政に報告した後に人員削減を行うことが出来ると「労働法」は定めている。この場合、6カ月以内に新たに採用を行う場合には、削減された労働者を優先的に採用すべきとも定めている。

中国は、個別的労働契約をベースとした雇用関係が主流であり、労働争議も解雇、報酬や保険・福利をめぐり、労働者個人が提訴するケースが近年増加傾向にある。2005年6月に政府は「労働契約法草案」を作成し、労働者権益保護の色彩を濃厚に打ち出し、労働契約、労使関係についての検討を行っている。この法案については、一般意見の公募が行われた。しかし、あまりに労働者の権利保護を強く打ち出しているため、在中国外資系企業の連合組織等からの抗議や陳情もあり、外国投資企業への依存度が高い中国は、こういった在中国外資系企業からの声を無視することもできず、法成立には未だ至っていない。

(2)集団契約

集団契約は、労働組など代表従業員と企業の間で報酬や労働条件の内容など協議を経て書面により締結される。いわゆる「労働協約」にあたるものといえる。「労働法」は、集団契約は、企業と労働者の代表が締結するもので、報酬、労働時間、休息休暇、安全衛生、保険、福利等の事項などの内容を盛り込む事を定めており、集団契約の草案は、従業員代表大会や従業員全員に提示され、協議を経て労使の署名に基づき成立するものと定めている。2001年に改正された「労働組合(工会)法」でも、「労働組合(工会)は、対等な協議と集団契約制度を通じて労働関係の協調を図り。企業従業員の労働権益を守るべき」と集団契約制度の重要性を強調する。

WTO加盟以降の外資系企業の急増にともない、1994年に制定された「外国労使企業労務管理規定」は、「労働組合(工会)もしくは従業員の代表は、報酬、労働時間、休暇、安全衛生および保険、福利などに関する企業と協議のうえ集団契約を締結できる」と外資系企業における集団契約の締結を規定している。また、「労働法」は、労働者個人の労働契約は集団契約の条件を下回ってはならないと規定する。このような規定と同時に「集団契約法」が1994年に最初に規定され、集団契約締結のための法的根拠となっている。同法とは、2004年に改正され、労働者個人で解決困難な問題については労働組合を通じた円満な解決方法がとられることを期待して、そのための法的概拠を提示している。

(3)労働監察制度

使用者と労働者の労働関係法規の履行状況を監督するために、中央および各地方レベルの労働行政主管部局は、労働監察官を配置している。同制度により労使の労働法令の遵守状況を監督することで労働紛争発生を予防する効果が期待される。同制度は、1993年に規定された「労働監察規定」を根拠に設けられたものであるが、2004年「労働監察条例」として改正され、労働者保護規制の強化が図られている。さらに、労働組合のナショナルセンターである中華全国総工会は、労働者の合法権益の保護と協調的労使関係の構築を目的に労働社会保障部と協力して労働監察を行っており、2001年には両者連名で「労働保障監察と工会の労働保障法律監督を結合した取組みの強化に関する通知」を発表している。

集団的労使関係の現状

(1)労働組合(工会)

中国の労働組合(工会)は、1992年4月に公布された「中華人民共和国労働組合(工会)法」 で、「労働者が自由意志で結合する労働者階級の大衆組織」として規定される。その全国組織は、中華全国総工会であり、事実上は中国共産党の指導下におかれる労働者組織である。中華全国総工会は、5年おきに全国代表大会を開催する。

政府統計によると、2003年労働組合(工会)組織数90万6000、労働組合(工会)員数は1億2340万人である。

近年、工会組織は減少傾向にあるが、国有企業改革のリストラによる従業員数の減少や私営中小企業と外資系企業従業員の組織化が十分進んでいないことが原因と考えられている。

今年に入り、胡錦濤主席の主導で「沿海部における外資系企業の変動要因に関する分析と対策」が発表されたが、ここでは、労使関係の協調システムを整えること、外資系企業での労働組合設立などが重点事項として強調されており、現在外資系企業全体で25%に満たない労働組合の今後の設立強化がめざされている。

(2)使用者団体

使用者団体には、中国企業連合会・中国企業家協会(CEC/CEDA)がある。1979年に設立、1999年から現在の名称となる。会員は、国有、独資、外資を含む企業、地域経営者団体、産業別経営者団体からなり、現在43万8700会員を有する。企業改革の推進においては政府と企業のパイプ役となり、労使関係分野の経営者の育成、企業内労使のパートナーシップの養成を行う。

(3)団結権、争議権、団体交渉権

中国では、基本的に労働三権が認められている。

1994年に制定された「労働法」は、労働者代表が企業と締結する集団契約(労働協約)といわゆる労使協議である平等協商を認めている。また、2001年の「労働組合(工会)法」は、25人以上の従業員を対象に外資系企業を含むすべての企業に従業員代表組織を結成することを認めており、同法はさらに、労働組合(工会)が集団契約の締結と団体交渉の当事者となることを明確に規定している。

1994年の「労働法」と1993年の「企業労使紛争処理条例」は、労働争議の手続きを定めているが、現状の紛争処理手続きには人治主義による不公正な部分も指摘されるため、紛争手続きの厳密化と公正化をめぐり、現在「労使紛争処理」に関する新法の制定が検討されている。

労使紛争処理制度

(1)労使紛争解決手続き

「労働法」「労使紛争処理条例」の制定により、労働関係の調停手続きは改善されつつある。1987年に国務院が公布した「国営企業労使紛争処理暫定規定」により労使紛争処理は法的制度が打ち立てられ、1993年「企業労使紛争処理条例」が1993年には公布されている。また、1994年に公布の「労働法」は「労使紛争」の章を設け、調停・仲裁・裁判からなる制度が確立されている。さらに、1994年に制定された「集団契約法」は、労働時間の調整、書売れ制度、賃金分配制度などに関する個人では解決困難な問題の労働組合による円満解決を規定する。中国の特殊事情ともいえる広範な地域性を反映させ2004年に改正されより具体的規定が整備された。

中国の労使紛争処理制度の特徴は、「一調一裁二審」の原則である。この原則を支える労使紛争処理システムのスキームは、(1)企業内に設置された労使紛争調停委員会、(2)労働行政部門に設置された労働仲裁委員会、(3)裁判所という三段階で構成される。

中国労働争議処理システムイメージ図

図

資料出所:李天国JILPT報告(2006)より

企業内調整委員会は、「労働法」の規定に従い、従業員代表大会により選ばれた従業員代表と工場長が氏名した企業野代表および企業労働組合委員会により指名された企業の 組合代表により構成される。企業で発生した争議については、60日以内に訴えることで企業内調停委員会にかけられる。企業内で解決しない場合は、仲裁委員会に欠けられるが、仲裁委員会は、労働行政主管の代表、労働組合の代表、使用者側の代表から構成される。この場合代表は、各組織から派遣され、人民政府が承認したものである。

仲裁に不服の場合には15日以内に訴訟提起することで、裁判所における民事訴訟手続きが行われる。

(3)労使紛争の現状

仲裁委員会による労使紛争の受理案件は引き続き増加している。2002年の各レベルでの受理案件は22.6万件であったが、2004年には26.05万件と報告されている。このうち2004年については集団・個別の内容をみると集団的労使紛争は、1万9000件で、大半は個別的労使紛争であるといえる。紛争の主な原因は、労働契約の解除に関するものが最も多く、つづいて報酬、保険、福利に関するトラブルの順となっている。

参考

  • 厚生労働省「海外情勢白書」(2001~2002年)
  • JILPTウェッブページ海外労働情報「中国」
  • 国家統計局、労働社会保障部「2005年中国労働統計年鑑」中国統計出版社
  • 李天国「中国労働関係紛争処理システム」JILPT報告
  • 千嶋明「中国の労働団体と労使関係―工会の組織と機能―」社会経済生産性本部他

2006年10月 フォーカス: アジアの労使関係、どう読むか ―韓国・中国・ベトナムを中心に

関連情報