国際フォーラム開催報告/アジアの労使関係:韓国
韓国の労使関係の動向

  • カテゴリー:労使関係
  • フォーカス:2006年10月

労使関係法制の改正等

韓国の労使の課題としては、公務員労働組合の許容、法定労働時間短縮、非正規労働者保護の法制化、企業内複数組合の導入、労組専従者への賃金支払の禁止などがあげられる。

労働基本権(団結権、団体交渉権及び団体行動権)は民間労働者に認められているが、公務員については長く労働組合の設立が認められていなかった。2004年12月成立した公務員労働組合法によりようやく団結権、団体交渉権が認められたが団体行動権はない(施行は2006年より)。法定労働時間については2003年8月に成立した改正勤労基準法により週44時間から40時間に短縮され、2004年7月より大企業等から段階的に実施されている。

一方、非正規労働者保護の法制化については2004年11月に法案が国会提出されたが、労働組合や野党の一部から激しい反発を受け未だ成立していない。また、企業内複数組合の許容及び労組専従者への賃金支払禁止については97年の改正労働組合及び労働関係調整法によりいずれも措置されたが、施行は延期(経過措置)されている。

労使関係

韓国の労働運動は、対話重視の穏健派とされる韓国労総と、闘争重視の民主労総とが2大勢力となっている。現在、国内の労働組合数6107、組合員数1537千人(ともに2004年)という状況にある。保守的とされる韓国労総もゼネストに訴えるなど日本と比較すると労働運動は激しく、2006年5月にスイスの国際経営開発研究所が発表した国際競争力に関する調査結果では、韓国の「労使関係」が調査61国・地域中最下位にランクされている。

組織率は「民主化宣言」(87年)後の88年に22%を記録したが、99年以降年々低下の一途にあり現在12.4%(2004年)である。なお、組織率の低下の要因としては産業の中心が製造業からサービス業に移ってきていること、近年の非正規労働者の増加などがあげられる。

労働争議件数は、「民主化宣言」に伴う激増の後沈静化に向かったが、97年の金融危機以降再び増加傾向にある。発生状況は2004年462件、2005年286件となっている。労働争議の発生理由(2005年)の多くは労働協約の改訂(82.2%)、次いで賃上げ(12.6%)などである。

2006年も大手自動車メーカー(5社)の賃金交渉が注目されたが、交渉の難航から(労組のないルノー・サムスンを除く)各社がストに突入することとなった。9月に入りようやく各社妥結したが、5.1%の賃上げで妥結した現代自動車より経営状況の悪い起亜自動車が5.7%を勝ち取ったように、労組側の経営状況を考慮しない要求には批判があがっている。大企業と中小企業、正規社員と非正規社員という二極化により拡がる労働者間の格差という韓国社会の難問題に直面する盧武鉉大統領も「労働条件の格差の背景には大企業労組の存在が影響している。」と述べ、大企業労組の独占利益志向の問題点を指摘している。

一方で、97年の金融危機以降は労組の交渉も変化しているとの指摘もあり、経営不振を考慮した賃下げに同意する労組も見られるようになっている。経営不振による雇用不安を抱える労組の中では団結力も少しずつ崩れてきているとされ、整理解雇に対し「自分だけは生き残りたい」と考える者も少なくない。自動車メーカーは最近ルノー・サムスン以外すべてが「産別労組」転換を可決したが、これは組織率の低下による「闘争力」の低下を克服するため共同で闘える「産別」への転換を進めたものとみられる。この転換により今後上部団体の運動方針(政治・社会問題なども)を広く受け入れる形で交渉が行われるようになるため、交渉の長期化を懸念する声も出ている。

~労使関係法制度先進化策(ロードマップ)の合意~

盧武鉉政権は、国際基準に見合った労使関係の構築を目指し2003年9月「労使関係法制度先進化策」(ロードマップ)を発表した。これは労使自治の原則に基く労使双方の責任権限の明確化や労働市場の柔軟かつ安定化を図ることにより、労使紛争の最少化、労働基本権の向上及び企業の競争力強化を同時に実現していくものであった。その後労使間で対立が大きくとりまとめに時間を要していたが、ようやく2006年9月11日に労使政委で合意をみた。特に対立が大きい「企業内複数組合の導入」と「労組専従者への賃金支払禁止」については3年間の措置猶予期間(2009年末まで)が設けられることとなった。 ただし、この合意に参加していない民主労総は11月にゼネストを呼びかけており今後の行方は予断を許さない状況にある。

紛争処理

労使紛争処理は、日本と同様に労働争議や不当労働行為のような集団紛争を解決するための労働委員会をはじめ、勤労基準法に違反する行為を監督・是正するための勤労監督官、最終的な労働紛争解決機関としての裁判所が置かれている。労働委員会は本来の不当労働行為や労働争議など調整業務に加え、1989年の勤労基準法改正により個別的な解雇紛争まで取り扱うようになった。特に97年の金融危機を経験してからは雇用調整に伴うリストラ解雇事件が急激に増えており、現在は労働委員会に持ち込まれる事件の約7~8割を解雇事件が占めている。

参考資料

  • JILPT「韓国の労働法改革と労使関係」(2001年)
  • JILPT「フォーカス/韓国の労使紛争解決システムと労使関係」(2006年1月)
  • 厚生労働省「海外情勢白書」(2001~2002年)
  • NNA韓国記事

2006年10月 フォーカス: アジアの労使関係、どう読むか ―韓国・中国・ベトナムを中心に

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