2005年版OECD雇用アウトルック:OECD
2005年版雇用アウトルック発表される
—グローバル化に伴う課題と積極的取り組み

経済協力開発機構(OECD)は、加盟国の雇用情勢と特定テーマの分析を内容として構成する年次報告「雇用アウトルック」2005年版を6月28日に発表した。

2005年版の特徴は、加盟国におけるグローバル化とそれに伴う課題として地域間格差という新しい問題や貿易調整コストの問題をとりあげ、雇用不安とその対策について分析していることにある。その柱として、1)諸国の労働市場における貿易調整コスト、2)雇用に関する地域間格差はどのくらい持続するのか?地理的移動の役割、3)就労への金銭的インセンティブの増加:「就職した場合の給付」の役割、4)労働市場プログラムと就労化戦略:インパクトの評価、5)公共職業サービス:パフォーマンスの管理――を掲げそれぞれについて分析と対応を提言している。

以下では、「2005年雇用アウトルック」 の概要を紹介する。

OECD加盟諸国の雇用情勢

「雇用アウトルック」は、2005年の加盟諸国の雇用情勢について、原油価格の上昇と為替レートの不安定性の影響を受け、成長見込みへの翳りが反映されるため、改善見込みが極めて小さく、国によりパフォーマンスの差が大きいことを指摘している。2004年のOECD加盟国全体の平均の失業率は6.7%で2003年の6.9%と比較してわずかではあるが好転の兆しをみせている。OECDは、この傾向は今後も継続し、失業率は緩やかな減少を続けると予測している。こうした理由から、2005年は6.7%、2006年は6.4%と失業率を予測している。

しかし、欧州諸国だけをみた場合、失業率は9.0%と高止まりの傾向がうかがえること、また、国や地域別にみた今後の失業率について、EU(19カ国)が9.1%(2005年)、8.8%(2006年)、米国が5.1%(2005年)、4.8%(2006年)、日本が4.4%(2005年)、4.1%(2006年)など予測している。

(図1:2004年OECD加盟国における失業率、および図2:同長期失業率を参照)

図1:2004年OECD加盟国における失業率

図2:2004年OECD加盟国長期失業率

「グローバル化に伴う課題とその積極的取り組み」の概要(要約)

  1. OECD諸国の労働市場における貿易調整コスト

    グローバル化の進展は開放された市場において新しいビジネスチャンスを生みだし、消費者の選択肢と高所得の可能性を創り出す。調整コストとしては、非効率な部門での失業、失業期間の長期化、再就職後の賃金低下という調整コストがある。調整コストのうち、雇用喪失等、貿易・投資の自由化によるものは一部でしかない。しかし、貿易による失業者は、再就職まで時間がかかるほか、大きな賃金の低下を経験している。これらの失業者の特徴は、高齢、低学歴、衰退産業の特有の技能保持者などのハンデを持った者であることが多い。

    その対策には、一般的な労働市場政策を利用した間接的手法(雇用創出の強化、労働者の技能の改善、生産性の高い職への労働者の誘導)と貿易関連失業者を直接的に対象とした直接的手法(失業者の再就職への意欲を確保した上での所得給付、就労化政策への参加、予防対策)の2つがある。特に貿易関連失業者については特定セクターや地域での大規模な雇用削減を受けた場合、公平性や政治経済的考慮が正当な理由として原因となっている場合などにターゲットをあて失業の原因分析を行うことで集中的対策をとることが有効である。

  2. 雇用に関する地域間格差はどのくらい持続するのか?地理的移動の役割

    加盟諸国では各国内地域間雇用パフォーマンスには格差が存在する。雇用問題は特定の地域に根ざす傾向があり、格差を解消するためには国内移住が十分に行われることが課題である。地域間格差を生み出す要素は、人口構造や労働参加率など労働供給サイドの問題より地域労働市場における雇用創出が未成熟であるなど労働需要サイドに起因する問題の影響が大きい。

    OECDが提案する対策は次の二点である。1)国内移住の障害を取り除くことが有効であること。高い取引コスト、持ち家を有するものが移住を嫌がるなど政府が持ち家奨励策を講ずるといった住宅政策の問題や失業保険給付及び雇用政策等の問題(例:給付が移動への障害とならないようにすること、他の地域での職探しと就職を支援するプログラムなど)。

    2)地方の条件に賃金が調整されることで停滞地域における投資と雇用創出が行われること、停滞した地域における雇用助成金による企業誘致や投資促進策、中央政府と地方政府の合意による地域の事情に対応した雇用政策をとるなど労働需要の障害を取り除く。

  3. 就労への金銭的インセンティブの増加:「就職した場合の給付」(In-Work Benefits)の役割

    よく設計された「就職した場合の給付」は、所得保障以外に雇用を生み出すために重要な役割を発揮する傾向がある。したがって「就職した場合の給付」制度は、制度を必要とする個人または家族に十分な所得保障を行うと同時に就労インセンティブを維持するように設計されなければならない。設計のための課題とは、1)就労への金銭的インセンティブが十分大きい給付のみが雇用率上昇に結びつき得ること、2)本当に必要とする家族のみに給付されるよう対象を絞ったものとしコストを意識すること、3)対象の集団が周知しており、運営する行政機構が効率的であること、家族の必要の変化に対応できるものであること、4)福祉にとどまらず就労への移行を支援する包括的戦略の一部として活用すべきであること――の4点である。

  4. 労働市場プログラムと就労化戦略 :「効果」(impacts)の評価

    職探し活動を行うことで技能の向上が促進され、給付が本当に必要なものに向かうようになるなど就労化戦略の設計の仕方により、その「効果」に変化が生じる。就労化戦略のもたらす効果は、1)本当に給付を必要とするものが給付申請を行わなくなることがないよう義務を厳しくしすぎない2)不利な立場に居るグループにも平等に「効果」がある3)他の求職者の職を奪うことがなく全体的に雇用を増加させる4)給付に依存する人数が減ることでさらに就労化戦略を強化する余地が生じる――である。また、就労化戦略のインパクトの大きさについては、1)職探し支援は、インパクトが大きくコストは比較的少ない、2)訓練等労働市場プログラムでは短期的効果は期待できないが長期的インパクトが大きい、3)公的セクターにおける雇用創出は、インパクトは常に少ないかマイナスであるが、他のプログラムとの組み合わせ方次第ではインパクトが大きくなりえる、4)就労化政策は、給付受給期間を短くする「動機」と現在の職を維持しようとする「動機」の2つの効果がある。

  5. 公共職業サービス:パフォーマンスの管理

    公共職業サービスについては、組織的なパフォーマンス評価がどのように行われるかにがキーポイントとなる。パフォーマンス管理上の原則として、公共職業サービス管理者は、プログラム参加者の給付から退出、雇用、収入結果について最低5年間は追跡すべきである。その効果は、プログラムにより節約された給付額(B)、税率(t)とプログラム参加者の雇用収入(W)による「B+tW」に基づいて評価されるべきである。これにより失業のみでなく雇用や収入についても評価が可能となり、政府の財政バランスを図りやすくすることに貢献する。ここでいうパフォーマンス管理原則とは、1)全てのプログラムが取るべきスタンスとして、結果の見えない小さなサービス、サービス提供者は組織的に改革されるべきであること、2)職業サービスを外部委託した場合に、人工的な数字の操作(gaming)、雇用困難な者を別のサービス提供者に回そうとする行動(creaming)を断じて防ぐこと、給付資格の保護は政府が行うべきであること、3)全国的ローテーション等により全国組織という意識をもたせ、継続的にレビューすることで好事例をマニュアル化しガバナンスに貢献するよう伝統的公共職業サービスを改善すること――の3パターンである。

2005年8月 フォーカス: 2005年版OECD雇用アウトルック

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