労働時間と働き方:イギリス
長時間労働慣習打破への取り組み
欧州の中では長時間労働で知られる英国。特にホワイトカラーの統計に現れない長時間労働は深刻だと言われている。TUC(英国労働組合会議)はこのほど、英国の労働者が年間230億ポンドに相当するサービス残業を行っているとする調査結果を発表した。
この調査は職業集団別に平均収入を調査し、サービス残業の平均額を算出したもの。恒常的な残業を通常の時給に換算した場合、給料は年間平均4650ポンド増加する。TUCはサービス残業分が既定通り支払われていれば、給与は年間で7000ポンド増加したはずだと主張する。全国ではロンドン在住労働者のサービス残業時間が最も長く、週平均で7時間54分(7008ポンド相当)。次いでウェールズの労働者の7時間42分(4320ポンド相当)、ウェストミッドランド州労働者は7時間36分(4410ポンド相当)という結果がでた(図1参照)。他方、こうした長時間労働は生産性に結びついているわけではないという指摘もある。TUC政策担当者、ポール・セラーズ(Paul Sellers)氏は、政府が最近行った研究を引き合いに、英国の労働時間はヨーロッパで最も長いにもかかわらず、1時間あたりの労働生産性は12位であったと指摘、長時間働くと疲労して間違いが増えるとして、長時間労働は英国の生産性をさらに低くする要因になっていると主張する。
英国では、10人に4人の管理職が恒常的に契約時間を越えて働いている。平均的な管理職は1週間に9時間のサービス残業を行っているという報告もあり、TUCは管理者の長時間労働の文化を批判している。TUCは、管理者が長時間労働に従事しているのは、彼らが十分な研修を受けておらず、十分な資格がないためだとして、この数字を根拠に経営体質への非難を強めている。これに対し経営者側は、サービス残業は管理者の所得に応じて働くことを求める契約書に織り込まれており、双方合意済みのことと反論している。
マンパワーが最近行った研究によると、英国人労働者の3分の2が恒常的にサービス残業している実態が明らかになっているが、労働者が残業する理由については、50%以上の労働者は、その理由をキャリアアップのためと回答している。しかし、以外なのは、32パーセントの労働者が、その理由を同僚のためと回答していることである。多くの労働者が同僚の敬意を得るために、もしくは同僚を失望させまいとの責任感からサービス残業していることが明らかになった。この調査結果は、わが国のサービス残業の理由とも似通っており興味深い。この結果について、Work Foundationのアソシエイト・ディレクター、デビッド・コーツ(David Coates)氏は、「労働者は仕事の進め方に関する自由を与えられる一方で、 業績に対して責任を取るという点ではこれまでになく厳しい状況に置かれている」と論じている。こうした状況下では、残業をしないとチームメンバーを失望させるのではないか、昇進の機会を逃すのではないかという心理が労働者にプレッシャーを与え、結果サービス残業が多くなるという分析だ。長時間労働は、「働くことに真摯であれ」という英国の文化にも根ざす問題だけに、この慣習を変えるのが容易でないことは言うまでもない。
2005年5月 フォーカス: 労働時間と働き方
- EU: 労働時間政策とワーク・ライフ・バランス
- イギリス: 長時間労働慣習打破への取り組み
- ドイツ: 労働時間の「下げ止まり」と「延長」の是非をめぐる論議
- フランス: 労働時間をめぐる動き~週35時間労働制の見直し