在宅労働の現状と課題:ドイツ
ドイツにおける在宅ワークの実態

ドイツでは情報化社会の発達に伴い、1974年に家内労働法(Heimarbeitsgesetz)を改正して、情報通信機器を使用した在宅ワークが適用の対象となった。また、自営と労働者の中間に位置するグレー領域の就業者への保護制度が整っていることも特徴であり、これが副次的に在宅ワーカーへの保護制度として機能している。

1.グレー領域の就業者への保護が発達

まず本稿における在宅ワークとは「情報通信機器を活用して、自営・請負契約に基づきサービスの提供を行う在宅形態での就労のうち、主として他の者が代わって行うことが容易もの」を指す。

日本における在宅ワークでは、「報酬単価の一方的な切下げ」や「突然の発注打切り」といったトラブルが発生した場合、自営の在宅ワーカーは、発注者に対して弱い立場にあることが多く、労働法の適用対象外となっているために法的救済が受けにくいという問題がある。

このような自営の在宅ワークの問題について、ドイツではどのような対処をしているかというと、在宅ワーカーは必要に応じて「家内労働(Heimarbeit)」「被用者類似(Arbeitnehmerahnliche)」「見せかけの自営(Scheinselbstandige)」のいずれかに分類され、弱い立場の自営型在宅ワーカーは、総じて日本より手厚い保護がされている。もし何らかのトラブルが発生した場合、分類に応じて家内労働法や労働法の適用対象となり、労働裁判所など紛争処理機関での迅速な法的救済が可能になっている。

ドイツのグレー領域の保護についてもう少し詳しくみると、とりわけ家内労働法については、情報化時代の要請に応じて早期に改正を行い、保護の必要な在宅ワーカーへ適用拡大を図った点で、類似の問題を抱える日本にとって興味深い。この政策についてドイツ経済労働省は、「法律改正によって全ての問題が解決されたとは言えないが、それまで保護の対象外であった事務(buroarbeit)領域の家内労働型在宅ワーカーを保護する対策にはなり得た」という一定の評価をしている。しかし一部の法律学者からは、「製造加工領域の家内労働のみを想定した法律に、事務労働を適用対象に加えたことで法律解釈上の矛盾や違和感が生じている」点が指摘されている。また、その他に「見せかけの自営」とは、形態は自営であっても実態が被用者に限りなく近いと判断された場合に、被用者と同等の法的保護を与えようとする概念と保護制度である。「被用者類似」は、就業内容や遂行方法に関して人的従属生は認められないが、同業者が多く報酬等の就業条件の低下を招きやすいため経済的従属性が高いと認定される場合に、労働法の一部適用と特定の社会保障へ加入が認められている保護制度である。

2.強すぎる保護が、在宅ワーク発達の阻害要因へ

しかしながら、ドイツのグレー領域の就業者に対する手厚い保護制度は、一方で発注者の心理的な発注意欲の減退につながり、在宅ワーク発達を阻害してしまっている。例えば、ある企業がコスト削減を目的として、自営の在宅ワーカーに業務を外注した場合、当初は目的が達成できる。しかしその在宅ワーカーへ長期・専属的に発注を続けると、半年後には「見せかけの自営」か「被用者類似」に該当する可能性が高くなる。企業側からすると、訴訟を起こされる可能性や在宅ワーカーの雇用管理の煩雑化というリスクを鑑みて、結果として内部社員か専門業者に発注した方が良いというジレンマが生じる。また在宅ワーカー側も安定して仕事が長期に継続依頼されない限り、在宅ワークを行うメリットが半減してしまう。従って、在宅ワークについてあらゆるタイプの就業者を一律に「弱者」とみて包括的な保護規制を実施するのは、結果的に自営型在宅ワークの発展を阻害する恐れがある。

3.日本への示唆

ドイツの教訓を生かし、今後の日本における在宅ワークの政策のあり方を模索する場合、契約自由の原則や本人の裁量を考慮した上で、緩やかな保護規制と奨励策を図ることが重要である。その際にドイツのグレー領域における保護概念は、被用者保護の拡大幅を決定する過程で参考になるだろう。

またドイツにおける在宅ワークは、自営よりも被用者の在宅ワークが労働時間管理や機器提供等の面から大きな問題となっている。自営の在宅ワークの問題があまり取り上げられていない理由として、ドイツでは正規従業員の育児休業が子供1人あたり最大3年間認められていることが挙げられる。3年間の育児休業終了後に、正職員としての職場復帰が保障されているために、日本のように消極的理由で自営の在宅ワークを選択する者は、非常に少ない。このように在宅ワークの抱える問題を根元的に解決しようとする観点において、ドイツの育児休業施策から学ぶことは多いと思われる。

  1. 本稿の内容はJILPT労働政策研究報告書No.5(2004年)「欧米における在宅ワークの実態と日本への示唆-アメリカ、イギリス、ドイツの実態から-」に基づいている。

2004年9月 フォーカス: 在宅労働の現状と課題

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