NPOと雇用:イギリス
イギリスのNPO

わが国でも一般的な用語として定着してきた感のあるNPO。イギリスではNPOに相当する民間非営利部門は、通常ボランタリーセクター(Voluntary Sector)と呼ばれ、その歴史は中世の慈善事業にまで遡る。現在およそ50万とも言われるボランタリーセクターは、非常に広範囲の組織・グループから構成されており、行政、民間にならぶセクターとして、重要な役割を担っている。特にブレア政権の発足後は、若年者向けの失業対策として期待されるなど、その重要性はさらに高まりつつあるようだ。

ボランタリーセクターの概観

イギリスのボランタリーセクターの活動は活発で規模も大きい。ボランティアに加え、何千人もの専門スタッフを抱え全国で展開しているようなチャリティから、ボランティアのみで運営している小規模の自主的な地域グループにいたるまで実に様々である。労働組合、政党、クラブなどもこれに含まれ、各々の関心、活動は多岐にわたっている。また、組織構造、法的立場、課税処理、有給スタッフとボランティアとの役割、活動範囲、財源なども様々であり、このような多様性のためボランタリーセクターを一括りに定義するのは困難である。成人の半数以上が、少なくとも年に1度はボランティア活動に参加すると言われるイギリス。ボランティアセクターのかなりの部分が「チャリティ」であり、イギリスのボランタリーセクターを理解するためには、まずこの「チャリティ」の概念を理解しなくてはならない。「チャリティ」とは一般に博愛的な意味を持つ法的な概念。チャリティ法は中世のトラスト法から派生しているため、「チャリティ」は、他者やグループのために行動する被信託者(トラスティ)としての概念を内包している。法律上チャリティとして成り立つためには、私的利益ではなく公的利益のための目的を持っていなければならない。これは、公益目的の活動を規定するものであるが、こうした目的を持つボランティア組織はチャリティとして登録することができ、チャリティとして登録されれば各種税制において優遇措置を受けることができる。チャリティの登録、規制、監査、調査、支援を実施する権限を持っているのは、チャリティ委員会(Charity Commission) と呼ばれる政府部門の組織である。

一方、ボランタリーセクターの財源を見ると、公的部門からの補助(委託金、助成金など)37.0%、次いで個人寄付が36.6%という構成になっている。(図1)。

図1

出典:The National Council for Voluntary OrganisationsHP

広義のボランタリーセクター(非営利であり、独立しており、ボランタリズムの性格を持つ組織化されている組織)においては、公的補助に依存する傾向が強いが、狭義のボランタリーセクター(教育機関、労働組合、レクリエーション団体などのグループが除かれる)においては、企業・個人などからの寄付及び寄贈が、政府資金や事業収入に劣らず重要な比重を占める。政府はGetting Britain Givingキャンペーンを展開するなどボランタリーセクターの拡充に力を入れている。これは内国歳入省(Inland Revenue)が2000年に発表したもので、ボランタリーセクターが寄付を集めやすくするため、寄付金の増加を目的とした減税が実施された。

若年者雇用とボランタリーセクター

ボランタリーセクターにおいて最も多数を占めるのは、小規模な団体に無償で活動する者たちであるが、2002年のボランタリーセクターにおける有給雇用者数は56万9000人、そのうちの大部分が中~大規模の組織で勤務するパートタイム労働者である。一方、ボランタリーセクターの潜在的な雇用吸収力は、若年者雇用対策としても注目され始めている。

1998年に導入された若年失業者向けニューディール政策(New Deal for Young People Aged 18-24:NDYP)は、求職者給付(失業手当)を6カ月以上受けている青年を対象にしたものであるが、求職者給付と同額の手当を受けながらボランタリーセクターで就労させるほか、大学などでの職業訓練をおこなうことを可能とした。2004年3月までのNDYP参加者総数は、約103万人。うちボランタリーセクターに就職した若者は、およそ4万8000人にのぼる。こうした、ボランタリーセクターを活用した若年者雇用対策を、ブレア政権は重点政策課題として位置付けている。

参考資料

  1. イギリス統計局ウェブサイト新しいウィンドウへ
  2. 経済企画庁HP新しいウィンドウへ
  3. HR Counci新しいウィンドウへ

2004年8月 フォーカス: NPOと雇用

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