学校制度と職業教育
イギリスの学校制度と職業教育

90年代前半までは、欧州に比べて4~5%という非常に低い水準で推移してきたわが国の若年失業率。しかし、最近では10%を超えて上昇しており、深刻な社会問題として認識され始めている。特に、就職意欲がなく働かない「ニート(NEET=無業者)」と呼ばれる若者たちの急増などの現象を見ると、若年失業先進国である欧州に近づいてきた感もある。そもそもNEET(Not in Education, Employment or Training)という言葉は若年失業の伝統をもつイギリスで使われ始めた。イギリスの職業教育はどのような変遷をたどり、現在の学校制度とどのように連携、機能しているのか。同国の学校制度と職業教育について以下紹介する。

1. 学校制度

(1)義務教育

イギリスの学校教育 は、初等Primary、中等Secondary、継続Further、高等教育Higher Educationに分かれている。義務教育は5歳から16歳までの11年間(PrimaryおよびSecondary School)。一般に、生徒は11歳で中等学校 Secondary Schoolに進学するが、地域によっては8~9歳から12~13歳までの生徒が在学するミドルスクールといわれる制度が少数ながら存在する。Secondary Schoolはほとんどが総合制中等学校Comprehensive Schoolであるが、選抜制のGrammar Schoolが存在する州もいくつかある。

教育段階は1988年の教育改革法により制定されたカリキュラムに基づいて4つのキーステージ(Key Stage 1:5~7歳、Key Stage 2:7~11歳、Key Stage 3:11~14歳、Key Stage 4:14~16歳)に分かれる。生徒は7歳、11歳、14歳でKey Stageテストを受け、Key Stage 4のテストは義務教育の最終学年に受ける中等教育総合資格試験GCSE(General Certificate of Secondary Education) がこれに当たる。GCSEは、選抜を目的にした試験ではなく教育成果の証明の意味合いが強く、就職や進学に当たってはどの科目でどのような成績を取ったかが重要となる。試験科目には学業科目を苦手とする生徒もなんらかの資格が取得できるように、広範囲の職業関連科目が含まれており、将来の職業訓練の基礎になるようにと配慮されている。ただし、何の資格もとれないまま学校を去る者も存在しており、こうした若者は学校を離れた後、失業のリスクが高いと言われている。

(2)継続、高等教育

義務教育終了後の生徒の進路は、就職、職業資格取得、高等教育進学に大別できる。職業資格は主に継続教育カレッジでその教育訓練が行われる。一方、高等教育(主に大学)進学を希望する生徒は大学入学資格試験A-levels(General Certificate of Education Advanced levels)受験コースに進む。このコースは2年間で、中学校に設置されているSixth Formと呼ばれる課程または、独立機関のSixth Form Collegeで受けることができる。Sixth Formは、生徒の年齢は日本の高校とほぼ同じであるが、純粋に受験コースであり、受講科目、授業以外の活動への参加は全て生徒の選択と自由意志による。大学には個別の入学試験はなく、生徒は希望大学のコースに事前に申し込み、Aレベルで必要な成績が取れた生徒は大学に連絡をして入学が許可される。必要な成績が取れなかった生徒は第二、第三希望の大学へ進むか、またはもう一年かけて必要な成績に達しなかった科目を再受験することもできる。

大学は科目の分野によって3年コースと4年コースがある。純学問分野を除いては4年コースが多く、3年目は関係分野の職場で仕事をし、また外国語専攻の学生はその国の大学に入学、あるいは現地で仕事につくなど、最終学年は大学に戻り、実践経験に基づいた卒業論文を書くのが一般的なパターンである。学部を終了した学生は学士(Bachelor with Honours)の資格を習得する。また、Honは卒業試験の他に卒業論文を提出して合格したことを示すが、日本と異なる点は卒業試験と論文を総合した卒業成績が重要視されることで、First、2-1、2-2(優、良、可に相当)までが合格であり、この成績が大学院進学、就職などに大いに影響する。

大学院には修士課程(Masters)と博士課程PhD(Doctor of Philosophy)があり、大学院進学は試験ではなく書類審査による。修士の資格は学士と同様にMA、MScなどに分かれ、修士課程は講義に出席するTaught Courseと研究で論文をまとめるResearch Course(MPhl)があり、前者はフルタイムなら1年、パートタイムなら2年である。後者は2年またはそれ以上である。博士課程は一般に最低で3年、仕事をしながら数年かけて終了する学生も多い。イギリスの大学は、学校教育から直接に大学へ進学する学生ばかりでなく、何年かの社会経験を積んだ上で改めて大学教育へ入学する者がかなりの割合に上る。そのため、パートタイムや夜間コースなどを多く備えて社会人学生の需要に対応している。大学院レベルでは専門職を持つ者がさらに上級の資格を取るために入学するコースが多く、そのため科目やコースの構成などに様々な考慮が加えられている。

イギリスの学校系統図
School system in United Kingdom

図1

資料出所:『教育指標の国際比較』平成16年度文部科学省

2.職業教育

(1)高等教育進学率の向上

イギリスにおける若年者の失業率は、70年代の終盤から80年代の前半にかけて10%から20%を超えるまでに上昇した。失業者が増加し、就職難に直面する中で多くの中流階級の若年者は進学の道を選んだ。結果、70年代の終わり、ほぼ20%未満だった高等教育進学率は、90年初頭までにほぼ倍増した。高等教育ブームである。政府は「学習・技能革命」を推し進める意図から、教育制度への介入の度合いをさらに強め、高等教育への進学率向上に関する具体的な数値目標を設定した。政府は現在、2010年までに30歳未満人口の50%が高等教育を受けることを目標に掲げている。

(2)統一された資格制度

では、進学しない残りの50%、特に若年者全体の4分の1を占める失業者をどうするか。若年者の失業問題に関して政府がとった中心的な対応策は、「技能と訓練」に関するものであった。1985年、職業資格制度の見直しが行われ、これまで放置され、政府の管理もないままそれぞれに発達してきた職業資格制度を統一する必要性が指摘され始めた。そして1986年、国家職業資格制度(NVQ) によって、この合理化を実施するために国家職業資格審議会(NCVQ)が設立され、ほぼすべての職業を網羅するようになった。

図2 イギリス資格の枠組み

図2

NVQの5つのレベル

  • Level1:非熟練職の基礎技能に相当するもの
  • Level2:非熟練に相当するもの
  • Level3:技術職・熟練工・工芸職・監督職に相当するもの
  • Level4:技術職・下級管理職に相当するもの
  • Level5:専門職・上級管理職に相当するもの

資料出所:『諸外国の若者就業支援政策の展開―イギリスとスウエーデンを中心に-』(資料シリーズ2003No.131、日本労働研究機構)

3.最近の動き・課題

(1)NVQの問題点、そしてニューディール政策

このように、理論的には統一した制度が確立されたわけだが、次の課題は、実際に若年者がその制度に定められたコースを選択し、各資格階級制度の階段を上り始め、それを継続できるようにすることである。これがうまくいけば、基礎的な技能レベルの向上にともない、競争力向上、雇用可能性の拡大、さらに若年者の社会参加拡大が期待できるわけだ。しかし、現実は必ずしも理想どおりではなかった。NVQの中には、参加者が非常に少ない職種があり、NVQに参加しても途中で辞めてしまう比率も高かったのである。政府はこうした若者をなんとか復帰させるべく、失業給付の一部減額措置をとる一方で、最もよく知られている若年失業者向け政策「ニューディール政策」を新たに実施した。これは6ヶ月以上失業中で、求職者給付を受けているすべての18-24歳の若年者を対象としたプログラムで、雇用サービス庁を通じ、全国約1000箇所のJob center(職業安定所)の約6000名に及ぶニューディールアドヴァイザーを駆使して実施するもの。このプログラムに登録した者には、パーソナルアドヴァイザーが付けられ、最長4ヵ月にわたり、就職相談と集中的な就職支援サービスを受けることができる。しかしこの政策は、目標達成が間近い人にとっては、高い政策効果が認められているものの、そもそもニューディールがターゲットとしている底辺に位置するようなグループの助けにはなっていないという批判もある。

(2)NEETへの対応

最近わが国でも多く目にするようになってきたNEET。NEETとは「就労も就学もせず、訓練も受けていない者(not in employment, education, or training)」であり、全体からみれば少数であるものの、若年者のかなりの割合をこの層が占めており、都市によっては全体の15%から25%を占めるとも言われている。家庭問題、住居問題、十分な正規の教育を受けていないなどの理由で、労働市場の参入に複合的にハンディを持っている若年者がNEETの多数を構成している。こうしたNEETの存在、これら若者の自立に関して将来の長期的見通しが非常に悪いという事実を直視し、「社会的排除」問題への一つの大きな対応策として打ち出された取り組みが、「コネクシオンズ “Connexions-the best start in life for every young person”」 である。コネクシオンズは、これまで若年層の雇用キャリア支援を担っていたキャリア・サービスの対象である16歳以降という範囲を、13歳からに広げ、キャリア教育の充実、学校からのドロップアウトの予防、様々な経験を得ることによる個人的発達などを通して、若者が経済発展に寄与できる知識・スキルを持った大人となることを支援しようとするもの。命名が示す通り、中央・地方・自治体を「コネクト」し、すべての若者にとって一貫性があり、良い結果をもたらす施策となり得るかが問われている。


参考資料

  1. 『教育指標の国際比較』平成16年版、文部科学省
  2. 海外職業訓練協会(Overseas Vocational Training Association-OVTA)
  3. DfES(Department for Education and Skills:教育技能局)
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  5. Teacher Net Web site新しいウィンドウへ
  6. なお、本稿の内容は『諸外国の若者就業支援政策の展開―イギリスとスウエーデンを中心に-』(資料シリーズ2003No.131、日本労働研究機構)に、より詳しく報告されています。

2004年6月 フォーカス: 学校制度と職業教育

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