学校制度と職業教育
アメリカの学校制度と職業教育

1.学校制度

アメリカの初等・中等教育は、各州に自治権が委託されているため、様々な制度が存在する。基本的には、6~7歳を就学義務開始年齢とし、それ以降の12年間のうちに初等・中等教育を受け、18歳で大学へ入学することになるが、その内容は、6-6制、8-4制、5-3-4制など、州によって異なっている。このため義務教育終了年齢も16歳から18歳までと州によって幅がある。

アメリカ合衆国の学校系統図
School system in United States

図1

参考資料:H16年度文部科学省 教育指標の国際比較

就学前教育

就学前教育は、幼稚園のほか保育学校で行われ、通常3~5歳児を対象とする。

義務教育

就学義務に関する規定は州により異なる。就学義務開始年齢を7歳とする州が最も多いが、実際にはほとんどの州で6歳からの就学が認められており、6歳児の大半が就学している。義務教育年限は9~12年であるが、9年又は10年とする州が最も多い。

初等・中等教育

初等・中等教育は、合計12年であるが、その形態は1)6-3(2)-3(4)年制、2)8-4年、 3)6-6年制等の三つに大別される。このほか、5-3-4年制や4-4-4年制などが行われている。今世紀初めには8-4年制が殆どであったが、その後6-6年制、次いで6-3(もしくは2)-3(もしくは4)年制が増加し、最近はミドルスク-ルの増加にともない、5-3-4年制あるいは4-4-4年制が増えている。このほか、初等中等併設型の学校もある。2000年について、公立初等学校の形態別の割合をみると、3年制又は4年制小学校7.0%、5年制小学校32.4%、6年制小学校20.7%、8年制小学校7.5%、ミドルスク-ル16.8%、初等中等併設方学校7.3%、その他8.3%である。公立中等学校の形態別の割合をみると、下級ハイスク-ル(3年又は2年制)12.2%、上級ハイスク-ル(3年制)2.5%、4年制ハイスク-ル48.4%、上級・下級併設ハイスク-ル(通常6年)12.2%、初等中等併設型学校18.8%及びその他5.8%となっている。なお、初等中等併設型学校は初等学校、中等学校それぞれに含め、比率を算出している。

高等教育

高等教育機関は、総合大学、文理大学、専門大学(学部)(Professional schools)及び短期大学の4種類に大別される。総合大学は、文理学部のほか職業専門教育を行う学部及び大学院により構成される。文理大学は、学部レベルの一般教育を主に行うが、大学院を持つものもある。専門大学(学部)は、医学、工学、法学などの職業専門教育を行うもので独立の大学として存在するものと総合大学の一学部となっているものとがある。専門大学(学部)へ進学するためには、通常、総合大学又は文理大学において一般教育を受け(年限は専攻により異なる)、さらに試験、面接を受ける必要がある。短期大学には、従前からの短期大学(ジュニアカレッジ)のほか、コミュニティカレッジがある。州立の短期大学は主としてコミュニティカレッジと呼ばれる。

2.職業教育

高校中退者問題と職業教育プログラム

アメリカの若年者の不安定就業者の多くは、高校中退者とヒスパニックや黒人などのマイノリティーである。現在の高校中退者は、全体の約10%程度で、就職の面からも問題となっている。高校中退が原因となり、将来的にも、収入や地位が低い職業にしか就くことができなくなる。その結果、就職してもすぐに離職したり、犯罪に走るケースも少なくない。そのため高校中退者の割合を下げることが、学校や社会、政府のこれまで大きな関心事項となってきた。高校中退率の推移をみると、ここ25年で低下傾向にある。しかし人種別にみると、ヒスパニック系の中退率は高いまま推移している。黒人の中退率も1975年の約23%から2000年の約13.1%に低下したものの、未だに白人の倍近くであることなどが問題となっている。これは、主に言葉や貧困が起因していると考えられている。

16歳から24歳までの年齢層のうち高校中退者が占める人種/民族別比率(1975-2001年)

図2-1

図2-2

資料出所:全米教育統計センター(NCES) Mini-Digest of Education Statistics 2002, table27 (PDF:298KB)新しいウィンドウへ

米政府は、こうした問題への対応策として、高校から職場への橋渡しを円滑にするためのシステムづくりを推し進め、「学校から職業への移行機会法:School to Work Opportunities Act(1994年成立の時限立法。2001年に廃止)」を定めた。これは、主に高校在学中から学校と職場での技能訓練を組み合わせて実施し、即戦力としての知識と技能を持たせようとするものである。その結果、学生のやる気と出席率が上がり、中退率が低下する効果が得られた。また関連する就業対策のひとつとして、高校中退者を対象とするプログラムもある。これには、一般教育発達テスト(GED)により「高校卒業同等証書」を授与するプログラムや、職務経験等を通じて獲得した諸技能の技能評価を軸にした全米外部証書プログラム(NEDP)における高卒卒業証書を授与することが行われている。

大学と職業教育プログラム

アメリカでは、新卒といえども、一般労働者と同様に即戦力が求められており、厳しい自由競争になっている。就職にあたっては、インターンシップやボランティアなどの経験が重要な要素となっている。そのため大学教育は、職業教育と密接な関係にある。特にコミュニティー・カレッジは、一般教育と職業技術教育を提供するという重要な役割を担っている。一般の大学においては、全米で広く普及している「インターンシップ」が知られている。この制度には、「学校教育を受けながら、同時に実社会での労働経験を通じて自分の職業適性を知ること」という点で、労働対価を得ることに重点を置くアルバイトとは区別される。なお、通常インターンシップと呼ばれるものは、大学が授業の一部として管理・運営している“コオペラティブ・プログラム”と、主に企業によって管理・運営する“インターンシップ”とよばれるものがある。この2つを総称してインターンシップと呼ぶことが多い。また、そのほか経験教育の一環として、サービス・ラーニング(公益のための地域に根ざした無償労働経験)、ワーク・ラーニング(公益のための有償労働経験で、肉体労働が多い)、プラクティカム(教育実習など専門分野での実習経験)、アプレンティスシップ(一種の徒弟プログラムで企業や使用者団体、労働組合などが主催し、技能指導などを受ける経験)、シャドウイング(社員に影のようにくっついて専門領域の労働について理解する経験)など様々なものがある。

3.最近の動向

これまでアメリカでは、様々な若年者就業支援に関する法律が制定されてきた。中でも、高校中退者やマイノリティーの若年者層を念頭においた「学校から職業への移行機会法」は、若年者の就職支援策として大きな効果を発揮した。

その他の政策としては、ジョブ・コア(JobCorps)がある。主に高校中退者を対象とした雇用職業訓練プログラムであり、労働省所管の連邦直轄のプログラムとしては、最大規模のものである。これは、1964年より開始された労働省所管の施策で16~24歳の経済的に劣悪な環境に置かれた若者を対象とする寄宿制の教育・訓練プログラムであり、効果が広く認められている。この政策に対する連邦政府の年間投入予算は、10億ドルを超える。なお、運用や管理監督は労働省であるが、具体的な実施は、入札で選出された民間営利会社やNGOなどが行っている。対象者は、寄宿舎生活(入所期間は最長2年)を基本とし、厳しい寮生活の中で160種類に及ぶ職務に関する訓練のうち希望するものを受け、適切な就職のための支援を受ける。

この他、最新の職業教育に関する施策については、ブッシュ大統領が、今年1月20日の一般教書や2月2日の大統領予算教書で、その方針を述べている(参考:労働情報3月)。ここでは、労働者が実践的な職業教育を受ける場としてコミュニティー・カレッジを利用する重要性が強調されている。具体的には、コミュニティー・カレッジと企業とのパートナーシップを奨励し、最も労働需要が高い産業で求められている職業訓練を行った場合、総額2億5000万ドルの補助金を与えるように提唱している。またこのような産業分野―バイオテクノロジー、医療サービス、ハイテクなど―では、数学や科学の知識が不可欠であるため、中学、高校の教育の質を改善するよう求め、数学教育や読解力養成への予算投入を提唱している。更にこの方針演説後、具体的な施策として示すため、4月6日に、職業教育強化プログラムや大統領数学科学奨学基金の設立、全国教育達成度評価テストを新たに高校3年生(12年生)に課すことを発表し、職業教育の強化を推進している。

参考資料

  • 労働政策研究報告書No.1「諸外国の若者就業支援政策の展開-ドイツとアメリカを中心に-」(労働政策研究・研修機構,2004)
  • 「現代アメリカ社会地図」アリス・C・アンドリュース他編(東洋書林)
  • 全米教育統計センターHP
  • 「アメリカの労働」岡崎淳一著(日本労働研究機構)
  • 2003年5月「若年者雇用調査」海外委託調査員レポート

2004年6月 フォーカス: 学校制度と職業教育

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