政府が男女平等賃金へ向けた職務評価と賃金体系の点検ツールを提供
連邦教育・家族・高齢者・女性・青少年省(BMBFSFJ、以下「家族省」)は9月14日、職務評価と平等賃金に関するオンライン専門会合を開催し、ライブ配信の視聴者に向けて、企業等が利用できるデジタルツール「COMPASS-W」と「EG-Check」を紹介した(注1)。「COMPASS-W」は企業内の同一価値の仕事を特定するためのツールであり、「EG-Check」は賃金体系に性別を理由とする不利益取扱いがないかを点検するための分析ツールである。EG-Checkは、家族省に設置され、独立して職務を行う連邦反差別局が提供しており、今回の会合では、2026年に抜本的に改訂され、デジタル化されたことも紹介された。
賃金透明化法と現状
ドイツでは、賃金透明化法(EntgTranspG)第3条第1項及び第7条により、企業規模を問わず、同じ仕事や同一価値の仕事について、性別を理由とする賃金差別が禁止されている。また、同法第4条第2項は、同一価値かどうかを、仕事の種類、教育・訓練上の要件、労働条件などの要素を総合的に考慮して判断すると定めている(注2)。家族省の公式解説によれば、仕事内容が異なっていても、必要な資格・技能、責任、身体的・精神的負担などを総合的に評価し、職務に伴う要求や負担が同等であれば、同一価値の仕事とされる。なお、ドイツは、同一価値労働に対する男女の同一報酬を定めたILO(国際労働機関)第100号条約を1956年6月8日に批准している(注3)。
課題は、仕事に伴う要求や負担を漏れなく、偏りなく捉えることである。家族省は、賃金の透明化に関する公式用語解説において、女性の多い職種では、身体的負担が軽視され、職務評価に十分反映されないことが多いと指摘している。また、職務に関連するすべての要求を評価に含めない場合には、賃金平等原則に反すると説明している(注4)。そのため、既存の職名や賃金等級の比較だけでは、評価基準そのものに含まれる問題を見落とす恐れがある。
連邦統計局によると、2025年の調整前の男女賃金格差は16%で、前年と変わらなかった。これは、従事する産業や職種、就業形態などの違いを調整せずに比較した、男女の平均時間当たり賃金の差である。このように依然として格差は残るものの、長期的にみれば、2016年以降、おおむね縮小傾向にある(図表1)。連邦統計局によると、調整前の男女賃金格差の約6割は、フルタイム・パートタイム(短時間勤務)といった就業形態、従事する産業・職種、職務に求められる技能水準などの違いによって説明できる。しかし、残る約4割は、分析に用いた属性の違いでは説明できない部分であり、これに相当する「調整後の男女賃金格差」は、2025年には6%であった。つまり、統計上把握できる職種、資格等の属性の違いを調整しても、女性の平均時間当たり賃金は男性より6%低い。ただし、就業中断や実際の職業経験など、分析に十分反映されていない要因もある(注5)。
図表1:ドイツの男女賃金格差の推移(2014年~2025年)(調整前、単位:%)

注:職種・役職等の違いを調整する前の男女の平均税込み時給の差を、男性の平均税込み時給に対する割合で示している。2022年から基礎となる調査が変更されている。
出所:連邦統計局(Destatis)「Unbereinigter Gender Pay Gap
」
「COMPASS-W」の指標で価値を把握
今回の会合で紹介された「COMPASS-W(Comparable Assessment of Work:職務の比較評価)」は、企業内の同じ仕事・同一価値の仕事を特定するための無料アプリである。同省と賃金格差の分析ソフトウェアを開発するINES Analytics社(注6)が共同で開発し、EUが資金援助をしている。特に中小企業が、性別に中立な職務評価に取り組みやすくすることを目的としている(注7)。
基礎となるのは「同一価値労働指標(Index für gleichwertige Arbeit:IngA)」である。同省とINES Analytics社によるCOMPASS-Wの開発事業で、2025年3~5月に、ドイツの雇用労働者3万人超を対象とする調査が行われた。共通の質問票で回答者自身の仕事に伴う要求や負担を尋ね、その回答を統計的に処理して27の職務要求特性に整理し、以下の4領域に対応づけたうえで、総合指標にまとめている(図表2)(注8)。
| 評価領域 | 主な内容 |
| 技能・知識 | 必要な教育・訓練、職務経験、専門的能力、対人能力など |
| 責任 | 部下、資源、予算、業務の進行などに対する責任 |
| 負担 | 身体的・精神的な要求、集中やコミュニケーションに関する要求 |
| 労働条件 | 騒音、汚れ、暑さ、労働時間のあり方など |
出所:COMPASS-W「Methode(評価方法)
」を基に作成
「IngA」は、職務に伴う要求を300~600点の尺度で示す指標である。評価値の近い職務は、1~30の番号が付されたグループに分類される。分類には、各グループ内の評価値ができるだけ近く、グループ間の違いが明確になるよう、分散に基づく統計的手法が用いられている。同じグループに属する職務は、この指標上、同一価値として扱われる。なお、評価対象は職務に伴う要求であり、働く人個人の業績や能力ではない。
利用企業は、社会保険の届出に用いる9桁の職務コードの先頭5桁、または職務名を入力する。検索結果には、IngAの総合点、4領域それぞれの評価、所属する同一価値グループが表示される。比較機能では最大5つの職務を並べ、総合点や領域別評価の共通点・相違点を確認できる(注9)。
部署や企業全体など、多数の職務をまとめて照会する場合は、所定のテンプレートに職務コードを記入し、CSV形式でアップロードする。1ファイル当たり最大100件を扱うことができ、各職務の評価や同一価値グループをまとめたPDFを取得できる。
つまり、企業自身がそれぞれの職務について、上述の27項目を一つ一つ照合して一から採点するのではなく、全国調査から作成された評価値を、既存の職務コードなどを使って参照する仕組みである。公式説明では、企業の個人データやその他の社内情報を提供・保存することなく利用できるとされている。
「EG-Check」で賃金体系を点検
会合で紹介されたもう一つのツールである「EG-Check(Entgeltgleichheits-Check:賃金平等チェック)」は、連邦反差別局が企業、行政機関、労働組合などに無料で提供している。同局は2013年から、このツールを用いた賃金平等の点検を支援する事業を実施している。2026年の改訂では、EU賃金透明化指令(注10)などの法的要件への対応が図られた。同ツールでは、賃金制度や支給状況の現状把握と複数の点検手段を組み合わせ、基本給や各種手当など、賃金の各構成要素に性別を理由とする不利益取扱いがないかを点検できる。また、同ツールの点検手段の1つである「GleichWertCheck(同一価値チェック)」は、性別に中立的な職務評価を支援する(注11)。
旧版の利用状況について、2023年公表の連邦家族省の評価報告書によれば、調査対象となった従業員500人超の企業のうち、2019年以降に賃金体系を点検した30社中、eg-check.deを利用した企業は2社、WSIが2018年に実施した事業所委員会調査では、調査対象の2,288事業所のうち、賃金平等チェック「eg-Check」を利用したのは39事業所となっていた。なお、前者は賃金体系を点検した30社に限られる結果であり、後者は事業所委員会のある従業員20人以上の事業所を対象とする調査であり、いずれも、ドイツ全体の利用率を直接示すものではない(注12)。
普及や法整備が課題
こうした支援を職場での取組につなげるには、企業によるツールの利用拡大が課題となる。家族省が公表した2023年の政府評価の概要によれば、調査対象企業のうち、2019年以降に賃金体系を点検した企業は3割弱にとどまった(注13)。点検を普及させるとともに、発見された問題を職務評価の基準や賃金の見直しに結びつけることが求められる。
また、EU賃金透明化指令の国内法化の期限は2026年6月7日であったが、ドイツは期限内に対応できていない。政府は同年7月、法案の準備を進めているものの、なお一部の事項を調整中であると説明した。2026年11月4日時点で確認できる公表資料では、改正法案は未公表であり、具体的な制度設計や施行時期は確定していない(注14)。
ドイツ使用者団体連盟(BDA)は、労働協約に基づく賃金体系の保護を求める一方、事業所委員会の共同決定権の拡大には反対している。ドイツ労働総同盟(DGB)も協約自治を重視し、一定の条件の下で協約に拘束される使用者への負担軽減を支持している。ただし、協約であることを理由にその妥当性を一律に推定することには反対し、協約の規定が正当化できない賃金差を生んでいる場合には、労使による是正が必要であるとしている(注15)。
今後は、国内法の改正・整備とツールの普及を進め、実際の賃金是正につなげられるかが、男女間賃金格差の解消に向けた取組の実効性を左右すると考えられる。
注
- 会合名は「Digitale Tools für faire Arbeitsbewertung und Entgeltgleichheit(公正な職務評価と賃金平等のためのデジタルツール)」。連邦家族省(BMBFSFJ)(2026年9月14日)「Dr. Petra Bahr präsentiert digitales Tool "COMPASS-W" für faire Entgeltstrukturen(ペトラ・バール博士、公正な賃金体系のためのデジタルツール「COMPASS-W」を紹介)」。 (https://www.bmbfsfj.bund.de/bmbfsfj/aktuelles/alle-meldungen/dr-petra-bahr-praesentiert-digitales-tool-compass-w-fuer-faire-entgeltstrukturen-285670
)、YouTube配信先(https://www.youtube.com/live/jgpmh_A_eEc
)。(本文へ) - 賃金透明化法(EntgTranspG)第3条第1項(性別による賃金に関する直接的及び間接的な不利益取扱いの禁止):同一又は同一価値の労働について、賃金のすべての構成要素及び条件に関し、性別を理由とする直接的又は間接的な不利益取扱いを禁止する。同法第7条(賃金平等原則):就労関係において、同一又は同一価値の労働について、就労者の性別を理由として、異性の就労者よりも低い賃金を取り決め、又は支払ってはならない。第4条第2項(同一又は同一価値の労働の確認、不利益取扱いのない賃金制度):女性就労者と男性就労者が、この法律にいう同一価値の労働を行っていると認められるのは、諸要素を総合的に考慮した結果、比較可能な状況にあると評価できる場合である。考慮すべき要素には、労働の性質、教育・訓練上の要件、労働条件などが含まれる。判断の基礎とすべきなのは、当該職務に実際に求められる本質的な要件であり、その職務を遂行する就労者個人やその業績から独立して評価しなければならない。出所:賃金透明化法(EntgTranspG)(機械仮訳、原文優先の事)(https://www.gesetze-im-internet.de/entgtranspg/index.html
)。(本文へ) - ILO(国際労働機関)。1951年採択。正式名称は「Convention concerning Equal Remuneration for Men and Women Workers for Work of Equal Value(同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約)」。略称は「Equal Remuneration Convention, 1951 (No. 100)」(https://normlex.ilo.org/dyn/nrmlx_en/f?p=NORMLEXPUB:11200:0::NO::P11200_COUNTRY_ID:102643
)。(本文へ) - 連邦家族省(BMBFSFJ)(2020年7月3日)「Glossar Entgelttransparenz(賃金透明化に関する用語集)」(https://www.bmbfsfj.bund.de/bmbfsfj/themen/gleichstellung/frauen-und-arbeitswelt/lohngerechtigkeit/entgelttransparenzgesetz/glossar-entgelttransparenz
)(本文へ) - 連邦統計局(Destatis)「Gender Pay Gap 2025(2025年の男女賃金格差)」(2025年12月16日) (https://www.destatis.de/DE/Presse/Pressemitteilungen/2025/12/PD25_453_621.html
)、JILPT(2026年4月)「男女賃金格差は、前年と変わらず」『国別労働トピック:ドイツ』。(本文へ) - 労働市場や男女平等を研究してきたタニヤ・シュミット博士とヴェレーナ・トプシュ博士が2021年に共同設立。企業の人事・賃金データを使い、男女間の賃金格差の算出、格差の背景分析、報告書の作成、格差是正に必要な費用の試算などを支援している。また、「PAY_transparency」と「FAIR_solution」等のツールも開発している。(本文へ)
- COMPASS-Wサイト(https://www.compass-w.de/
)、(https://www.compass-w.de/about-3
)。(本文へ) - COMPASS-W「Methode(評価方法)」(https://www.compass-w.de/copy-of-%C3%BCber-compass-w-1
)(本文へ) - COMPASS-W「Information on Usage(利用案内)」(https://portal.compass-w.de/en/leitfaden/tab1
)(本文へ) - 賃金の透明性及び権利行使の仕組みを通じて、男女間の同一労働又は同一価値労働に対する同一賃金原則の適用を強化する指令(Directive (EU) 2023/970)。指令本文は、EU公式法令データベース「EUR-Lex」(https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2023/970/oj
)を参照。詳細については、JILPT「男女間賃金格差透明化指令の成立」『海外労働情報 2023年7月』を参照されたい。(本文へ) - 連邦家族省(BMBFSFJ)(2026年3月9日)「Instrumente zur Prüfung der Entgeltgleichheit(賃金平等を点検するためのツール)」(https://www.bmbfsfj.bund.de/bmbfsfj/themen/gleichstellung/frauen-und-arbeitswelt/lohngerechtigkeit/entgelttransparenzgesetz/instrumente-zur-pruefung-der-entgeltgleichheit
)(本文へ) - 連邦家族省(BMBFSFJ)(2023)「Zweiter Bericht der Bundesregierung zur Wirksamkeit des Gesetzes zur Förderung der Entgelttransparenz zwischen Frauen und Männern sowie zum Stand der Umsetzung des Entgeltgleichheitsgebots in Betrieben mit weniger als 200 Beschäftigten(男女間の賃金透明性の促進に関する法律の実効性及び従業員200人未満の事業所における同一賃金原則の実施状況に関する連邦政府第2次報告書)」(https://www.bmbfsfj.bund.de/resource/blob/229484/7c1deeee794163514c0221663af940d2/zweiter-bericht-entgelttransparenzgesetz-data.pdf#page=174 (PDF:8.8MB)
)、WSI Report No.45(https://www.boeckler.de/fpdf/HBS-007078/p_wsi_report_45_2019.pdf#page=11 (PDF:1,029KB)
)。(本文へ) - 連邦家族省(BMBFSFJ)(2023年9月29日)「Entgelttransparenzgesetz(賃金透明性法)」 (https://www.bmbfsfj.bund.de/bmbfsfj/themen/gleichstellung/frauen-und-arbeitswelt/lohngerechtigkeit/entgelttransparenzgesetz/entgelttransparenzgesetz-117952
)。(本文へ) - ドイツ連邦議会(2026年7月16日)「Umsetzung der EU-Entgelttransparenzrichtlinie(EU賃金透明化指令の国内法化)」(https://www.bundestag.de/presse/hib/kurzmeldungen-1195086
)。法案の公表状況については、ベルリン商工会議所「Entgelttransparenz 2026 – Was kommt auf Sie zu?(2026年の賃金透明化―どのような対応が求められるか)」(https://www.ihk.de/berlin/service-und-beratung/recht-und-steuern/arbeitsrecht/entgelttransparenz-6983362
)も参照されたい。(本文へ) - ドイツ使用者団体連盟(BDA)「Sondervotum zum Abschlussbericht der Kommission „Bürokratiearme Umsetzung der Entgelttransparenzrichtlinie“(行政負担を抑えたEU賃金透明化指令の国内法化に関する委員会最終報告書への個別意見)」(https://arbeitgeber.de/wp-content/uploads/Sondervotum_zum_Abschlussbericht_Kommission_Entgelttransparenzrichtlinie-2025_10_15.pdf (PDF:111.32KB)
)、ドイツ労働総同盟(DGB)「Minderheitenvotum des Deutschen Gewerkschaftsbundes (DGB) zum Endbericht der Kommission zur bürokratiearmen Umsetzung der EU-Entgelttransparenzrichtlinie (ETRL)(同委員会最終報告書への少数意見)」(https://www.dgb.de/fileadmin/download_center/Stellungnahmen/2025-10-17_Endbericht_Kommission_ETRL_Sondervotum_DGB.final.pdf (PDF:72.08KB)
)。(本文へ)
参考資料
- 連邦家族省(BMBFSFJ)、連邦統計局、EU賃金透明化指令、ドイツ賃金透明化法、ILO、各種ウェブサイト
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