猛暑で休工する建設・公共事業者向け賃金特別補償制度の運用を厳格化

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5月の最終週、フランスでは5月として観測史上、最高気温を記録し、建設現場では労働災害による死亡事故も発生した。政府は2024年に、建設現場の熱中症対策として、工事が休工した場合に賃金の75%を補償する制度の対象に「猛暑」を追加した。その後、25年には事業主の安全管理義務を強化、26年には制度の運用を厳格化するなどの制度改正を行っている。

建設中の建物の屋根で作業をしていた19歳の労働者が死亡

フィニステール県、モルビアン県など西部13県で5月25日に例年より早く、かつ著しい猛暑を観測したため、気象局(メテオ・フランス)は、5月としては史上初となる「黄」の猛暑(Canicule)警報を発令した(注1)(警報のレベルに関しては後述)。5月27日には、この警報をオレンジに引き上げ、28日には対象となる県の数が17県に拡大した(注2)。オレンジは赤に次ぐ危険度である(詳細は後述)。アングレーム=ラ・クーロンヌ(シャラント県、ボルドー近く)では5月28日、気温が37.8℃に達し、フランスにおける5月の最高気温記録を更新した。

こうした中、現地報道によると、ドローム県(フランス南東部:リヨンとマルセイユの間にある地域)ポネ=エ=サン=トーバンの建設現場で就労していた19歳の作業員、ダニエルさんが5月26日、建物の屋根で終日作業をしていたところ、夕方になって体調が悪くなり、涼を取ろうとトラックの中に避難したが容態が急変。搬送先の病院で、翌日未明に死亡した(注3)。死因は高体温症と発表されたが、正確な死因の特定のため憲兵隊に捜査が委ねられ、数日中に司法解剖が行われる予定だという。事業主によると、ダニエルさんは午前8時に勤務を開始し、短パンとTシャツを着用して作業していたが、水分を自由に補給できる状態は確保されていた。当日のドローム県の日陰の気温は31℃で、「黄」の警報が発令されていた。後述するように、工事の停止を求められるほどの警戒レベルではなかった。

4段階の警戒レベル

メテオ・フランスは、暑さ対策の警戒レベルを4段階で示している。警戒の強さの順に、「赤」は「厳重な警戒」、「オレンジ」は「非常な警戒」、「黄」は「注意」、「緑」は「警戒の必要なし」である。後述する賃金の特別補償では、このうち「赤」あるいは「オレンジ」の警戒警報発令が基準となる。「オレンジ」以上が「猛暑」に相当するが、「オレンジ」とは、少なくとも3日間連続して猛暑が続き、猛暑の地域の全住民にとって健康リスクとなる可能性が高い期間を指す(注4)。ぞれぞれの警戒レベルは、過去の猛暑時に観察された人体の健康への影響の観点を踏まえ公衆衛生局が設定した「生気象学指数」(indice biométéorologique, IBM)に基づく。実際の警戒発令の基準は、各県の気候に対する順応度も考慮し、気象現象ごと(強風、豪雨、積雪、霜・凍結等などを含めて)、各県ごとに定められている。

国が定める猛暑の基準(全国的な気温指標:フランス全土に均等に分布する30の気象観測所における最低気温と最高気温の平均値)は、「昼夜を問わず1日を通して25.3℃以上」あるいは「少なくとも3日間、23.4℃以上」で、猛暑の終息は「2日間連続で23.4℃を下回るか、22.4℃を1日でも下回った場合」である(注5)

平均気温と最高気温の関係は地域によって異なるが、例えば、2025年8月11日のトゥールーズでは、最低気温が21.6℃で最高気温は41.5℃、平均気温は31.6℃だった。8月7日~17日まで平均気温が25℃を超えていた(注6)。また、2025年8月12日のリヨンでは最低気温が22.2℃で最高気温が39.0℃、平均気温が30.5℃だった。8月8日~17日にかけて平均気温が25℃を超えていた。この例を参考にすれば、「昼夜を問わず1日を通して25.3℃以上」あるいは「少なくとも3日間、23.4℃以上」という国の基準は、こうした高温の地域では、最高気温が35℃を超え、場合によっては40℃を超える気温の際に当てはまるといえる。

なお、国が定める猛暑の基準に基づいて警報が発令されるが、実際の発令の基準は地域ごとに異なる。例えば、トゥールーズでは、最高気温が3日間連続で36℃を超え、最低気温が21℃を超えた場合としている。

6月8日にはAnact(労働条件改善のための国家機関)が、事業主向けの指針として「猛暑の中での就労に関する注意喚起」を示した(注7)。それによると、「黄」は「猛暑の兆候が現れ始めたため、建物内の換気を十分に行い、水分補給を行い、勤務時間の調整を検討することを推奨する」、「オレンジ」は「猛暑が予想されるため、こまめに休憩を取り、最も暑い時間帯(午前11時~午後4時)の屋外での肉体労働は控え、帽子を着用し衣服は薄手のものを用意することを推奨する」、「赤」は「猛暑の状態にあるため、直ちに対策をとる必要がある。適宜作業を中止し、勤務スケジュールを再編成(例:早朝勤務)し、特にリスクの高い従業員に注意する必要がある」としている。

2024年の改正で悪天候による補償理由に「猛暑」を追加

フランス国土の大部分は西岸海洋性気候に属し、従来は夏季であってもそれほど気温が上昇することはなかった。しかし、温暖化の影響もあり2003年以降、数回、猛暑が押し寄せている。公衆衛生局によると、2025年は1900年以降で3番目に暑い夏となり、4回の猛暑に見舞われ、そのうち2回(6月19日~7月6日、8月8日~19日)は特に深刻だった(注8)。69の県で少なくとも1回の猛暑が発生し、人口の80%が影響を受けた。4回の猛暑期間中、暑さに起因する熱中症等の死亡者は1,900人以上にのぼった。猛暑期間以外を含む同年夏期では5,700人以上に達し、全死因の3%を超えている(注9)

また、労働総局によると2025年に猛暑による労働災害の死亡事故が9件起こっており、そのうち6件は、建設現場で就労中あるいは農作業中に発生している。労災死亡事故は、厳重(赤)および非常(オレンジ)の警戒警報期間以外にも生じている。2017年以降の熱中症等による死亡者数の推移を図表1に示した。

図表1:熱中症等による死亡者数の推移 (単位:人)
画像:図表1

出所:公衆衛生局サイト(Chaleur et santé. Bilan de l'été 2025, Publié le 26 février 2026.)を参照して作成。

注:黒=猛暑期間中の死者数、グレー=夏季全体における死者数。

フランスでは雇用労働者の14%に相当する360万人が悪天候の影響を受ける屋外で働いている(注10) 。建設・公共事業(bâtiment et des travaux publics (BTP))の就労現場は、屋外作業が多く、気象条件の影響を受けやすいため、1946年10月21日の法律で、「悪天候」(強風、豪雨、積雪、霜・凍結等)を理由とする作業中止(休工)の場合の特別補償制度が設けている。近年の気候変動で社会問題化した「猛暑」が、2024年6月28日のデクレ(政令)によって、「悪天候」の一つに加えられた(注11)

賃金補償の受給要件

特別補償制度の内容は次のとおりである。メテオ・フランスの注意報及び警報に基づいて「悪天候」の適用対象となると判断され、建設作業の中止が決定された場合、休工の時間および日数分の賃金のうち75%、補償額の上限は社会保障給付算定基準額上限の120%までである(注12)。社会保障給付算定基準額の上限は2026年6月現在、日額220ユーロ、1時間当たり30ユーロである(注13)。補償の財源は、建設事業主拠出の建設・公共事業部門有給休暇基金(CIBTP)(注14)である。

補償を受けられる労働者は、休工の2カ月間に少なくとも200時間就労していた者である。休工によって支払われなかった賃金に対して、1時間単位で手当を受けることができる。ただし、最初の1時間は待期期間として、同一週内または連続した休工期間中の2時間目から支給される。支給対象となる休工期間(時間)には上限があり、1日9時間以内、週45時間以内で、1暦年あたり最大55日分までである。

2025年と2026年の法改正

2025年5月27日付デクレ(政令)第2025-482号において、猛暑時の事業主の安全管理義務を強化する措置がとられた。猛暑下の建設工事では、労働者の熱中症防止対策として、「勤務時間の調整」「休憩時間の延長」「最も暑い時間帯の激しい作業の中止」「日差しを遮る作業場所の確保」そして「水分補給の確保」等が挙げられている(注15)。労働者が自由に水分補給をする設備を完備できない場合、1人当たり1日最低3リットルの水分を摂取できるように、何らかの措置を取ることも義務化された。

2026年4月8日付アレテ(省令)では、事業主による補償申請の手続きの期限や必要書類が定められ、制度の運用を厳格化する改正が行われた(注16)。それによると、事業主は、休工の開始から120時間(または5日間)以内に、暫定的な休工を宣言する必要がある(注17)。その上でCIBTPに補償申告書および払い戻し請求書を1カ月以内に提出する。

申請に当たっては、「従業員に支払われる補償額の計算方法を明示した書類」「悪天候による工事停止が真正かつ誠実なものであることの証明書」「事業主が補償を受けるための法的条件への適合証明書」などの書類提出が求められる。また、事業主は、「虚偽申告の場合に民事および刑事責任に問われる可能性を承認する書類」に署名する必要がある。

対象となる従業員の受給権の審査を厳密にする措置も盛り込まれた。事業主は労働者の申告内容の正確性に関する保証人の立場になる。具体的には、労働者の就労記録や、悪天候による一時帰休日数を記載した就労証明書のほか、事業主は労働者に補償された日数を記載した宣言書に署名させ、その宣言書は払い戻し請求書とともに提出する必要がある。また、労働者が休工期間中に別の有給の仕事をした場合、受け取った補償金を返還しなければならないことも明示された。

(ウェブサイト最終閲覧日:2026年6月16日)

参考レート

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